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第1話 閑古鳥が鳴く訓練所

 新連載です。よろしくお願いします。

「よし、そうだ!そこで炎を放て!」


「はい!てやぁ――――――っ!」



 ここは冒険者を目指す者たちが『始まりの街』と呼ぶ地。この大陸を支配する王国の城がすぐそばにあり、王から権威を与えられた役人やこの国で崇拝されている精霊に仕える神官たちによって冒険者の資格を与えられる唯一の都市だからだ。


 資格がなくても勝手に冒険者になることは可能だが、王国から与えられる援助や旅先での特権があるとないでは大違いだ。それに、この街での試験に合格し認定が得られないレベルの実力となると、この道で生きていくことは難しいだろう。


「だから冒険者になりたいと思っている人間は皆ここに集まって、修行のため、そして試験に合格するために訓練所に通っているんですね」


「ああ。自分の将来がかかっているからな。昔凄腕の冒険者だった人や教え子の大半が冒険者資格を得られた、そんな優秀な指導者の教室には大勢の訓練生が殺到する………その逆もあるが」



 その逆、つまり生徒がほとんどいない、場合によってはゼロの寂しいところもある。扉を開いてはいるが誰も寄りつかない、閑古鳥が鳴く人気のない訓練所を営業するトレーナーが。



「……この防具いいな。買うか?いや………」


 男たちと比べても高めの背丈で赤い髪の毛、彼女の名前はキンツェム。元冒険者で、トレーナーに転身したのは一年前。まだ若く、重傷を負ったわけではないが現役を退き指導者として新たなスタートを切っていた。




「キンツェム、あなたのレベルでは僕たちのパーティがこれから更に上を目指す上で厳しい。チームとしてもそうだし、あなた自身の安全も。申し訳ないがここで別れたい」


 実力不足故の追放、精霊から勇者だと認められた青年がキンツェムと別れる理由はどこにでもあるありきたりなものだった。


 しかし実際はキンツェムの戦い方が地味なのが不満で、もっと派手な大技を使える新人と入れ替えたいというのが本音だった。冒険者たちの戦果や活躍は小さな村にまで伝わり、人気のあるパーティは武器や防具が無償で提供されたり宿で受けるサービスがとても豪華になる。


「………そうか。リーダーがそう言うのなら他のメンバーも同じ気持ちなんだろうな。わかった、これまでありがとう」 



 キンツェムも勇者の真意はわかっていた。可愛らしく露出の高い防具ではなく地味で頑丈な鎧を選び、見栄えのいい大技を豪快に放つよりも魔物の弱点を見極め確実に倒す。自分のスタイルが勇者たちと合わないのは明らかだった。


 ただ強いだけでは人々から愛されず大きな仕事もこない。収入や名声、引退後の待遇が大違い。これが現実だった。だからキンツェムは冒険者をやめたのだ。



「よう、相変わらず暇そうだな」


「……そういうお前は忙しいはずなのにこんなところで遊んでる余裕があるのか?」


「この時間の指導は他のやつに任せてる。生徒だけじゃなくて教えるほうも休みを入れないとな」


 キンツェムのもとに来たのはすぐ近くにある大きな訓練所のトレーナー、キンツェムより少し年上の男だった。彼は結婚と同時に危険な仕事をやめ、若手の指導に励んでいた。



「最近うちで修行していた連中が試験で順調に合格を続けているから生徒が多すぎる。何人か回してやりたいところだが……」


「いらないよ。そっちの訓練についていけないようなやつ、私のところじゃ一日持たない」


「……そうだったな。悪かった」



 キンツェムを追い出した勇者たちのパーティは新たなメンバーを入れた後も任務の成功と魔物との戦闘に勝利を続けていた。その仲間だったということで、訓練所を開いたばかりのときは生徒もそれなりに集まっていた。


 ところがキンツェムは生徒たちが巣立った後のことを思うあまり、指導に熱が入りすぎた。試験をクリアして資格を得るためだけの訓練では不十分だと厳しい修行を課した。


「しかも基礎練習の繰り返しだからなぁ。すぐに派手な魔法や体術が使えるようになりたい連中にはしんどいだろうな」


 流行りとは真逆のスタイルだったキンツェムは指導者としても時代遅れ、人気がなかった。



「しっかり土台を据えないと危ない。技だけ覚えても後々大変なことになる」


「それは確かだよな。冒険者が魔物の軍との戦いやダンジョンの奥で死んだり回復魔法でも治せない一生残る大怪我って話、増えたよな」


 予想以上に魔力や体力を消耗したところを敵に倒されたり、技の反動に耐えきれず身体が自壊したり、派手な大技に頼ることにはリスクもあった。


「まだ40歳にもなってないのにボロボロな元冒険者もいる。豪快な必殺技や人気を得るためのパフォーマンスを否定はしない。体作りや戦いについてもっと学んでからやればいい」


「俺もそう思う。しかし今は多くの訓練所が先のことは知らん、卒業したら自己責任ってところばかりだからな。金儲け主義が行き過ぎてやがる」


 この男も考え方はキンツェム寄りだった。なるべく冒険者たちが長く活躍できるような指導をしていたが、施設の長ではないのでそこまで自由にはできなかった。



「うちの出身も合格するのは順調でもそれからがいまいちってやつが多いからな……おっと、休憩時間は終わりだ。所長にお前のことを話したら、ここの方針に従うなら雇ってもいいって言っていた。金がなくなったらいつでもこいよ」


「ああ、感謝する。そうなることはないとしても、心遣いには礼を言う」


 信念を押し殺してまでこの世界に残ることはない。完全に必要とされなくなれば、冒険者に関わるのをやめて別の生き方をするだけだとキンツェムは決めていた。見栄えだけはいい半人前の冒険者を量産するなど、無責任を通り越して殺人も同然だと彼女は強く憤っているからだ。



「いざとなれば仕事はある……昨日見ただけでも新しい橋を造る作業員や畑の収穫の時期だけ働く仕事……食べていけないなんて話には………」


 たとえ自分の思いに正直で正しいことをしていると信じていても、現状がこれでは間違っていたのは自分のほうだ。そろそろ夢を見る時も終わりにすべきかとキンツェムが後ろ向きな考えでいたときだ。



「………ん?君は?」


「キンツェムさん………ですよね。私を弟子入りさせていただけませんか」


 金髪の少女がキンツェムの指導を受けるために、門を叩きにきたのだった。

 本格的な異世界バトルや冒険物が書きたいと思って書き始めたのですが、これからだんだん変な方向へと脱線していきます。すでに終了予定の第31話まで完成したので、1日1話ずつ更新していきます。

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