狩られるのは私がいい
テーマ「誰もいない部屋で」「溶けるように」「死んでしまえたら」の3ワードを友達と短編練習を兼ねてそれぞれ40分で書き上げました!説明が足りないかなとも思いますが、一応形になり良かったです。
魔女狩り。
それが当たり前のこの時代に私は師匠と二人で暮らしていた。
魔女なんて不確かなものは信じていない。私たちはきちんとした知識の元、医学という遠い地域の技術を用いて不調を訴える人を助けていただけ。
すぐに治るものもあれば、治りが遅いものもある。
それこそ魔法じゃないのだから手遅れの症状だってあるのだ。
私は師匠と二人で暮らしていければよかった。
はやり病で母を亡くし自分も病気にかかっていたが師匠の手によって救われ、今もこうして生きている。
だから私はことあるごとに師匠に言っていた。
「あまり目立った行動をしていたら魔女狩りにあいますよ」
「近頃は見た目と歳が釣り合わないというだけで、対象になるそうです」
「薬の材料は私が買いに行きます。師匠一人で外に出ないで」
師匠は美しい人だった。
歳を感じさせない美貌を持ち、朗らかで、誰に対しても親切で、言いたいことは忖度なく口にする。
こっちがひやひやするのなんてお構いなしに。
いつ、噂を聞きつけた人がやってきてもおかしくない。
私はそれだけが心配だった。
「なぁメイチ。私が本当に魔女だったらどうする?」
「冗談でもそんなことを言うのはやめてください。それに師匠は絶対に魔女ではありません」
「相変わらず頭の固い返事だなぁ。私は自分の好きに生きてきた。だからその結果この人生がどう終わろうとも全く悔いはない」
「やめてください」
「だけど、お前のことだけは少しだけ心残りだ」
「師匠!」
「楽しかったなぁ。私の尻ぬぐいに奔走するメイチが可愛くて、わざと困らせていたと言ったら怒るか?」
激しくドアを家のドアをたたく音がする。
うるさい。やめてくれ。頭がどうにかなってしまう。
「メイチ。生きろよ」
左右に顔を振ってなんとか拒もうとするが、師匠の手がゆっくりと私の両頬を包み込んだ。嫌だと固く歯を食いしばるが、無理やり口をあけられて薬を押し込まれる。
舌の上で溶けていった薬の効き目はすぐに現れた。
朦朧とする意識の中、私は師匠に向かって必死に手を伸ばす。
後ろ手を縛り上げられた状態のまま、力なく倒れこむ私は師匠に抱かれた。温かい。こんな良い人が魔女なわけない。違う。やめてくれ。思いは溢れるが私の口からは言葉が出てこない。
そのまま隣の物置の中に優しく体を下ろされて扉が閉まる。
「お前たちが探しているのはこの私だろう」
「捕らえろ!!」
「お前と一緒に行動をしてきた子どもがいると聞いている。隠しても無駄だぞ」
「あの子は男の子だ。お前たちが探しているのは魔女だろう?」
「隊長。たしかに男だそうです。町の人もそう言っています」
「チッ……それならいい。領主様がお待ちだ。はやくこいつを連れていけ」
大きな声で叫びたかった。
自由な足で扉を蹴って自分の存在を明かしたかった。けれど、薬がよく効いたのか真っ暗な空間で私の意識は徐々になくなっていく。
――――――――――――――――
意識を取り戻したのは半日が過ぎた頃。
体当たりで扉を開け外に出るとご丁寧に小さなナイフが置いてあった。
こすりつけるようにして縄を切り自由になった手を見つめていると涙が溢れる。誰もいないことをいいことに嗚咽を堪えることもなく、幼子のように泣き叫んだ。
そして、私は……。
領主が住む家を眺める。
外にいても分かるほど家の中から騒がしい音が聞こえる。ただ私はそれを気にも留めず両手を組み、うつろな瞳のまま一心に強い念を送った。
しばらくして静かになったことを確認した私は重たい門をこじ開けて中に入る。
家の中には何人もの人が倒れていた。
その横をただ通り過ぎて領主の居場所を探す。片っ端から部屋を開けていくと、とうとう領主の姿を見つけた。
一番苦しむようにした。
両手で喉を押さえ泡を吹いて倒れている領主を見ても何故か心は晴れない。
魔女は私だった。
狩られるべき存在は私だったのに。
愚かな人間たちは魔女を女だと決めつけ、挙句の果てに善良な市民を魔女に仕立てた。
師匠にも最期まで言えなかった。
涙が止まらない。
憎んでも憎んでもまだ足りない。
領主の顔を靴で踏みつけた私はバランスを崩して、その場に倒れこんだ。この男と一緒というのは癪だが、このまま床に溶けこむように存在ごと消えてしまえたら……。
もはや生きる意味もない。そう思うのに思い出すのは「生きろ」と言った師匠の顔。
魔女じゃないはずのに。
本当の魔法のようにその言葉が私を縛っている。
読んで頂いてありがとうございました!