*** 92 曲者 ***
そして魔石充填アルバイト施設では当然のごとく……
「ぐあぁぁぁぁ―――っ!」
(よし! 隣の魔力注入部屋から悲鳴が聞こえたな!)
(これで奴は気絶したから、注入した魔石は俺さまが頂くこととしよう!
ぐふふふ……)
「な、なんだお前たちは!」
「い、いやこの部屋から悲鳴が聞こえたんで、心配になって様子を見に来たんだよ」
「嘘つけ! 今までそんなことしていなかっただろうに!」
「さては魔石を盗みに来やがったな!」
「そういうお前こそ!」
「まあまあ、魔石の報酬はみんなで山分けにしようぜ」
「仕方ねぇ、そうするか……」
こうした窃盗行為の一部始終は録画されており、間もなく4人の容疑者は逮捕されて神界裁判所送りとなったのである。
神界ではこうした犯罪行為に対する処罰は大変に厳しく、4人とも懲役100年の刑となった。
因みに、彼らの家族は、息子は/兄弟は今神界裁判所の付属施設で働いていると周囲に語っているそうだ。
(まあ懲役刑なのであながち間違いではなかろう)
こうしてアルバイト2500万人の内実に1500万人が逮捕投獄されたために、神界はホームレスもどきたちによる治安悪化を未然に防ぐことが出来たのである。
アルバイトたちは、魔石充填所の作業個室には鍵が無いのは、気絶者救援のためと説明を受けていた。
受刑者たちは、これがタケルの策略だったことは知らない……
また、増員を重ねても僅かに1000人しかいなかった神界裁判所の裁判官たちは、またも過労死の危機に晒されることになった。
だが、以前と同様にAIたちに簡易審理を任せ、時間60倍のタケル神域で休養を繰り返すことでなんとか乗り切ったらしい……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いよいよエリザベートの出産予定日が近づいて来た。
もうエリザベートのお腹も相当に大きくなって来ており、夜の生活もかなり大人しくなっている。
(その分ジョセフィーヌがハッスルしていたが……)
だがまあいつものように、寝ているときにはタケルは確りとエリザベートにしがみつかれてはいるのだが。
そうして或る夜のこと……
夜中に何か違和感を感じたタケルは目を覚ました。
(……何があったんだ?……)
もぞもぞ……
(あっ、お腹の中の子が動いたんだ!)
もぞぞぞ……
(はは、元気だな。
それにもうすぐ会えるのか♪)
タケルは思わずエリザベートのお腹に手を当てた。
(誰っ!)
(!!!)
(なんかヘンな奴が寝ているママのお腹に手を当ててるっ!)
(ねぇ、このひと多分……)
(も、もう念話で会話が出来るのか……)
(曲者だぁ―――っ! 皆の者出会え出会え―――っ!)
(く、曲者って…… なんでそんな言葉を知ってるんだ……)
途端に邸の中で大勢の人が走る音が聞こえて来た。
(これ我が子たちよ、この者は曲者ではなくそなたらのパパなのだぞ)
(!!!)
(やっぱり……)
(あー、邸内の者たちよ、我が子の勘違いだ。
起こしてしまって済まなんだな)
足音が静かになった。
(な、なんでパパがこんなところにいるのよ!
猫人のオスは交尾が終わったらいにゃくにゃっちゃうんでしょ!)
(はは、この男は猫人族ではなくヒト族だからな)
(!!!)
それで俺、翌朝エリザさまに聞いてみたんだよ。
「ところでなんでこの子たち、『曲者だぁ』とか『皆の者出会え出会え!』とかいう言葉を知ってるんですかね?」
エリザベートの目が泳いだ。
「そ、それはの……
妾もそなたの母惑星の文化に興味を持って、いくつかの映像番組を取り寄せたのだ……
そ、その中でも特にあの『水戸〇門』と『暴れん坊〇軍』が気に入っての、全編を取り寄せて見ていたのだよ。
あれは実に面白いの♪」
エリザさま、ヘンな胎教をしないでください!
「妾も子育てがひと段落したら、銀河の未認定世界を廻って世直し旅でもしてみるかのう♪」
(それ…… 誰がお供するんだ?
やっぱりニャイチローとニャジローとオーキーか?
それどう考えても圧倒的銀河最強の配役だぞ。
その3人相手だと俺でも勝てないぞ……
手足ぶった切られて内臓破裂して火ダルマにされるぞ……
それにまさか『暴れん坊上級神』とか呼ばれるようになったりしないよな……)
因みにだが……
日本で働く日本語ペラペラのフランス人が、『ボクは毎週月曜日は絶対に残業せずに真っすぐ家に帰るんだ!』と言っていたそうだ。
それで『何故?』と問われて『水戸〇門』を観たいからと答えたんだと。
それで『どんなところが気に入ったの?』と聞かれて、『だってスカッとするじゃない』と言ったそうである。
因みに、彼の奥さん(同じくフランス人)は、志村けんさんの『だいじょうぶ〇ぁ』を欠かさず見ていたそうである。
『志村さんは世界に通用するコメディアンだよね。だって日本語がぜんぜんわからないウチの奥さんが爆笑してるんだもの♪』とも言っていた…… 合掌。
こうして念話が出来るようになった子供たちは、毎日エリザベートやジョセフィーヌ、そしてジョセフィーヌのお付きの子猫たちとしょっちゅうお話をしていたそうだ。
それからしばらく経って、俺はマリアーヌからエリザさまの陣痛が始まったとの連絡を受けた。
慌てて邸に戻ると、俺はセバスさんに連れられて邸内に用意されていた分娩室に向かったんだ。
「おめでとうございます、元気な男の子と女の子ですよ」
「えっ、もう?」
「ええ、赤子を苦しませることの無いように、陣痛が始まってまもなく、エリザベートさまがご自分で赤子を転移されて外に出されましたので」
(……魔法ってマジ便利……)
「タケルよ、無事生まれたぞ♪
そなたと妾の子だ♡」
「あぁぁぁぁ……」
そこにはベッドにもたれて座るエリザベートがいた。
その胸には小さな黒猫と白猫が張り付いていて、口をムニュムニュしながらおっぱいを飲んでいる。
まだ目も開いていないようだが、その頭の横には小さなヒト耳もあった。
(か、可愛い……
あー生まれたての子猫ってしっぽが短いんだ……
それも根元はそれなりの太さがあるけど、先っぽは細いんだ。
はは、なんかトカゲのしっぽがふりふり揺れてるみたいだな……)
『なぁタケル、ヒト族の新生児はサルみてぇだけど、猫人族の新生児は本当に可愛いな』
(はい……)
「あ、ありがとうございますエリザさま、俺の子を生んでくれて」
「エリザだ」
「あ、ありがとうエリザ」
「ふふ、どうだ初めての我が子を見た気分は」
「か、可愛いですね……」
(短いおヒゲが生意気可愛い……)
「ヒト族には毛づくろいの習慣が無いからの、代わりに撫でてやってくれ」
「はい……」
それで俺、まず手前にいた黒猫の背中を撫でたんだよ。
あー、ふわふわだぁー。
(あ、パパ。初めまちて、ボクパパの息子でしゅ。
これからよろちくでしゅ)
(こちらこそよろしくな)
それで次は白猫を撫でようとしたんだけどさ、その手を短いしっぽでぺしってされちゃったんだわ。
(ちょっと!
今ママのおっぱい飲んでて忙しいんだからね!
雄親は邪魔しにゃいでよ!)
(す、すまんすまん)
俺の次にはジョセフィーヌがもう蕩けそうな顔で2人を撫でていた。
何故か娘もこれには文句を言っていない。
(やっぱり猫人族って母系社会なんだな……)
「それでのタケルや。
この子らの名前なんだが、男の子はセルジューラス、女の子はミサリアメージュでいいかの。
どちらも我がリリアローラ一族の中で由緒ある名前だ。
愛称はセルジュとミサリアだな」
「セルジュくんとミサリアちゃんですか……
いい名前ですね」
子猫たちはお腹がいっぱいになったらしく、おっぱいから口を離して小さくゲップをした。
エリザベートが子猫たちを自分のしっぽに近づけてやると、2人とももぞもぞと動いて寝る体勢に入っている。
セルジュくんは自分のしっぽをママのしっぽに確りと絡ませて香箱座りになり、そのまま前足の甲に顔をうずめて寝始めた。
いわゆる『ごめん寝』スタイルである。
(これ、前足を上下逆さにして肉球に顔を乗せて寝てたら『絶望寝』スタイルだな……)
ミサリアちゃんは、仰向け大の字のヘソ天スタイルで豪快に寝ていた。
しっぽはおざなりにママのしっぽの上に乗せられているだけであった……
翌日、セルジュくんは撫でさせてくれるが、相変わらずミサリアちゃんには拒絶されてタケルは落ち込んでいた。
また、ジョセフィーヌは自分の乳首を子猫たちに含ませてみたのだが、ミサリアちゃんに『おっぱいの出にゃいおっぱいはおっぱいじゃにゃい!』と怒られて落ち込んでいた。
そこでタケルは急いで地球に帰り、『おっぱい型哺乳瓶』を入手したのである。
(タケルの母親も第2子を妊娠したために、武者市では大ベビーブームが起こっており、ベビー用品店が雨後の筍のように出来ていた)
この哺乳瓶は男親が授乳気分を味わうためのものであり、専用のブラのようなものもセットになっている。
ジョセフィーヌがこれを使ったところ、子猫たちがたくさんミルクを飲んでくれたので、涙目になって喜んでいた。
しかも乳首部分にこっそりとちゅ〇るまで塗っていたために、さらに大人気である。
これに対抗すべくエリザベートも自分の乳首にちゅ〇るを塗っていた……
3日後、子猫たちの目が開いた。
2人とも吸い込まれるような青い青い目である。
セルジュくんは真っ黒な体に青い目、ミサリアちゃんは真っ白な体に青い目のそれはそれは美しい子猫たちだった……




