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*** 99 猫人族の惑星 ***

 


【銀河系第243象限、F10326恒星系第3惑星、識別名ケットにて】

(種族:猫人族、科学技術文明度1.3、社会成熟度5.0、住民平均E階梯4.5。

 小氷期到来)



「ミニャルン曾おばあさまたいへんです!」


「どうしたんだい? 

 何をそんなに慌ててるんだね」


「ゆ、雪が、雪が降って来ました!」


「なんだって!

 ようやく栗の木が実を落とし始めたばかりだというのに、もう雪が降って来たのかい……」


「ど、どうしましょう。

 まだ冬越しの準備も終わっていないのに!」


「年々冬が来るのが早くなって来ているねぇ……

 なんか最近お日さまが元気無いとは思ってたけど。

 まあ仕方ない。手の空いている者はすぐに栗の実拾いに出かけなさい」


「はい!」


「そのときには薪になるような木の枝や枯れ草も持ち帰って来るんだよ。

 それから何人かは川沿いに行って粘土を持って来るようにね。

 枝で組んだ家の隙間に張り付けて、寒くないようにしなきゃならないからね」


「はいっ!」


 その日から村の猫人たちは熱心に働き始めた。

 この惑星の猫人は、手足も多少長くなって指も持ち、直立2足歩行も出来るようになっていたが、まだ全身が猫の体毛に覆われている。

 表情は豊かだったが、顔もほとんど猫のままだった。

 走る時も4つ足の方が速いようだ。


 300人ほどの村人は栗と薪拾い班と粘土集め班に分かれて走り回っている。

 まだ小さい子猫たちも草で編んだ籠に栗を入れて、首から下げて運んでいた。



(みんな頑張ってくれているけど……

 もう森の中にも雪が積もり始めたか。

 これじゃあ栗は拾えても、草の実を拾うのは難しいねぇ……)



 そんな或る日のこと。


「曾おばあさま、村の広場になにか塚のようなヘンなものが……

 あの、見に来ていただけませんでしょうか」



「なんだか不思議な形の塚だねぇ。

 中には大きな空洞もあるし」


『皆さんこんにちは』


「「「 !!! 」」」


『初めまして、わたしは『ほこら』といいます。

 皆さんの頭の中に直接話しかけさせて頂いています』


「そうかい、『ほこらさん』かい」


『あなたがこの村の村長さんですか?』


「村長なんて大層なもんじゃないけど、あたしがこの村で一番の年寄りなんだ。

 だからまあ長老っていうところかね。

 それで『ほこらさん』は、なんでこんなところに来たんだね」


『急に寒くなって来たので皆さんお困りだろうと思って来ました。

 もしよろしければ村の皆さんも集めていただけませんでしょうか。

 食べ物をお配りしたいと思います』


「なんだって!

 あんたが食べ物をくれるっていうのかい!」


『はい』


「わかった。

 すぐにみんなを呼んでおいで」


「「「 は、はい 」」」


 その場に300人ほどの猫人たちが集まって来た。


『初めまして皆さん、わたくしは『ほこら』と申します。

 まずは皆さんにお食事を差し上げたいのですが、試しに食べてみて頂けませんでしょうか』


 祠の中に不思議な箱に入ったものが出て来た。

 蓋を開けると辺りにはいい匂いが広がっている。

 最近働いてばかりな上に、冬に備えて食べ物を蓄えるためにあまり食べていなかった猫人たちのお腹がぐーぐー鳴り始めた。


『さあどうぞお召し上がり下さい』


「それじゃあみんな、頂こうかね」


 猫人たちは木で作った皿にスプーンらしきものを使ってキャットフードを盛り付け始めた。

 まずは小さな子たちに配っているが、その子たちも少し涎を垂らしながらも大人しく待っている。

 どうやら全員に配られるまでおあずけらしい。


(さすがは平均E階梯4.5の世界ね……

 まったく争うことなくみんなに食料が行き渡るまで待ってるなんて……)



「みんな行き渡ったかい?

 それじゃあ『ほこらさん』に感謝して『いただきます』」


「「「 いただきます(にゃ) 」」」


 びーん! びーん! びーん! びーん!


 村人たちのしっぽが盛大に膨らんだ。

 そのまま夢中になって食べている。



「ねえ『ほこらさん』、この食べ物美味しいねぇ。

 これって魚が入っているのかい?」


『ええ、魚だけではなく他のものもたくさん入っています』


「はぁ、久しぶりに美味しいものを食べてお腹いっぱいになったよ。

 どうもありがとうね」


『気に入って頂けてよかったです。

 それではこれから毎日2回ずつ今の分量をお出ししますね』


「ねぇ、なんでそんなにわたしらに親切にしてくれるんだい?」


『わたくしの主さまからの命です。

 今この世界は小氷期という寒い季節を迎えてしまいました。

 このままでは1年の内半分以上が冬になってしまうでしょう。

 そこで主さまは小さな太陽をいくつかこの世界に持って来られました』


「『たいよう』って、お日さまのことかい?」


『はいそうです。

 空を見て頂けますか』


「ああ、なんか小さなお日さまがあるねぇ。

 あれがあんたの主さんの持ち物なのかい」


『はい』


「きっとすごい人なんだろうねぇ」


『はい、すごいお方さまです。

 あのお日さまがあれば、1年中冬になったりすることは無いでしょうけど、生態系を壊さないためには、この世界をゆっくりと暖めていかなければならないんです。

 最初の内は皆さんお辛いでしょうから、お助けするように命じられました』


「はぁ、それであんなに美味しいものをくれたんだね。

 まあわたしらには毛皮もあるし、何人かで固まって寝ればそこまで寒くも無いし。

 食べ物さえあればそんなに辛い暮らしにはならないだろうね。

 それにしても、わたしら大勢いるけどそんなにたくさんの食べ物をもらっていいのかい?」


『主さまはとてもとてもたくさんの食べ物をお持ちですので大丈夫です』


「そんな人もいるんだねぇ。

 まあせっかくの食べ物を腐らせるよりはよっぽどいいんだろうけどさ。

 それで、そのお礼にわたしらは何をすればいいんだい?」


『2つほどお願いがあります』


「なんでも言っておくれ。

 毎日あんな美味しい食べ物をもらえるんだったらなんだってするよ。

 若いころに比べたら大分艶も無くなって来ちまったけど、なんならわたしの毛皮をあげてもいいよ。

 わたしら食べ物と毛皮以外には財産なんか持っていないからねぇ」


『そ、そそそ、そのようなお願いではありません!』


(そ、そんなもの貰って帰ったら、わたしがタケルさまに中級AIの剥製にされちゃうっ!

『救済の見返りに現地住民の毛皮を剥いで持ち帰った銀河史上最悪のAIの末路』とか札も立てられちゃって見世物にされちゃぅぅぅっ!)



『ま、まず、この村の広場に皆さまが冬の間暖かく過ごせるような家を建てさせていただけませんでしょうか。

 皆さんの家も暖かそうですけど、これから冬の寒さはもっと厳しくなっていきますので』


「そんなことまでしてくれるのかい……

 それじゃあ、わたしの毛皮ぐらいじゃお礼にもならないねぇ」


『で、ですから毛皮は結構ですってば!』


「それじゃあどんなお礼をすればいいのかね」


『まずは家を建てましょう』


 村の広場に直径が40メートルほどもあるドームが現れた。

 その入り口は階段を3メートルほど上ったところにあり、頑丈そうな屋根もついている。


「こ、これが家だっていうのかい!」


『はい、この形でしたらいくら雪が積もっても大丈夫ですので』


「はぁー驚いた」


『家の中には水場とトイレもあります。

 また、家の周りの低いところにいくつかの穴が開いていますでしょう』


「ああ、確かに穴が開いてるね」


『あの穴の中で火を焚いてください。

 そうすれば家の中の床が暖かくなりますので。

 煙は真ん中の煙突から外に出て行きますので、家の中には入って来ません』


「でもそんなにたくさんの薪は集められないよ」


『ご安心ください。

 この家の横に小さな建物がありますでしょう。

 薪はあの中にたくさん入っていますので、一冬はもつと思います』


「薪までくれるのかい、どうもありがとうね。

 それでもう一つのお願いとやらはどんなことなのかね」


『この大きな村の周りには小さな集落がたくさんありますでしょう。

 その集落を廻って皆さんを集めて来ていただけませんでしょうか。

 小さな家をたくさん建てていくのは大変ですので、ここにもうひとつ大きな家を建てて周囲の皆さんにも住んで頂きたいと思っています。

 もちろん、その方たちの分も食料は出しますので』


「わかった。

 みんなで手分けして廻って声をかけてみよう」


「あ、あの、曾おばあさま、男村の連中をこの女村に入れるのですか」


「子供たちはともかく、大人の男たちと一緒に暮らすなんて……」


「何を言ってるんだねお前たち。

 その男衆の中にだって、あたしの子や孫が大勢いるんだよ」


「「「 !!! 」」」


「そ、そういえばそうでした……」


「まだ若いあんたたちには孫はいないし、子供だってまだこの女村にいるだろう。

 でもあたしら年寄りの子や孫や曾孫の内の男たちは小村にいるんだからね。

 寒さで震えたり飢えたりしたら可哀そうじゃないか」


「す、すみません曾おばあさま」

「考えが足りませんでした……」


(そうか、女村と男村を分けることで無暗な人口増加を抑制してるのね……)



「それでほこらさん、川を渡って1日ほど行った先にも大きな女村があるけど、どの辺りまで声をかければいいんだい?」


『大きな村にはわたしと同じようなほこらが行っていますので、この村の周辺の小村だけで大丈夫です』


「だったら3日もあれば全員に声をかけられるね。

 それじゃあほこらさん、すまないけど男衆のためにさっきの食べ物を少し分けてくれるかね。

 女村に来るのを躊躇う者もいるかもしれないけど、あれを食べたらみんな集まってくるだろうから」


『はい』


「それから、この村にはいつもあの山の方から風が吹いているんだけどね。

 男衆のための家は風上に作ってやってもらえるかい。

 娘たちがうっかり発情すると男衆が騒ぎ始めてしまうからね。

 この冬がどれだけ厳しくなるか分からない以上、子作りはしばらく止めた方がいいだろう」


『わかりました』


(本当に大した統治者だわ……)





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