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第1章

 わたしの背中には、月型の大きな赤い痣がある。

 小さな頃、母親に折檻された傷痕が残ってしまったものらしい。といっても、わたしにその記憶はほとんどないので――保護施設に預けられている間も、何故自分が両親と離れて暮らさなければならないのか、まるで理解できてはいなかった。やがてカウンセリングなどを受けて立ち直った母は、父とともにわたしと妹を迎えにきてくれたけど、むしろそれからのほうが家族の関係は殺伐としていたような気がする。

 確かに母は、妹やわたしに手を出して怪我をさせたり火傷をさせたりすることはなくなった。でもそのかわり――長女だったわたしは、目に見えない形で家族内のいじめの標的のようなものとなり、犠牲の生贄とされたのだった。

 わたしは自分の家族が全員、大嫌いだ。

 妹の麻亜子は母だけではなく、誰に対しても顔色を伺うようにびくびくしているし、また何かにつけて母と同調しては、わたしの立場を劣勢へと追いやった。父は極めて頼りない、気弱な人間で、家庭内に果たしているのかいないのかわからない、屁のような存在の男だった。

 そして母――はっきり言って、わたしにとっては幼い頃に折檻されたことなどはどうでもよく、それ以外の理由によって彼女のことを母親だとは今も認識していない。彼女は安月給のタクシードライバーである父のことを何かにつけてはさんざんこき下ろし、自分がいかに苦労しているかということを、わたしと麻亜子に毎日のように語って聞かせた。

「あんたたちにわかる?毎日水産加工場で魚くさい匂いになって、一生懸命働いてる母さんのこの気持ち。バスに揺られて通勤するだけでも一時間かかるのよ。もう帰ってくる頃にはくったくた。その上父さんはごはん支度なんて何もしないでしょう?今じゃあ、パートで働いてる母さんのほうが、あんな奴より高給取りなのにね」

 ――このくらいであればまだ可愛いほうで、母はその他にも職場にどんな嫌な人間がいるか、さんざん悪口とともに愚痴りまくり、お陰でわたしはともかくとしても妹の麻亜子は、<外の汚い世界>というものに対して過剰なまでに敏感に反応する神経質な子供になってしまった。

 それでも母は今でもたぶん、麻亜子が自殺したのは学校内で受けていたいじめが原因で、自分のせいではないと思っているのだろう。いや、もしかしたら無理矢理にでもそうと思いこまなければ、自我というものが崩壊するおそれがあると、無意識のうちにも自分を守っているのかもしれない。

 麻亜子が十四歳という若さで自殺した時、父と母は学校側や加害者の生徒やその両親を訴えて、裁判沙汰にした。そして数年後に示談が成立したわけだったが――なんのことはない。ただ単に彼らは金の力の前に屈伏しただけなのだ。表向きの示談金の他に、両親がどのくらいの金額を相手側から絞りとったのかは知らないけれど、よくもまあ娘の命を金と引き換えにできたものだと、ほとほと感心してしまう。

 そんな家族だったから、わたしは高校を卒業するのと同時に家をでた。四歳の頃から家事手伝いをさせられて、小学生の時も中学生の時も、友達と外で遊ぶ時間さえなく、小間使いのようにわたしは家族のためにせっせと働いてきた。その上、母は何かある度ごとになんでもわたしのせいにしたし、妹はそのことに同調し、父はいつも見て見ぬふりをした――それでも、麻亜子が死んでしまうまでは、わたしも自分の家族に少しは希望というものを持っていた。いつか、もしかしたら将来、孫を抱いた両親や妹と一緒に写真を撮り、昔は大変だったけど、生きてさえいれば幸せってあるんだね……そんなふうに笑いあえる日がくるかもしれないと信じていた。でももうそんな日は永遠にやってこない。

 何故って、すべてはお金とともに虚しい数値に置きかえられて、彼らは麻亜子の死んだ本当の意味を、親として考えるのを放棄してしまっていたから……。


 麻亜子はきっと、気の弱い父の血をより濃く受け継いでしまったのだろう。わたしは妹とは違い、打たれ強くてタフな上、むしろ打たれれば打たれるほどファイトがわいてくるというタイプの人間だった。だから妹と同じように母の職場の愚痴話や、世の中にたくさんいる汚らわしくて醜い人間の営む社会生活について色々聞かされても、「世の中なんてしょせんそんなもの」と、かなりのところ開き直ってクールに母の話を聞いていられた。

 でも麻亜子は――四歳の頃から可愛がっている熊のぬいぐるみのオラフちゃんに、中学生になってからでさえ話しかけているような、そんな純粋な娘だったのだ。もちろん、彼女が生きている時、わたしだって妹の動作のとろさや頭の回転の鈍さ、舌足らずな話し方、人の顔色を窺うような怯えた目つきに何度もイライラさせられたし、実際のところ、彼女が自分の血の繋がった妹でさえなかったら、麻亜子のようなタイプの子はいじめられても仕方がないとさえ思ったかもしれない。

 虫の名前で呼ばれる(彼女の仇名はカマキリだった)、掃除当番を押しつけられる、好きでもない男の子にラブレターを書くよう強要される……それだって、受けた当人にしてみれば相当ひどいことではある。でもそのくらいなら、わたしは姉としてもまだ許せただろう。でも妹の受けたいじめというのはもっと凄惨なもので――彼女は丸裸にされた上、その写真を同級生に携帯でとられ、その写真を脅しのネタとして使われていたのだった。そして売春を強要されては、稼いだお金をクラスのリーダー格の女の子に全額渡していたのである。

 妹が亡霊のように写っている、彼女の中学時代の卒業アルバムを開いて見るたびに――わたしはいつも思ったものだった。狐のようにつり上がった目つきのその女に、妹と同じ思いを味わわせてやりたいと。他の見て見ぬふりをしていたであろう連中に対しても、なんらかの形で報復してやりたいと。

 でもそんなどす黒い感情に負けそうな時はいつも、妹の残した熊のオラフちゃんのことをぎゅっと抱きしめ、彼女がよくそうしていた時と同じように、わたしは彼に話しかける。

 小さな時、麻亜子に何故熊のぬいぐるみにオラフと名づけたのかと、訊いたことがあったけど――彼女はきょとんとして、真ん丸な目をくりくりさせながら、こう言ったっけ。

「麻亜子にもよくわかんない。でも向こうが最初に、『ぼくの名前はオラフだよ』って、そう言ったの」

 きっと麻亜子は今、<彼>の精神性が実際に存在しているような、そんな世界で暮らしているのだろう。なんの悩みも苦しみもない、汚れのない清らかな魂だけの存在する世界……そんなふうに時折、『森のくまさん』のような童話的世界を想像しては、わたしは姉として妹に何もしてやれなかった自分の腑甲斐なさをやるせない思いで後悔した。


 地元の偏差値の低い公立高校を卒業すると、わたしは札幌の中心部に越してきて、叔父の経営する本屋さんで正社員として働くことになった。わたしは自分の家族だけでなく、自分の親族全員も大嫌いだったが――基本的に、父や母をそのままコピーしたような人間性の人ばかりであったので――父のふたつ上の兄である、友彦おじさんだけは別だった。

 彼は苦学して、七人いた兄弟の中で唯一、大学まで進学した人で――小さな頃からずっとわたしは、友彦おじさんのような人がもし自分のお父さんだったらと、憧れ続けてきた。

 背がひょろ長くて一見、実に頼りなさそうには見えるけど、眼鏡をかけた深い知性を感じさせる面長の顔はどこか気品に満ちており、思わず人が頭を下げずにはおれないような威厳があった……といっても、おじさんは若い頃から内気だったらしく、何故人が自分に敬意を払おうとするのか、まるで理解できないという純朴な人でもあったのだけれど。

 そんなおじさんが経営する本屋さんは大通り公園のそばにあり、住まいのほうは石山通り沿いにあった。わたしは最初のうち、そこで従兄の和久と友彦おじさんの三人で暮らし、一年後に中島公園のそばにアパートを借りた。

 わたしが家をでていこうとする時、おじさんはとても残念がったけど――職場でも家でも一緒というのは、わたしにはあまりにもつらすぎたのだ。おじさんは和久のお母さんを、十年も前に亡くしていて、今は六十五歳の、わたしと同い年の息子がひとりいる、いわゆるやもめ男ではあったのだけれど――わたしは寝食をともにするうちに、このお人好しで優しい、自分よりも三十五歳も年上の男に、かなりのところ本気で恋してしまっていた。

 和久は根の暗いボンクラな奴なので、そんなことには少しも気づかなかったみたいだけど――やはり人間は内面なのだ、精神性なのだ、男は顔じゃなく魂なのだ……友彦さんと和久を見比べれば見比べるほど、わたしはそんな思いを強くした。何故って、ふたりはとても顔立ちや性格が似ていたけれど、友彦さんのは円熟して磨きのかかった男のそれであり、和久のほうはまだまだ七転八倒、いい男になるのも平凡な男で終わるのも、これからの本人の努力と運命次第……年の差の分、それだけ大きな違いがあるように感じた。

 ふたりはとても仲のよい親子でもあり、お人好しなのほほんとした性格まで似ているせいか、見かけは洋風なのに何故か縁側があるという和洋折衷型の不思議な斎藤家はすこぶる居心地がよかった。その上家賃も水道光熱費もただときた日には――それまで誰からも感謝などされずに奴隷のようにこき使われてきたわたしにとって、炊事・洗濯・掃除をすることなどは、そう大した労働ではなかったといってよい。その上、ふたりとも大層ありがたがってくれるし、どんな料理を作っても「うまい、うまい」としか言わないし、茶碗洗いや風呂の掃除、ゴミ捨てなどは自ら率先してやってくれるし――というわけで、最初の一年間、わたしは斎藤家で疑似家族的生活をこのまま一生送れたらどんなに幸せだろうとさえ思った。でもそのうち、友彦さんの寝起きのくしゃくしゃした髪や、寝呆けた顔、よだれのあとが白く残った頬、納豆には必ずネギを入れるところや風呂上がりにどくだみ茶を一杯やるところにときめきを感じるようになってからは――彼と同じ職場、同じ家でともに過ごす時間が濃密に胸に迫るようになり、苦しくてたまらなくなってしまったのだ。

 そしてこのままでは家をでるか転職する以外に方法はないというくらいぎりぎりまで追い詰められたわたしは、友彦さん自身が設計したという斎藤家の、屋根裏部屋から出ていくことにしたのだった。


「馬鹿ねえ、あんた。そんなの簡単じゃない。そのネクラなボンクラ息子がいない時を見計らってさ、こっそりそのおじさんのベッドにでももぐりこんじゃえばいいのよ。『怖い夢を見て眠れなくなったの』とかなんとか、子供みたいな理由くっつければあとは万事すべてうまくいくって」

「友彦さんはそんな人じゃないもん」と、わたしは札幌市内に唯一ひとりだけいる友人、綾香に恋のお悩み相談をしている最中だった。

 場所はススキノの『サヴォイ』という名のジャズバー。店内には年季の入ったサキソフォンやトランペット、ホルンなどが飾られていて、バックのナイトブルーの壁には、黒いマジックでところどころ、サインのようなものがしてある。時々、とても有名なジャズ奏者がやってきてプレイするということだったけど、今日は素人が趣味でやってますといった感じの人たちが、小さなステージでしんみりセッションしているところだった。

「友彦さんはね、『怖い夢を見て眠れなくなった』なんて言ったら、本当にそのまま『おお、よしよし』っていう感じで、抱きしめながら一緒に寝てくれるような人よ。そしたら次の朝あたし、一体どうしたらいいの?あんまり惨めで耐えられなくて、やっぱり結局は家をでることになってたと思うわ」

「そおかしらねえ」

 綾香は水色のカクテルのてっぺんにのっかった、さくらんぼを食べながら疑わしそうに言った。彼女はウェーブのかかった茶色い髪を一房人差し指に絡めとり、ベージュ色のワンピースの胸元でいじっている……もしわたしが男なら、思わず声をかけるか、その勇気がなくてもじっと見入ってしまうくらい、綾香は美人だった。いかにも田舎者の、センスなくて垢抜けない格好をしたわたしの隣にいるせいで、彼女の美はいやが上にも周囲の人間には高まって見えることだろう。

「そのおじさん、十年前に奥さん亡くして、今六十五歳なんでしょ?だったらたぶん、あっちのほうはまだ十分いけるわよ。わたしの経験からいって、七十越えたおじいちゃんでもね、元気な人は元気だもの」

「綾香が言うと生々しくてなんかやだなあ」

 お子さまのわたしはカルーアミルクをごくごく飲みほしながら、一見清楚な感じに見えて実はヤリマンという女友達のことを、複雑な目で数瞬の間見やった。

 カウンターのスツールに腰かける彼女は、とてもわたしと同じ十九歳には見えない。その上すでにもう両手の指では数えきれないくらいの男と経験しちゃってるわけだから――何故綾香のような魔性の女が田舎娘のわたしと友達なのか、わたし自身、いつも不思議に感じてしまう。というか、綾香の過去自体、『そのとき少女に何が起こったか』的なものがあって、わたしは彼女に対してまかり間違っても道徳的な言葉なんて言えはしないのだ。

「大丈夫。実際のところ、本当は男の人って由架理みたいなタイプに弱いから。しっかり者で家事ができて、顔はお世辞にも美人とはいえなくても、処女で男とつきあった経験が一度もない……ここまでくればマジで完璧よ。嫌味でも皮肉でもなく、褒めてんのよ、これ」

「ありがとう」

 落ち着いた、仄暗い照明の中で、わたしは微かに笑った。さっぱり系の美人というのは本当に得だと思う。何を言われてもそれが真実である以上、何故か不思議と腹が立つということがほとんどないから。

「でもやっぱりあたし、綾香みたいな美人に生まれたかったな。もしわたしが綾香みたいな美人だったら――明日にでも友彦さんの家に泊まって、夜這いをかけちゃうかもしれないけど、自分の顔を鏡で見たら、そんなの絶対無理だもの。それに、せっかくの叔父と姪の理想的な関係をぶち壊したくもないし」

「実際にはね、美人かブスかっていうのは、そう大した問題じゃないのよ」と、綾香は腰元のサッシュベルトに手をかけながら言った。この店にくる前に食べ放題の店で焼肉とデザートを食べまくったので、お腹が少しきつくなったのだろう。

「それより、最後にいきつくところはやっぱり内面性ね。美人で得だっていうのは、結局のところ表面的なことだもの。街を歩いてただけで声かけられるとか、合コンで他の女の子より人気があるとか、そんなくだらないこと、はっきり言ってどうでもいいわよ。どうせ網に引っ掛かってくるのはカスみたいな男ばっかりだし……あたしは逆に、由架理が羨ましいけどな。まだ誰の汚い手垢もついてなくて、本当に心の底からこの人が好き!っていう人と同じ職場で、しかもプライヴェートでも会おうと思えばいつでも会えるだなんて……最高に贅沢な立場よ、あんたは。わたしに言わせればね」

「そりゃそうかもしれないけど。でもね、わたし友彦さんの息子と同い年だし、しかも和久なんてわたしのこと、これっぽっちも女だなんて意識してないのよ。お母さんと家政婦と友達を三で割ったような感じっていうのかなあ。これでもしわたしが綾香みたいな美人だったら、今ごろ従兄同士で結婚してるかレイプされてるかのどっちかよ、たぶん」

「ところでその和久くんて」と、綾香の瞳が一瞬、あやしげに輝いた。男を物色する時、彼女はいつもそんなふうに、意地の悪い目つきになる。

「ネクラでボンクラだっていう話だったけど、ルックスのほうはいけてるの?」

「まあ、十人並みっていうところかな」と、あたしは肩を竦めた。「まあまあなんじゃないの?見た目ちょっと体育会系に見えるけど、綾香の言うとおり、あいつの場合問題なのは内面よ。漫画とゲームと映画が大好きっていう超オタク男だもん。好きな女のタイプはキャサリン・ゼタ=ジョーンズと綾波レイ。しかも真顔で言うから。マジやばいって」

 さもおかしそうに、綾香はくすくす笑っている。

「結構、面白そうな奴じゃない。流石は由架理の従兄だけあるっていう感じ。ねえ、今度会わせてよ」

「いいけど」と答えつつも、あたしはややためらった。もしも和久が綾香の魔性の毒牙にかかった場合――立ち直るのは難しいだろうと、そんな気がしたからだった。綾香は和久にとって、ヴィジュアル的にはもろ好みといっていいタイプだったから。「でも、一応わたしの従兄だと思って注意してよ。他の男と二股かけて傷つけたりとか、そういう相談にはできれば乗りたくないから」

「わかってるってば。そこのところは大丈夫よ。こう見えても一応、手を出していい男とそうじゃない男の見分けくらいつくしね」

 そのあと綾香とわたしは、彼女が「つまらない」と言って嘆く大学の愚痴話や、現在彼女がつきあっている「顔だけいい男」の奇妙なセックス癖について聞き、酔いがまわったせいもあって、カウンターを叩きながらげらげら笑った。

 綾香が嫌味でも自慢でもなんでもなく、本当に顔しか取り柄がないというその<彼>は、女性の下着を集めるのが趣味で、綾香はいつも奇抜でセクシーなランジェリーを着てお相手を勤めているとのことだった。だがつきあっているうちに、彼のほうの性癖がだんだんあらわになっていき、今では女王さまと下僕状態なのだという。

「ハイヒールの踵でペニスを踏んでくれっていうから――仕方なくそうしたんだけど、なんか向こうがあっうーんとか言って悶えてるの見てたら、「もうそろそろこいつとも終わりかな」って、そんな気がしてね」

 カウンターの向こうでは、まだ三十そこそこの若いマスターが、爆笑したいのをこらえるような仕種で、シェイカーを振っている。面白い話を聞かせてもらったお礼にと、ただでカクテルを一杯、御馳走してくれるというのだ。

 綾香は確かに、自他ともに認める恋多き女で、振られたほうの男が一度、ストーカーと化したこともあるくらい、魅力のある魔性の女だった。でも同時に彼女にはどこか、神秘的で汚れがなくて、素直で真っすぐで優しいところもあり――もしその矛盾を看破することのできる男が彼女の人生に現れたとしたら、その男こそ綾香の本当に求めている男性なのではないかと、わたしは彼女の恋愛話を聞くたびに、いつもそんなふうに思う。

 聖女および聖処女と呼ばれる女のタイプにもっとも近いのは実は、修道女ではなくて娼婦性を持った女ではないのか――わたし自身は常々そんなふうに感じているのだけれど、何しろわたし自身がまだろくに恋愛経験のない正真正銘の処女だったので、本当のところはどうなのか、それはまだわからない。でも綾香がいくら男を取っかえ引っかえしつつ、ヤリマン道を突き進んでいるのを見ていても、不思議と不道徳だとか、汚らわしいといったような感じはまるで受けなかった。もっとも綾香の場合、これまで彼女自身が経験してきた過去にも、その理由は存在していたのだけれど。




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◇オリジナル小説サイト『天使の図書館』
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