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ユタージン  作者: ヌーバス
1/3

ユタージン第1話

ランチラックは飛行機のトイレが好きだ


雲の上でクソをするという

その行為に無上の喜びを覚えていた


手を洗わずにトイレを出て

小さな窓から地上を見下ろす


すると、いまクソしたばかりなのに、またクソしたくなった


「くそっ、高所恐怖症だってことを思い出したぜ

トイレは

ここが地上10000mの空中であることを忘れさせてくれる

場所なんだ」


キャビンアテンダントさんとすれ違う


美しいビジネス笑顔とすれ違いながらランチラックは匂いを嗅ぐ


いやらしい気持ちじゃない


ランチラックはいま高校生、その類いまれなる能力は進化を続け、今では、人間に化けた宇宙人さえ嗅ぎ分けることができる



ダグーラは座席で寝ていた


「ヤジー 

CAは宇宙人だぜ」


ヤジーとは、おやじのことである

ランチラックの父親のダグーラを

ランチラックは

ヤジーと呼ぶようになっていた


「うるせーなあ

そんなことで、いちいち起こすな、CA全員が

宇宙人なのか?」


「一人だけだ」


「あれだろ?」


ダグーラが汚いアゴヒゲで示した先に

営業スマイル全開の背の高い

黒髪さらさら美人がいた


ランチラックが頷くとダグーラは


「おまえのような能力はないが、場数が

豊富だからな俺は」


「何の場数なんだかなあ

ヤジーのは」


そうこうするうち

機体に微かな衝撃


飛行機は雲に着陸したのである



雲テクノロジーによって雲は固定化されている

巨大な雲には空港が設置されている


雲の空港と宇宙ステーションの間をスペースボートが往復している


雲を固定化する技術はだいぶ昔に確立された

いま盛んに実験を繰り返している技術は

巨大な雲そのものを宇宙船として使うという途方もなくスケールの大きな実験である


雲の内部に居住スペースを設置して、雲の外部の推進装置により宇宙を航行するというものだ


雲の芯はもともと宇宙空間を移動して地球にたどり着いた物質であるので、この途方もない計画は理にかなった発想に基づくものなのである



雲の空港で


「ヤジー、ここで俺が合う人物って

誰なんだ?」


「SNSだ」


「SNS?ずいぶん古くさい言葉だなあ、前世紀に流行ったという

オータク文化?」


「ばかやろう

この場合のSNSはスーパーナチュラルサラリーマンのことに決まってるだろうがよ

夏田古文時だ」


「ナツダコブンジ?

落語家か?」



「夏田古文時と申します、よろしくお願い

いたします」


空港の片隅でSNSスーパーナチュラルサラリーマン夏田古文時ナツダコブンジは高校生のランチラックに対して名刺を丁寧に渡し、深々と御辞儀をするのであった


ランチラックの父親のダグーラは、例によって

とんずらしていた


親父のヤジーはものすごく忙しいふりをしたものすごく無責任なやつではないかとランチラックは推測している


「ナツダックから金をもらえるときいて来た

かなり高額だが、例によって、ヤジー

いや、親父の取り分が異常に多いのではないかと懸念しているおいらだが?実際のヤジーの取り分を金額を教えてくれないか?

なっちゃん」


「申し訳ございませんが、わたくしも知らないのですよ……

ただ……

あのダグーラさんの取り分が高額なのは妥当かと思います

ダグーラさんは【助けが必要なときだけ現場に表れ、そして必ず助ける男】との評判が

ありますから」


にこやかな夏田古文時


ランチラックは、この勤勉サラリーマンと仕事をするのが不安になった


こいつ、意外と馬鹿かもしれないと推測する


ダグーラの唯一の忙しい活動は

自らの評判を作り上げる詐欺的活動だけなのだから



雲の空港から宇宙ステーションまでは、あっけないほど安全な、短時間の移動であった


ナツダックの宇宙ステーションへナツダックのスペースボートで移動したというのも、あっけない宇宙空間移動の原因であろう


観光用のスペースシップなら、もっと時間をかけて移動しながら、いわゆる青く美しいわが故郷地球への郷愁を育みながら感動を演出したであろう


スペースシップで観光案内を担当するのはベテランのTV司会者である

その手の誘導はお手のものであろう


ナツダック社のスペースボートを操縦したのは夏田古文時である


移動の間の話題は、夏田古文時の淡い恋話と冒険譚であった。


間延びした声で夏田古文時が話したのは以下のとおりである。





ギンネムが町をぐるりと囲んでいる


ギンネムはこの島のいたる所に生えている植物ではあるが


ぐるりと町ひとつを取り囲むギンネムはあまりに異様である


夏田 古文時(なつだ・こぶんじ)は途方に暮れていた


ナツダックという株関連の企業で働くスーパーナチュラルサラリーマン(SNS)の夏田古文時は


夏休みをそ~と~早く取るという特権を行使してこの南の島に来た


夏田古文時は準備に時間を惜しみ無く投入する男だということは、賢明な読者諸氏ならご存知であろう


まず、南極に飛んだ夏田古文時であった


本格派の男だから、氷といえば

南極の氷である


北極の氷を選ぶのが庶民的だと

夏田古文時は承知しているが…


南極の氷をクーラーボックスに入れて準備万端

南の島に飛んだ


南の島は空港からしてすでに猛暑


やはり準備が大事なのである


夏田古文時はクーラーボックスを担いで歩いた


ものすご~く重い


氷の入ったクーラーボックスを担いで歩けば涼しいはずであった


ああだが


重いクーラーボックスを担いで

猛暑の島を歩くのは

ものすご~く暑かった


バカンスといえど、スーパーナチュラルサラリーマンとなれば、常識としてスーツを着込んでいる


汗が尋常じゃなく吹き出した夏田古文時であった


夏田古文時はクーラーボックスを島のレンタカー屋のおじさんにあげて

レンタカーで島の探索をスタートさせた



北に山がある


レンタカーを降りて登ると

島のほとんどが一望できた


夏田古文時(なつだ・こぶんじ)は山を下りる


町が見えたのだ

素晴らしく美しい女性を見つけた


山の頂上からでも美しい女性ならすぐに見つけることができる夏田古文時であるのだ


車に飛び乗り全速力で町へと急ぎ素早く着いた


すると、町はギンネムに取り囲まれていて入れない


通常のギンネムより大きなギンネムが町を完全に包囲している


そこへ水牛に乗ったじいさんが通りかかった


「お忙しいところ申し訳ございませんが、なぜに町はギンネムに取り囲まれて

るんですか?」


「食べるさあ、ギンネムは町を

食べるさあ」


「ギンネムが町を食べる~?」


冗談かと思っている夏田古文時であった


「よくあることさ~東京者でしょあんたわ~だから知らんさ~

わったあ島では常識さ~」


「常識なんですか、とにかく町をギンネムから救うべきなのでは

ありませんか?」


「あんたが救いなさい、あんたならできるよ、ギンネムに町が食べられそうになっても、だいたい誰かが救うから大丈夫さ~、時々食べられる町もあるけど、たまにだから

仕方ないさ~」


のんびり過ぎる島人なのであった


「あんた、町を救いきれたらさ~町で1番きれいな娘を嫁にすることができるよ、この島の習わしだから

娘は断らんさね~」


早速救うことにした夏田古文時であった



「あんた仕事は何やってるかねえ?」


じいさんは、夏田古文時がこれから町を救おうと動き始める時に、のんびりしたことを訊いてきた


「わたくし夏田古文時はナツダックという株関連企業のスーパーナチュラルサラリーマン

SNSであります」


「わんは、この水牛と一緒に畑歩いているさー、ナカンダカラ という名前やいびん

ゆたしく」


「ナカンダカラさんは畑歩いているんですか?」


「畑歩いているというのは、畑仕事に従事してるいうことさ~、海歩いてるいゆうたら漁師で、宇宙歩いてるいゆうたら 宇宙飛行士さあねえ、あと、ゆたしくというのは、よろしくう願えさびらという

ことさねえ~」


「こちらこそよろしく

お願いいたします」


早速名刺をお渡しした夏田古文時であった


「ありっ 夏田古文時! 早く町を救いなさい、早くしないと町がギンネムに

食べられるさ~」


ナカンダカラが急に急かしたので、夏田古文時は早速動こうとすると


「ありっ、ちょっと待ちなさい あわてんぼだね東京者は、あんた株の仕事してるなら、株いま

持ってるんか?」


「もちろんですナカンダカラさん」


夏田古文時は、使い込んだ黒鞄から株を取り出した


「あいっ、立派な株だねー、スペッシャルな

株やさや~」


「ナカンダカラさん、よくご存知で、この株はナツダック製の普通の株に、わたくし夏田古文時が念を注いだスペッシャルな株です、わたくし夏田古文時は SNSスーパーナチュラルサラリーマンですから、株に念を注いで、いろんな作用を開花

させることができます!」



よっこらせと、ナカンダカラは水牛の背から降りた


「わんも一緒に町を救いたいけどよ、今回はこの水牛を貸してあげるから、夏田古文時

あんたが行きなさい」


「わかりました、わたくし夏田古文時かならずや町を救いたい所存です、ところで

この水牛さんの名前は?」


「水田水遁みずだすいとんじゃ、でもよ、ぎゅうちゃんで

いいやっしぇ」


「ぎゅうちゃん、わたくし

夏田古文時と申します」


早速ぎゅうちゃんに名刺を渡し

挨拶を怠らない夏田古文時であった


すると、ぎゅうちゃん素早く、自分の名刺を出しまして


長い角をポキリと折りまして


泥に、折った角を浸したのである


折った角をペタンと名刺に押しますと


印鑑つきの、その名刺を夏田古文時に渡したのである


折ったと思われた角の印鑑は、またカチリと、もとの角に戻したのである


「ありっ、ぎゅうちゃんが印鑑付きの名刺を渡したのは、何年ぶりかねえ、ナポレオンに

渡した以来かねえ 」


夏田古文時は水牛に乗った


すると、水牛のぎゅうちゃんは 町に突進した


ギンネムにぐるり取り囲まれた町に突進した


あわやギンネムに激突かと思われた瞬間


夏田古文時は、すでにモンダモンという株を投げていた

モンダモンという株はギンネムの壁に入り込んだ


夏田古文時が念を送る


モンダモンの株が急速発育して、ギンネムを押し開き、門を出現させた


「モンダモンの株はありふれた株だが、あいつ、手際の素晴らしいユタージンだったか、モンダモンを作用させて門を出現させやがった、スーパーナチュラルサラリーマン夏田古文時、とんでもないポテンシャルを

秘めてやがるぜ」


ナカンダカラは訛りのいっさいない独り言を呟いていたのである



モンダモンという株を急速発育させて、ギンネムの壁に門を出現させた夏田古文時


ぎゅうちゃんに乗って門から

町に入ったSNSスーパーナチュラルサラリーマン夏田古文時


町のなかは地獄であった

ギンネムの種が人々を襲っている


人より大きな種、蜥蜴のような種

長い尻尾で人に巻き付きがぶりと噛みつく大きな種


だが、トカゲに似てるのにギンネムの種であることは、すぐにわかる


薄い緑色の楕円形の胴体が、ギンネムの種を巨大にした物なのだ


タネトカゲは、逃げ惑う町の人々に襲いかかっている


逃げずに、サトウキビの収穫時に使う鎌で応戦している一団がいる


「南の島には、鎌を使う自警団、ハルサー団がいると噂にきいてました、あれが

ハルサー団ですか?」


すると


ウンモ~モ~


鎌を二本、鎌と鎌を鎖で繋いである


鎖鎌はこの島にルーツがあるのだ


鎖鎌を使い、タネトカゲ相手に

なんとかハルサー団は善戦している


だが、一般町民を守る余裕がハルサー団にはない


と思ってたら、1人だけ見事なスピードでタネトカゲの群れに果敢に飛び込んで、斬り倒して前進して、町の人々の前にたどり着いた者がいる


かなり丸い体の男であるが、動きは物凄く早い


ハルサー団の丸い男はすばしっこい


タネトカゲの尻尾を鎖鎌で

スパッと切る、しかし、すぐにタネトカゲには新しい尻尾が生える


タネトカゲを胴体からスパッと切る、切り離された胴体はすぐにくっつく


結局、鎌だけでタネトカゲをやっつけることはできないようだ



ストプトの株に念を込めて、丸い男の鎌の柄に投げつけた


夏田古文時が投げたストプトの株が鎌の柄に巻き付いた


「ハルサー団の丸いひと、これでタネトカゲは

再生しません」


「にへ~で~びる、わんの名前は

ムンフリやっさ」


ハルサー団のムンフリはストプトの鎖鎌で次々とタネトカゲを倒してゆく


ストプトの株をハルサー団すべての鎌に作用させた夏田古文時である


ハルサー団は、まるでサトウキビの葉っぱを処理するように、タネトカゲを次々と撃破


夏田古文時はあの美人さんを

探して町中をぎゅうちゃんの背に揺られ駆け回っている


町には一軒だけ映画館がある


そこから悲鳴が聞こえてきたのである


「ぎゅうちゃん!あの映画館に!

急いでください」






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