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*** 78 白色矮星追放実験 ***

 


 銀河連盟報道部による第1回配信のエンディングは、銀河宇宙を背景に立つタケル神の映像だった。

 タケルは、下半身は黒い細身の道着に上半身は裸で腕を組んで立っており、背中からは神威の翼が展開されている。


 もちろんその肉体は、体脂肪率3%以下の完璧な肉体美を誇っていた。

 ウエイトトレーニングなどで無理やりつけた筋肉ではなく、日々の激しい戦闘訓練によって培われた本物の筋肉である。


 さらにタケルの体が白く輝いているではないか。

 画面上には『この白い光は映像上の効果ではなく、実際にタケル神さまが自ら光を発せられているものです』とテロップが出ている。

 それは圧倒的に神々しい光景だった。

 全ての視聴者はヘイトも忘れて涙を流しながらこのお姿に見入っている。


 だがもちろんこれは、些か緊張していたタケルが、あのエリザベートのゴッドキュア3連発の後遺症で発光しているだけなのであるが……


 また、タケルの顔は完璧なアルカイックスマイルを浮かべていた。

 これももちろん恥ずかしさのあまりニガ笑いしていただけだったのだが、その神秘的な微笑みに、視聴者4兆5000億人の女性の目がハート形になっている。



 後日、このタケルの姿は、立体ホログラム、ポスター、巨大フィギュアなどになって販売されたのだが、その販売総数は神界認定世界25京人の中で、実に40京に達したとのことである。

 どうやら全て欲しがった者が多かったらしい。

 これらの肖像権料収入は、神界の年間予算を遥かに上回っていた。



 また、あのレポーターが言った『銀河の至宝』という言葉もタケルの2つ名として定着した。

 地元日本の武者市での2つ名は相変わらず『歩く下剤』ではあったが……



 この第1回配信のリアルタイム視聴者は僅かに10兆人しかいなかったのだが、これが口コミやあらゆる評価サイトの熱烈な推奨により、再生回数は瞬く間に1000兆回に達したのである。

 その後も週に1度の配信が行われるたびに視聴者は激増して行った。

 そうして、最終的には24京4990兆人に達したのである。


(銀河宇宙の中にも10兆人ぐらいはヘソ曲がりがいるらしい)



 また、第1回配信終了の直後から、銀河宇宙全域の神殿に民衆が殺到した。

 そうして心ばかりの喜捨を行った後は、各種族各民族各恒星系の習慣による祈りのポーズを取ったのである。

 多くの者が泣いていたようだ。


 これに驚いた銀河各地の神殿神職は、慌てて『神界救済部門』を視聴し、各神殿にはタケル神さまの巨大ホログラムや高さ15メートル級から80メートル級もの巨大銅像や石像が建立され始めたのである。

 おかげでさらに信奉者が集まって、神殿前広場には常に大群衆が佇むことにもなった。



 これにより、神界の喜捨収入は一気に1万倍になった。

 しばらく開いた口が塞がらなかった最高神さまと首席補佐官さまから、タケルにその半分を分配するとの連絡が来たのだが、タケルはこれを謝絶し、すべて優秀な天使見習いや心得たちの昇格資金や神界改革資金にして欲しいと申し入れている。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 銀河連盟最高評議会は、臨時総会を開催して『神界協力決議案』の審議と採決を行った。

 その結果、賛成494、反対6の圧倒的多数でこの決議案が採択されたのである。


 尚、反対票を投じたのは、いずれも恒星船製造販売や遠方資源開発を主産業とする選挙区選出の評議員たちだった。

 彼らは採決前の休息時間に評議会議長や幹部を訪れて、もしも決議に賛成などしたら直ちに自分たちの選挙区で評議員のリコール運動が起こってしまうために、反対票を投じざるを得ないのだと弁明していた。


 だが、結果として、彼ら反対票を投じた評議員たちは、選挙区の星民たちのE階梯を見誤っていたことになる。


 銀河神界認定世界の住民のほとんどが銀河連盟報道部の救済部門紹介映像を見るようになっていたため、造船業や資源開発者たちの多くは自分たちが斜陽産業に属することを認識した。

 だが、それは同時に銀河の認定世界が移住や避難などの苦難から解放されることも意味しているのだ。

 まして未認定世界では多くの生命が救われていくことになるだろう。

 このために、それぞれの恒星系では、やむを得ないこととして産業転換の議論が進んでいったのである。


 造船業恒星系は、その大型建造物製造と内部環境構築のノウハウを生かして、セミ・リゾート天体製造業への転換を図ろうとした。

 あの救済部門の紹介映像により、富裕な恒星系や企業グループによるリゾート天体の保有ニーズが飛躍的に高まっていたにも関わらず、それを建造可能な恒星系が少なかったため、参入する価値は充分にあると考えたようだ。


 また、資源開発恒星系は、全ての恒星系が深重層次元恒星船を貸与されることを知り、遠距離恒星系での資源開発の経験が無かった恒星系に対して、資源開発コンサルタントとなることに活路を見出そうとした。

 純粋資源ではなく、高純度資源や一般資源にはまだまだ需要があると見越してのことである。


 こうした産業転換を図ろうとした恒星系は、銀河連盟に対し『産業転換資金無利子融資』を申請した。

 だが、ことごとく断られてしまったのである。


 連盟の公式返答は「融資審査が繁忙を極めているため」であった。

 だが、連盟の担当者が融資を申請した恒星系政府に非公式に伝えた理由は、「あなたの恒星系を含む選挙区出身の評議会議員は、民意を代表するとして、連盟の神界協力決議に反対票を投じていたでしょう。よくそれで連盟に無利子融資申請など出来ましたね」であった。


 こうした恒星系ではすぐに評議員に対するリコール運動が発生し、評議員たちは全員が辞任に追い込まれたのである。


 自分のビジョンを選挙民に提示して理解を求める、といった王道など思いもよらず、常に有権者に迎合しようとするポピュリズム政治家の末路など実に哀れなものであった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 世論調査の結果、銀河全域での神界支持率が98%に達した。

(やはり2%ほどはヘソ曲がりがいるらしい)

 これは、過去100万年間の平均支持率18%からすれば驚異的な上昇である。

 加えて銀河連盟の協力決議も得られたために、タケルは白色矮星の転移実験を開始した。


 最初の実験対象には、特に危険の無い単独で存在する白色矮星が選ばれた。

 この白色矮星は銀河円盤の最端に存在し、3つほどの小さな惑星を伴っていたが、いずれの惑星も小さすぎて重力が弱く大気を繋ぎとめておけなかった。

 故に、かつて一度も生命を宿したことのない恒星系だったのである。

 これら直径4000キロから6000キロの惑星は、すべて事前に神界土木部がタケルの神域に転移させており、既に資源に変えられてしまっていた。



 実験が始まった。

 尚、この実験の様子は宇宙空間用カメラ30台、宇宙望遠鏡10台を駆使して銀河連盟報道部が記録している。

 そのカメラ群には、宇宙空間に亡霊のように青白く光る直径1万5000キロほどの白色矮星が映っていた。 

 その直径は地球よりもやや大きい程度であるが、質量は2.1×10の30乗キログラムと太陽質量よりもやや多い大質量星である。



 まずは、対象白色矮星から1光分ほどの場所に、救済部門の5万キロ級白色矮星専用転移結界装置が転移する。

 そこから白色矮星に向けてメインエンジン1基とサブエンジン12基を駆動させて加速し、光速の5%に達すると、後はほとんど慣性のまま白色矮星に近づいていった。

 画面上ではスラスターの小さな光が数回ほど見え、微妙な進路調整をしていることも見て取れている。


 白色矮星と転移結界装置が接触すると、やはり光も爆発も無く、白色矮星が1秒間で消滅していった。

 一方でこの辺境空間からさらに5000光年離れた場所では、同じく直径5万キロの転移装置から白色矮星が1秒をかけて出現している。

 もちろん実験は大成功であった。


 尚、この映像は本配信の際にはかなりのスローモーションで映される予定になっている。



 次の実験は大質量恒星と大質量白色矮星の連星系でのものだった。

 この連星系は、連星系であるが故に当初持っていた惑星群を全て失って、今は恒星と白色矮星の連星系しか残っていない状態である。


 だがしかし、恒星から放出される太陽風と呼ばれる星間物質が白色矮星の大重力に引かれて降着を続けており、この白色矮星は今後1万年の間にチャンドラ・セカール限界質量を超えてⅠa型超新星爆発を起こすことが確実視されていた。

 さらには連星系の片割である恒星も、その大質量のために、あと30万年ほどでⅡ型超新星爆発を起こすものとされている。


 そして、これら連星系から30光年ほど離れた別の恒星系には、爬虫類から哺乳類に進化しつつある生命がいたのである。


 銀河連盟報道部は、わざわざその惑星にまで取材に行った。

(最近のトンデモな視聴者数により、『神界救済部門』の製作費はほぼ無制限になっているらしい。

 また、報道部はタケルから新造の深重層次元恒星船を貸与されている)


 その惑星上では多くの小型草食恐竜が草を食み、その周囲をネズミやウサギのような哺乳類が走り回っていたのである。

 小さな巣穴の中で子供たちに乳を与えながら、空中を飛ぶカメラを見て不思議そうに首を傾げているウサギもどきの母親もいた。

 巣穴の中にはたくさんの草の実や柔らかそうな草が蓄えられており、巣穴の入り口も石と粘土で半ば塞がれている。


 時折近くの巣穴に住むウサギもどきが巣穴近くにやってきて、ぴーぴー鳴いたあとに小さな穴から草や草の実を落としており、その度に授乳中の母親がぴゅいと礼のような言葉を発している。

 どうやら村の同族たちが授乳中の母親に食べ物を運んでいるようだ。


 その僅かな隙間からドローンカメラが撮影しているのだが、母ウサギもどきはどうやら脅威ではないと判断したらしく、興味を失っている。


「この惑星にはあと5000万年もすれば、知的生命体が生まれているでしょう!」

 レポーターは勝手に断言している。



 画面が転移結界装置に切り替わった。

 第1回の実験と同じくメインエンジンとサブエンジンを駆動して加速を続けているが、今回はそのサブエンジンが時折停止したり、スラスターが噴かされる回数が多かった。

 それだけ慎重にタイミングを調整しているのだろう。


 転移結界装置は徐々に白色矮星に近づいていく。

 恒星から見て白色矮星が銀河中心側にいるタイミングである。


 そして、転移装置が白色矮星と接触すると、やはり1秒ほどかけて白色矮星は消滅し、先ほどの実験で転移した白色矮星から1光時ほど離れた場所に転移していったのだ。


 数日後、連星を為していた恒星が、糸の切れた凧のように暴走を始めた。

 だが、その方向は、銀河の最外縁部からさらに遠方に向けての暴走だったのである。

 そちらの方向にはもちろん恒星も惑星も無い。


 また、暴走恒星の周囲は50基ほどの重力発生装置やダークエネルギー発生装置が飛び、進路変更実験も行われている。

 どうやらすべての実験は順調に進んでいるらしい。



 実際の銀河連盟報道部の配信では、ここでナレーションが入った。


「すべての銀河市民のみなさま、こうして神界救済部門は将来銀河宇宙に災厄を齎す超新星爆発可能性天体を排除することに成功したのであります。

 この偉業はもちろん銀河140億年の歴史の中で初めての大快挙であり、今日のこの日は神界と我々ヒューマノイドの歴史の中で燦然と輝く記念の日となることでしょう」



 エンディング映像は先ほどのウサギもどきの親子の姿だった。

 お腹がいっぱいになった2匹の子らが、母親に密着して満足そうにスピスピと寝ている映像である。

 母親はそんな子供たちを愛おしそうにペロペロと舐めていた……



「30万年後、彼らの子孫はあの銀河系から追放された恒星が超新星爆発を起こし、夜空を白く染め上げるのを見ることが出来るかもしれません……」





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