第18話 ソルフゲイル侵攻
しばらくアップルパイに舌鼓を打った後、ようやくセレスは肝心要の話に入る。
一同はゴクリとつばを飲み込む音が聞こえそうな程に静まり返っていた。
「まぁまぁまぁ、そんなに身構えなくてもいきなり急にソルフゲイル軍は襲って来ないさ。ただ、彼らはオヤジが起こしたトトアトエ・テルニアと言う国を滅亡に追いやった責任がある。」
オヤジ起こした~の辺りでコレットが目を輝かせた。
「やっぱり、セレスさんの苗字に何でトトアトエが入っているのかようやく理解出来ましたよ。そうだったんですね、お父さんがこの国の前身であるトトアトエ・テルニアをお創りになったんですね。」
コレットのこの言葉に「うんうん」と相槌を打つと、セレスは続けた。
「そうそう、そうなんだ。当時オヤジは魔界から来た人って結構認知されててね、この世界の人は結構な割合で魔界の人=魔王に匹敵すると勘違いしているんだけど、オヤジは根本的には街の小さな古本屋のオヤジだから、別段凄い魔法が使えたり物凄い怪力を持っていると言うわけでは無かったんだけど、でもやっぱり魔界から来た人は基本的にこの世界の人よりは、身体能力の基礎値が圧倒的に上でね、それでまぁ最初は仕方なく~この国の王みたいのやってたんだけど、王の在位が100年超えた辺りからは結構ノリノリでね。その頃だよ、ソルフゲイルが色々いちゃもんつけて突っかかって来る様になったのは。」
そう言うと、一旦目の前のお茶をすする。
セレスがお茶を飲んでいる時に、グレアラシルが問いかけた。
「確か、トトアトエ・テルニアが滅びを迎えた時の戦争では、ソルフゲイルが執拗に執拗に攻めて来ましたよね?メルヴィレッジの小中学校では必ずと言っていい程しつこく習うんです。あの時一体、何が原因で?と言うか何でそんなに執拗に攻めて来たのかの理由が分からなくて・・・・」
この、メルヴィ・メルヴィレッジに住まうモノなら誰しも疑問に思っている事がこの、トトアトエ戦役と呼ばれるソルフゲイルとの戦争の詳細である。
この戦争、ソルフゲイルが何の前触れも無くいきなりトトアトエ・テルニアに侵攻してきた事になっているので、その意図や策略の主たる部分の詳細が一切不明だったりするのだ。
セレスは、天井や背後に連なる書棚に目を向けてダイニングの中をぐるりと見渡した後、やっと事の真意を伝えた。
「あの戦争はさ、とある種族を守るための戦争だったんだよ。」
とある種族?
グレアラシルとコレットは目を丸くする。
そんな二人を見ながらさらにセレスは続けた。
「その種族の名は『銀狼族』銀色の髪をした狼の獣人さ。しかし、ただの獣人じゃない。寿命はエルフ程も長く若い年齢で成人して成長もそこで止まってしまうので、いつまで経っても子供みたいな容姿の者が多い。でもって、銀色の髪には膨大な魔力が蓄積されていて、その量は髪の毛1本持って火球の魔法を1日中繰り出していても尽きない程なのさ。」
手元にある空のティーカップを触りながら続ける。
「銀狼族は今、この世界で根付いて生活している者が多いんだけど、かつては魔界にいた種族なんだ。好奇心が旺盛で魔力が強いから自身の姿を現地に住んでいる人の様に変幻させてね、旅して各地に散らばって行った。ただ、髪から発せられる膨大な魔力がね、高位の魔導士や魔力で金儲けしている輩や、ソルフゲイルみたいな魔力で怪しい研究している国に狙われてね、今から約100年前、トトアトエ・テルニアでは銀狼族を保護するためにソルフゲイルと戦った。しかし破れた。その時大勢の銀狼族も奪われた。銀狼族は身を守るためにエルフやらドワーフに変幻していた者も居たから、彼らも大勢連れていかれた。で、それっきり誰も戻ってこなかった。そして銀狼族は滅びの道を進む事になった。」
そう言って、もう空になったティーカップのお茶を飲むようなそぶりを見せた。
それを見たミカゲが、慌ててお茶を注ぎに来る。
「気が付かなくて悪かったんだち。」
とミカゲが言うと、
「いやはや、催促してしまって申し訳ない。」
と言いながら、ティーカップをミカゲの方にずらした。
話に聞き入っていたコレットとグレアラシルは、ポカンとしながら中空を見ていた。
多分頭の中でトトアトエ戦役の様子を想像して、多くの銀狼族が連れ去られる光景を目の当たりにしているのだろう。
ソルフゲイルがいきなり侵攻して来て、銀狼族を捕らえて連れて行ってしまう光景を、ぐるぐると頭の中で何度も再生し続けた。
注がれたお茶の匂いを嗅ぎ、光の魔法の効果でちょっとまた話をする気を養ったセレスは、更に続ける。
「滅びの道を辿ってはいるものの、この世界中には結構まだ残っている筈だよ。黄壁の大陸や緑壁の大陸には、結構力の強い部族が残っていたからね。この蒼壁の大陸だと、極北の国『ルキソミュフィア』に結構残っていて、国の政治を担う中枢にも何人か入っている筈だよ。だから銀狼族は、そんなに簡単に滅んだりはしないと思うんだよね。」
ぐるぐると悩み続けそうなコレットの方を見ながら、セレスは説明した。
ただコレットは、さっきまでの悶々とした思考状態から解放され、少し明るい表情になっていた。




