第20話 鈍感キンツェム
「くらえっ!ワタシの必勝魔法!『スターダスト・デスティニー』!」
「………!」
キンツェムたちが決勝進出を決めた次の試合、トレヴ組も全勝で決勝行きとなった。いつも通りシーナに相手の攻撃を一通り受けさせておいてトレヴが登場、派手な技の数々で逆転という勝ち方だった。
『これにより明日は完全な消化試合となりました!しかし前哨戦という意味では見応えがあるかもしれません。決勝こそ逃したものの実力ある冒険者たちがどんな戦いを見せてくれるのかも注目です』
予選最終日、ザルカヴァとラフィアンはライト姉妹と対戦し、キンツェムとポリーはトレヴ組と最初の顔合わせとなる。
「第1王子ブレーヴの依頼だと、全勝優勝させた上でトレヴに戦いの厳しさを教えこめって話だった。できるのか、キンツェム?」
「そのことだが……ポリーだけじゃない。2人にも協力してもらう必要がある。あのトレヴは予想以上に鍛えがいがあり、指導者としての私の血が燃えている」
この大会に出場した目的はポリーの成長、そしてトレヴの成長のためだとキンツェムは語った。トレヴは派手な演出と豪快な魔法で皆の人気を集めているが、キンツェムが見れば教育できるところがたくさんある。
「今日の試合でポリーは私の想像を遥かに超える動きを披露してくれた。となるとあとはトレヴ……楽しみになってきた」
「……………」
それからキンツェムは3人に対し、トレヴに何が足りないか、そのためにどんな試合をするかを話した。もともと依頼を完璧に遂行する気はないと宣言していただけに、その計画はかなり危ないものだった。
「………以上だ。どうした、やはり大金を捨てるのは嫌か?それとも怖いのか?」
皆の反応が悪かったので、自分の考えとやり方は受け入れられないのかとキンツェムは疑問に思って尋ねてみた。もし3人の賛同が得られない場合はもう一度計画を練り直すしかない。試合は明日に迫っているので今晩のうちに決めておく必要があった。
ところが、3人の表情が険しい理由は全く別だった。大金を稼ぐチャンスを逃す、国を敵に回す……そんなことが原因ではなかった。
「師匠……師匠の弟子は私だけのはずです。縁も何もない王子に夢中だなんて困ります!」
「え?いや、勘違いするな。お前よりあいつのほうが大事になったわけでは……」
「当たり前ですっ!!師匠の唯一の弟子は私、パートナーも私なんですから!」
ポリーがここまで声を荒げたのは、キンツェムが自分を卒業させようとしていると思ったからだ。今日の試合後、キンツェムのもとに名門と呼ばれる大手の訓練所の人間が何人も近づいてきて、引き抜きに来ていた。
「どうです、私のところに移籍させませんか?こっちならあの素質をもっと開花できますし、キンツェムさんに紹介料も払いますから」
「いや、私の訓練所のほうが立派に育てられる。うちはあんたの言い値で彼女を引き取るよ」
超一流の冒険者が見習い時代を過ごし、卒業したという実績は、その訓練所にとっていい宣伝になる。ポリーを欲しがるトレーナーが日に日に増えていた。
もちろんキンツェムが金目当てにポリーを手放すはずがない。しかし大きな訓練所のほうがポリーにとっていい環境だと余計なことを考える可能性はある。自分は移籍しないと釘を差した形になった。
「オイオイ、確かにキンツェムの弟子はお前さん1人だよ。でもキンツェムのパートナー……戦いの場での最高の相棒はこの私だ。これだけ相性のいいペアはどこにもいない!」
全盛期はキンツェムと2人で多くの伝説を残したラフィアンが黙っていなかった。今回はパートナーの座を譲ったが、本来キンツェムの隣にいるのは自分だと主張した。
「戦場では確かにそっちのほうがキンツェムと組んだときの戦果は大きかったよ。でも日常……日々の生活のパートナーということならやっぱり私が一番じゃないかな」
ザルカヴァも引かない。ポリーは弟子、ラフィアンは戦いの仲間、しかしキンツェムと私生活を共にしてきた時間は自分が最も長いという事実を全面に出し、他の2人を牽制した。
「ま〜話は逸れたけど要するに……」
「私たちにもっと構えって話だよ」
育てがいのあるトレヴについて熱く語るキンツェムに3人は苛立ちを隠せなかった。3人のうち誰がキンツェムに一番ふさわしいかはひとまず置いておくとして、トレヴなんかに心を奪われたら困るのだ。
「………そうだな。私のために戦ってくれるお前たちへの感謝が足りなかった……すまない。この大会が終わったら4人でどこかに旅行に行くか」
「………」 「………はあ」 「まあいいんじゃない」
3人から向けられる重い感情に気がつかないキンツェムはやはり鈍かったが、何を言っても仕方がないのでこの場はひとまずこれで終わった。
「しかし明日は……どうなることやら」
「これまで積み上げてきたものがぜんぶぶち壊しだもんなぁ。逆に楽しみだ」
キンツェムがトレヴに注意を向けているのは、個人的な関心ではなく指導者としての魂が騒いでいるだけのこと。そう納得して皆はキンツェムの計画に改めて合意し、最大限の協力を惜しまないと決めた。
『続く試合はザルカヴァ・ラフィアン組とマリア・シンハ組の勝負です!共に2勝2敗、決勝進出はすでにありませんがはたしてどちらが勝ち越しを決めるか!』
観客たちの大半はザルカヴァ組の有利を予想した。強さの基礎がしっかりできていて、戦いの内容がいい。ライト姉妹は素質こそあるもののやはり経験不足、もう少し鍛えなければ冒険者としては厳しいだろうという見方が多かった。
「では両チームとも………あっ!?」
「オラ――――――――ッ!!」
なんと審判が開始を告げる前にザルカヴァとラフィアンは突進、奇襲攻撃を仕掛けた。
「あぐっ!?」 「ううっ………」
「あ、あ………試合開始っ!」
シンハをリング外に飛ばすと、残ったマリアを2人で踏みつける。観客が呆気にとられているなかで、攻撃は激しさを増した。
「ウワ――――――ッ」
『噛んでいる!ラフィアン、シンハの指に噛みついています!』
「ストップ!やめないか!」
『マリア、ロープに手が届いた!しかしザルカヴァは首への締めつけを緩めません!審判が止めようがお構いなしに攻撃続行!』
ルールを無視した反則行為が止まらない。審判も何度か注意したが聞く耳を持たず、2人の反則は勢いを増す一方だ。ついに試合そのものが止まった。
「終わりだ終わり!反則負けだ!」
『ここで審判が試合を終わらせました!一方的にライト姉妹を痛めつけたザルカヴァとラフィアンでしたが、ルールを守らず反則負けの判定です!昨日までとは豹変したザルカヴァたちの姿に観衆たちは凍りついています!』
ザルカヴァたちの拷問技の数々は人々を驚かせ、恐怖を与えた。しかしこれは続く試合の序章に過ぎなかった。
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そんななかで連合帝国は順調にメンバーを増やしています。しかし去年の半ばまではジュニア級の選手が全くいなかったので、ジュニアが余っている鈴木軍あたりから補充するものだと思っていました。Oカーンとアニメや漫画の話で意気投合するというストーリーでデスペラードが帝国入りするんじゃないかと予想していましたが、何もありませんでした。




