*** 75 銀河連盟報道部 ***
一行はその後総司令部周辺の施設を見学して帰ることになった。
タケルが視察団を引き連れて神石充填場に差し掛かると、そこには前最高神さまがいて魔石から神石に神力を充填している。
周囲には7歳から12歳ぐらいまでの子供たちが10人ほどいた。
「おりゃぁっ!」
前最高神さまが気合と共に神力を籠めると、透明だった神石がかなり濃い白色になった。
休息を挟んであと5回も充填すれば、神石は満タンになるだろう。
さすがは前最高神の神力である。
因みに、この神石はその充填率と代金を示してくれるメーターの上に乗っている。
魔石から魔力を吸収して神力に換え、神石に充填する際には15センチ級神石1個につき30万クレジット(≒3000万円)が支給されるため、メーターには充填率16.7%、代金5万クレジット(≒500万円)と表示されていた。
魔石を使わずに直接神力を注いで満タンにした場合は、1個につき8000万クレジット(≒80億円)が支給されることになっているが、これが可能な者はまだタケルとニャジローしかいない。
「うわぁ―――っ! 曾おじいちゃんすごいすごい――っ」
「「「 すごいすごい―――っ! 」」」
曾孫たちに絶賛された前最高神さまが爽やかなドヤ顔になって喜んでいる。
「お前たちも早く大きく強くなって、こうした神力が使えるようになるといいの♪」
「「「 うんっ♪ 」」」
「おや、そこにおるのはタケルではないか」
「ご無沙汰しております前最高神さま」
「タケルや、わしはもう最高神の椅子を譲って半ば引退した身じゃ。
そろそろ名前で呼んでもらえんかの」
「はいゼウサーナさま。
いつも神石の充填ありがとうございます」
「なんのなんの、こうして曾孫たちも見に来てくれているしの。
わしやこの子たちの家賃代わりでもある。
ところで後ろのみなさんはどちらさまかな」
「銀河連盟最高評議会の議長閣下と評議員のみなさん、それから連盟の役職者の方々です。
救済部門の視察を兼ねて親善訪問に来て下さいました」
「それはそれは……
みなさん初めまして。
わしは前最高神のゼウサーナ・マイランゲルドですじゃ」
ゼウサーナが真顔になった。
少々神威も漏れて来たために、銀河連盟一行は硬直している。
「先だっては、神界は銀河宇宙に大変なご迷惑をかけておりました。
深くお詫び申し上げます」
前最高神閣下が深く頭を下げた。
「ど、どどど、どうか頭をお上げくださいませっ!
謝罪の意は既にエギエル・メリアーヌスさまより頂戴しておりますっ!」
前最高神が微笑んだ。
「暖かいお言葉誠にありがとうございますじゃ。
もはや引退した身ではありますが、今後ともよろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします!」
訪問団の皆はさらに大硬直している。
昨日のエリザベート上級神への拝謁でもあれほど緊張したのだ。
それが、今回の相手は最高神の座を退いた身とはいえ、前最高神さまである。
おそらくここ数億年は、連盟最高評議会の議長と雖もお目通りすることは叶わなかっただろう。
その前最高神さまとあれだけ親し気に会話をし、名前呼びまで許されたとは……
改めてタケル神の恐ろしさに感じ入った一行であった。
尚、昨夜の晩餐会でのエリザベートの勧めにより、一行はフードコートで軽食を取って帰ることになっている。
そして、エリザベートがマリアーヌ経由で選んだメニューは、もちろん『ちゅ〇るラーメン』と『カリカリ丼』と『武者ラーメン』であったらしい。
今回の調査団はさらに大満足して帰っていった。
そして、銀河連盟本部に帰り着いた一行は、改めて時計を見て驚愕したのである。
それは、タケル神さまの神域に滞在していたのは30時間ほどだったにも関わらず、3次元時間では僅かに30分しか経っていなかったからであった。
知ってはいたといえ、実際に経験すると衝撃らしい。
銀河宇宙にも時間停止倉庫などの時空間操作技術はあるが、それは多くのエネルギー消費を伴うものであり、あくまで生鮮食料品倉庫などの限られた空間のみになる。
それがあれほどまでに広い空間の時間を60倍にまで加速しているとは……
その後、銀河連盟からたびたび大勢の視察団がやって来るようになった。
ただその全員が、最初にタケルかニャサブローに挨拶したあとに真っ先に向かうのはフードコートになっているようだ。
何故か引率は初回視察団のメンバーが多く、彼らも満面の笑みでフードコートに直行しているそうである。
また、この視察ツアーは神界の神々にも開放されている。
彼らはタケルの神界で休暇を取った際に、このツアーに参加しているようだ。
因みに、『銀河連盟対応大使』に任命されたニャサブローは、大驚愕のあまりしっぽが20センチにまで膨らんでまた涙目になっていた。
完全に毛が立ってしまっていて、まるで『歯間ブラシ』のようなしっぽである。
幼稚園では狸人族の幼児たちに懐かれて、さらに大困惑しているらしい。
幼児たちはニャサブローと自分のしっぽの太さを比べて『おんなじだー♪』とか言って喜んでいる。
ニャサブローは、もし元通りのしっぽになれたとしても、幼児たちに『裏切り者ぉ!』と呼ばれたらどうしようと、どうでもいいことを悩んでいるそうである……
また、視察を終えた連盟評議員たちは、あのフードコートの料理が忘れられなかったようだ。
そこで連盟のAIを通じて、マリアーヌにあの料理を作ったドローンたちの所属を問い合わせて来たのである。
そうして、銀河連盟はムシャラフ恒星系とミランダ恒星系に、まず連盟本部への出店を要請したのである。
銀河連盟本部に来訪する銀河人は多い。
また、評議員たちは母惑星に戻ったときにもこれらの料理を食べたがった。
こうして、わずか10年ほどの内に、銀河3000万神界認定惑星に、合計80億の『武者ラーメン』、合計20億の『和菓子の店武者』と30億の神界救済部門直営『ウエットタイプとカリカリ定食の店』が出来て行ったのである。
武者源治と武者寿三郎は、銀河有数の資産家になった。
だが、2人とも、超莫大な所得税を納めた残りの手取り収入の内、常に90%以上を神界救済部門に喜捨し続けたとのことであった……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
タケルの神域に銀河連盟報道部のスタッフがやってきた。
そのメンバーは、ディレクター1名にアシスタントディレクター3名、カメラマン3名とレポーター2名、それにアシスタントたちが加わった総勢15名の陣容だった。
報道部は、取材を基に銀河系に配信する1時間番組を3回ほど作成する予定だそうだ。
彼らは早速取材を開始した。
宿泊先のホテルで会議室を借り、そこを本部にしてタケルの神域や救済計画の紹介映像を制作し始めたのである。
最初は案内専任のドローンと共にあの視察用円盤に乗って、銀河連盟視察団とほぼ同じルートで 神域を巡っていた。
カメラマンはやや大きめの眼鏡をかけて取材対象物を見ている。
このメガネはカメラになっており、後の編集作業でのズームインもズームアウトも可能な優れものだった。
だが……
ディレクターの眉間の皺が徐々に深くなっていったのである。
一通り神域内を見学したディレクターは、部下に指示して簡単な救済部門の紹介映像を纏めさせた。
そうして、その映像を銀河連盟報道部の本部に持ち帰って、幹部たちに見せたのである。
「ご覧いただいた映像にある通り、神界救済部門の活動は途轍もないものでありました。
あの神域に広がる工場群は、どう見ても銀河宇宙最大のものです。
そして、そこで作られる各種機器のラインナップも数量も圧倒的の一言でした。
それにあの資源倉庫に食糧倉庫群。
なにしろ視界の続く限りそれら直径1000キロクラスの倉庫が連なっているのです。
そして、それほどまでの巨大投資の目的は、すべて銀河宇宙の災害救済だったのですよ。
特に驚くべきは超新星爆発対策でした。
当面は爆発によるガンマ線被害を新開発の巨大転移結界発生装置で防ぎ、最終的には銀河宇宙の超新星爆発予想天体をすべて排除してしまおうという計画です。
そのついでに資源リサイクルまで目論んで」
「それで君はどうすべきだと思うのだね」
「間もなく連盟最高評議会は、神界救済部門の計画を全て承認し、全面的な協力体制を取ることを決議すると思います。
なにしろ救済部門の活動に懐疑的だった評議員たちが、あの神域の視察を終えると熱烈な信奉者になってしまっていますので。
そこで連盟報道部幹部の皆さまも、是非あの神域の視察に行ってください。
そうして、救済部門紹介番組は、1時間尺を3回では到底足りません。
せめて30回、いえ回数を定めない永続番組にするべきだと進言申し上げます」
「その番組を銀河連盟に加盟する恒星系すべてに配信するべきだというのかね」
「我々は確かに公的なメディアではあるが、それでも視聴者数は気になるものだ。
その番組で君はどれほどの視聴者数を目論んでいるのか」
「たぶん、いえ間違いなく、銀河連盟報道部の歴史の中でも空前にして絶後の視聴者数になると確信しております」
「「「 !!!! 」」」




