表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/248

*** 89 安くても旨いものがある ***

 


「そ、それはおかしい!

 いくらなんでもあの小僧にそこまでの資産はあるまいに!

 きっと神界から出ている救済部門の資金を横領したに違いない!」


『いえ、神界救済部門は発足から今現在まで、神界の予算を一切使っていません。

 運営資金や設備資金は全てタケル神さまの個人資産から出ています。

 なにしろ配下の天使見習い10万人の給与までタケル神さまが個人で負担されていたそうですので』


「な、なんだと……

 上級神であるこのわしですら侍従侍女は3人しかおらんのだぞ!

 そ、それが10万人の下僕だと!」


『実際には下僕ではなく部門の従業員ですが』


「お、同じことだろう!」


『…………』


「そ、それもいくらなんでも不自然だ!

 そ、そうだ!

 奴は『資源抽出』とかいう神法を創ったそうだが、神法は元々神界に属するものである!

 その資源を売りさばいて個人の資産にするとは許しがたい!

 訴えてやる!」


『そうして訴え出られた上級神会議メンバーの方々151人が、全員流刑星に追放されたのをお忘れですか?』


「!!!!!」


『それに、資源売却資金はすべて救済部門の設備投資に使われています。

 このことは神界監査部門も確認していますし。

 それに、タケル神さまは、初級神どころか天使見習いにもなっていない銀河の一般人であったころに、既に5×10の29乗クレジットもの資産をお持ちだったそうですね』


「な、なに……」


『これは神界の年間予算の1兆年分のさらに500万倍になるそうです』


「!!!!!」


『ということでですね、タケル神さまはその気になれば、このようなリゾート惑星など何兆個でも購入出来るのですよ』


「うぅぅぅ……」


『そんなどうでもいいことよりも、明日は人事部門に連絡を入れて、来年度の年金の前借をお忘れなきようお願い申しあげます、上級神閣下。

 なにしろ閣下は今日1日で438万クレジット(≒4億3800万円)もの大金を使ってしまわれたのです。

 貯金を合わせても、支払いには全く足りません」


「ぐうぅぅぅ……」


『来年度の年金の前借をしておかなければ、チェックアウトの際に大恥をかくことになりますよ。

 場合によっては無銭飲食の罪で逮捕されます』


「あうぅぅぅ―――っ!」



 翌朝、上級神閣下のお顔は、真っ青になった上にげっそりと頬がコケていたそうである……




 神界人事部門年金係にて:


「おいおい、また来年の年金の前借申請だとよ」


「先週今年度分の年金を支給したばかりなのにな」


「これでとうとう1000人目か」


「中には3年先まで前借してる引退上級神もいるぞ」


「引退神って、なんでそんなに浪費癖が激しくなったんだ?」


「「「 さあ? 」」」



 いやキミタチ、前借した神さまの名前をよーく見てみ。

 全員がヒト族系の神さまだから。




「ねえ曾々おじいちゃん、今日は何をして遊ぶの?」


「そ、そうだな、今日はみんな家族ごとに遊びにいったら、ど、どうかの」


(もちろんそうすれば食事も買い物も各家族の支払いになるからである)


「でも曾おじいさま、夕食はみんなで集まって食べませんか?」


「そ、そそそ、そうだな。

 だ、だがせっかくこのリゾートに来たのだ、今晩は別のレストランで食事をしてみようか……」


(このリゾートには、激務に疲れ切ったお父さんが3次元時間の昼に30分だけ休みをとって、丸1日寝ているための安価なホテルやファミリーレストランもたくさんある)


「ボク、ハンバーガーがいい!」


「あたち、フライドポテト!」


「ぼく『むしゃらーめん』!」


「は、はは、そうかそうか、た、たまにはそういうものも良さそうだの」



 その日上級神閣下は奥方と一緒に湖畔で過ごされた。

 そこでは大勢の家族連れがさまざまなアクティビティーに興じており、しかもそれがすべてタダだというのである。

 閣下は遊覧船に乗り、イルカ型ドローンの背中に乗せてもらった子供たちが歓声を上げているのを御覧になった。

 また、湖の畔には大きなウォータースライダーもあって、子供も大人も歓声を上げている。


(なんということだ……

 まったく金を使わずとも何故皆このように楽しそうに出来るのか……)


 閣下ご夫妻は昼食も湖畔のファミリーレストランでお取りになられた。

 閣下は『大人気セット9クレジット!』と書いてあるのを見て、武者ラーメンとおいなりさんのセットを召し上がった。


(な、なぜたった9クレジットの食事がこんなに旨いのだ!

 ゆ、許せんっ!)



 夕食は皆がフードコートに集まって食べた。


「うーん、やっぱりこの『ふらいどぽてと』と『らがーびーる』の組み合わせは最高だな!」


「ねえウエイターさん、この『ふらいどぽてと』って、たったの1クレジットでもとっても美味しいんだけど量が少ないのよ。

 もっとたくさん持って来てくださらないかしら」


「お客さま、実はいつも熱々の揚げたてを召し上がって頂くためにわざと量を少なくしてあるのですよ。

 熱いポテトと冷たいビールの組み合わせは大人気ですので。

 それで、そこにあるフライドポテト・ボタンを押して頂ければ自動的に揚げたてのポテトが転送されて来ます」


「まあ、そうだったのね♪

 それならいつも熱いポテトが食べられて嬉しいわ。

 どうもありがとう♪」


「いえいえ、それではお食事をお楽しみください」


(くそっ、たった1クレジットのポテトでこんなに喜びおって……)



「あー、『らがーびーる』って旨いなぁ」


「そうねぇ、昨日のレストランのワインも美味しかったけど、ちょっと重すぎたわよね」


「俺はやっぱりビールの方がいいかな」


(くそっくそっ、1杯5クレジットのびーるの方が一瓶5万クレジットのワインより旨いだとぉっ!

 こ、こいつらなんという味オンチなのだ!

 あ、あんな高いもの喰わせてやるんじゃなかった!)


 いやあんたこそ値段オンチでしょうに……



「あー、このおいなりさんってすっごくおいちい♡」


「どれどれ、ちょっと変わった見た目の食べ物だけど、パパにもひとつもらえるかな」


「はいどーぞ♡」


「うおっ! これほんとに旨いな!

 もう一皿頼もうか」


「わーい♪」


(くそっくそっくそっ!

 たった3クレジットの料理がそんなに旨いだと!)


「あー、この『はんばーがー』と『こーら』の組み合わせって最高っ!」


「これでたった5クレジットか。

 これならハンバーガーセットだけ食べに、今度日帰りで来ようか」


「わーい♪」


(くそっくそっくそっくそっ!

 たった5クレジットの料理が!)


 どうやらまだ上級神閣下は、『マウントを取らずとも楽しい』『安くても旨いものがある』といったことが許せないようだ。



「ねえ、初めて食べるお料理が全部こんなに美味しいんだから、明日はもっと違うお料理も試してみない?」


「そうだな、俺はあの『おこのみやき』と『たこやき』に興味があるな」


「わたしは『すぱげてぃー・みーとそーす』を食べてみたいわ♪」


「ぼく、『ぷりん』や『ぱふぇ』を食べてみたい!」


「あたち、『けーき』と『さいだー』がいい♪」


「それじゃあ明日もここで食べようか」


「「「 わーい♪ 」」」


(くそっくそっくそっくそっ!)



 こうして1人憤慨する上級神閣下を残して、49人はリゾートでの休暇を存分に楽しんでいたのである。


 そしてその晩。


『上級神閣下、やはりおカネがギリギリです。

 このままでは神界に帰られても、3人の侍従侍女の給与が払えずに、3か月ほどで閣下は逮捕されてしまいます。

 閣下と奥さまの生活費もございませんし。

 明日人事部門にご連絡されて、もう1年分の年金前借を申し入れてください』


「ぬがあぁぁぁ―――っ!」



 そしてチェックアウトの日。


 フロントで蒼白な顔と震える手で支払いをする上級神閣下のお姿があった。

 なにしろその総支払金額は490万クレジット(≒4億9000万円)にもなっていたのである。

 その涙目になって震えているお姿を見て、物陰にいたレストランの支配人ドローンとソムリエ・ドローンは、大いに溜飲を下げていた……



 そしてさらに神界に戻って来た上級神閣下は仰け反られた。

 なんと、あのリゾートでは正味5日間も過ごしていたのに、3次元の神界ではたったの2時間しか経っていなかったのである。


 2時間で500万クレジット(≒5億円)近いカネがパーになってしまっていたのであった……







ドローンたちにザマァされる上級神閣下……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ