37話
次の日も、その次の日も、レリック殿下は弁当を届けにきてくれた。
おかげで私の胃袋は毎日大満足である。
「どうだい?」
「日に日にレリック殿下の料理が上手くなっていますね……」
「そうか! それは嬉しい」
初日は調味料が入っていなかったり、野菜炒めなのに野菜が半生状態だったりと、初めて感があった。
だが、今日の野菜炒めはちょうど良い食感で、味付けも抜群に良い。
「ところで、こんなにハッキリと言ってしまって良かったのでしょうか……? 私としては、ご飯を届けてくださるなんていう、こんな嬉しいことはありませんのに」
「良いのだよ。私がやりたいからやっていることなのだから」
今日はこのあと、ついに高原のカフェを復活オープンさせる。
美味しい弁当も食べられたことだし、いっそう気合いをいれて望みたい。
「ついに始まるのだな。毎日来ていたからわかるが、あれだけ荒れていたカフェをこの短期間で修繕修復してしまうとは驚かされた」
「早くオープンさせたかったですからね。それに、レリック殿下が食事を毎日届けにきてくださったおかげです」
「そ、そうか」
「本当にありがとうございます!」
レリック殿下は顔を赤らめながらなにかを言いたそうな感じがした。
「どうかされましたか?」
「う、うむ。実は今日、フィレーネ殿に私の気持ちを聞いてほしい」
「は、はい⁉︎」
この流れはまさかとは思うが……。
告白⁉︎
いやいやいやいや、さすがにそれは考えられない。
一国の王子が私のような庶民に告白だなんてあり得ない。
「く……言いづらい」
レリック殿下が言い淀み、そわそわとしていた。
ここで、私はようやくなにを言いたいのか理解し、微笑んだ。
「ふふ……。レリック殿下が言いづらいのもわかりましたよ」
「いや、それは……」
「今日のオープンまで時間があります。レリック殿下に最初のお客さんとして、優先してご案内しますね♪」
「う……うむ。それはそれで嬉しいが……」
レリック殿下が珍しくそわそわとしていた。
図々しいとでも思っているのかもしれない。
だが、今まで散々お世話になった。
基本的に私の店は平等ではあるが、今回は特別だ。
「さぁさぁ、レリック殿下は席に着いてくださいませ」
レリック殿下の背中を手で押し、外の景色が絶好の一番良い席に誘導した。
「う……。私の気持ちが……」
「はい?」
「いや、なんでもない。紅茶をもらおう」
「承りましたー」
このうえなく心を込めて紅茶を用意した。
レリック殿下がゆっくりと口をつける。
「やはりフィレーネ殿の作った飲み物は世界一美味い……」
「ありがとうございます」
レリック殿下は外の景色を眺めながらくつろいでいる。
これが見たかった。
私はやはり、高原のカフェでお客さんが喜んだり落ち着いたりしている表情を見るのが好きなのだ。
さて、そろそろオープンの時間だ。
外はすでに人の話し声がしているし、きっと初日から忙しくなるだろう。
入り口のドアを開けた。
「こんにちは。高原のカフェチェルビーへようこそ」




