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第10話 大きな仕事

「………本物だ。まさかほんとうに持ってくるとは。何日か過ぎていたし諦めていたよ」


 500万イェンを持ってきたセリーナを道場に上がらせ、皆で大金を囲みながら話していた。


「すぐにでも渡しに行こうと思っていた。でも訓練所が忙しかったから遅れてしまった」


 セリーナの訓練所は生徒が半分近く減ってしまったという。失神負けを喫した所長の姿を見て去っていったのかと思いきや、意外な事実をセリーナ本人が明らかにした。



「私たちに足りないものを教えながらの戦い、それでも圧勝してしまうのだからキンツェム、あんたの力を認めるしかないわ。まともな技を一つも使わない相手にここまで負けるとなると私も考え方を変えるしかなくなった」


「………考え方を?」


「冒険者試験に手っ取り早く合格するためだけの戦術や技の指導は間違っていた。いや、以前からあんたには指摘されていたけど……自分の体で味わってようやく理解できた」


 キンツェムに負けたから生徒が減ったのではなく、訓練所の方針変更を発表し、本物の強さを得たい者のみ残るようにと告げたところこうなったようだ。


 これまでのように大技を一つ早々に取得させ試験に合格するだけの指導ではなく、キンツェムが言うように長く冒険者として活躍できる人材の育成。方向性を大きく変えた。



「役に立つビジネス相手が実は詐欺師だったり、訓練所の経営権を狙っていたり……ここ数日でいろんな危機に気がつけたのもあんたのおかげよ、キンツェム」


「………それは私と関係がないと思うが……」


「いや、審判の目を盗んで有利に試合を進める……同じことをあんたにやられたからわかった。悪だくみをしているのは自分だけじゃない。もっと上手で狡猾な手段で逆襲されるかもしれないから、自分が得意だと思っている分野でこそ警戒を怠ってはならないと!」


 キンツェムの想像とは違うところでセリーナを助けていた。教えたことをどう応用し役立てるかは受け取った者次第。それもまた指導者の楽しみの一つだ。



「もちろん私自身もこれから鍛え直さないといけないと思い知らされたわ。いくら立派なことを言おうがこの体じゃ説得力がない。弟子たちといっしょに汗を流さないと」


「それがいい。体を絞って厚化粧をやめればお前はいい女なんだ。せっかくの素材がもったいないと思っていた」


「…………!そ、そう言ってくれるなら私も鍛錬に身が入るわ。別にあんたに気に入ってもらいたいからやるわけじゃないけど!」


 顔を赤くしながらも上機嫌なセリーナ。しかしザルカヴァとポリーは怒りや嫉妬で顔を真っ赤にするのだった。



「忙しいんでしょ!?金を置いて帰りなよ!」


「そうです!お疲れ様でした!」


 セリーナを一刻も早く外に出そうとした。ところが彼女は話を続けた。



「実はこのことでキンツェム、あんたに選んでもらいたい。私から受け取るものを」


「………?」


「この500万をこのまま受け取るか、もしくは私が紹介する仕事を引き受けるか。その仕事の報酬は満額1000万イェン!どちらを選んでもらっても構わないわ」


 何もせず500万か、ある任務を成功させることで1000万か。セリーナがその任務を受けたものの、キンツェムに交代することは依頼主も了解しているという。



「その内容と依頼主を詳しく聞かないことには結論の出しようがないな。教えてくれるか」


「………来週行われる『2対2』形式の試合の大会、そこに2組チームを出場させること。第3王子のチームを必ず優勝させるために動くこと。その依頼主は………国王!」


 1000万の仕事は国王からのものだった。もちろん国王本人がセリーナのもとにやってきたというわけではなく、使いの人間がいくつかの訓練所に話を持ちかけて、それを受注したのがセリーナだったというわけだ。



「国の依頼か………だったらこの好条件も頷けるね。試合に出るだけでそれならいいんじゃない?」


「いや、2チーム用意して出場、全試合を無事に終えたら半額500万。第3王子の優勝に貢献したと認められてようやく満額1000万!」


「試合に出るのに優勝に貢献?ということはつまり……八百長をやれと?」


 最初から優勝が決まっている大会。王子の引き立て役になれという依頼だった。



「まあそういう話になるわね。厄介なのは王子本人は真剣勝負だと思っていることで、仕組まれた大会だと最後まで気がつかれないまま優勝させろというのだから、かなり難しいわ」


「第3王子……最近冒険者になったばかりだったはず。冒険の旅に出る前に自信をつけさせようというわけか……面白い、乗ろう!」


 キンツェムがやる気ならザルカヴァとポリーは同意する。セリーナから依頼を引き継ぎ、この道場で遂行することになった。



「私から話をしておくからそのうち役人が仕事の説明をするためにやって来るはずだわ。もっと詳細が知りたければそいつに聞きなさい。私もこれからそうしようと思っていたから、これ以上は情報がないのよ」


「わかった。そうさせてもらう」


「あとは人数の問題ね。あんたたちは2チーム作るのに1人足りない。私のところの若手を貸してもいいけど、どうする?」


「いや、こういうときに頼りになるやつを知っている。こちらで用意する」



 鍛錬を重ね昔の姿を取り戻したらまた会いに来る、そう言ってセリーナは帰っていった。もう来るなと心の声が一致していたザルカヴァとポリーの気持ちなど知らずに、キンツェムは外出の準備をした。


「……今から4人目を連れてくるつもり?」


「早いほうがいい。誘いたいやつがいるからな」


 向かうのはポリーが来た初日に皆で夕食を食べた店。キンツェムの目当てはほぼ毎日そこにいるという。




「いらっしゃいませ!奥が空いていますよ」


「いや、そっちに座らせてもらいたい。そこで飲んでいる女に用がある」


 仕事を終えた人々がこれから店に次々と入ってくる時間だというのに、すでに何本も瓶を空にしている白髪の女がいた。年齢はキンツェムと同じくらい、背はキンツェムより少しだけ低そうだが、世の女性たちが憧れる体型をしていた。



「おい、起きてるか?久しぶりだな」


「………ああ?どこのどいつだ………ってなんだ、キンツェムか。相変わらず誰もいない訓練所でボーッとしてんのか?」


「この間道場に格下げされちまったよ。お前こそまた酒浸りか。つまらん毎日だな」


 互いにとげのある言葉の応酬だが、旧知の仲であり喧嘩になることはない。彼女たちなりの挨拶だった。

 プロレス総選挙で投票したレスラーが誰も50位以内に入らなかった方は高評価&ブックマークをお願いします。DDTから一人もランクインできなかったのは予想外でした。

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