第14話 組み合わせ決定
キンツェムはパートナーにポリーを選んだ。すると、チーム編成はキンツェムに任せるとしていた外野から疑問の声が噴出した。
「少しいいか?その少女はまだ弟子入りして日が浅いのだろう?今回はキンツェムのいるチームが重要でもう片方は数合わせ……そちらに入れるべきでは?」
ポリーが足を引っ張り、狙っていた展開や星取りの調整がうまくいかないのではとブレーヴは不安に感じた。
「せっかく私を呼んだんだから私とキンツェムが組むんだと思ってたよ。これだとキンツェムがうまくやっても王子に大事なことを教えながら試合をするのは難しいだろうに」
ラフィアンの指摘も正論だった。勝敗はどうにかなるとしても、いい内容までは厳しい。ポリーの面倒を見ていたらそれだけで手一杯になり、余裕がなくなってしまう。
ところがキンツェムの考えはまるで違っていた。最初から揺らいでいなかった。
「私はトレーナーとして一人前の冒険者を育成するのが本来の仕事だ。今回もポリーの成長に繋がると思ったから受けた」
「……しかし………」 「危険じゃないか?」
「何事にも危険はある。訓練中に負傷することもあるからな。しかしこれは少ないリスクで大きく成長できると読んだので参加を決めた。もし不満ならもう一度セリーナに頼んでくれ。1千万なんか惜しくないのだからな」
金ではなくポリーの育成が目的で試合に出ようとしている。国王直々の依頼を直前に断ればどうなるかわからないというのに、キンツェムの芯は通っている。
「もちろんポリーが了承すればの話ではある。本人が私とのチームが嫌だと言うのなら考えるが………」
「………!」
ポリーは即答できなかった。キンツェムと組めるのは嬉しいが、重責だ。弟子になったばかりの自分がどこまで期待に応えられるのかはわからない。ザルカヴァならキンツェムの相棒として最高の仕事をするだろうから自分は辞退すべきかもしれないと思い始めた。
するとそのザルカヴァがポリーに近づき、進むべき道のヒントを与えた。
「……やりたいか、やりたくないか……それだけでいいんだよ」
「えっ?」
「キンツェムとタッグを組みたいならやればいい。最高の経験になるよ。不安だからやりたくないならそれでも構わない。外からキンツェムの試合を見るのも勉強になるしね」
「………私は………」
ポリーはしばらく考えた。ただ、どうしたいかは決まっていた。ザルカヴァに背中を押されて思いは決まった。
「やらせてください。師匠とのチーム……勝ちまくりましょう!優勝目指して頑張ります!」
「……優勝したらだめなんだが……まあいい、本番までしっかり鍛えるぞ。第3王子トレヴ以外のチームには全勝しないといけないからな」
「はいっ!道場に帰って早速訓練です!」
これまで以上にやる気に満たされたポリー。ここまではキンツェムの狙い通りに事が進んでいた。しかし新たな魔王による改革のせいで、冒険者たちが求められる能力や技が今後は大きく変わってくるということを知り、ポリーの訓練メニューに調整が必要だと考えていた。
そしてトレヴが想像よりも精神的に未熟で、このまま旅立たせてしまうと間違いなく失敗、トレヴのパーティは全滅という結果で冒険を終えるだろう。ポリーだけでなくトレヴも教育しなければならない。キンツェムの仕事が増えた。
話が全て終わり、皆が部屋を出ていこうとする。するとブレーヴが、
「ザルカヴァ!」
一番後ろを歩いていたザルカヴァを呼び止めた。どんな用なのかとザルカヴァだけでなく残りの3人も立ち止まった。
「キンツェムじゃなくて私?はて?」
「………いや、お前のチームには具体的な指示を出さなかったが………重要なのはキンツェムとポリーのほうとはいえ、全力で試合をしてくれ。それを言い忘れていた」
「……なんだ、それなら言われなくても。知らないうちに何かまずいことでもやったのかと……」
ほっとしながら今度こそ部屋を出て、城を後にした。その様子をブレーヴは遠くから見つめていた。
(ザルカヴァ……この城のことはやはり思い出さなかったか。かつて毎日食事をしたこの部屋も)
異世界からの転生者は高い魔力や特殊能力を持って誕生することが多く、ザルカヴァが生まれたときに王国が彼女を引き取り育て、将来は国の発展や敵国との戦いで活躍してもらうことを願っていた。そして次の国王となるブレーヴと結婚させる話まであった。
(しかし期待ほどの実力がなかったザルカヴァを我らは捨てた。前世の記憶は残したが、この城での生活……つまり今回の人生の記憶のほとんどを奪い城から放り出したのだ)
そのザルカヴァが路頭に迷う前に救いの手を伸ばしたのがキンツェムだった。キンツェムに惹かれ、彼女と行動を共にするうちにザルカヴァの発揮できずにいた才能が花開き始め、優秀な冒険者になったのだ。
「こうなってはこの城で過ごした日々など忘れたままのほうがよいか……」
今更記憶や当初の予定を思い出したところでややこしくなるだけだ。キンツェムとの毎日が楽しいのならそのままにしておくのが一番だろう。ブレーヴはそう結論した。
「しかしキンツェムと組むのはザルカヴァだと思っていたが………うまくいけばよいのだが」
冒険者の目的は様々で、生活費を稼ぐためだけという者もいれば、大金が欲しい、王と同等の名誉が欲しいという野心家までいる。そこまで高みを目指す者は魔王の首に狙いを定め、国から最高の栄誉と役職を得ようとしていた。
魔王を倒した者の国が魔界を支配し、領土や労働力や食物、貴重な品々を好きにできる。侵略を成功させた英雄が国王と同じほど皆から崇められる理由はそこにあった。魔王を倒すのは難しくとも、魔族の幹部を1人打ち倒すだけでも報酬はかなりのもので、一代で富と権力を築き上げることができた。
ただし、どんな仕事にも当てはまることではあるが、危険で難度が高いからこそ手に入るものが多い。しかも新しい魔王が君臨したことでこれまでとは比べ物にならないほど魔族狩りは無謀な行為となっていた。
「とうとう来た……魔王の本拠地!」
「やつら全員殺して俺たちの時代にしてやる!」
キンツェムを追放した勇者パーティが最終決戦に挑もうとしていた。
この先のタッグ大会ではキンツェムたちと他のチームの男子選手が普通に戦いますがこれといって何も起きません。セクハラするような男は出てきませんし、主要キャラではないので戦いの描写は短いです。
新日本とスターダムの合同興行がショッパイ内容になりそうで不安な方は高評価&ブックマークをお願いします。男子選手と女子選手の直接接触禁止ルールのせいで、余程うまくやらないとスピード感が落ちて変な間ができそうな気がします。一部のレスラーはルールを破る気満々ですが、どうなるのでしょうか。
私個人はそのルールに賛成も反対もしていません。試合を面白くできるのなら接触禁止ルールでもいいと思っていますし、フェロモンズのように女子プロにセクシーピーラーを浴びせるのもアリだと考えています。




