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*** 91 アルバイト制度 ***

 


 だがしかし、生まれの上に胡坐をかいて暮らしていた者たちにはもちろん堪え性というものも無かった。

 おかげで『研修生』という最下級の地位に甘んじることも出来ずに、衝動的に農業部門を再度辞任する者も続出し始めてしまったのである。

 その数は、農業部門従業員3000万人中2500万人にも達していた。

 仮に彼らが引退神などの侍従を希望したとしても、雇用コストが雇用主負担となった現状では働き口は無いに等しかった。

 彼らは実家での冷遇に耐えかねて、神界各地の空き神殿に住み着いてホームレスのような生活を送り始めたのである。


 こうした者たちが犯罪者集団になることを怖れた最高神は、タケルに解決方法を打診した。

 その結果、神界人事部門が魔石や神石への魔力、神力注入アルバイト制度を発足させることとなったのである。


 このアルバイトには3種類あった。

 ひとつ目は15センチ級魔石への魔力注入であり、もう一つは魔石から魔力を吸収して神力に変換しての神石充填作業である。

(土木部門員が出向して行っている作業と同じ)

 そして3つ目が15センチ級神石への直接神力注入である。

(これをまともに為せる者はまだタケルしかいない。

 ニャジローはまだ神力行使を許可されていなかった)



 アルバイトの報酬は全て成果主義であり、魔石や神石への注入比率に基づいて報酬が日払いされることになっていた。

 因みに15センチ級魔石を満タンにすると、銀河宇宙の価格と同じく80万クレジット(≒8000万円)が支払われ、15センチ級魔石100個を用いて神石1個を満タンにすると土木部門員と同じく30万クレジット(≒3000万円)が支払われる。

 そして、もしも神石に直接神力を注入して満タンにすれば、なんと8030万クレジット(≒80億3000万円)が支払われるというのである。

(魔石100個分+魔石からの神石注入費用)


 また、このアルバイトは、人事部門に新設された神石製造所で行われることになっている。


 神界農業部門を衝動的に2度も退職し、ほとんどホームレス状態になっていた神々がこれに飛びついて来た。

 なにしろ家族には『人事部門で働くことになった!』と堂々と言えるのである。

(人事部門は神界でもエリート集団である)



 人事部門のアルバイトに殺到した無職神たちは、早速仕事内容の説明を受けて魔石神石注力所に移動した。

 もちろん、ほとんどの者たちが報酬最高額である神石への直接神力注入を選択している。


『神界でも高貴な血筋の俺さまには神力など有り余っていることだろう!』

『8030万クレジットものカネを稼げば、今まで俺を見下していた家族も驚くことだろう!』

『いや、日に10個の神石を満タンにすれば、報酬は8億クレジットにもなる!』

『そうすればあの高級リゾートに神殿でも買って、贅沢三昧の暮らしが出来るぞ!』


 そうして、彼らはアルバイト所の個室に入り、すぐさまクッションの上で神力注力作業に入ったのであった。



 だが……

 神力枯渇寸前の警告チャイムが鳴ってすぐに計量所に神石を持ち込んだ者たちは、そこで衝撃を受けることになる。


「えー、あなたが注入した神力は満タンの0.00001%ですね。

 ですので報酬は8.03クレジット(≒803円)になります」


「な、ななな、なんだと!

 こ、高貴な血筋の俺さまが枯渇寸前まで神力を注いだのだ!

 そんなに少ないわけがあるはず無かろう!」


「ですが、計量器の表示は確かに0.00001%ですので」


「け、計量器が壊れているに違いないっ!」


「そうですか、それでは仕方ありませんね。

 それではあと1時間ほどで魔力注入と計量のデモンストレーションが行われますので、会議室でお待ちください」



 そして1時間後。

 人事部門のアルバイト担当者は、1000人ほどの神々の前で1人の小柄な猫人女性を紹介した。


「みなさん、こちらは救済部門から出向して下さっているミニャリー初級天使さんです。

 彼女の魔力はレベル200もあるんですよ」


(なんだと! 初級天使ごときがなぜこのような場所にいる!)

(銀河出身の下賤な天使めが!)


 たちまちその場に怨嗟の声が満ちている。


 ミニャリーは涼しい表情でこうした罵声を聞いていた。

 彼女は救済部門の天使たちのうちでもトップクラスの魔力を持ち、この出向任務に抜擢される際にはタケルから直々に任務説明を受けていたのである。

 要はこの任務は、思い上がった神々のプライドをズタズタにすることだったのだ。


「それではミニャリーさん、魔石への魔力注入をお願いいたします。

 いつものことですが、決して無理はしないでくださいね。

 最大魔力の10%ほどの注入で結構ですので」


「畏まりました」


 ミニャリーが魔石に手を当てると、すぐに魔石が薄っすらと灰色になった。

 計測器の表示は1%になっている。


「素晴らしい!

 15センチ級魔石に一瞬で1%もの魔力を注入されたとは!

 あなたへの報酬は8000クレジット(≒80万円)になります」


「「「 !!!! 」」」


「さあ、マネーカードを出してください。

 今この場で入金しましょう」


「あ、あの、わたくしは出向者としての勤務中です。

 ですから魔力注入の報酬を頂戴するわけには……」


「なんの問題もありませんよ。

 例え出向者であっても勤務中でも、魔石への魔力注入の報酬は支払われるというのは、人事部門と救済部門の合意事項ですので」


「そ、そうですか。

 それでは謹んで頂戴いたします……」


((( ………… )))



「如何ですかみなさん。

 このように計測器は正常に動いています。

 そうして、注入された魔力量に比例して報酬は支払われるのです。

 公正無比な人事部門は計測器の不正操作など致しません」


((( ……………… )))


「みなさまは現在ほとんどの魔力神力を使い果たされていらっしゃいます。

 ですから今日はお帰りになられて十分なお食事と睡眠をお取りになってください。

 そうして、明日からは、いきなり神石への神力注入をされるのではなく、まずは魔石への魔力注入を為されたら如何でしょうか。

 魔力レベルというものは毎日使い続けているうちに上がって行くものなのです。

 そうして、魔法レベルが200に至れば、ミニャリーさんのように毎日8000クレジット(≒80万円)もの報酬を手に出来るのですよ。

 いえ、ミニャリーさんはその魔力の内の10%しか注入していませんので、最高で8万クレジット(≒800万円)の日給になりますね。

 これは年に250日働いたとして、年収2000万クレジット(≒20億円)に相当します」


 神々たちの目がギラついていた……



 そうして翌日。


「ほ、ほら警告チャイムが鳴るまで魔力を込めた魔石だ!

 ほ、報酬をよこせ!」


「えーっと、魔力充填率は0.001%ですか。

 あなたの本日の報酬は8クレジット(≒800円)になります」


「な、ななな、なんだと!

 あの下賤天使の報酬が8000クレジット(≒80万円)で、高貴な血筋の俺さまの報酬がたったの8クレジット(≒800円)だとぉっ!」


「その通りです。

 わたしもこの任務を始めてよくわかりましたけど、魔力や神力と血筋や階級には何の相関関係も無かったのですね」


「あうぅぅぅ―――っ!」



 そして、日々の僅かな報酬に満足出来なかった神々は、次第に警告チャイムを無視するようになっていったのである。

 アルバイト所には、主にヒト族系の神が絶叫する声に溢れ、また吐瀉物の酸っぱい匂いが立ち込めるようになっていた。


 6日間も気絶していた神たちは、フラつきながらも魔石を持って計量所に向かった。


「あー、注入された魔力は0.012%ですね。

 まあいいでしょう、オマケして報酬は10クレジット(≒1000円)です」


「な、なんだと……

 6日も気絶していた報酬がたったの10クレジットだと……」


「ですから最初の説明会でも申し上げましたよね。

 完全に魔力が枯渇すると、とんでもない苦痛と共に5日以上は気絶すると。

 ですから、魔力注入は90%に止めて毎日魔力注入を続けた方が、効率は遥かに良いのですよ」


「そ、そんな……」


「今は僅かな報酬ですけどね。

 ミニャリーさんのように毎日魔力注入を続けて20年もすれば、あなたも日に8万クレジット(≒800万円)稼げるようになりますよ」


「あうぅぅぅぅっ……」





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