ユタージン第2話
夏田古文時はぎゅうちゃんの背に揺られ
悲鳴が聞こえてくる映画館へと
突進する
キャー
ンギャー
と
悲鳴が激しさを増していた
映画館の扉を、ぎゅうちゃんの逞しい角が、ドカリと打ち破り、なだれ込んだ
すると、スクリーンでは阿鼻叫喚のホラー映画クライマックス
悲鳴はホラー映画の悲鳴であった訳だ
「仕方ない、途中からですが、なかなか面白そうじゃありませんか、映画鑑賞と洒落込むことにしますか
ぎゅうちゃん」
夏田古文時はポップコーンをぎゅうちゃんと一緒に食べながら、ホラー映画のクライマックスを鑑賞する
夏田古文時とぎゅうちゃんはホラー映画に夢中であった
その間、ハルサー団はタネ蜥蜴をすべて倒した
映画館から聞こえくるホラー映画の
ギャー
ドギャオ
という声に驚きハルサー団が映画館に突入
すると、ポップコーンを
鼻の穴に詰め込まれ、椅子に縛りつけられた夏田古文時
すわ
ハルサー団は夏田古文時を縛りつけたロープを鎌で解き放つ
鼻の穴に詰め込まれたポップコーンは
ハルサー団全員で分けて
ぼりぼり食す
「ナツダックのエリートサラリーマンがなんで縛られてたのか~?
誰にやられたのか~?」
ハルサー団の太っちょリーダー、ムンフリが
夏田古文時の猿ぐつわを解いてやる
「ありがとうございますムンフリさん
助かります」
「あんたナツダックのスーパーナチュラルサラリーマンなのに なんでこの映画館の椅子に縛られていたの? 」
「犯人… いや、犯牛は水田水屯 つまり水牛のぎゅうちゃんです、油断していたら、鼻にポップコーンを詰められていました、僕の弱点の一つが、鼻にポップコーンを詰められる
ことなんです」
「おかげさんで、わったあハルサー団は夏田古文時さんの鼻の穴エキス付きのポップコーン食べさせてもらったさあ、そしたらみんな、念のパワー少しアップね、少しアップね
夏田古文時さん」
ハルサー団の太っちょリーダー ムンフリは 「少しアップね」 という部分が気に入ったらしく
何度も「少しアップね」「少しアップね」と繰り返した
夏田古文時は、すぐさま映画館を飛び出した
あの美人を探して町中を駆け回る
最後は油断してぎゅうちゃんに
縛られたが、夏田古文時の活躍が町を救ったことに違いはない
あの美人は夏田古文時の嫁さんになるはずである
すると、町のはるか遠くの農道に、ぎゅうちゃんらしきものが
すわ
株を取りだし、念を込めると、望遠鏡の出来上がりだ
望遠鏡で確認する
やはり、ぎゅうちゃんである
背中にナカンダカラと美人さんを乗せて
ゆったりと農道を東へ向かい進んでいる
ウマッタラという株を、黒いビジネス鞄から取り出したのは
ご存知、スーパーナチュラルサラリーマンSNS
夏田古文時その人である
そっと、ウマッタラの株を大地に置く
ウマッタラの株はレア株である
だから、使い捨てになどできないから、あまり大量の念を注がないようにする
それが難しい
思い切り念を注ぐほうが簡単である
大量の念を株に注ぐと、その株は再使用できない
使い捨てにできないほどレアな株に、慎重に念を注ぐ
これは非常に気を使う作業なので、逆に、大量の念が空気中に無駄に放出されてしまう
ぐったりとなった
だが休むわけにはいかない
ぎゅうちゃんたちを追いかけねばならない
念を慎重に注がれたウマッタラの株は大きくなっている
夏田古文時はウマッタラに乗った
町を覆っていたギンネムは急激に枯れて萎んだ
町の人たちが枯れたギンネムをかたずけている
町の近くに、夏田古文時が乗っていたレンタカーが行儀良く待っていた
「あっ、しまった、レンタカーがあったんだ、無駄に念を使いウマッタラを生成する必要など
なかったんだあ」
レア株であるウマッタラを株に戻して黒いビジネス鞄に入れる
それからレンタカーに乗り、ぎゅうちゃんたちの後を追う
「ぎゅうちゃん、なぜわたくしを縛ったのですか、あっ、ぎゅうちゃんって言ってしまってた、ぎゅうだ ぎゅうだ、あんなやつ、ぎゅうでたくさん
ですから」
コンテヨロスーという黄色いスポーツカー
オープンな風に吹かれても頑なに七三にキープされた髪
静かな意志の体現としてのビジネススーツ
ご存知SNS スーパーナチュラルサラリーマン夏田古文時その人である
『コンテヨロスー』というクルマをご存知の方もいらっしゃいますか
ヨーロピアンイエローにしか塗らないオープンカー
かつてF5に住んでたレンタカー屋のおっさんが
中野からわざわざ取り寄せた
島一番のスリムカーである
ぎゅうちゃん、いや、ぎゅうを追ってレンタカーを走らせる夏田古文時である
入道雲の雄大さ美しさの下の
農道を慎重にゆく夏田古文時
すると
ハイビスカス揺る下を
ヒップが右に向かうクイッと右に向かう
左のヒップが右に向かう振りをして
右のヒップが左に向かう振りをして
やはり右は右に
左は左に
なれどヒップの方向などどうでもよくて
ポップな内腿の方向を気にして
ポップなヨーロピアンイエローのスポーツカーを尚更ゆっくり運転しているのは
SNSスーパーナチュラルサラリーマン夏田古文時その人である
農道に似合わぬハイカラな若い娘さんが長い黒髪にハイビスカスを飾り
ゆっくり歩いているではないか
ヨーロピアンイエローのスポーツカーが若い娘さんのヒップを追尾している
ハイビスカスの彼女のヒップは溢れる躍動感
ナチュラルなダンス
挨拶を誘発する
「ふにゃーにらにゃい」
ご存知SNS夏田古文時は
習いたての島言葉で挨拶をしてしまつた
魅力溢れるヒップに挨拶をしてしまつた
振り返る彼女は
さすらいのユタ
ユターシャ
ご存知
SSUユターシャその人である
流れ流れる麗しい黒髪の大河
微笑みの銀河
世界中の美が後退りして踵を返し逃げ出す
圧倒的美少女
「ふにゃーにらにゃい?ふにゃーにらにゃいは、いらっしゃいという意味ですよ
お招きくださるの?」
ポップなサンシンのような麗しい声
いや、実際に、美少女はサンシンをポップに鳴らしながら話をする圧倒的美少女なのである
「あの、その、ヒップがポップでして
挨拶が、お招き、でして」
夏田古文時
しどろもどろな夏休みの昼下がり