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*** 95 初期銀河史学習 ***

 


 タケルの神域内にて、最高神エギエル・メリアーヌス、前最高神ゼウサーナ・マイランゲルド、最高神政務庁主席補佐官アルジュラス・ルーセンとタケルの4人での懇談会が開催されていた。


 尚、エリザベートは育児休暇中であり、タケルを正式に救済部門の部門長代行の職に就かせている。



 最高神エギエル・メリアーヌスがまず口を開いた。


「忙しいところ済まんなタケル神よ。

 だが最近あまりよく寝られんでな。

 せめてそなたに話を、いや愚痴を聞いてもらいたいと思って集まってもらったのだ……」


 見れば3柱とも目の周りには色濃く隈が出来ている。


「わたくしでよろしければその愚痴をお聞かせくださいませ」


「うむ、まずはあの旧宙域統轄部門、旧転移部門、これに加えて通達違反者10万神や、人事部門アルバイトのうち、犯罪者1500万神を収監して懲役刑に処しておる。

 これはまあ奴らの自業自得ということで仕方があるまい。

 働き手を失った配偶者や子息には1人当たり年5万クレジットの生活資金も支給しておるしの」


「はい」


「それに加えてE階梯3.0以下の者たちはすべて農業部門に異動させておる。

 その数は500万神に及び、家族も含めれば1500万神にもなっている。

 引退神とその家族・従業員は計9000万神だ。

 ということでな、神界の神と天使約2億8000万の内、実際の任務に就いておるのは約2000万しかおらず、その家族・従業員を含めても5000万しかいないのだよ……」


(…………)


「つまり不祥事再発防止策とE階梯重視政策により、神界2億8000万の神と天使の内、実に8割近くが神界の本業の現場から離れてしまっておるのだ……」


(それが心労の原因になっているのか。

 それだけこの神たちが真摯で真面目だっていうことだな……)


「如何に神界改革のためとはいえ、ここまでしてよかったのだろうかのう……」



「あの、わたしは神界の知識に乏しくて恐縮なんですが、神界の始祖神の方々はどこから来られたのでしょうか」


「そもそもは、ビッグバンの後にこの銀河系が成立し始めたころ、『既におわした』と伝わっておるの」


(やっぱりそう伝わっているのか……)


「その始祖神方は、まず神界を創られ、その後は銀河宇宙で『天地創造』と銀河の住民への『知性付与』を始められたのだ」


「その始祖神の方々は何柱いらしたのですか?」


「男神と女神で合わせて1000柱おわしたそうだ。

 その1000柱の神が約450の家系の始祖になっておるのだよ」


「その後新たな神も加わって新たに5000の家系も誕生し、その後も神の増加は続いて最終的には25万の家系が成立したそうだ。

 100億年前からは新たな始祖神の登場は無くなったそうだが」


「その当初450家系の子孫は現在400家系ほど残っておるがの、その当主の全員が上級神となって、それぞれ部門長や上級神会議議員といった重職に就いておったのだ。

 わしのマイランゲルド家も、エギエルのメリアーヌス家も、アルジュラスのルーセン家も、エリザベートのリリアローラ家もこの450家の血筋だ」


「だが、そのうちの300家の当主とその息子、孫のほぼ全員が、この度の不祥事で神界刑務所に入ることになってしまった。

 大罪を犯したのだから仕方の無いこととは言えな……」


「かの家系の内、まだ成人前の者たちは今後の努力でその地位を取り戻せるかもしらん。

 だが既に15歳を過ぎている者たちは極めてE階梯が低く、この先も部門の重職に就くことは難しいだろう」


「25万の家系の当主や嫡男嫡孫たちのほとんどは上級神や中級神としてやはり重職についておったが、このうち20万の家系の当主嫡男嫡孫は既に刑務所か農業部門におる。

 如何に必要なことだったとはいえ、我らにはこれら始祖神の家系に壊滅的打撃を与えてしまったことが堪えておるのだよ……」


(これはそろそろ頃合いかな……)


「ご教授誠にありがとうございました。

 それでは恐縮ですが、或る映像を御覧頂きたいと思います。

 まずは30分ほどの映像ですが、これは銀河宇宙の初等教育の場で使われているテキストをまとめたものになります」


((( ………… )))



 映像が始まった。

 タイトルは『初期銀河史学習』である。

 初等学校向けのため、平易な言葉でわかりやすく説明されていたが、その内容は現在の神たちにとって相当な衝撃だったようだ。


 まもなく3柱の神は硬直し、脂汗を流し始めた。

 ときおり大きく呼吸しているのは息をするのも忘れているのだろう。

 映像が終了しても3人はしばらく身じろぎもしなかった。



 我に返った前最高神ゼウサーナがようやく声を発した。


「の、のうタケルよ…… こ、これは真のことなのか?」


「実は銀河連盟には膨大な量の証拠映像や記録が残されておりまして、今の映像にこれら資料を加えたものが銀河の中等教育の場で使われているものになります。

 全部で2時間ほどの映像なのですが、ご覧いただけますか」


「是非見せてくれ……」



 やはり今回の映像を見ても3柱の神々は硬直していた。

 特に『天族』のお姿を見た時と、最初の1000人の銀河人たちが『天族』に雇われて『天族の使徒』、略して『天使』と呼ばれるようになった証拠映像では最大級に硬直している。


 2時間の映像が終わった。

 3柱の神々の顔はげっそりとやつれている。

 現最高神さまと前最高神さまの耳は、頭にぺったりと張り付いていた。


「さて、軽食とお飲み物を用意させて頂きました。

 しばし休息して頂いたのちにご質問にお答えさせて頂きたいと思います」



 神々は軽食はほとんど食べられなかったようだ。

 だが、かなり甘めにした飲物で糖分を補給してやや顔色が持ち直している。



「それで…… この映像は真のことなのだの……」


「はい、これだけの証拠が残っているのですから、真実と認めざるを得ないでしょう」


「な、なぜ今の神界には記録が残っておらんのだ……」


「102億年前に銀河連盟が発足し、101億年前に『天族』が元の親宇宙マザーユニバースに帰還されました。

 その後、天界の天使たちは銀河宇宙の災害や紛争の救済で大失敗しましたよね。

 そのころから、天界に残された『天使』たちは歴史の改竄と記録の抹消を始めたようです。

 そうして、銀河宇宙出身の天使たちは自らを神と僭称し、同時に天界を神界と呼称し、自らの出自を飾るために特に天族の記録を抹消したのでしょう。

 まあ大失敗をしたからこそ己の出自を飾って代償行動にしたかったのかもしれません」


((( ……………… )))


「天族は帰還に際して天使たちと天界の両方に『ご指示書』や証拠記録を残されました。

 それも自己修復型記録ドローンなどという超高度技術をもってです。

 銀河宇宙には、それらが全て残されているにも関わらず、今の神界にそれが無いということは、100億年前に天使たちが神を僭称し始めた際に、よほど徹底的に天族の記録を破棄したのでしょうね。

 同時に『神界』に引き籠って銀河宇宙との接触を断ったために、天族のことは伝わらなかったのでしょう」


((( ……………… )))



「そ、そなたはこの事実をすべて知っていたというのか……」


「いえ、わたしだけではありません。

 この内容が初等や中等教育機関で教えられているということは、銀河の神界認定世界25京人が知っているということになります」


「「「 !!!! 」」」


「つまり、神界でも銀河出身の初級神から天使見習いまでの全員が知っているのですよ」


「「「 !!!!!!! 」」」



「だ、だが、この事実を知りながら、なぜ銀河の民は我らを『神』と呼んでいるのだ……」


「それには多くの理由がありますね」


「ぜ、是非聞かせてくれ……」


「まずは今神界の神と呼ばれるひとたちは、104億年前に天族にリクルートされ、『天使』とされた特別な方々の子孫であること。

 天地創造や知性付与、寿命延長、恒星間転移など、神の御業と呼ぶに十分な高度魔法技術を保有していること。

 まあ、保有していても使えるとは限りませんが」


((( ……………… )))


「そして、これら高度魔法技術の継承者として天族に認められていること。

 かつ実際に天地創造と知性付与を為して来たこと。

 また、ヒューマノイドには絶対者を神として崇めたいという心理が存在すること。

 さらにもはや数十億年も神や神界と呼ばれ続けて来たために、抵抗が無くなっていることなどが理由でしょう。

 まあ銀河の民の中には、『神を僭称する元銀河人たち』にニガ笑いしている者もいるかもしれませんが」


((( …………………… )))


「ヒューマノイドが神を崇めたがるという欲求はけっこう強固なものなのです。

 なにしろわたくしの母国である日本では、統一王朝が成立した1500年前からつい75年前まで、『王朝の始祖は神であり、ゆえに現王朝も神の一族なのである』と信じられていましたし、これを否定すると逮捕投獄されて場合によっては死罪になっていましたからね」


「なんと……」


「ただ、ひとつご指摘させていただくとすれば、天族は『天使たちは自らを神と僭称してはならない』とは一言も言っていないのです。

 まあ、いくらなんでもあのE階梯が高い天使たちが、そこまで不遜な態度を取ることは無かろうと考えていたのかもしれませんけど。

 ひょっとしたら、天使たちのE階梯の低下とともに、神の僭称が始まったのかもしれませんね」


((( …………………… )))


「ですからもし天族が当時や今の神界や銀河宇宙を観察しているとすれば、天族もまたニガ笑いしているかもしれません」


((( ………………………… )))



「それではもう一度天族の方々のご指示を考えてみましょう。

 まず大前提は、『これからの銀河宇宙は()()()()()()()()()()()運営していくこと』です。

 これは充分に機能していますね。

 今の神界は銀河宇宙の発展と運営になんら関与していませんから」


((( あぅ…… )))


「また、銀河宇宙では種族差別は一切行われていません。

 まあ種族差別ではないにせよ、神界では神界生まれの神が銀河生まれの神を大いに差別していますが」


((( あぅあぅ…… )))


「それでは『ご指示』のうち、その他の主要部分について考えてみましょう。

 その内容は、

 1.『天地創造と知性付与を続けること』

 2.『E階梯の上昇に努め、併せて高度魔法能力の継承に努めること』

 3.『授けた高度魔法は濫りに広めないこと』

 4.『銀河の個別世界が深刻な災害に見舞われた際には、継承された高度魔法技術を用いてこれを助けること』

 です。


 このうち1.の『天地創造と知性付与を続けること』は、実際に行って来ていますよね」


「あ、ああ、幸いにも続けて来ておるの……」


「2.の『E階梯の上昇に努め、併せて高度魔法能力の継承に努めること』については、残念ながらE階梯上昇の努力はありませんでした。

 ですが、最近では幼児児童教育の改革により、急速に改善が見られています。

 また、E階梯の低い者を隔離し、新たに銀河出身のE階梯の高い天使たちを採用して職につけるという施策も、今後神界の実務者の平均E階梯を急速に上げていくことになるでしょう」





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