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第2話 魔術師ザルカヴァ

「お〜い、キンツェム!差し入れ持ってきたよ。どうせ掃除くらいしかやることないでしょ、昼間から一杯やろうよ」


 キンツェムの訓練所に女が入ってきた。彼女は酒と軽食を持っていて、ここを酒場代わりにするつもりだった。定職がなく、ふらふらしている彼女はキンツェムのもとによく遊びに来ていた。


「いない?珍しいな………ん?声がする」


 奥へ奥へと入っていく。すると、予想外の光景が目に入った。



「よし、そのリズムで左右100回!」


「はいっ!1、2、3………」


 いつも暇そうにしていたキンツェムが1人の少女を相手に訓練を施していた。足腰に力を入れながらパンチの構えを繰り返している。



「こりゃ珍しい、弟子がいるなんて。久々の仕事じゃないの?」


「ああ、ザルカヴァか。とりあえずそこに座っていてくれ」


 キンツェムよりは背が低く、長い黒髪。どこにでもいそうな外見をしているザルカヴァは、しばらくキンツェムがこちらに来ないと察すると、1人で酒を飲み始めた。


「その子どうしたの?他の訓練所に入れてもらえなかったか、素質がなくて破門になったポンコツが回ってきた?」


「いや……最初から私の弟子になるためにこの街に来たんだと。とりあえず今日から数日は体験入門ということにしてる。あと30!」


 

 体験入門ということもあって、ハードな訓練で知られるキンツェムもやや抑え気味だ。弟子というよりはまだお客様を相手にしている感じだった。


「いったん休みにしよう。どこか痛むところは?」


「大丈夫です!まだまだいけるくらいです!」


 少女は張り切っている。少し汗を流してはいるものの、息は切れていない。スタミナはありそうだ。



「久しぶりの練習だから疲れたのはキンツェムのほうなんじゃない?しかしこの街一番の不人気トレーナーに弟子入りしたい物好きがいるとはね……」


 ヘラヘラ笑いながらザルカヴァが酒を飲む。それに対し少女は不快感を隠さなかった。


「師匠、この人は何なんですか?家も職もない浮浪者が入り浸っていては評判が落ちます。叩き出しましょうか?」


「あはは!いきなり喧嘩を売るなんて、やっぱり面白い変人だね、このガキンチョは」

 


 出会ったばかりの2人がいきなり険悪になり、戸惑うのはキンツェムだ。すぐに2人の間に立つ。


「先に紹介したほうがよかったか。このザルカヴァは私の友人、いっしょに仕事をしたこともある」


「仕事……冒険の旅をしたということですか?」


「そうそう。裸で寝たこともあるよ」


 裸で寝た、そう聞いて少女が硬直した。その様子を酒のつまみにザルカヴァは再び飲み始めた。



「………変な意味はないからな。とても暑かったダンジョンの奥で仮眠をしたときの話で、しかも全裸だったわけじゃない」


「そ、そうだったんですか!よかった………」


「私は前衛として肉弾戦が得意なんだが、こいつは後方から魔法で支援するのがとても上手い。この国で一番かもしれないほどに」


 キンツェムとザルカヴァの相性は抜群だった。たった2人で何でもできてしまうほどの最強タッグで、呼吸も合っていた。



「こいつは天才だ。しかし私と同じで魔法が地味だから大手のパーティから声がかからない。それに実用性があって素晴らしい独自の魔法を生み出しているが、働く意欲が薄いときた。たまに稼いで気ままに暮らせるぶんの金があればいいというのがこいつの生き方だ」


「……ははっ、この世界に来てまで働き詰めは嫌だからね。前の人生の失敗は繰り返さないよ」


「この世界、前の人生………なるほど、あなたは転生者でしたか。遠い異世界からの」



 魔物も魔法も存在しない別の世界で生きていて、その記憶を持ったまま新たに人生を始めたのがザルカヴァだ。その世界での名前はサトー、両親が離婚すると子の名前も変わってしまうルールがそこではあったようで、その後はトーゴーとして暮らしていた。


「どっちの世界が上ってことはないよ。両方いいところと悪いところがある。だからむこうの便利なところだけ再現できる魔法の研究に励んでいるよ」


「水浴びする場所がなくても体を清潔にできる魔法、急に腹が痛くなったときに数時間限界を先延ばしにできる魔法、寝ているときに虫を近づけさせない魔法……かなり役に立っている」


「………た、確かにすごいですね」


 ザルカヴァもキンツェム同様、見栄えの悪い防具を身に纏い、派手さはなくても堅実な勝ち方を選んできた。実力はトップクラスの冒険者たちと比べてもかなり上位にいる。



「まあ私はそういう人間だよ。これから名を残そうとか大金持ちになろうだとかはこれっぽっちも考えてない。そして冒険者のなかで誰が最強かって聞かれたら答えは当然、キンツェムだ」


 勇者パーティを追い出されてキンツェムが始まりの街に帰ってきてからはザルカヴァも冒険者としての仕事をやめた。ほぼ毎日のようにキンツェムの訓練所を訪れては、夜になったら酒場で共に酔うまで飲む。キンツェムの相棒は自分だという自負があった。


「私は別に君のことに興味はないから、どういう人間でどうしてここに来たのかは言わなくていいよ。どうせ長くて3日で逃げるだろうし」


「………3日後も諦めなかったらどうしてくれますか?」


「いやいや、別に賭けがしたいわけじゃない。私の予想を言った、それだけだって。ただまあ……そんな根性があるなら君が冒険者になるための協力をしてもいいかな」



 結局ピリピリとした空気は変わらず、キンツェムは首を傾げるばかりだった。その後、少しだけ訓練のペースを上げたものの、少女は最後まで余裕を残してついてきた。


「お疲れ!今日はこれで終了だ。家はどこだ?それとも宿に泊まっているのか?」


 指導に熱中していて、少女がどこから来たかも聞かずにいた。家や宿まで送り届けることはしなくても、何かあったときのために場所は知っておいたほうがいい。キンツェムが尋ねると、少女にとっては意外な質問だったようで、キョトンとしていた。



「……私は今日からこちらでお世話になるつもりですが?住み込みで師匠のために働きます。それが弟子として当然の務めだと……」


「……………え?」


「料理、洗濯、掃除……それ以外の仕事も何でもやります。もし望まれるなら夜のお相手も………経験はありませんが頑張りますっ!」


 キンツェムはもちろん、ザルカヴァもこれには驚いた。どうしてここまでキンツェムを慕っているのか、やはり詳しく聞かないといけなくなった。

 巌鉄魁→SATO→東郷


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