ただそれだけだった
本編「世代の勇者」に登場するキャラクターの短編小説です。[笑いの勇者]ジョーカー。彼の笑顔に隠された過去とは、なんなのか。
夜空の星を、泣きながら見上げる女性がいた。
「だいじょうぶ?」
「……!えぇ……大丈夫…ぅ……」
「?」
酷く落ち込む彼女を見て、僕も釣られて泣きそうだった。……彼女は。僕の母だった。
意識が朧げな程昔の記憶。
泣いてた顔を思い出せない。
でも。今思えば…なぜ涙を流していたのか分かる。
日々訪れる唐突な別れ。
村は滅び、家は燃やされ…灰だけが残る。
こんな田舎の村が襲われるとは、みんな思ってなかったのだろう。
焦る大人は、躓いた者すら踏み潰し、村を出ていった。
目の前で友達が大人に蹴られる。踏まれる。
でも…仕方の無いことだ。
命に関わるから、人の命を優先なんて出来ない。
逃げた先の国は、貴族の住まう国だった。
自らを優先し、逃げる事を優先した僕たちは、犯罪者として迎え入れられ、男は労働を、女は雑用と営みを、子供はストレス発散の道具として使われた。
視界に入ると蹴られ、血が床に垂れると殴られる。
その様子を見た大人が、高々と笑う。
同年代の子供に首を絞められ、川に落とされる。
汚れて戻れば、ご主人様に酷く暴行される。
でも、僕はご主人様に愛されていた。
「大丈夫だよ。大丈夫。僕は君を愛してるから、こんなに強く当たってるだけだから。」
「はい」
「うん。……服を脱ごうか?たくさん愛してあげる。」
「…はい」
愛されていたから…僕は生かされた。
僕とママは、パパの目の前で、愛された。
磔にされたパパは、声にならない叫びを上げ、不快に感じたご主人様は、僕とママの目の前で、パパを解体して見せた。
毎日
ゴミ箱の生ゴミを漁って食べた
毎日
知り合いが泣きながら殴られた
毎日
おもちゃのように使われた
そんなある日、ご主人様は用事で屋敷を離れた。
久しぶりの外にドキドキしながら、満開の夜空を見渡す。
いつか僕は、世界を冒険してみたい…と。
ただそれだけだった
……
ママが居た。
話しかけ、肩を揺らす。
痩せこけ、大きくなったお腹を触りながら。
ママの体を沢山揺らした。
「だいじょうぶ?」
「……!えぇ……大丈夫…ぅ……」
「?」
「ごめんね……ごめんなさい……アトナ…」
「……うん」
「愛してる……愛してる……」
「……そっか…」
抱き着かれた時。何故か察してしまった。…多分。もう会えないのだと…
「パパのところにいくんだね?」
「……ごめんなさい……ごめんなさい…」
「……だいじょうぶだよ。たくさんやすんで?…ぼくはまだがんばるから…」
…母は死んだ。
戻ってきたご主人様は、酷く怒り、僕への暴力を増やした。
3年後
7歳になる頃には、歩けず、視界もぼやぼやで、腕すら上がらない身体になっていた。
「……そっか…」
旅に出たかったんだ…忘れてた…
「あ…れ……うごけないや………………」
暗闇の椅子に括られて、3日近く何も口にしていない。ご主人様は3日間こず、音のない部屋に閉じ込められていた。
「……しに#い」
死ねるなら……
「だれ#…#くを」
殺して欲しい……
もう……耐えられない
……そんな時だった。
「?」
微かに聞こえた人の声。
「い……やだ……」
恐怖が心を支配し、血液が加速する。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
「……ぃや……」
コンコンッ
「誰かいますか?」
「?!?!」
幼い声で話しかけた声の主は、ゆっくりと扉を開ける。光が差し込み、眩しさと恐怖で目を閉じた。
「大丈夫?!?!」
そういうと、彼女は僕を解放し、担ぎながら部屋の外に出た。
外には、男の子が立っていた。
彼らは自らを、[身勝手で良い加減な存在]と語った。
「助けに来た」
「もう!私が助けたんだからね?!」
元気なふたりは、歩き始め、食堂に向かった。
「……」
「…大丈夫だ。俺たちは味方だ」
「そうだよ!!正義の味方!!」
「……ありがとうございます…」
「…ま、まぁ?このぐらいは当然よ!!」
「へへん!!!」
誇らしげに胸を張る2人は、僕より若い兄妹だった。
「この国の悪評は凄かったからな~潰しといて正解だな」
「だね!!あ!私がご飯作るよ!!!ブラックはお水の準備!!」
「ばーか。その前に治療だろ?」
「あ!そっか?!」
突然振り向いた男の子は、手を伸ばす。その行為に激しく怯えた僕は、腕を動かし手を弾いた。
「?!?!」
「……悪い!…腕動いたろ?」
「あ……」
動かなかったはずの腕が動き、足は地面を踏み込む。長く味わえなかった感覚に、僕は涙が溢れた。
目の前に屈んだ真っ白の女の子は、頭をよしよししながら質問した。
「ねぇ?お名前は?」
「…あ…アトナ……」
「ふーん…かっけえな!!俺には劣るけど?!」
「綺麗なお名前だね……私の方が綺麗だけど……」
「……ごめん」
「ちが?!癖なんだよ!!ほんとに悪かった!!」
「ごめんね?!?!」
「いや……ありがとうだよね…」
二人を見上げ、涙に晴れた顔を見たブラックとホワイトは、笑顔で微笑んだ。
「おう!!!」「うん!!!」
次回「ナタエル」
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