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*** 83 反逆罪 ***

 


 議長による臨時上級神会議開催宣言のあと、早速議事が始まった。


「臨時上級神会議開催動議を提出された発起人代表ブゲリア・メルナンデス上級神殿。

 その動議内容の説明を始めてください」


「はっ議長閣下。

 我々発起人はある決議案を用意させて頂きました。

 この決議案には神界上級神会議議員300名の内過半数である151名の署名を頂いております。

 そこでこの場でその決議案の趣旨をご説明させて頂き、もって最高神さまにその決議の採択をお願いしたいと思っております」


「その決議案の起草者代表もブゲリア・メルナンデス上級神殿でしたね。

 それでは早速その決議案の説明を始めてください」


「はっ、それでは」


「いやそれには及ばぬ」


 突如最高神閣下が割り込んだ。


「わたしも含めてこの議場の傍聴席にいる者は、すべて決議案を熟読しておるからの。

 もちろん賛同者全員の署名も確認しておる」


 傍聴席にいる者たちの全員が頷いていた。


(な、なぜ決議案の内容が漏れているのだ……)


 どうやらブゲリア・メルナンデスは、署名を拒否した者がその内容を報告していたとは思っていなかったらしい。

 視野狭窄と自己厨もここまで来れば驚きである。



 最高神閣下の表情が穏やかなものになった。


「それでのうブゲリア・メルナンデスよ、決議案の内容についていくつか教えてもらいたいことがあるのだ。

 よろしいかの」


「も、もちろんです最高神閣下……」


「まずな、不思議でならぬことがひとつあっての」


「な、なんでございましょうか」


「なぜその方らは決議案の中であのタケル神を称賛しておらんのだ?」


「な、なんですと!

 なぜあのような銀河出身の下賤者を称賛しなければならないのですか!」


 議長閣下が口を挟んだ。


「ブゲリア・メルナンデス上級神殿、その発言は神界法が禁じる差別発言に当たります。

 特に上級神会議のような公的な場所では控えてください。

 再度繰り返されるようでしたら、議会侮辱罪によりあなたは即時逮捕拘束されます」


「ぐうっ!」


 ブゲリアは(下賤者を下賤者と呼んで何が悪い!)と怒鳴りたかったのだが、かろうじて自制した。

 ここはあの生意気な若造を追放して屈辱を味合わせ、大金を手にする重要な場所だと思い直したからである。


「さ、最高神閣下は何故あのようなわかぞ、いや神を称賛しないのかと仰せですが、あ奴、い、いえあの若い神が銀河宇宙で行ったことは、すべて神界の威光によるものであります!

 よって個人を称賛すべきものではありません!」


「そうかのう……」


「実際に銀河宇宙では神界支持率とやらが98%までも上がって来ているそうでして、これも全て長年に渡る神界の威光がようやく銀河の民草に届いたものと思われますっ!」


「あのな、過去100万年間の神界平均支持率は平均18%だったそうなのだ。

 だが、あの宙域統轄部門の不祥事が明るみに出た後は、わずか0.8%にまで落ち込んでおったそうだの」


「な、なんですとぉっ!

 だ、誰があの不祥事を銀河宇宙にリークしたというのですかっ!」


「はは、銀河連盟の調査部は極めて優秀なのだよ。

 その調査部が宙域統轄部門の40万神域の内、95%もの神域が無人になっていることに気がつかないわけはあるまいに」


「!!」


「加えて神界にて勤める銀河の天使や天使見習いたちは、年に1度の長期休暇で母惑星に里帰りしておるだろう。

 彼らが各恒星系政府の事情聴取に応じたのだろうの」


「そ、そのような者共は即刻見つけ出して、雇用主もろとも厳重に処罰すべきです!」


「もしそれがそなたの侍女や侍従であってもか?」


「!!!」


「それにそもそも事情聴取に応じることが、いったいどのような罪に問われるというのだ?」


「そ、それは神界の不祥事を公開した機密事項漏洩の罪でありますっ!」


「ほう、誰があの不祥事を機密事項に指定したというのだ?

 まさかそなたが勝手にそう言っているのではあるまいな」


「あぅ……」


「それにの、前最高神さまのご指示で神界から銀河連盟に陳謝代表団が訪問したことも知らんのか?

 そのときの代表団団長は当時最高神政務庁主席補佐官であったわたしだったのだぞ」


「!!!!」


「神界公報にも載っておったはずだが、やはり読んでおらなんだのか……」


「……あぅ……」


「ということでだ、元々10万年もの間神界の支持率は平均たった18%でしか無かったのだ。

 それも5万年前のあのタケルーの行動によってかなり嵩上げされておるがな。

 あの行動が無ければ平均12%以下だと推測されておる。

 それがあの宙域統轄部門の不祥事の後に、わずか0.8%にまで落ち込んでおったのだ。

 まあ当然だろう、あれだけあからさまな喜捨強要を繰り返していたのだからの。

 つまり神界への信頼は銀河開闢以来の最低に落ち込んでおったのだよ。

 まさかそなたはこれも神界の威光によるものだとでも言うのか?」


「ぐぅ……」


「ところがだ、あの救済部門の活動を紹介する映像が銀河中に配信された途端に、神界支持率は98%もの銀河史上最高を記録したのだ。

 しかも銀河に約30億ある神殿には、神殿一つにつき数千万から数億の民が殺到しておるそうだ。

 おかげで、現時点で既に昨年の喜捨総額の1億倍もの喜捨が集まっておる」


「「「 !!! 」」」


「それに、そなたらはあの決議案の中で『神界の一部部門の者が、銀河の神界神殿に己の名をつけて呼称させており、これは明らかな反逆行為である』と書いておるがの。

 神殿の呼称が神界神殿からタケル神殿になったのは、すべて銀河の民の意志だそうだ。

 なにしろ全ての神殿前広場には80メートルクラスから300メートルクラスまでの巨大なタケル神像が建立されておるしの」


「「「 !!!! 」」」


「もちろんそなたらの神像など銀河のどこを探しても無いし、喜捨箱は全てそのタケル神像の周辺にあるそうだがのぅ」


「ぐぅぅぅ……」


「まあよい、話を元に戻そう。

 もうひとつ私があの決議案の内容について不思議に思うことがあるのだがな」


「な、なんでございましょうか……」


「そなたらは、あの決議案の50%がタケル神への嫉妬で出来ていて、残りの50%がタケル神の資産を我らによこせという強欲で出来ておることに気づいておらんのか?」


「「「 !!!!! 」」」


「なぜそれほどまでにタケル神が憎いのだ?

 なぜそれほどまでにカネが欲しいのだ?」


「う、うぐぅぅぅ……」


「そなたらは一度神界病院にて精密検査を受けた方がよかろうな。

 脳に腫瘍が出来ておるかしれんし、痴呆症が進行しておるかもしれん」


「さ、最高神閣下!

 まさか上級神会議議員のうち過半数が賛同する決議案を無視されるのではありますまいな!」


「そうか、念のために教えてくれんかの。

 無視するとどうなるのかの?」


「神界の上級神の半数以上が賛同しているのです!

 その意思を無視すれば神界が割れるということですぞっ!」


「神界上級神会議の議員の過半数の賛同と、神界全体の上級神の過半数の賛同は違うことではないのか?」


「お、同じことでありますっ!」


「そうか……

 それで神界が割れるとはどういうことかのう。

 教えてくれんか」


(そんなこともわからんのか!

 ボケ始めているのはお前だろう!)


「最高神さまの裁定に反発する上級神が、今の神界から分離独立するとしたらなんとされますか!」


 このころになると決議案に賛同した神々が不安そうに周囲を見渡し始めている。

 むろん激昂しているブゲリア・メルナンデスはそんなことに気づいていない。

 ブゲリアの額には既に太い太い青筋が出て来ていた。


(ああそうか、このブゲリアとかいう奴を激怒させて冷静さを失わせるために、最高神さまはこんな莫迦にするような口調で喋っていたんだな……)



「ふむ、それはそなたたちが第2の神界を創設して分離していくということなのかの?

 それとも決議案に反対する神々を追い出すということなのかの?」


「ど、どちらも有り得るのですぞっ!」


 決議案に署名した者たちはもうはっきりと顔面蒼白になっている。


「そうか、それは神界発足以来最大の大不祥事になろうな……」


「ならば決議案の実行をっ!」



「その前に、ワレングルドよ」


「は、はいっ!」


「そなたはこの決議案の発起人たちに、『賛同すれば曾孫の任官に便宜を図る』と言われて署名したそうだの」


「!!!」


「それからミソルスキーよ、そなたは救済部門を解体する際に押収される金塊のうち1トンを密かに渡されると聞いて署名したのだな」


「そ、そそそ、そのようなことはございませんっ!」


「いやその話し合いの映像もあるのでな。

 言い逃れは無理だぞ」


「!!!」


(し、証拠映像まであるのか!

 い、いったいどうやってぇっ!)


 この場にいる神々は、最高神閣下がタケルに依頼して極小カメラ搭載ナノマシン300個小隊を用意して貰っていたことを知らない。



「それからムラルージンよ、そなたはタケル追放後の救済部門解体機関幹部の地位を約束されて署名しておったよな。

 それで横領でもするつもりだったのか?」


「!!!」


「ところでそなたたちを含む16名は、まだ決議案に名を連ねるつもりかの?」


(な、なぜ最高神は買収に応じた者の人数まで知っているのだ!)


「い、いえ、お許しを頂ければ署名を撤回して……」

「も、もちろん撤回させていただきたいと……」

「わたくしも!」

「「「 わたくしも! 」」」


「ぐぎぎぎぎ……」


 発起人代表ブゲリア・メルナンデスが歯を喰いしばっている。


「まあ今更遅いがな。

 ところで神界最高裁判所長官よ」


「はっ」


「さきほどのブゲリア・メルナンデスの、『第2の神界を創設して分離していく』もしくは『決議案に反対する神々を神界から追放する』という発言について、法的にはどうなるかの』


「はっ、分離と追放のどちらも有り得ると断言した時点で、神界に対する『反逆罪』に該当いたします」


「「「「「 !!!!! 」」」」」


「分離は反逆そのものでありますし、追放が行われるのは最高神さまが決議を棄却された場合のみであり、追放する対象には当然最高神さまも含まれるからです」


「「「「「 !!!!!!!!! 」」」」」


「また、それに加えて、最高神さまへの脅迫罪も適用されるかと」


「「「「「 !!!!!!!!!!!!!!! 」」」」」


「そうかそうか、それではその大罪に対する量刑はわたしが言い渡してもよいかの」


「量刑最終判断権限は最高神さまがお持ちです。

 また、これだけの証人もおりますし、証拠の映像もございますので問題ございません」



 最高神閣下が別人のような神威溢れる声を出した。


「それでは、ここにいる151名に刑を申し渡す。

 その方らは、反逆罪、並びに反逆共同謀議罪、最高神に対する脅迫罪により、神格剥奪の上、流刑星への終身追放刑とする」


「「「「「 !!!!!!!!!!!!!!! 」」」」」



「お、お待ちください最高神さまぁっ!

 あなたは我がメルナンデス一族の、140億年に渡る神界への貢献と功績を無にされようと言うのですかぁっ!」


「ブゲリア・メルナンデスよ、そなたはその一族の140億年に渡る神界への貢献と功績とやらを、反逆を目論むことで、たったひとりで叩き潰してしまったのだよ」


「!!!!!!!!」


「これからの短い人生を先祖に懺悔しながら暮らしなさい」


「あうぅぅぅ―――っ!」





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