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第29話 勇者パーティ対魔王軍

『全く予想外の展開となりました!トレヴの優勝で大会は幕を下ろしましたが、仲間のジェンティルが実は魔王軍のスパイ!しかもその魔王が勇者パーティとの『試合』を我々に見せようというのです!』


 魔王城の様子が映し出され、この場にいる皆がその様子を見ることができる。キンツェムを追放した勇者たちは有名で人気があったので、彼らの勝利に期待が高まった。



「ブリランテは……そうか、傷は浅いか。よかった。ザルカヴァ、キミがすぐに回復魔法を唱えてくれて助かった、礼を言う」


「毒や魔力が残る心配もなさそうだからとりあえずは一安心だよ。でもこの状況は全然心が休まらないけどねぇ」


 すぐに第一試合が始まった。勇者側は初戦ということで、魔法も剣技も体術もこなせる万能型戦士をリングに上げた。


「いきなり知らないやつだな……私が抜けた後にパーティに入ったのか」


 対する魔王軍は幹部の一人で、全身を鎧で覆っている。中身は人型なのか魔物なのか、もしくはゾンビや機械兵士なのか……それすらわからないが、鎧には『ファイナル・ウェポン』と書かれていた。


「おいおい、1人目から『最終兵器』かよ。これじゃあ魔王軍もたかが知れてるな」


 キンツェムは元仲間たちのその後に興味はなく、情報を追うこともなかった。それでも自分の代わりに入った男が相当の実力者だというのはひと目見ただけでわかった。



「もしここであいつらが魔王を倒したらお前たちの旅はなくなるな」


「それならそれでいい。むしろそうであってくれと望んでいるほどだ」


 勝ち抜き戦ではなく、勝数が多い側の勝利となるようだ。リングでの試合、しかも審判がいるので普通の戦いよりも安全で平和的だと人々は弛緩していた。それが大きな勘違いだったことをこの初戦から思い知ることになる。




「グハッ………グヘッ」


「フンッ、フンッ!フンッ!!」


 ファイナル・ウェポンによるパンチで男の顔が変形している。鼻や頬が砕けているというのに構わず強烈な打撃が打ち込まれていく。


「なんという残虐性……それに攻撃力の高さ!」


「しかもあの鎧のせいなのか、もともと強靭な肉体を持っているのか、防御も隙がない!」


 派手な大技の数々もファイナル・ウェポンには効かなかった。そうなると身体能力の差で一方的な試合になるのは当然だった。



「あ、危ないっ!!背後から羽交い締めだ!腕や首が………」


「フルネルソンだ!私がいた世界で使われていた技だ!でもあれで試合が終わるなんてことはあまりない………」


 ザルカヴァはハッとした。ザルカヴァの世界での『プロレス』と呼ばれる格闘技や、この世界で以前まで楽しまれていたこの形式の戦いは『試合の筋』や流れが事前に話し合われていて、試合の勝者すら決まっている。真剣勝負ではなく互いの肉体や技を披露する舞台なのだ。


 しかし新しい魔王は実力主義の世界を目指している。リング上で王国の兵士たちを半殺しにしたこともあるくらいだ。これまでは危険な技だと思っていなかったものでも、命の奪い合いでは殺人技となる。



「がぎが…………」


『あ――――――っ!!嫌な音が響きました!へし折られてしまいました―――――――――っ!!』


 本来ならもっと早く試合を止めるべきだった。鼻や目、耳から出してはならない液体を垂らしながら男は倒れた。



「ざ……残虐すぎる!なんてやつだ!」


「そして人を壊した直後だというのにもう焼肉を食べている!あれは牛肉か!?」


 試合が終わればすぐに食事。中身はどうやら人型、しかも若い女のように見えた。そして魔王軍が次に出してきた戦士は超大型の角が生えた怪物、見た目だけでパワーファイターなのは明らかだ。



「フン……あいつはあたしたちの中で一番弱かった。キンツェムとかいう地味な女よりはマシだったけど、ああなって当然のクズよ。次はあたしがいく」


「だ、大丈夫か?体格差が……」


「だからこそあたしの得意な相手じゃないの。敵が大きければ大きいほど、力任せであればあるほどあたしの魔術の餌食なんだから」


 魔法使いの女は自分の勝利を疑っていなかった。そして試合はすぐに決着を迎えた。




「ハハハ……オマエハ『島流シ』ダッ!!」


「ぐひゃっ!!」


『恐るべき怪力!抱えて回転しながら地面に叩きつけた――――――っ!!全身の骨が砕けたようです、起き上がれません!試合終了――――――っ!!』


 圧倒的なパワーと大きさの前には小細工など無力だった。これで勇者側は連敗となった。



「なんだなんだ、雑魚ばかりではないか……もう時間の無駄だ。残りはタッグマッチで早々に終わらせるとしよう。余とそこにいる『キング・ピン』で貴様らを処刑しよう」


 魔王は全身をローブで隠したままで、顔もわからない。一方でキング・ピンと呼ばれる幹部はキンツェムのような鋭い目つきで顔の整った女、その隣にはなんとジェンティルがいた。


「そうか、王国の連中にはジェンティルと名乗っていたか。こいつの真の名前は『B・P』。お前らクズ共には一生縁のないイイ女だ」


 キング・ピンが勇者たちを、そして王国でこの様子を見ている者たちを煽る。


「何がイイ女だ!そんなヤツよりワタシのシーナのほうがよほど美人だぞっ!」


「そうだそうだ!その厚化粧の下はどうなっていることやら!師匠は化粧や香水なんてつけなくてもこんなに美人なんだぞっ!」


 くだらないことで張り合っている場合かと皆の冷たい視線を受けても、トレヴとポリーが収まる様子はなかった。



「キンツェム、あいつらがパーティの中心なんでしょ?ここまでの2人よりは強いよね?」


「ああ。目立ちたがりで金や名声を追い求めすぎるのが難だがな。しかし実際にあの勇者にはカネの雨を降らせるほどのカリスマがあり、もう1人、剣と拳を極めたバトルマスターの彼には人を魅了する力がある。愛してまーすと叫べば何人も女がついてくるほどにはな……」


 この2人で勝てないのなら魔王討伐などできる人間はいないかもしれないとキンツェムが思うほどだ。世界の命運を決めるタッグマッチが始まった。

 この物語は実在のレスラー、団体、連合帝国とはあまり関係ありません。

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