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聖なる飲み物だと気がつかない聖女フィレーネのカフェ経営 〜聖女を追放させた姉妹は破滅へと真っしぐらです〜  作者: よどら文鳥


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28話

 話に夢中になりすぎていて、気がつかなかった。

 私のすぐそばに近づいてくる。


「キミと結婚したい」

「はい⁉︎」

「な⁉︎」


 私とレリック殿下がほぼ同時に大きめの声をだした。

 デーブラ王子はニヤリと微笑み、再び私の胸元に視線を向ける。


「人目見て、あなたのことを気に入りましたよ。それに、聖女なのでしょう。王子である僕と婚約するには申し分ない相手だ」

「え……えぇと……その……」


 いきなりの求婚でどう返事をしたら良いのかわからない。

 相手は隣国の王子だ。

 ここで感情のままに無理ですなどと言ったら、国際問題に発展してもおかしくない。


「父上だって、聖女とだったら喜ぶでしょう?」

「デーブラよ……おまえというやつは……」

「さぁさ、僕の胸元で嬉し泣きをして良いのですよ。さぁ」


 嬉し泣きとはほぼ真逆にショック死しそうなんですけど。

 デーブラ王子が私の手を掴もうとしてきた。


「申しわけありませんが、彼女の手に触れるのはご遠慮ください」

「え?」

「な⁉︎」


 レリック殿下が、デーブラ王子の手をはたいて接触を阻止してくれた。

 なんと大胆な……。

 いくら護衛してくれているとは言っても、こんなことをしたらそれこそ国際問題になって国交断絶なんてことに……。


「言っていませんでしたが、彼女は私の婚約相手なのですよ」

「な⁉︎」


 デーブラ王子は絶望に満ちた顔をしながら、悲鳴のような声をあげた。

 私は必死になって驚きを隠し、平然とした態度を演技した。

 内心ものすごく驚いている。

 レリック殿下の婚約者になった覚えなどないのだから。

 私を守ろうとして、嘘をついてくれたことくらいはわかる。

 私も頑張って演技をしてみせた。


「いまいち信じがたいのですが……」


 意外にもデーブラ王子は鋭いようだ。

 私の演技では誤魔化せなかったのかもれない。

 しかし、レリック殿下は笑顔で対応する。


「か……彼女のどこがお好きになられたのです?」

「全てと言ったらそれこそ嘘くさいですからね。少々恥ずかしいですが、納得してくれるためには仕方ありませんね」


 レリック殿下は、私の顔を一度見てニコリと微笑んだ。

 その表情が、演技だとはいえカッコ良く、そして不思議な安心感を私に与えてくれるかのようだった。


「まずは謙虚でありながら、常に一生懸命なところに魅かれましたね。部下の使用人たちに対しても私に対しても、同じように優しく気遣ってくれ、対等に接してくれます。裏庭の収穫作業をしているときの笑顔は、まるで天使様を眺めているかのように美しいのです。カフェチェルビーの話をしているときも楽しそうに話してくれ、私の心も癒してくれるかのようですね。見てわかるとおり、綺麗な長い金髪も美しいですし、綺麗なピンク色の瞳も魅了させられます。いつも元気で誰にでも優しい彼女を愛していますよ」

「…………」

「…………」


 私もデーブラ王子も、開いた口が塞がらなかった。

 演技とはいえ、そこまで言われたら心臓の鼓動がやばいのですけれども。

 いや、むしろ本当にそう思ってくれていたら、どれだけ嬉しいことか……。

 今まで私のことをここまで褒めてくれる人は両親以外にいなかったから、演技だとわかっていてもとても嬉しかった。


「ありがとうございます……」


 私はレリック殿下に満面の笑みでお礼を言う。

 するとレリック殿下もニコリと微笑み、満足そうな表情をしていた。


 いっぽう、デーブラ王子は愕然としたまま床にしゃがみ込み悔しがっていた。


「はっはっは。これだけ彼女のことを愛しているレリック殿の邪魔をしてはならぬよ。デーブラよ、潔く諦めるが良い」


 ダラブラ陛下が落ち込んでいたデーブラ王子の肩に手を置きなぐさめていた。


「う……。私はまたもこうして振られるのですね……」

「血は変えられぬな。昔の私と同じような道を進んでしまっておる。だが、いずれデーブラも気がつける日が来る」


 デーブラ王子はようやく立ち上がり、元の席に着席する。


「せめて、もう一杯もらえないでしょうか」

「もちろんですよ。少々お待ちくださいね」


 理由はなんであれ、隣国の王子を傷つけてしまった。

 そして、騙している。

 お詫びの意味も含め、美味しくなるように聖なる力をたくさん込めた紅茶を提供した。


「はぁ……。レリック王子が羨ましいです」


 こればかりはレリック殿下も苦笑いしかできなかったようだ。


 こうしてカフェチェルビーでの対談は、トラブルに発展することもなく概ね無事に終わることができた。

 この日からしばらく、レリック殿下の目をまともに見ることができなかったのである。

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