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ソラ・ルデ・ビアスの書架  作者: 梢瓏
第一章 ライカンスロープとの決戦
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第12話 月夜の下で

 突然の、グレアラシルの婿入り宣言に驚いて、一瞬動作がままならなくなりそうになったセレスだったが、現状を思い出して即我に返った。

 セレスのこれまでの人生では何度か求婚されたことはあったが、まさか婿入りを志願して来る者は現れなかったので、新鮮な感覚を感じたりしていたが。

「婿入り・・・・はとりあえず後にして、今はミカゲを何とかするのが先決だ。グレアラシル・・・長いな、グレでイイよな?」

セレスは呼び名が長いグレアラシルに、今後はグレと呼ぶ事について意見を求める。

 すると、

(あね)さんの言う事は、絶対服従するので!」

と、何故か朗らかな笑顔で絶対服従とか謎の忠誠心を振りかざしてきたので、これは一体・・・どこでグレを服従させる様な行動を取ったのか?と、セラスはさっきまでの行動の中で「何を」やってしまったのかを思い出そうとしたが、特にコレと言った特筆すべき問題は見つからなかった。

 それよりも、ミカゲの拘束具を元通りに装着させることが重要だったので、セラスは結界を解きミカゲの元に向かった。コレットもその後に続く。

 所がグレアラシル~は?と言うと、普通に並みの神経を持っている人だったので、ガクガクブルブルと脚が震えてしまって、コレットの後に続いて外に出られなくなっていた。

 それに、空には煌々と二つの満月が露わになっていたので、このまま外に出るとまたウサ狼になってしまう可能性が高かった。


 外に出たセレスは、ミカゲの精神状態を確認した。

まだ現状ではミカゲを保っている様だったが、もう少し遅れていたら『御影』に戻っていた可能性は高かった。

 9割の拘束具が外れていたが、姿を固定するための拘束具はミカゲ一人では外せない仕掛けになっていたお陰で、この小さな亜人の少女の姿だけは維持出来ていた。

「うっかり、何らかの弾みで、お腹に施されている拘束魔法陣が解呪されたりするとさ、コイツこの周辺を壊滅させられるほど大きい身体に戻っちゃうんだよね~。」

とセレスは呟きながら、片方200kgはあろうかと言う拘束具を軽々と持ち上げる。

 コレットはそれを見て違和感を感じたのか、

「え?その拘束具、凄く重たいんですよね?どうしてセレスさん片手で簡単に持ち上げているんですか?」

と、問いかけた。

「あ、ああ~そうだね、人間から見たら重いんだったね?この拘束具。でもアタシ達は重さを感じないのさ。何故ならこの『重さ』って言う概念は人間にとっての概念であって、人間じゃない者にとっては通用しない概念なんだからね。」

と言ってセレスは笑った。

 コレットは一瞬、セレスが何を言っているのか分からなかった。

 セレスは一見すると普通のお姉さん風で、面倒見が良くて義理堅く、でもちょっとお調子者で悪ふざけが過ぎる所もある普通の人で・・・・・

 人間・・・・・

 そう言えば、セレスは自分の事を一度も人間とは言っていない事を思い出す。

 それにさっき、武器錬成の魔法を使う時に言っていた名前・・・・


『セレスフィル・アズワルド・レティ・トトアトエ』


 はっ!っとなり、コレットはこのセレスと言う人物の正体をやっと理解した。

このセレスと言う人は、実は・・・・

「コレット!何ボサ~っとしてるんだい?ちょっと手伝っておくれよ!これはコレットにしか出来ない仕事なんだ!」

 ぼんやりとセレスの正体について考えこんでいたコレットに、セレスが声をかける。

 正気に戻ったコレットは、今まで考えていた事は後で本人に聞けばイイや!と、ミカゲの傍まで近寄った。

 コレットから見たミカゲは、無気力にその場に佇んでいるだけの状態に見えた。

 目の前に誰が居てもその瞳の奥に姿が鏡の様に映るだけで、その誰かを追うような視線を投げかける事は無かった。

 そんな様子を目の当たりにしたコレットは、とても悲しい気持ちになった。

 あの、何も知らずに、いきなりと言っていい程に飛び込んだ書架で、見ず知らずの自分とその状況を把握して冷たい飲み物を持って来てくれたミカゲ。

 今日、さっき初めて出会ったのに、昔から友達みたいに接してくれたミカゲ。

 疲れてへたり込んでしまいそうだった自分を軽々と抱えて、この礼拝堂の前まで連れてきてくれたミカゲに、少しでも報いたい!

そうコレットは思いながらミカゲに近づいた。

「ミカゲ、聞こえる?コレットだよ。」

 硬直しているかのような状態のミカゲの頬にそっと手を置いて、コレットはミカゲに呼びかけた。

「今日は色々とありがとう、私ミカゲに会えて良かったよ。偶然入った書架だったけど、もしかしたらあれは運命に導かれていたのかも知れないね。」

そう言って、ミカゲの手を握った。

すると、その手はゆっくりと反応して、コレットの手を握り返してきた。

「こ・・・れっと?」

 ミカゲは狂気の心理の奥から目覚めて、コレットの名を呼んだ。

「うん!そうだよ!私だよ、コレットだよ!」

 コレットは、更にミカゲの手を握り返してミカゲの問いに答えた。


 あの、ソルフゲイル軍が全力疾走で逃げ出すほどの重圧を今も放出しているのにも関わらず、全く動じずに対応するコレットの姿は、セレスにとっては理解しがたい状況だった。

 セレスがミカゲに同じ様に呼びかけても反応は変わらない~以前同じ様な事があった時には全く意識が戻らず、結局書架で数日覚醒を待つしか無かったのだが、今、どんな奇跡が起きているのか分からないが、コレットの呼びかけは確実にミカゲの心の解放条件となる鍵の役割を果たしている事は明白になっていた。

「セレス・・・・ふへへ、やっちまいやがってもうた!」

 ミカゲは、言いながら周辺に散らばる拘束具に対して詫びていた。

「本当にもう~!アタシは2個位にしておきな!って言ったんだけどな?聞こえなかったのか?」

 セレスが脱力しながら問いかけると、ミカゲは元気よく「うん!」と頷く。

 大きめのため息をつきながら、セレスは拘束具を拾ってはミカゲに渡して行った。

 ミカゲは、まるで服やアクセサリーを身に着ける様な感覚で、先程地面に放り投げて行った拘束具をまた身体に装着して行った。

 重さの概念が人間とは違うと言われても、一度重たそうな状況を目の当たりにしてしまって居るコレットには、あんなに重そうなものをよく身に着けていられるなぁ~?と、驚く事しか出来なかったが。

 すべての拘束具を元通り身に着け終わると、ミカガはキョロキョロして誰かを探している。

「セレスぅ~、あのライカンスロープ君はドコに行ったんだち?」

 どうやらグレアラシルの事を探している様だった。

「ああ~あいつはまだ、礼拝堂の中に居るはずだけど?ミカゲが元に戻ったなら、そろそろ外に出しても大丈夫そうかな?」

とセレスは言いながら、空を眺めた。

 空には大きな月が鎮座していて、とてもじゃないけどグレアラシルを人間の姿で連れて帰れそうな状況では無かった。

「あああ~、仕方がないと言うか面倒と言うか、ヤツにはまたあの姿になってもらうしか無さそうだな~・・・」

 先程の状況を頭の中に浮かべながら、非常に面倒臭い問題を抱えてしまった時の様にセレスはまた頭を抱えながら、礼拝堂に入って行く。

 そして、入り口付近で佇んでいたグレアラシルに理由を説明し、再びウサ狼の状態にして戻ってきた。

「あ、服は私が持ちますよ。」

 色々と状況を把握しているコレットが、率先して服を持つ。

「助かるよ~本当、グレもあとで礼を言っておくんだよ?」

と、今は可愛い小動物?に変貌しているグレアラシルの頭を撫でた。

 その状況を見たミカゲは、

「お!おおおおおおおおーーー!!美味そう!!それ、食べてもイイ?!」

今正に、変身したグレアラシルを見るのが所見だったミカゲが、よだれを垂らしながら言うのでセレスは、

「ミカゲ、食ったらお前を殺す。」

まるで、いとも簡単に虫を手で叩いで殺れるぞ?的なノリで、ミカゲには予想外の返答をした。

 ミカゲは、ちょっとだけセレスから漏れ出たドス黒い悪意の様な空気を瞬時に読み取り、首をブンブンと横に振った。

「ミカゲ、あの小さくて可愛いのがグレアラシルさんですよ?」

 にこやかにミカゲにコレットは説明するが、多分書架に戻って人間の姿に戻らないとミカゲは納得してくれなさそうだな~・・・・と、セレスは苦笑いした。

 当のグレアラシルは、さっきよりも更に(おのの)いて、まるで寒い僻地へきちにでも飛ばされたかの様に身体をブルブル震わせた。

 空には二つの大きな赤と青の月の光が煌々と、3人と1匹に降り注いでいた。

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