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11話

 いよいよカフェオープン当日。

 今さらではあるが、この店はカフェチェルビーという名前にした。

 亡き母親の名前がチェルビーだったため、そのまま引用させてもらったのだ。


 私は独立してカフェを開くわけだから、もうお姉様たちの営業方針に従うつもりはない。

 大儲けのために価格を上げたり、楽をするために新しく入れる店員任せにしたりするようなことを最後に聞いていた。

 もちろん、そのようなことをするつもりはない。


『聖なる力でおいしい飲み物を作って人々を幸せにさせてね』


 私はお母様からの言葉どおりの店を作っていきたい。

 まだ軽食などは用意できなかったが、飲み物だけで満足していただけるように、全身全霊で心を込めて祈り続けてきた。

 ちなみにソニアさんや使用人の方々は、主に警備をしてもらったり後片付けを手伝ってもらったりしてくださるという。

 すでに私一人で動いているわけではないが、最低限の利益以外は二の次。

 まずは満足してもらえるよう頑張りたい。


 さて、初日は夜明けと共に行動開始して豆や茶葉の収穫からはじめた。

 豆も挽くのに時間がかかるため、あまりのんびりとはしていられない。


 緊張も高まる中、いよいよ店のドアを開ける。

(お客さん……来てくれるかなぁ……)


 しかし、現実はそう甘くなかった。

 いきなりどーんと店を構えたところで、なんの宣伝もしていない。

 しかも、高原の三姉妹カフェをやっていたことはあえて口にしていないのだ。

 周りから見たら、得体の知れない店が始まったと思われてしまっても仕方のないことである。


 しばらくぼーーーっとしながら、時間だけが虚しく過ぎていった。


 ――カランカラン。

 うとうととしていたら、急にドアが開いた。

 ドアに取り付けていた飾りが音をたてる。


「こんにちは。カフェチェルビーへようこそ」


 アットホームな空気感を出したいため、『いらっしゃいませ』ではなく、あえて挨拶をする方針にしている。

 もちろん、誰が来店されても同じ態度をとることにした。


 最初に入ってきてくれたお客さんは、四十代くらいの男性。

 見た目は質素な格好をしていているが、清潔感はある。

 ぶらりと立ち寄ってくれたのかな。


「コーヒーをいただこうか」

「はい。お待ちくださいね」


 なにしろ初めてのお客さんだ。

 カップの上にペーパーフィルターを敷き、その上にコーヒーの粉を入れ、丁寧に熱湯をカップに注いでいく。

 ここでも聖なる力を込めて、美味しくなるように祈るのが私のやり方だ。


 少々時間はかかってしまうものの、最高の一杯を提供したい。


「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

「うん。ありがとう」


 店内は無言のまま時間だけが過ぎていく。

 最初のお客さんもリラックスしてくれているようで、ゆっくりとカップの中身が減っていく。


「マスターさんや。このコーヒー豆は販売しているのかね?」


 突然声をかけられ、少々びっくりしてしまったが、すぐに頭を下げて謝罪した。


「申しわけございません。今は店内のみでのご提供となります」

「そうか……。それは残念だ。ならばまた来よう」

「ご理解いただきありがとうございます!」

「ところで、この美味しかったコーヒーはいくらだい?」


 あ、肝心なことを忘れていた!

 値段の設定を全く決めていなかった。

 こういうところで私は抜けているんだよな……。

 せっかくの最初のお客さんだし、サービスでも良いかなとは思うが、全員に対等にしたいというポリシーもある。

 ここは相場でいくべきだろう。


「はい。コーヒーは一杯400ゴールドになります」

「……冗談を言っているのかね?」

「いえ、コーヒーと紅茶、共に400ゴールドでのご提供です」


 男性は驚いた表情をしていたが、やがて冷静さを取り戻したようで、こほんと咳払いをした。


「忠告しておこう。一杯5000ゴールド、いや、10000ゴールドでも良いと思うよ」

「え⁉︎」

「名乗っていなかったね。私はこれでも他国へ優良な商品を販売する商人をしているバーバラという」

「な⁉︎ あの大商人バーバラ様ですか⁉︎」


 私は驚き声をあげてしまった。

 それは警備をしているソニアさんも同じだったようで、視線がバーバラさんの元へ向く。

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