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第9話 指導者ゆえの無法ファイト

「は、早く起きなさい……うっ!?」


 キンツェムの動きを気にしつつ審判に声をかけていたセリーナ。無警戒の背後から忍び寄る影に気がついたときにはもう遅かった。



「ぐえっ!!ぐ…………」


「ははは――――――っ!!」


 素早くザルカヴァが乱入し、セリーナの首を絞めていた。鞭を巻きつけて力いっぱいに自由と酸素を奪う。



「ぐ………ゲゴッ」


 セリーナの意識が朦朧とし、地面に膝をついたところでザルカヴァは鞭攻撃をやめた。すぐにエリアから脱出すると、ちょうど審判が起き上がろうとしているところだった。


「むむ……まさかこの私が巻き込まれるとは……」


「審判!」


 セリーナが倒れ、キンツェムが押さえ込んでいる。審判はザルカヴァの介入を見ていない。



「………1!2!」


「お、おい!数えるな!」 「待て!」


 セリーナの仲間たちが騒ぐも、最初に審判の目を盗んで反則をしたのはセリーナのほうだ。審判の判定が絶対だというルールを認めたのは観客も同じであり、今更喚いても無意味だった。 



「……3!勝者、キンツェム!」


「…………」


「3対0、これにて終了!キンツェムの3人抜き、完勝にてこの対抗戦は終了とする!」


 キンツェムが右手を上げ、ザルカヴァとポリーもエリアに入って皆で勝利を喜んだ。ところが、大勢の敵たちはこの終わり方に納得していなかった。



「ふざけんな!認められるか、こんな戦い!」


「この外道!邪道!非道!」


 暴徒と化して襲いかかりそうな勢いだ。激しい乱闘を回避するためにザルカヴァは幻惑の魔法で集団の視覚を霧で満たした。


「あのクズども……どこだっ!」


「見えないぞ!まだ遠くには……」


 混乱状態のなかをキンツェムたちは脱出し、決闘場を後にした。




「師匠……あんな連中、普通に戦っても勝てましたよね?なぜあんなやり方で?」


 高速押さえ込み、エリア外に誘い出して反則勝ち、ザルカヴァの介入……相手に最小限のダメージを与えるだけで勝つのが目的にしても、敵が完敗を認める正々堂々の戦いができたはずだった。


 ポリーの質問に答えたのはキンツェムではなくザルカヴァだった。キンツェムが何を思いこの戦いに臨んだかわかっていた。



「キンツェムは戦士や冒険者として戦ったわけじゃないからね。指導者という立場で試合をしたからだよ」


「……?指導者だったらなおさら真っ向勝負をしたほうが………」


「ここから先はキンツェムに話してもらったほうがポリーちゃんも納得するんじゃないかな?しっかり説明してあげなよ」


 まだ弟子入りして間もない。見るだけではキンツェムの行動の意味を理解するのは難しい。道場に帰ると、くつろぎながら解説の時間となった。



「やつの訓練所では基本をちゃんと教えていないようだからな。最初のやつは高等魔法を飛ばすだけの一発屋で、回避されたり効かない魔物と戦ったりなんてことになったら即死だ」


「確かに試合だったから押さえ込まれるだけでしたけど、敵との戦いだったら死んでますよね。師匠に接近されてからが脆すぎです」



「二番目は熱くなると失敗する、わかりやすい相手だった。堂々とエリアの中で待っていればよかったのに私を追って降りてくるなんて大失敗だ。力に自信があっても深追いは厳禁、冷静でいれば敵の誘いに乗らずにすむ」


「そうだねぇ。余裕で勝てる相手なのにつまらない罠や悪あがきで逆転負けするのも自信過剰や前のめりすぎる性格が原因になるしね」



 キンツェムが正攻法で戦って彼女たちを倒したとしても、敗因は純粋な実力差、それだけの話になってしまう。ダンジョンや魔物の群れとの戦いといった真の戦場に向かうには何が足りないか、どこを改善すべきか……それを教えないといけなかった。


「そして最後にセリーナ、あいつにも伝えたいことがあってあんな試合内容になった。先の2人もそうだが、この敗北から学んで一からやり直すのか、私への怒りや嫌悪を抱くだけで何もしないのか……本人次第だ」


「あの女にも指導を?卑怯な手を使うやつは卑怯な手を使われても文句は言えないぞって?」


「自分の得意技や必勝の流れ、敵も似たようなことをしてくることがあるというのを覚えておかないといけない。まさか同じ手ではこないだろうという慢心は命取りになる……まあそこまで学ばないだろうがな」


 あの終わり方では500万イェンの話もなかったことになりそうだ。しかしキンツェムは彼女たちに教えたいことは伝えられたし、ザルカヴァとポリーはセリーナが惨めに負けるところを見られたのでそれでよしとした。






 それから数日、ポリーはキンツェムの厳しい訓練を休むことなく受けていた。そろそろ疲れがピークに達するだろうが、動きは日に日によくなっていった。ザルカヴァもポリーを認め、これまで以上に効果的な指導をしていた。


 いまはザルカヴァが教える時間で、キンツェムは他の訓練所の男と立ち話をしていた。


「……セリーナの訓練所だが、生徒の数がいきなり減ったらしいぞ。何かあったのかな」


「さあ………?わからないな」


「冒険者資格を手に入れるためだけの訓練しかしていないから、いざ冒険者になってから通用しないのがバレたのかもな。俺たちには関係ないがあいつのことだ、お前でその憂さを晴らそうとするかもしれん。気をつけろよ」



 例の試合のことは世に広まっていない。一方的な大敗北、セリーナたちは沈黙を貫くに決まっている。しかし生徒が減ったということは、ナメきっていた相手に負けたせいでセリーナの求心力が落ちたのだろう。


(逆恨みで襲ってくる可能性もあるな)


 ザルカヴァとポリーの訓練中もキンツェムは外を見張り、セリーナの刺客がやってこないか注意していた。



「そろそろ夕方……何もなかったか…………ん?」


 キンツェムは身構えた。なんとセリーナ自ら道場に向かって近づいてくる。ザルカヴァたちを巻き込む前に、キンツェムは先に動いてセリーナのもとに向かった。



「……こんなところで会うとはな」


「キンツェム!ちょうどあんたの道場に行くところだったわ。上がらせてもらえないかしら」


 大荷物を収納できる魔法の箱をセリーナは持っていた。大量の武器が入っているのかもしれない。道場を破壊し、キンツェムたちに危害を加えるために。


「そいつに何が入っているのかを見せてもらってからにしよう」


「………あまり外で堂々と見せたくないけど……周りに誰もいないならいいか。魔法を解除して………ほら、見なさい」


「………………おおっ!?」



 キンツェムは箱の中身を見ると驚きのあまり声をあげた。大きな金貨がたくさん詰まっていた。


「まさかこれは………!」


「約束の500万、確かに持ってきたわ」

 筋肉質なドラゴンを出そうとして結局ストックしてある最終話まで出せずに終わりました。飛龍として数々の技を披露し、弱点はコンニャクというところまでは考えていたのですが……。あの悪魔仮面も絶賛する名曲『マッチョドラゴン』を聞いたことがある方は高評価&ブックマークをお願いします。

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