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第24話 優勝決定戦

『それでは本日の大一番を戦う2人の入場です!本来ならタッグ形式で行われるはずでしたが、キンツェム組の無法ぶりに怒ったトレヴ王子が1対1に変更するように要求、キンツェムもそれを受けました!』


 完全決着のためだと言い、パートナーとして献身的に働いてきたシーナを足手まとい呼ばわりしたトレヴ。1人で入場してきた。



『青いコーナー側から入ってきたのはこの王国が誇る第3王子トレヴ!おおっと!勇者の中の勇者に与えると言われていた伝説の武具を身に着けて登場です!』


 城の宝物庫で厳重に守られていた伝説の装備。敵の物理攻撃も魔法も防ぐ鎧と盾、頭部へのかすり傷すら許さない兜、古代に魔王を打ち倒したと言われる剣をトレヴは持ち出していた。


「卑劣で悪辣な愚者を懲らしめる。ワタシは勇者として彼女たちを見過ごすことはできない!」


 ただの冒険者ではなくトレヴは勇者として選ばれた存在だ。悪人を懲らしめるのも勇者の仕事と闘志を燃やしていた。



『もともと人気のあるトレヴには大歓声!そしてこちらにはそれを上回る罵声が浴びせられています!』


 赤コーナーに向かうのは前日の勝者キンツェム。しかしその勝ち方がひどかった。反則行為の限りを尽くし、完全なる悪役となっていた。


『これは1対1の戦いのはずです!しかしキンツェムの前を当然のようにザルカヴァが歩いています!』


「ハハハ……すごいブーイング。私はセコンドだよ。付き添うだけだから」


 ラフィアンとポリーの姿はない。しかしザルカヴァがまたどんな手を使ってキンツェムを助けるかわからない。審判も警戒していた。



「………キミたちはワタシを本気にさせてしまった。この試合は時間無制限……たっぷりと反省させてあげるよ」


「そうか、楽しみにしている。しかし試合が終わったとき反省することになるのはお前のほうだ、覚えておけ」


「なるほど、キンツェム!キミがワタシをナメているのはよくわかった。しかしキミはワタシより格下の勇者パーティーを追い出されるほどの実力しかない……だから卑怯な手を使わないと勝てないんだ。いいだろう、やりたい放題やればいい。ワタシはその企み全てを粉砕する」



 トレヴは試合で使用が禁じられている剣を置くだけでなく、鎧と盾、ついには兜も外してしまった。


「……せっかくわざわざ引っ張り出してきたのに脱ぐのか?」


「これは勇者としてキミを倒すための決意を示すためのもの。防具の力で勝ったと思われたら困るから戦いでは使わない」


「ふむ……相手をナメているのは私ではなくお前のようだ。まあいい、時間制限がなくてやりやすいのは私も同じだ」



 試合開始ぎりぎりになってもザルカヴァはキンツェムの横に立っていた。審判に注意されてようやくリング下に降りたが、そのヘラヘラした顔はまたどこかで介入してやると言っているかのようだった。


「キンツェム!頑張って!」


「ああ………どんな手を使っても目的を果たす」


 キンツェムの目的とは大会の優勝のことだと誰もが思う。しかしキンツェムは最初からこの舞台をポリー、そしてトレヴを教育し育成する場だと考えている。依頼の報酬や勝利による名声と勲章など興味がなかった。



「………いよいよ決勝戦!師匠の戦いぶり、じっくりと目に焼きつけます!」


「ああ、ちゃんと見ておきな。でも夢中になりすぎて仕事のタイミングを逃すなよ?」


 ポリーとラフィアンは会場のどこかに潜んでいる。キンツェムの頼みを聞き、ふさわしい時にいつでも動き出せるようにしていた。




「………始めっ!!」


 いよいよ試合が始まった。会場のほぼ全員がトレヴの勝利を願っている。


「トレヴ!トレヴ!トレヴ!トレヴ!」


 トレヴの名を皆が叫び続けるなか、キンツェムとトレヴは互いに相手の様子を窺いながら慎重な出だしだ。



「お前のことだから開始早々に大技を放ってくるものだろうと思っていたが……」


「さっきも言っただろう、この戦いに時間切れ引き分けはない。じっくり確実にキミを倒してやる。キミがどれくらいの身体能力を持ち、どんな技が得意なのかを観察しないとね」


「………なるほど」


 キンツェムにとってこれはいいことだった。これまで相手の強さを確かめながら体力を削るのはシーナに任せっきりで、自分は登場した途端に星の魔法で一気に勝負を決めるだけだったトレヴが基本を大事にしている。


(冒険者として生き残るにはできて当たり前ではあるが……まずは順調か)


 魔物の群れとの戦闘でいきなり必殺技を決めて勝つ。派手で爽快、しかも速いので最近流行りの戦い方だった。しかしその攻撃を無効にする敵がいると無抵抗のまま反撃され、死ぬ。自分の得意技や魔法が効かない相手にも戦えるようにするためには基礎能力を鍛えること、そして相手をよく観察することだ。



「……ハハハ、焦ることはない。ワタシのほうが底力は上だ。幼い日から城で毎日のように訓練したワタシに体力や気力で勝てると思わないほうがいいよ!」


「むっ!確かに隙のない動きだ」


 果敢に、しかし深追いせずトレヴはキンツェムを攻める。足への蹴りや脇腹へパンチの連打で細かくダメージを刻み、チャンスと思えばキンツェムの肩を外してやろうと関節への攻撃も狙っていた。



『これまでは派手な星の魔法のイメージしかなかったトレヴですが、今日は技巧派としての一面を見せます!』


「惜しいな……お前の大切な相棒シーナがいれば攻撃力や防御力、それに素早さなんかも魔法で強化してもらえただろうに。この展開ならかなり有利になった」


「……フン、余計なお世話だ。この勝負にシーナはいらない!それにワタシの引き立て役なら他にいくらでもいる。大会が終わったら代わりの仲間を募ろうと思っていたところさ!」


 あんな形で一方的にタッグ解消を言いつけられたシーナは昨日の夜から姿を消していた。トレヴを見限ってどこか別の地へ去ってしまったのかもしれない。



「何が正しいか……私がいまあれこれ言ってもお前は聞く耳を持たないだろう」


「…………」


「だから戦いながらその身で学ぶがいい!いくぞ、ザルカヴァ!」


 激しい肉弾戦の途中でキンツェムがザルカヴァを呼んだ。するとリングの下で控えていたザルカヴァがロープを跨いで中に入ろうとした。その手には昨日トレヴの首を絞め上げた鞭があった。



「何をやってる!早く外に出ろ!」


「いや、キンツェムを助けないと………」


 もちろん審判がいるので昨日のような介入はできない。しかしその注意を逸らすのが目的で、戦っている2人から審判は離れた。



「………がっ!?」


『これは汚い!審判がザルカヴァを追い出そうとしている隙を見逃さずにキンツェムが反則攻撃の目潰し!トレヴは悶絶しています!』


「真っ向勝負、力比べ……魔族や悪人どもはそんなものに興味がない。やつらは勝てばいいと思っているのだから、一瞬の油断から思わぬ攻撃で崩されると知れ!タァッ!」



 倒れるトレヴに容赦なく踏みつけ攻撃。早くも観客たちは怒りに満たされた。


「早く失格にしろ!いや、殺せ!」


 早くも試合は大荒れ確実となった。

 東郷だの外道だのがセコンドにいて、介入するのが確定的なときは相手もセコンドを用意すればいいと思うのですが……。かといって東郷外道クラスの大物を連れてきてしまうと、リング内よりリング外が盛り上がるので難しいところです。

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