第19話 同門対決
大会四日目、予選は明日も残っているが、今日にも決勝進出の2チームが決まる。トレヴ組は勝てば決定、そしてキンツェムとポリーも勝利すれば予選最終日を待たずに勝ち抜きだ。
「ついにザルカヴァさんとラフィアンさん……同じ道場の仲間同士の対決ですね」
「そう。ある意味気楽でもあるがな」
キンツェムたちが決勝に向かう必要があるのだから、ここはザルカヴァたちが勝利を譲る流れなのは話し合うまでもない。もし間違ってザルカヴァ組が勝ってしまうと、明日キンツェム組がトレヴ組に敗れたら2敗となる。星調整のためにザルカヴァたちが最終戦で当たるライト姉妹に負けたとしても2敗で並び、直接対決の結果でザルカヴァとラフィアンが決勝に行くことになってしまう。これは依頼の内容ともキンツェムの考えとも合わない。
「ほかのチームが間違って決勝に残る可能性はほとんどない。今日私たちが勝てばそれで終わりだ」
「そうですね!ザルカヴァさんたちも手加減してくれるでしょうし、緊張せずに試合ができそうです」
自分には説明されていなくても、キンツェムとザルカヴァの間で試合の流れはすでに話し合いがされているものだとポリーは考えていた。試合開始後しばらくは互角の戦いを披露して、そのうちキンツェムが優位に立ってそのまま3カウントを奪うだろう。真剣勝負だったこれまでの試合と比べて、ポリーは明らかに気が抜けていた。
「次は……ああ、道場が同じなのか……」
「じゃあこの試合は決まりだな。見る必要はないか。内容も薄いだろう」
観客たちもこれが好試合にはならないと読んでいた。ザルカヴァ組がキンツェム組を決勝に押し上げるために余計な抵抗をせずに負けるとわかっていたからだ。
続く試合でトレヴ組が勝つことはもはや明らかで、キンツェム組とザルカヴァ組はどちらかしか決勝には進めない。それなら実力者であり道場のリーダーでもあるキンツェムを勝たせると誰もが思う。ところが試合は思わぬ展開になった。
「ここだ――――――っ!」
「ううっ!ぐっ………」
ザルカヴァが鉄柱から飛び、倒れているポリーの肩を狙って肘で攻撃する。その後も倒れるポリーを足で何度も踏みつけた。
『これは猛攻!道場の練習生、体の小さなポリーに対して容赦のない攻めを見せます、ザルカヴァ!』
「くっ………ポリー!」
「大人しく見てるんだな、かわいい弟子が一方的にやられる姿を!」
キンツェムはラフィアンによって動きを封じられている。救出に入れず、ポリーは自力で逃れるしかなかった。
『正直驚きました!形だけの試合を行うと思われたこの試合、これまでにない熱戦となっています!』
試合開始から激しい戦いだった。キンツェムのパンチを避けたラフィアンが一撃必殺を狙った逆転のキックを放ったり、ロープで勢いをつけようとしたポリーの足をリングの外にいたザルカヴァが引っ張って転倒させたり、勝利を譲ってやろうという気はまるでないようだ。
「ううっ……ザルカヴァさん、この試合は私たちが勝たないといけないんじゃ………」
「ん?いつそんなことを言ったかな?」
「だ、だって私たちが決勝に行くためには……」
「多少強引になればやり方はいくらでもあるんだよ。それよりもここでポリーちゃんの実力不足を明らかにしたほうが面白い」
ポリーは思い出した。ザルカヴァとラフィアンもキンツェムが好きで、今回もキンツェムと組みたがっていたことを。2人に比べたら短い付き合いの自分がキンツェムの隣に立っていることを快く思っていないのは確かだった。
「そろそろ終わらせようかな……窒息する前に降参したほうがいいよ」
「何を………うぐっ!」
あのザルカヴァが魔法を使わず、体術だけでポリーを追い詰める。うつ伏せに倒したポリーの上に乗り、腕を顎のあたりに回したままその体を反らせていった。
『ザルカヴァ、見たこともない技でポリーを拷問!あれでは呼吸が苦しい、背中にもダメージがあるはずだ!』
「私の世界ではフェイスロックっていうんだよ、これは。いまやっているやつは正式にはもっと長い名前なんだけど……まあどうでもいいか」
「……………っ」
ポリーが危ない。地面を叩けば降参したという意思表示になるが、必死に堪えている。降参もできない状況なら審判が止めてくれるとしても、翌日以降にダメージが残るかもしれない。
「ポリー!逆転を諦めるな!脱出する方法は必ずある!お前ならできる!」
「……師匠!」
キンツェムの言葉で尽きかけていたポリーの思考力と闘志が蘇った。修行の日々を思い出したというのもあるし、何よりキンツェムに期待されているということがポリーを奮い立たせた。
「…………えっ!?」
「たぁ―――――――――っ!!」
完璧に動きを封じていたはずなのにポリーは復活した。それはあまりにも強引なやり方で、拘束から抜け出すのではなく………。
『な、なんと!ポリーが固められたまま浮いている!技をかけているザルカヴァごと宙に!』
「こ、このパワーは………!」
魔法なのか筋力なのか、この一瞬では判断できない。しかしポリーが並外れた力で空中に浮いたことは明らかだ。
「………え、ちょ、ちょっと!」
『ポリーの上昇が止まった!そして上下がひっくり返る!ポリーの背中の下にザルカヴァがしがみついているような形になった!』
「ここだ―――――――――っ!!」
ポリーの体が金色に光り、雷の矢のようになって猛スピードで落下していく。ザルカヴァは技を解いて逃げようとしたが、あまりに速く落ちていくので身動きがとれない。防御魔法を唱える時間すらなかった。
「あがっ……!!」
『叩きつけた――――――っ!!勝負は決まったと思われたところから逆転の大技炸裂!防御できなかったザルカヴァ、反撃の力はないか!』
「ポリー!押さえ込むんだ!」
衝撃的な光景に呆気にとられながらもラフィアンがカウント阻止のためにリングに入ろうとする。しかし今度はキンツェムがラフィアンの動きを止め、助けに入れないようにした。
「1、2………3っ!」
ポリーがザルカヴァを押さえ込んで試合終了、トレヴ組に先立って決勝進出を決めた。観客たちからも大きな歓声が沸き上がった。
「やった!やりましたっ、師匠!」
「よしっ!よくやった!」
リングの上で抱きあって喜ぶ2人とは正反対に、よろよろとした足取りでザルカヴァたちは控室に戻っていく。
「……あんなガキがこんな短い期間でここまで強くなるなんてさすがキンツェムの弟子だ……と言いたいところだが!」
「あれは異常でしょ……いたたたた。あんなパワー……何者なんだろ、あの子は………」
小さな村の平凡な子どもとは思えない、ポリーの潜在能力。それがキンツェムの熱血指導によってとんでもないことになろうとしていた。
今年のベストバウトはNJC準々決勝のザック・セイバー・ジュニア対ウィル・オスプレイ戦か、タカタイチマニア3のタイチ対DOUKI戦を推します。まだ四ヶ月あるので熱戦がもっと見たいです。
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