第23話 帝国入りする者たち
決勝戦はまさかの一騎討ち、キンツェム対トレヴに決まった。キンツェムとの完全決着のためにトレヴが強引に変更し、観客の雰囲気もそれを後押しして決定したのだが、試合後にキンツェムたちは会場を訪れていたブレーヴに呼び出された。
「約束はどうした!?全勝優勝させるのが条件だったはずだ!しかもあんな試合を………もういい、今回の話はなかったことにする!」
仕事の契約破棄を宣言した。キンツェムたちが当初の打ち合わせとまるで違うことをやらかしたのだから当然の怒りだった。しかしキンツェムは平然としていた。
「フフフ……兄妹揃って一方的に事を決めるのが好きらしい。さすがは王族、傲慢だな」
「あいつのはただのわがままだ、しかし私は違う!お前たちなんかに任せていたらあいつの自信が粉々に砕かれてしまう!旅立ちをやめるなんて言い出したらどうするつもりだ!?」
「それならそれでいいんじゃない?新しい魔王はこれまでと違ってとても暴力的で容赦がないんでしょ?そんな魔王の手下と戦うとなると、さっきキンツェムが言ったけどこんなものじゃすまないよ」
この程度の反則攻撃に手も足も出ずでは凶暴化した魔族相手に勝てるはずがない。キンツェムはトレヴの育成もしたいと思い今回の大会に参加したのだから、課題がある以上厳しくいくのは当たり前だった。
「くっ………確かにそうだ。あれだけ派手に暴れていたがお前たちはやりすぎないように手加減していた。しかしそうなるとあいつに冒険の旅など危険すぎる気がしてきたな」
「いや、悲観することはない。あの星の魔法、それに基礎能力はいいものを持っている。大事なことをあといくつか学べば超一流の冒険者として名前を残せるほどになれる」
まだ若いトレヴには伸びしろがある。精神面での成長があれば爆発的に進化するとキンツェムは見ていた。明日の試合でトレヴに足りないものを教え込み、彼女が自分でそれに気がつき改善できれば安心して出発させられる。
「………よし、わかった。それなら明日もお前たちに任せるとしよう。父や城の連中の怒りは私がどうにか抑えておく。試合の内容や結果がどうなっても、それが真にあいつのためになるものであれば報酬も払おう」
キンツェムたちが捕らえられたり追放されたりすることはないとブレーヴは誓いを立てた。周りの人々から白い目で見られながらも、4人は無事に道場に帰ることができた。
「過激なトレヴの支持者や国王の使いが襲ってくるかと思ったが何もなくてよかったな」
「そうですね……でも心配なのはシーナさんですね。あんなに頑張ったのに………」
トレヴが目立つためにやられ役を演じてきたのに、頼りにならないだの足手まといだのと言われ戦力外だ。シーナのおかげでトレヴが華々しく活躍できたというのに、あまりにも屈辱的な仕打ちだった。
「………まあそのあたりも周りが指摘するよりも本人が自分でわからないことには……」
「その前にシーナがトレヴを見限らなければいいけどねぇ」
実力があるのに正当な評価をされず不遇な扱いを受けている者たちが我慢するのをやめ、爆発するという事態が人の住む各地で報告されていた。そして彼らは例外なく魔王の帝国の一員となる。
そもそも新しい魔王もその考えのもとに逆襲と侵略を開始していたのだからそれも必然だった。魔族や自らを支持する者たちが本来の地位、『支配者』となるために。
ある王国では長年民のために己を犠牲にする王がいた。寝る間を惜しみ、時には私財を投じて飢えや貧しさを取り除き、国の腐敗を一掃し、誰もが幸福に暮らせる地を作ろうと駆け回っていた。
ところがそれをよしとしない貴族たちや権力を手にしようとする輩が手を組み、あっという間に罪を捏造して王を捕らえた。国民もすっかり信じ切ってしまい、愛されていた王の死を皆が願うまでになった。
(ククク……この王は何の抵抗も弁明もせずに死を選ぶさ。自分が死ぬことで民が一つになるのならそれでいいという男だからな)
敵たちの思い通りに事は進み、処刑の日となった。王は手を後ろで縛られ、首を斬られるのを待つばかりとなった。鐘が十回鳴ったとき、王の命は終わる。
「王よ、何か言い残すことはあるか?」
「いや………これも運命、受け入れよう」
鐘が鳴り始めても王は全く動じず、その瞬間を待っているだけに見えた。ところが残り僅かというところで目と口を大きく開けると、
「嘘じゃ―――――――――っ!!」
叫び声と共に鎖を引きちぎり、近くにいた兵士や処刑人たちに攻撃を仕掛けていった。するとそこに魔王軍が現れ、次々と処刑の首謀者たちを打ち倒し、人々を捕らえた。
「ほう……さすがは戦いの腕もある『大国王』の名を持つ男、見事なスタナーじゃ……しかしいいのか?お前の民を全て帝国民としても」
「構いやしね―――っ!!俺があんなに身を削って国のために働いたのに簡単に騙されるようなバカどもなんか知らね―――っ!!特にムカつくあの貴族たちの家は1軒残らず燃やせ!殺し尽くせ!ファイヤ――――――ッ!!」
その日、1つの国が魔王の帝国の一部になった。これほど大きな事件ではなくても、魔王の側についた人間による被害は増え続けていた。
「えっ?オレが追放だって?」
「そうだ!テイマーなんて使えないやつをこれ以上置いておく理由なんかない!早く出ていけ!」
「なるほど………じゃあこいつが置土産だ!」
それまで大人しかったテイマーの男は豹変し、パーティーのリーダーである勇者を抱き抱えてから逆さにして、そのまま尻餅をつくように地面に降下することで頭部を叩きつけた。
「ゲェ――――――ッ!!脳天杭打ち!!」
「こいつの魔物たちも暴れだしたぞ―――っ!!」
荷物運びなどの雑用ばかりだったテイマーの使役する数匹の魔物たちがパーティーメンバーたちに襲いかかる。彼らも我慢に我慢を重ね、とうとう爪や牙をむき出しにした。
「素晴らしい!まるで軍だな、貴様らは。その怨念に満ちた目、愛を捨てた顔にならず者の風貌……1匹1匹が楽しみな奴らだ」
魔王も絶賛する、テイマーの男の『軍』。魔王のもとで秘められた力が開放された。純粋で皆の指示に忠実だった男は、世界一性格の悪い男に生まれ変わった。
「やめろ!やめてくれっ!こ、婚約破棄は取り消す!婚約やめるのをやめたっ!」
「もう遅いですわ!死ね――――――っ!!」
目を保護する道具をつけ終わると、3階から令嬢が飛び降りる。金目当ての女に心を奪われたどうしようもない王子は、縛りつけられていたテーブルもろとも破壊された。そして逃げようとした女はガラスの棒で顔面を振り抜かれたことで、二度と男を騙せなくなった。
人間たちですらそんな危険な敵だらけなのに、魔物や魔王軍の幹部が優しい善人で正々堂々と戦うなんてことがあるだろうか。トレヴを死なせないためにはキンツェムがしっかりと明日の決勝で指導し、レベルアップさせる必要があった。
国王→大社長 (三四郎スタナー)
テイマー→プロレス王
(ゴッチ式パイルドライバー)
令嬢→狂猿 (パールハーバースプラッシュ)




