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*** 77 銀河の至宝 ***

 


 こうした救済部門の概略紹介の後に、番組では救済部門の部門長であるエリザベート・リリアローラ上級神のインタビューも行われていた。


 湖を見下ろす邸宅の応接室では、猫人族の女性レポーターがリリアローラ上級神と向い合って座っている。

 背景のスクリーンにはタケル神の鍛錬風景が映し出されていた。



 銀河人はもちろん誰もエリザベートの顔などは知らず、視聴者たちはそのあまりの美貌に硬直している。

 真っ白な肌に同じく白く輝く長い髪。

 まさに神々しい美しさである。

 まあ正真正銘の神なのだが。


 その表情は、ふんわりと微笑むときには10代後半にも見え、真面目な話をするときには神威を発しながら年長者の威厳を漂わせている。

 なんとも神秘的な表情であった。



「エリザベート・リリアローラ神界救済部門長さま、本日は私ども銀河連盟報道部のインタビューをお受けくださって誠にありがとうございます」


「はは、そのように緊張せずともよいぞ。

 もそっとフランクに話そうではないか」


「あ、ありがとうございます。

 それで、お体の方は大丈夫ですか」


「もちろん問題ない。

 出産予定日までまだ4か月もあるしの」


 初回視聴者10兆人の内、4兆5000億人が衝撃に固まった。

 すなわち視聴者のうちの成人男性全員である。

 成人女性視聴者4兆5000億人は、この女神の美しさには母性の輝きも含まれていると知ってため息を吐いている。



「あ、あの、お気を悪くされたら申し訳ないのですが、そのお腹のお子さまはタケル神さまとのお子さまと聞いたのですが、本当でしょうか……」


 エリザベートが微笑んだ。

 まるで10代後半の少女のような微笑みである。


「もちろんこの腹の子の父親はあのタケルだ♡」


 その瞬間、タケルは4兆5000億人のヘイトを買った。


「そなたも戯曲や映画で見たことがあるかもしらんが、あの5万年前に亡くなったタケルーは妾の番相手だったのだ。

 そうして妾の膝の上で息を引き取る際に、『5万年後に魂が転生したらまた番になってくれ』と言ってくれたのだ。

 あんなに悲しく、また嬉しいことは初めてだったの♪」


 エリザベートの頬に赤味がさした。

 その初々しく可愛らしい表情に銀河10兆人がまたため息を吐く。


「それで転生されたタケルーさまとまた番になられたのですね。

 素敵です……

 5万年越しの愛を成就されるとは……」


「だがの、タケルーの魂はタケルの魂と融合してはおらなかったのだよ。

 タケルの体の中にはタケルとタケルーの2つの魂が存在しておるのだ」


「えっ……」


「タケルーの魂とは念話で会話も出来るしの。

 それでタケルがその体を貸してくれたおかげで、妾とタケルーは5万年ぶりに交尾をすることが出来たのだ。

 この腹の中の子はその時の子だの♡」


 エリザベートがトーガの上から愛おしそうに腹部を撫でている。


「そうだったんですか……」


「だがそうこうしているうちに、妾はタケルにも惚れてしまったのだ」


 4兆5000億人のヘイトが10倍になった。

 この第1回分の配信が行われた日、タケルは朝から『なんか寒気がする。まさか今の体で風邪なんかひくわけないし、どうしたんだろう?』と不思議に思っていたらしい。



「それでタケルーやタケルに正直に言ってみたのだがの。

 2人とも、『まあおなじ体だし、タケルはそもそもタケルーの生まれ変わりだから』ということで許してくれたのだ♡

 それで最近は神界の神殿からこちらの別邸に引っ越して来て、タケルと一緒に暮らしておるのだよ♡

 おかげで毎日交尾もしてもらえておるしの♪」


(註:猫人族は犬人族と並んで性的羞恥心が低い)



 銀河全域のタケルヘイトが30倍になった。

 現場にいるディレクターですら拳を握りしめている。


 ディレクターの額の青筋を見たレポーターは話題を変えねばと思った。


「と、ところで、リリアローラ上級神さまは神界救済部門の初代部門長に就かれましたが、この救済部門とはそもそもどなたがお作りになられたのでしょうか」


「そもそもはタケルだの」


「えっ……」


「あ奴は自らの総合レベルを上げるために、毎日戦闘訓練と魔法訓練に励んでおったのだがの。

 そのレベルが目標である600に届いた際に、妾にこのような企画書を持って来たのだ」


 エリザベートの手にA4判ほどの大きさの紙が2枚出て来た。

 すぐにそれは画面に大写しにされている。


「この企画書では、タケルが神界に救済部門を創り、神界認定世界のみならず、銀河の生命発生世界全てを自然災害から救済してやりたいとの趣旨とその計画が書かれておった。

 それに感心した妾がこの企画書を直接最高神さまの下に持って行き、救済部門の設立認可を求めたのだ。

 その際にはタケルを部門長にしても良かったのだがの。

 まだ多数残っておった原理派神からの攻撃の防波堤になるために、妾が部門長になったのだ。

 妾もそのときまでは神界上級神会議の議長を務めておったし、多少の強面は効くからの」


 そう言った時のエリザベートから少し神威が漏れた。

 それはやはり重職にあった上級神の権威と威厳を漂わせるものだったのである。

 レポーターはきゅっと胃が縮んだような気がした……

 しっぽも少し膨らんでしまっている。


「まあその際に、いくらなんでも上級神会議議長と部門長を兼任すると権力が集中しすぎるということで、上級神会議議長は辞任したのだ。

 よって、救済部門を設立したのは誰かと問われれば、最高神政務庁に上奏したのはタケルと妾であり、それを承認したのが最高神さまということになるの」


「そうだったんですね。

 すべてはタケル神さまの企画書から始まったと……」


「そうだ。

 その企画書とタケルの意思が妾と最高神さまを動かしたのだよ」


(…………)



「あの、ところでエリザベートさまは、部門長として普段はどのような業務を為されておられるのでしょうか?」


 エリザベートが微笑んだ。


「なにもしておらん」


「えっ……」


「なにもしないでただここに座っているだけだの」


「そ、そうなんですか?」


「妾が思うに部門長などのトップを務める者の役割には2つの種類があるのだろう。

 1つ目は率先垂範して部下を率いていくことだの。

 神界で言えば土木部門などがその典型だ。

 そうして、もう一種類の役割とは、いざというときに責任を取って辞任することだけなのだよ」


(…………)


「特に超優秀なナンバー2がいる場合にはその者に全てを任せ、トップの仕事はただそれを見守って、必要な時に引責辞任することだけでいいのだ。

 必要とあらば妾は即日にでも辞任するぞ」


「そんな風にお考えになられていたとは……

 それだけあのタケル神さまが優秀であり、その実力も信じておられると……」


「ふふ、そなたもあのタケルーが5万年前に『戦闘力の怪物』『魔法力の怪物』と呼ばれていたことは知っておろう」


「はい……」


「確かに総合1300などというレベルは、銀河宇宙始まって以来の最強であったことだろう。

 だがタケルーがその境地に至ったのは、上級天使になって伸びていた寿命のおかげで生活年齢が800歳のときだったのだ。

 今のタケルと同じ生活年齢35歳の時点では、僅かにレベル300でしかなかったのだよ。

 つまりはだ。

 タケルはその素質と努力に於いて、タケルーを遥かに凌駕している可能性があるのだな」


(…………)


「タケルーの魂の感覚はタケルの感覚と繋がっておる。

 故にタケルがあまりにも厳しい鍛錬を行うと、妾はタケルーから『もう少し穏やかな鍛錬にするようタケルを説得してくれ!』と頼まれたわ」


「あのタケルーさまがそこまで仰るほどの鍛錬だったのですね……」


「タケルーやタケルのインストラクターたちは、タケルのことを『努力の怪物』と呼んでおるわ。

 しかもそれに加えてあ奴はわずか4年の学習によって、銀河連盟大学付属中学から連盟大学の総合学部までの学位を取ってしまったのだ。

 それも総合学部の卒業試験では最優等の評価まで受けていたほどだ。

 故に奴は『智力の怪物』とも呼ばれておるのだ」


「は、はい」


(わ、わたしも中等部から連盟大学卒業まで飛び級も含めて8年で終えられたけど。

 それをたった4年で修了したとは……

 まさに『怪物』ね……

 それもその間学習だけしていたのではなく、戦闘力も魔法力も銀河最高レベルまで上げていたなんて……)



「そなたも知っての通り、タケルはムシャラフ恒星系とミランダ恒星系、それに銀河連盟準備銀行のおかげで超莫大な資産を手にした。

 なにしろタケルの資産は、銀河の標準的恒星系政府年間予算の1兆倍のさらに16万倍もあるからの。

 つまりあ奴は『資金力の怪物』にもなったのだ」


(…………)


「そうした諸々の怪物が、神界救済部門のナンバー2という地位と10万人の部下と銀河宇宙の工業力と農業力の助力を得た途端に、己の神域にこれほどまでのものを作り上げてしまったのだ。


 しかも、あのガンマ線被害抑止用の巨大結界装置や、白色矮星排除計画や、排除した白色矮星同士を衝突させて資源リサイクルをするという計画、銀河系内の星間物質の密な宙域をスイープして、将来の超新星爆発予想天体をも排除してしまおうという計画。

 これらの発案者もすべてあのタケルだったのだよ」


「!!!」


「故に奴は部下たちから『発想力の怪物』とも呼ばれておるのだ」


「す、凄まじい御方さまだったのですね……」


「もちろん、タケルが為した発想を実現可能なものにしていったのは、奴の諮問会議メンバーだ。

 だがまあそのメンバーもタケルが集めた連中だがの」


「はい……」


「そうしてタケルはその諮問会議の答申を受け、銀河宇宙の工業系コンソーシアムに対して即座に膨大な数と種類の機器の発注を行ったのだ。

 故に最近では『実行力の怪物』とも呼ばれておる」


(…………)


「さらにの、タケルはそうした機器を大量発注すると、ただでさえ銀河の資源価格が高騰している中で、さらなる価格上昇を齎して銀河宇宙に迷惑が掛かると考えたのだ。

 それで妾が授けた神法を駆使し、強大な魔法力神法力も使ってあの『資源抽出』の秘蹟を創造してしまいおった。

 おかげであ奴がいる限り神界も銀河宇宙ももはや資源には困らんだろうの。

 秘蹟の後継者がいないことだけは懸念されるが。

 ということで、あ奴は『資源力の怪物』にも至ったのだ」


「す、すごい……」


「故に妾はそうした怪物中の怪物に全てを任せてのんびりと出来るのだ。

 もちろん今すぐにでもタケルに部門長の座を譲っても構わん。

 だが、そうすると万が一にも事故が起こり、誰かがその責任を取らなければならなくなったとき、あのタケルが部門長を辞任して救済部門を離れることになってしまうのだ。

 それは神界と銀河宇宙の大損失だとは思わんか」


「は、はい」


「故に妾は部門長としてただここに座っておるのだ。

 仮に妾が早期に引責辞任しなければならなくなったとして、その際にはタケルを次に辞任させることなど無いように、『何もしないでただ見守りながら座っている神』を次の部門長にする方向で最高神さまと話はついておる。

 要は妾がここにただ座っておるのは、タケルを、ひいては銀河宇宙を守るためなのだよ」


「よくわかりました。

 神界はあらゆる手段を講じて、銀河の至宝とも言えるタケル神さまと銀河宇宙を守ろうとされているということなのですね……」


「その通りだの♪」





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