第27話 トレヴとシーナ
キンツェムとトレヴが共に倒れている。なんとかトレヴに先に立ってもらい、もう一度必殺技を決めてほしいという観客たちは必死に声援や手拍子を送る。しかしそれを嘲笑うかのようにキンツェムが用意した第三の乱入者が現れた。
「…………」
『誰かが来たぞ!あれは………昨日までキンツェムとタッグを組んでいたポリーです!武器は持っていないようですが………』
ゆっくりと歩いてリングにやってきた。これまでの流れからして、ただ激励するために出てきたわけではないはずだ。
「これがこの国に伝わる伝説の剣……よし、これにしようかな!」
『あ――――――っと、それだけはいけません!勇者の中でも特に選ばれし者しか扱えず、それ以外の人間は拒否するという剣をポリーが持ち、そしてリングに入ってしまいました!』
剣の刃の部分は鞘に覆われたままだ。覆った状態であればポリーがこんな使い方をしようが拒まれることはないようだ。斬れなくても叩けばいい。
「これで終わりだ!でやあっ!!」
トレヴの頭を破壊した……はずだった。しかし剣を思いっきり振り抜かれたのにトレヴは無傷、ポリーのほうが手を痛めて剣を落としてしまった。
「ぐうぅっ………あれ?痛くない……?」
「あだだ………」
『どうしたことでしょう!トレヴは兜を被っていたわけではありません、しかしノーダメージた!ポリーの剣の振り方は確かに素人そのものでしたがこんなことにはならないはずです!』
トレヴが異常な石頭だったから、そんなはずはなかった。ただ、体の一部を一瞬だけどんな攻撃からも守れるほどの防御力を与える魔法の使い手がいた。
「あ、あなたは………っ!」
『シ、シーナだ!今日はここに来ないものと思われていたパートナーのシーナ、やはりトレヴを助けに現れた――――――っ!!』
「……………!」
この会場で誰よりもシーナの登場に驚いていたのはトレヴだった。キンツェムとポリーはシーナを呼ぶために動いていたようなものだが、トレヴはすでにシーナが自分から遠く離れたと考えていた。
「どうしてここに………」
「トレヴ様、あなたに献身し仕えるのが私に与えられた役目。その危機を救えなければ私の存在価値などありません」
「し、しかしワタシはキミを酷く扱い、足手まといの役立たずのように言ったのに……」
「ふふっ、それはあなたの優しさでしょう。幼いときから共に修行し、あなたは勇者として、そして私はあなたのためにこの命を捧げる者として育てられました。私を冒険の旅で死なせたくないからわざと幻滅させてパーティから抜けるようにしたのでしょう?」
シーナはトレヴを守り、支え、時には代わりに犠牲になるために訓練を受けた。回復や能力を高める魔法は全てトレヴが優先、自分が瀕死の重傷でもトレヴのかすり傷を先に癒やすようにと教えられていた。
そんなシーナと長い間同じ時を過ごしたトレヴは、このまま旅に出ればどこかで自分のためにシーナは命を落とすと思うようになった。だからこの大会で損な役割を押しつけ、自分が称賛されることしか考えていない愚か者を演じた。周りの人間が見ても「これはシーナがトレヴのもとを去っても当然だ」と思えるようにするために。
「シ、シーナ!ワタシは………」
「話は試合が終わってからです!これで乱入者は全員排除、あとはトレヴ様が勝つだけです!」
ポリーをしっかりと捕まえてシーナはリングを降り、そのまま見えなくなっていく。それと同時に審判も復帰し、試合は最初の状態に戻った。
『さあ、再びリング中央で両者の激しい攻防!小細工なしの真っ向勝負、なかなか決定打が出ません!』
「……全てキミたちのシナリオ通りだったのか?ワタシに仲間の大切さと戦いにおいて重要なことを学ばせるために!」
「何のことだ?」
「普通に戦えばキミはワタシなんか簡単に倒せた……こうして組み合ってはっきりした。それなのにあんな邪道の限りを尽くし、皆から嫌われることになっても…………」
前日から数えれば2試合も戦い、とうとうトレヴもキンツェムの狙いに気がついた。卑怯な手の数々はなりふり構わず勝利を掴むためではなく、この先に控える過酷な旅にトレヴを備えさせるための訓練だった。
「いや、案外思い通りにいかなかった。お前の技が予想以上に強力で私はしばらく動けず、ザルカヴァが機転を利かせていなければあれで終わりだった。それにシーナが助けに来たのも全て彼女が決めたことだ。事前に打ち合わせていたわけじゃない」
本来ならもう少ししてから審判をうまく技に巻き込み、そこでザルカヴァとラフィアンを乱入させる予定だった。もしシーナがいつまで待っても現れなければポリーの攻撃でトレヴを倒し、そのまま3カウントを奪うしかなかった。
「人々のため、国のため、世界のためとお前は言うが……戦う理由なんかもっと狭く小さなものでいいのでは?」
「………」
「数百年に一度現れるような英雄なら世界を救うと決めたらやってのけてしまうのかもしれないが、私たち程度だったら1人か2人……頑張っても3人くらいまでかもしれないな」
そう語るキンツェムは、それを実体験で味わい知っていた。かつて生還が絶望的なダンジョンの奥深くで迷ったとき、忠告を聞かない愚かな仲間たちは諦め、頼れる相棒ラフィアンと2人だけでも助かろうと決めたら気が楽になり、結局全員生きて地上に戻ることができた。
戦闘中に1人で孤立したときは、またザルカヴァと街でうまい酒を飲むんだと思い死の危機を脱した。そしていま、愛弟子ポリーの成長のために国を追放されるかもしれないほど危険な戦い方をしている。もちろんトレヴのためでもある。
「………ほんとうはワタシの戦う理由もシンプルなものだ。彼女が平和に暮らせるため、その笑顔を守るために………」
「よし………よくその答えにたどり着いた…な!」
キンツェムは相手の隙を見逃さず首元目がけて腕を振った。昨日勝利を決めた一撃だったが、今日は試合を通して油断禁物、警戒を怠るなと学んだトレヴがそれを防いだ。
『と、止めた!キンツェムの右腕を両手で止めたトレヴ!再びその体が光り始めるっ!』
「時間を置いて魔力が回復した!この勝機、必ずモノにする!応援してくれる人々や仲間たち……いや、幼い日から苦楽を共にして修行に励んだワタシの愛するシーナのためにっ!!」
キンツェムの体が高く宙に浮き、回転する。トレヴもジャンプしてキンツェムの腕と足を押さえ込み、猛スピードで地面に落下していった。
「これで決着だ――――――っ!!『ファイナルスター・デスティーノ』ッ!!」
背中からリングに叩きつけられ、キンツェムは倒れた。技をかけたトレヴにもものすごい衝撃が走ったが、最後の力を使ってキンツェムの上に覆い被さった。
「し………審判っ!カウントを!」
「あ、ああ!ワン…ツー………スリー!」
30分を超える試合がついに終わった。決着を知らせる鐘の音が響くと、会場は大きな歓声と拍手に包まれた。
HOUSE OF TORTURE対フェロモンズの試合が見てみたいです。真の拷問(肛門)はどちらか、はっきりさせてほしいです。




