一話「バカじゃないの?フィモが早く起きないからじゃん」
『お前は──を──男に──んだ』
『お前が、──の───だ、フィモ』
「フィモッ」
「フィモ」
「フィモ!!!」
「なんだよもー、まだ朝じゃないか!」
「何言ってんの?もう朝。朝の最後の鐘も鳴っちゃうよ?」
「なんで早く起こしてくれないの姉さん!」
「バカじゃないの?フィモが早く起きないからじゃん。ほら、早く起きて!」
僕の朝はいつも姉さんのどぎつい声で始まる。これが毎日、毎月、毎年──ただし休日を除く。と続くのだから、もし姉さんが起こす人が僕じゃなかったら、起こされる人はたまったもんじゃない。
僕は姉さんに不平不満を垂らしながら寝床から体を引き剥がし、朝ごはんを食べるために、足を引きずりながら食卓に向かい、椅子に座る。
今日の朝食は、パンとスープだ。正確には今日の朝食もだ。パンは相も変わらず硬いしおいしくない。スープはそれなりにおいしい。けど、正直飽きた。
はあ〜。姉さんと一緒に暮らすようになってから朝ごはんはずっとこんな具合。いつになったらあの生活に戻れるんだろう。
「味わってる暇なんかないでしょ?はやくごはん胃の中に入れなさい!」
「わかったよ」
僕はさっさとパンを飲み込みスープを自分の腹に流し込んだ。
***
「これから授業を始めます」
号令が始まってしまう!号令が終わるまでに教室につけば遅刻扱いにはならないはずだ!
そんな思いを抱えながら走った廊下。着いた頃には先生に仁王立ちで待ち構えられ、ゲンコツの一発を頭に見舞われた。
教室から漏れ出す授業の内容を聞き流しながら、大雑把に、かつ誠実に掃除を行う。なぜかって、あまりにも大雑把だと先生から罰をまた受けることになるし、真面目にやると疲れちゃうから。
案外、時が流れるのは早いものだ。もう一時間目が終わり、休み時間に入った。
僕はすまし顔で教室に入ると、先生は半分呆れた顔で
「頑張りましたね。いつになったら遅刻はなくなるのでしょうか?」
と、ため息も混じった声で言う。後ろには指さしてコソコソと笑っている人たちがいる。
いつものごとく愛想笑いをし、先生の前を通る。
僕は僕の席につき、二時間目の授業である"魔法学"の準備をすると、ふとなにかに気づいてしかった。
「教科書ない!?!?」
僕は教科書を忘れてしまった。最悪だ。それだけだったら良かったものの、学校に持ってくる物を全部忘れた。しかも、よりにもよって今日だ。
今日の授業だけは、点数を落としてはいけなかった。
なぜなら、今日の授業は大きく成績に残ってしまう。ただでさえ落ちぶれそうな僕がここで成績を落としてしまうと確実に姉さんから殺されかねない。
たった一つの忘れ物で人生が決まってしまうなんて、うんざりだ。
「フィモくん。今日の魔法学は実習です」
眼鏡をかけた妙に背丈の高い、痩せこけた男の子が僕に声をかけてきた。
「明日が大切な授業です。命拾いしましたね、フィモくん」
「ほんと?命拾いした。ありがとうセド」
「安心するのまだ早いですよ」
セドはメガネをクイッとかけ直した。
***
「いつんなったら実習場につくんだ〜?」
「都市部のヤツらは鉄の塊?で楽して移動してるらしいぜ」
「すっげえ、なんだよそれ」
「なんか車っつーらしい」
「おお!?」
「みなさん、実習場につきました。移動も授業ですからね?静かにしてください」
「はーい」
生徒たちは先生のところへ集まってくる。ああ、実習もできないんだった。木陰に隠れ空気を消そうとするが、見つかった。
「フィモ、また逃げちゃって!」
「カナ、ほっとけよ。僕はここで大人しくするから」
「だーめ。私が教えてあげるから、ここで落としたらもったいないでしょ?」
駄々こねるも、幼なじみのカナに僕のほっぺたを強くつねられ、無理やり引きづられてしまった。
「もう、なんでそこまで僕にかまうんだ」
「あなたを心配してる。それだけ」
「聞こえなかったな〜?」
「なんでもないわ」
「本当に?」
僕がカナのことをからかっていると気づいたカナは、ひどく顔を赤くし、「ばか!」と言って引きずり方が雑になった。
辺りを見回すと大草原。その遠くには僕らの村が見える。
太陽から差してくる光は僕らを温かく包んでくる。思わずあくびをしてしまいそうで、大地に身を預けて眠ってしまいそうで。その儚い幸せを消すように、春の風が強く吹いてくる。
その時、大きな地響きが起きる。周りも思わずその場から転んでしまい、暫くは体を起こすことはできなかった。
踏ん張って身を起こす。目の前の風景、景色は、現実のものとはあまり思えなかった。
恐ろしく大きな竜が、大地を踏み締めていた。
天元突破グレンラガン大好き!