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*** 93 番の約束 ***

 


 大勢のリリアローラ一族が出産祝いにやって来た。

 どうやら子猫たちの目が開いてから来るのが慣例らしい。

 その一族も多くは子供や子猫を連れており、最初はやや緊張していたセルジュくんとミサリアちゃんだったが、すぐに慣れて念話でなにやらうにゃうにゃとお話をしていた。



「それにしてもエリザベートさま、ここは素晴らしい環境ですねぇ」


「ふふ、この邸もあのタケルがプレゼントしてくれたのだ」


「う、羨ましいです」


「そなたたちもすぐに帰ったりせずに、このリゾートにしばらく滞在してみてはどうだ?

 ここならば時間の流れが60倍になっておるので、たとえ60日遊んでいたとしても神界では1日しか経たないぞ」


「でもこんなに大勢このお邸に泊まるのもご迷惑では……」


「いや、1階ロビーの転移装置はホテルに繋がっておる。

 そこからホテルに行って泊ればよい。

 因みにホテルとレストランはすべて無料だからの」


「「「 !!!! 」」」


「そうして日中はまたこの邸に来て、子供たちの遊び相手になってくれ」


「本当にしばらく滞在させていただいてもよろしいんですか?」


「もちろんだ。

 しばらくではなく永住でもよいぞ。

 そして、小さな子を持つものたちは、是非『幼稚園』というものに通わせてみよ。

 タケルのお勧め施設で、子供たちのE階梯に素晴らしい効果があるとのことだ。

 もちろん幼年学校も素晴らしいぞ。

 妾がここに引っ越して来たのも、この子たちをその幼稚園と幼年学校に通わせてやりたかったからなのだよ」


「「「 あ、ありがとうございます…… 」」」



 こうしてリリアローラ一族の者たちも、1000人近くがこのセミ・リゾートに引っ越して来ることになったのである。

 邸の大ホールはいつも乳幼児子猫たちでごったがえしていた……


 もちろんタケルの両親も孫を見ようとやってきた。

 さすがは2人とも銀河人であり、猫人族の母親を持つ孫たちが猫の姿でも一切動じていない。


「可愛いわぁ♡」


「ああ、可愛いなぁ♡」


 子供たちもすぐにおじいちゃんおばあちゃんに慣れたが、ミサリアちゃんは時折おじいちゃんを見て不思議そうな顔をしていた……




 子猫たちの成長は早く、すぐにとてとてと歩き回るようになった。

 セルジュくんは歩き疲れるとソファにいるタケルの脚をよじ登り、タケルの膝の上で寝てくれる。

 だが、相変わらずミサリアちゃんはタケルに触らせてもくれなかったのだ。



 或る日、タケルとエリザベートは子猫たちを庭で遊ばせていた。

 子猫たちは初めて見る芝生や草花に興味津々である。


 タケルは邸の周りに結界を張っていたし、子猫たちにも防御魔法をかけていたので危険はない。


「さあ2人とも、おやつにしようか」


(はぁーい♪)


 セルジュくんはすぐに来てくれて、タケルの膝の上でペロペロとちゅ〇るを舐めている。


 だがミサリアちゃんはやはり来てくれなかったのだ。

 だが植え込みの中から白いしっぽが立ち上がって揺れているので、こちらを伺っていることは明らかである。


「ミサリアちゃん、ちゅ〇る美味しいよ」


 するとミサリアちゃんが全力疾走で走って来て、タケルが持つちゅ〇るを咥えてまた植え込みに戻っていってしまったのだ。


(あー、まだ封を開けていないのに)


 ミサリアちゃんはしばらく植え込みの中でジタバタしていた。

 だが、そのうち封の開いていないちゅ〇るを植え込みから放り投げてしまったのである。


「ねえ、ミサリアちゃん、パパが封を開けてあげるよ」


(ど、どうしても開けたいっていうんにゃら、開けさせてあげてもいいにゃ!)


「ミサリアちゃんのために、どうしても開けてあげたいんだ」


(っ―――っ!)


 タケルは芝生の上のちゅ〇るの封を開けて、ちゅ〇るを手に持った。


「開けさせてくれてありがとう、ほらちゅ〇るだよ♪」


 するとミサリアちゃんはまたダッシュで走って来て、ちゅ〇るを咥えて植え込みに戻っていってしまったのである。



 また或る日、タケルとエリザベートがリビングにいる際に、ミサリアちゃんの姿が見えなくなった。

 セルジュくんはママの膝の上で寝ている。


 タケルがミサリアちゃんのマーカーを辿ると、ミサリアちゃんは壁に張り付いていた。

 どうやら壁のクロスで爪とぎをしているうちに、クロスに爪を立てて登れることに気がついたらしい。


 だが……

 1メートルほど登ったミサリアちゃんが首をひねって下を見た。

 どうやら登れはしたが降りられないらしい。

 そのままさらに50センチほど登ってまた下を見て、そのまま固まっている。



「ねえミサリアちゃん、困っているならパパが助けてあげようか」


(こ、困ってなんかいないにゃ!)


 だがミサリアちゃんが動かない。

 そのうちに手足がプルプルし始めた。

 また、どうやら涙目にもなっているようだ。



「ねえミサリアちゃん、パパどうしても助けてあげたいんだけど、助けられてくれないかな」


(ど、どうしても助けたいんにゃら、た、助けられてあげてもいいにゃ!)


「ありがとう♪」


(っ―――っ!)


 タケルはそっとミサリアちゃんを抱くと、床に降ろしてあげた。

 ミサリアちゃんはふらふらしながらもママのところに走って行って、その胸にしがみついている。



 翌日。

 タケルが仕事に出かけると、エリザベートがミサリアちゃんを膝の上に乗せて目を見つめた。


「のうミサリアよ。

 そなたはパパのことが嫌いなのかえ?」


 ミサリアちゃんの目にみるみる涙が溜まって来た。


(き、きらいじゃないにゃ!)


「ならば何故あのようにパパに冷たくしておるのだ?」


 とうとうミサリアちゃんの目から大粒の涙がぽろぽろと落ち始めた。


(だって、だってだって、猫人族のパパは、ママとの交尾が終わるとすぐにいにゃくにゃっちゃうんでしょ!

 親戚のお兄ちゃんやお姉ちゃんが来たときにも、パパはいっしょにいにゃかったし!

 パパがいにゃくにゃったら、あたちもうかにゃしくてかにゃしくて、どうにかにゃっちゃうもん!

 だから、なるべくパパと仲良にゃかよくしにゃいようにしてるにょ……)


 リザベートが微笑んだ。


「あのな、パパとママは、番になる約束をしたのだよ」


(えっ……)


「だからずっとずっと一緒にいられるぞ」


(ほ、ほんとう?)


「本当だとも♪」


「み、みさりあも?」


「もちろんミサリアも一緒だ♡

 今晩パパが帰って来たら聞いてごらん」


(うん……)



 その晩タケルが邸に帰ると、ミサリアちゃんがタケルの前の床にちょこんと座った。


(ね、ねぇパパ、パパはママと番のお約束をしてるってほんとう?)


「もちろん本当だよ?」


(じ、じゃあずっとずっといっしょにいるにょ?)


「ああ、ずっとずっと一緒だよ」


(み、みさりあも?)


「もちろんミサリアちゃんともずっとずっといっしょだよ♪

 当たり前じゃないか♪」


 う、ううう、うにゃぁ―――んっ!


 こうしてミサリアちゃんもタケルに飛びついて来てくれたのである。



『おうおう、可愛ええのう。

 とてもあのエリザの娘とは思えんな』


(ははは)



「あー、でもミサリアちゃんが番の相手を見つけて一緒に暮らすようになったら、この邸を出て行くのはミサリアちゃんの方かもしれないね」


(あたちこの邸を出ていかにゃいもん!

 この邸でいっちょに住んでくれるひとと番ににゃるもん!)


「そうかそうか、それならずっといっしょにいられるね♪」


(うん♪)



 こうしてミサリアちゃんもタケルと仲良くしてくれるようになったのである。



 そして3か月ほど経って子猫たちがしっかりと歩けるようになると……


(ねえパパ、パパは毎日どこにお出かけしてるにょ?)


「パパは毎日お仕事に行ってるんだよ」


(あたちもいっちょに行きたい♪)

(ぼくも!)


「それじゃあお仕事が忙しくないときは一緒に行こうか」


(( うん! ))


 こうしてタケルは2人を左右の肩の上に乗せ、救済部門総司令部に出勤するようになったのである。

 因みに2人を連れていくときは、オーキーとの鍛錬はお休みになる。

(たぶんショックでトラウマになるだろうから)


 美しい子猫たちを両肩に乗せてセミ・リゾートを歩くタケルの姿はたちまち大評判になった。

(もちろん『念動』魔法で子供たちが落ちないようにしている)

 しかもご機嫌な子猫たちのしっぽがふりふりとシンクロして揺れているのである。


 タケルが歩いていると非番の職員や職員の家族たちがぞろぞろとついて来るようになっていた。

 また、子猫たちのしっぽが動かなくなると、それは2人が寝てしまったことになる。

 そうすると、今度は後ろにいた連中が前に回り、子猫たちの可愛らしい寝顔を見て身もだえしているのであった……



 もちろんこんな特ダネを見逃すような銀河連盟報道部ではない。 

 たちまちのうちに、この特番映像は銀河3000万世界に配信され、24京9990兆人視聴者を身もだえさせた。

 そうして、銀河800億のタケル神像の肩には、すぐに2人の子猫像も乗せられたのである。

(もちろんしっぽはふりふりと揺れていた……)



 当然のことながらこの格好は銀河世界で大流行することになった。


 ほとんどの恒星系で、あっという間に『肩乗せ子猫人形(可動しっぽつき)』が売り出されることにもなったのである。

 もちろん本物の乳幼児子猫を持つ親は、『肩乗せ用ハーネス』を購入して子猫を肩に乗せている。


 中には、すでに6歳近くになってヒトの特徴も出始めた大きな子を肩に乗せている親もいた。

 子供はもちろん迷惑そうな顔をしている。

 たまたま同じように肩に乗せられている子とすれ違うときは、お互い赤くなって目を反らしているらしい……





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