第12話 『試合』
「大会について詳しく説明すると………」
第1王子、ブレーヴの話によると、全6チームによる総当たり戦、成績上位2チームが決勝で対決する。勝ちは2点、引き分けは1点、負けは0点。試合不成立は両チーム0点となるが、試合前に試合放棄があった場合は、不戦勝のチームに2点が入る。
「第3王子のチームが1つ、私たちが2つ……残り3つのチームにも同じ依頼を?」
「いや。全員グルだとあいつも仕組まれた優勝だと気がつくかもしれないから、君たちだけにこの任務を与えた。あいつとその相棒よりも弱い連中だからわざと負けるよう頼む必要はない」
「そちらの理想は第3王子の全勝優勝?そのために私たちのどちらかが決勝に進むべき?」
「そうなるな。キンツェムのいるチームが予選であいつにだけ負けて単独2位で進み、決勝で再びあいつに敗れる……この形がいい」
事前の打ち合わせは念入りに行わないといけない。最初から優勝者が決まっているとしても、あまりにもつまらない試合をしたり雑な星調整をした場合、王子や観客にバレてしまうかもしれない。
「第3王子はどんな技を使うんですかね?必殺技がわかっていればそこで負けられるんで」
「あいつは見栄えのいい派手な技が大好きだからな。目立ちたがりで、技や魔法の前にいろいろ騒ぐ。とどめだ、これで終わりだ……そう叫んだあとに倒れてもらえばいいだろう」
「他のチームの連中よりは強いと言っていたが、どれほどの実力なんだ?私たちも全力を出さないといけないのか、それとも手加減して戦う必要があるのか………」
「キンツェム、君が冒険者としてどれだけの働きをしたか、よく知っている。世間は正しく評価していないが君の力なら……まともに戦えば3分もいらないな」
力を抑えて戦い、しかも手抜きを悟られてはいけない。それでいて接戦、好勝負を演じるとなるとかなりの技量が求められる。だからこの仕事はキンツェムが適任だとブレーヴも口にした。
試合をどう進めていけばいいか、どれくらい客を楽しませたらいいか。キンツェムたちは次々と質問し、ブレーヴがそれに答える時間が続く。すると途中まで沈黙していたポリーが口を開いた。
「あの〜………試合に勝つ人が決まってるどころか流れや展開も決まってるっていうのはいいんですか?そんなインチキ……」
観客を騙していることにならないのかと言い出した。誰が一番強いのか、誰が優勝するのかを真剣に予想し楽しみにしている人たちへの裏切りだ。ところがこの場にポリーの意見に同意する人間はいなかった。
「いや、客を入れて行う試合はほとんどそうだぞ?しかもだいたいの客はそれを知っている。あらかじめ筋書きがあるのをわかっていて、技の応酬や激しい攻防を見に来ている」
「え?でもこの間は………」
「あれはお互いの関係者しかいなかったし、普通は命のやり取りをする真剣勝負なんて危険なことはしないよ。殺し合いがしたければ凶悪な魔物との戦いの最前線に行けばいいだけ。勝敗よりも互いの技を披露して競い合うのが大事だからね」
八百長ではなくショーみたいなものと考えればいい。しかしここでも基礎ができていないのに大技に頼るせいで負傷する者が増えていて、試合の質も落ちていた。
「まあ、要するにこれは練習の場だ。言葉の通じない魔物がルールを守ってくれるわけがない。だから第3王子を鍛えたいならエリアの中よりも外の世界の戦いに出したほうがいいと私は思うが………」
「確かに。甘やかしてると本人のためにならないよね」
温い戦いの経験で自信をつけさせても長い目で見ると本人のためにならない。試合形式ではなく実戦に触れてから本格的に旅立たせるべきだとキンツェムは考えていた。
ところが、キンツェムが冒険者としての活動をやめた一年で世の中は大きく変わっていた。
「いや……他の何よりもこの戦い方を極めなければならない。冒険者も戦士たちもあの正方形のエリアで最強になることを目指す必要がある」
「はぁ?いやいや、最強って言っても勝ち負けが決まってる戦いの頂点を目指すのも変な話でしょうよ。上手くなりたいとか技を磨きたいとかならわかるんですがねぇ」
ラフィアンの言葉に皆も同感だった。王族が参加したり魔界との交流としてこんな大会が開かれるのは珍しいことではない。魔族との試合ですら互いに加減がわかっていて、たまに事故や技の失敗で軽い負傷者が出るだけだ。
「プロになる気なら話は違うけどね。真剣勝負じゃ強いけどこの形の試合だとつまんないって人はどこの世界にもいるからねぇ」
「第3王子のやつは自分こそ世界を平和にする勇者だと信じている。人間に危害を加える魔物を正義の力で倒すと………そのために大事なのは大勢の敵軍を倒すことでもダンジョンに潜り長期戦を制することでもない。この戦いで王者になることなのだ!」
娯楽のはずだった試合、練習や模擬戦に近かったものが世界の平和や真の最強に関わるようになった理由をブレーヴは語り始めた。
「キンツェム、君があのパーティから脱退して一年くらいか……ちょうどその頃に我が国と魔界の王族による集まりがあった。魔族を支配する王、つまり魔王が代替わりしたというのでその挨拶や、今後はますます平和な関係を築こうという話し合いのために」
人間に危害を加える魔物、魔物に危害を加える人間は互いが自由に捕らえ殺していいという決まりがあった。そんな野蛮で聞く耳を持たない魔物は魔王の命令にすら背き、私利私欲のために罪のない魔物を狩る人間はろくでもないやつだからだ。
キンツェムたちの住む王国とは別の国が領土や奴隷欲しさに魔界を襲ったことがある。しかし結果は返り討ちに遭い、自分たちが致命傷を負った。それからは人間界と魔界が相手の本拠地で戦争をすることはなかった。
「そのとき、ちょっとした遊びで互いの兵を戦わせようということになった。もちろん腕試し程度の話で、相手を倒そう、打ちのめしてやろうなんて場じゃなかった………はずだった」
国王は実力者の兵士五人を出したが、魔王は自らを含めた魔界のトップ五人で試合を行った。新しい魔王は若そうだし体を動かし汗を流すのが好きなのだろうと悠長に眺めていた王国側が凍りつくのに時間はいらなかった。
「ところがやつらは………圧倒的な力の強さと見たこともない技の数々で我が国の精鋭たちを粉砕し、再起不能なほどのダメージを与えた!」
過剰な打撃で兵士たちを倒し、彼らは全員一年経った今でも療養中だという。これは事故ではない。魔王の宣戦布告だった。
「お前たちを蹂躙し、支配するときは来た。我らは真の強者でありながら日の当たらない裏の世界で小さく生きてきたが、もう終わりだ」
「な………何っ!?」
「貴様ら愚民どもが助かる道は一つしかない。我らをこの『リング』の上で倒し力を証明してみせろ。すでに各地で暴れていた連中の巣やダンジョンの奥にいるバカどもにも『リング』を与えた。やつらからも3カウントを奪ってみせよ」
エリアのことをリングと呼ぶ魔王。平和が脅かされると同時に、戦いのあり方が大きく変わろうとしていた。
プロレスはショーですが、技を受け切り魅せる動きをしないといけないので、ある意味で最強のスポーツと言えるでしょう。横綱や総合格闘技の強者がプロレスに来てもイマイチということもあります。プロレスラーこそ最強という方は高評価&ブックマークをお願いします。
お遊びだの八百長だの言われてはいますが、プロレスでガチの喧嘩マッチになってしまうと大事故になります。ドラゴンストップはどうかと思いますが……。




