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*** 73 稼働試験 ***

 


「あの、そのようなことを行っていると、後進世界ではほとんど全員が裸踊りの刑になってしまうのではないでしょうか……」


「別に構わないと思います。

 1回でも刑に服して反省した者だけが文明を築いていけばいいでしょう。

 何度も犯罪を繰り返す累犯者は、そのまま寿命を迎えるまで踊り続けてもらいましょうか」


「「「 !!!! 」」」


「あの、そのような無償配布を行っていると誰も働かなくなるのでは……」


「途中、祠からのお告げによって、この食料の恵みは3年で終わるのでそれまでに畑を再建して作物を育てるように諭します。

 3年後までには飢饉を齎していた自然災害への対処も終わっているでしょうし。

 農業指導も行いましょうか」


「それで皆従うでしょうか……」


「大丈夫だと思いますよ、ヒューマノイドが働く最大の動機は『腹が減った』です。

 ですから皆慌てて働くようになると思います」


「それでも働かなかったとしたら……」


「原始世界でも先進世界でも、働かない者が餓死するのは同じです。

 それで死ぬのは仕方ないですね。

 自分は働かずに他人から奪うことで生きようとする者は、やはり裸踊りを続けてもらいます」


((( ………………………… )))


「それでは次は転移結界装置の実験場に向かいましょうか」



 見学用円盤は基地施設に転移した。

 目の前の宇宙空間には巨大な放射線投射装置が浮いている。

 その左手には上下2枚のスクリーンがあり、さらにその左手のスクリーンにはパラボラアンテナのような装置が映っていた。


「目の前に浮かぶ機器はガンマ線投射装置です。

 一番左手のスクリーンに映っているアンテナは、そのガンマ線を検知する受信装置ですね。

 この2つの装置は10万キロほど離れて配置されているために、こうしてスクリーンでご覧いただいています。

 それではガンマ線を投射してみましょう」


 投射装置のゲージが動き始めた。

 0.33秒後に受信装置の下にゲージが現れてガンマ線の強度を表し始めている。


「少しガンマ線の強度を上げてみましょう」


 強度を示すゲージが長くなり始めると、受信側のゲージも0.33秒遅れて長くなり始めた。


「現在、かなりの出力のガンマ線が投射されています。

 もちろん超新星爆発後のガンマ線量には遥かに及びませんが。

 それでは一旦ガンマ線の投射を中止します」


 ゲージが消えた。


「次にこの2つの装置の間に転移結界装置を移動させます」


 中央部縦2枚あるスクリーンの上側と下側に球体が出現した。


 上側の球体が一旦クローズアップされると、その表面が無数の構造材で覆われていることが良く見えるようになっている。

 その表面には構造材の間に噴射ノズルのようなものがいくつも見え、それとは別の円形の装置も見えていた。

 下側にも球体が見えるようになっているが、どうやらこちらは大分小さいようだ。


「この上側にあるのが転移結界発生装置で、直径は2500キロほどになります」


 声にならないどよめきが起きた。


「下のスクリーンに映っているのは、この転移結界発生装置が吸収したガンマ線を転移させる受信側装置ですね。

 現在3.6003次元の、ガンマ線投棄専用次元に置いてあります。

 球状の装置ですので、ここから出て行くガンマ線はすぐに拡散して、たとえ極超新星爆発クラスのガンマ線でも300光年も離れれば無害なものになっていくでしょう。

 それではまず転移結界装置を作動させましょう」


 中央に置かれた転移結界装置の表面が黒くなり、一気に膨らんで見えた。


「これで現在直径5万キロの転移結界が展開されています」


((( ………… )))


「次にガンマ線の投射を開始します」


 右手に見えるガンマ線投射機のゲージがまた伸び始めたが、左の受信装置のゲージは微動だにしていない。

 一方で3.6003次元にある受信装置のゲージは投射機と同じ幅だけ伸びていっている。



「このように大型転移結界装置は、かなりの強度のガンマ線であっても、それを別の次元に転移させてしまえるのです。

 理論上、原理上は如何なる強度のガンマ線であっても対処可能です。

 まあ銀河の果ての領域で、周囲150光年に生命の存在しない世界にて早く超新星爆発が起こって欲しいものですね。

 そうすれば実証実験が出来ますし」


「あの、質問よろしいでしょうか」


「もちろんどうぞ」


「転移結界装置は、如何なるものも転移させてしまうはずです。

 光や重力すらも。

 ですから神界未認定世界の近傍でこの装置を使うと、背景の星々が隠されてしまうことによって、この技術が未認定世界の住民に発見されてしまうのではないでしょうか」


「そのケースでは、超新星爆発が確認されてから、被救済世界より1光年ほど離れた場所に3日間ほどこの装置を起きます。

 もちろん被救済惑星の精密な軌道計算を行った上で。

 通常ガンマ線が惑星を通過するには1日か長くても2日半ですので、これで十分間に合うでしょう。

 1光年も離れていれば、未認定世界では調査は不可能でしょうし」


「あの、それでも宇宙の一角が突然黒く覆われて、惑星住民が不審に思わないでしょうか……」


「1光年先も先の直径わずか5万キロの黒体ですからね。

 それに3日で消えますし。

 発見も調査も困難でしょうし、痕跡も残りません。

 その程度のリスクは神界も容認してくれましたよ」


「あ、ありがとうございます」


「あの、この転移結界装置はいくつ建造される予定なのでしょうか」


「まずは要救済世界のために2万キロ級の結界を張れる装置を50基、5万キロ級を20基作る予定でした。

 知的生命存在世界に万が一のことがあっては大変ですので、そうした世界をガンマ線から守る際には最低5基の装置を派遣したいと思っていますので。

 ただ、ガンマ線が通過した後の宙域は超新星爆発のr過程で作られた重金属の宝庫です。

 ここに転移装置を置いておけば、ただそれだけで大量の重金属資源が得られるでしょう。

 この資源収集用や、先ほどご説明した銀河外での人為的極超新星爆発の後にも資源を収集するために、2万キロ級はあと1000基ほど建造するよう計画を変更しています」


((( ………… )))


「あ、あの、不躾なご質問で恐縮ですが、この2万キロ級の転移結界装置を建造するコストは如何ほどなのでしょうか……」


「さあ、計算したことは無いのでよくわかりませんが、たぶん1000億クレジット(≒10兆円)ほどではないかと思います」


「「「 !!!! 」」」


「それでは次に、白色矮星捕獲用である特殊転移結界装置を御覧頂きましょう」



 その空間には直径2500キロ、厚さ300キロに及ぶ巨大な円盤があった。

 表面には無数の建設ドローンが張り付いていて、各種建材を使用して作業を行っている。


 その円盤の表側にはやはり無数の転移結界発生装置があった。

 裏側には中央に巨大なダークエネルギー駆動推進器、その周囲に12基の大型核融合推進器、さらに円盤の周辺部には36基の軌道制御バーニアが搭載されている。


「こちらの装置は第2号機になります。

 こうした装置があれば、恒星と連星系を為す白色矮星を銀河系外に転移させてしまえるでしょう。

 また、これは超新星爆発を待つ必要がありません。

 ですから銀河連盟のご承認が頂けたら、すぐにも実験に適した場所にある白色矮星を転移させてしまおうと考えています」


「あの、連星系を為す白色矮星を排除してしまうと、連星の一方である恒星が暴走してしまうのではないでしょうか……」


「それは白色矮星が超新星爆発を起こした時にも同じことが起きますね」


「そ、そうか……」


「そのように偶発的な恒星暴走では思わぬ被害が出かねません。

 ですから、精密に制御された方向とタイミングで白色矮星を排除した方が遥かに安全だと思います。

 仮に生命居住密度の高い宙域であったとしても、そのような場所での白色矮星によるIa型超新星爆発こそ甚大な被害を齎すでしょう。

 ですから暴走予想宙域に多くの重力コントロール装置を置いて、最も安全なルートで恒星を暴走させた方がいいでしょうね」


「な、なるほど……」


「それでは、この白色矮星追放用転移結界装置の第1号機による稼働試験の様子を御覧頂きたいと思います。

 近傍に手頃な小惑星が無いために、録画となってしまっていることをお詫びします」



 画面上に円盤が現れた。

 背景の星の様子からかなりの速度で移動していると思われるが、比較対象物が無いためにその速度は定かではない。

 もう1枚のスクリーンには何もない宇宙空間が映し出されている。


「この時点で結界装置は光速の10%ほどで進行しています」


「「「 !!! 」」」


「通常その速度での移動であれば、進路上の宇宙塵なども甚大な被害を齎す障害物となりますが、この装置は既に転移結界を展開しているために問題はありません」


((( ………… )))



 画面が切り替わった。


「この装置の前方60万キロには、直径1000キロほどの小惑星がございます。

 あと20秒ほどで両者は接触するでしょう」


 衝突の直前、画面がスローモーションになった。

 直径5万キロの転移結界装置の表面に小惑星が接すると、そのまま音も無く光も無く呑み込まれて行く。

 後に残ったのは進行中の結界装置だけだった。


 だが、別のスクリーンには出口用転移装置から突如小惑星が現れて、そのまま存在している。


「「「 おおおお…… 」」」


「こうした放浪小惑星は、遠い将来有人恒星系に近づいてその軌道に影響を与えてしまうこともあるでしょう。

 ですから白色矮星排除後は、こうした放浪小惑星も銀河系から追放するか『抽出』で資源にしてしまうことを行ってもいいでしょうね」


((( …………………… )))


 ほとんどの見学者が硬直していた。

 ヒト族は鳥肌を立て、犬人族と猫人族はしっぽを膨らませている……


(そうか猫人族や犬人族のしっぽの毛が逆立つのも、一種の鳥肌のせいなんだな)

 タケルはふとそんなことを思った。



「さて、それでは超新星爆発の被害に遭いそうな恒星系の方々に一時避難して頂く人工惑星にご案内させて頂きたいと思います」



 一行はまずその人工惑星の外周にある倉庫に転移した。

 そこには箱状の装置が無数に積まれている。


「これは実際に惑星住民の方々に避難して頂く際の短距離転移装置です。

 それぞれがミニAIを搭載し、惑星上の人口密集地に転移して住民を収容します」


「こ、この装置はいくつあるのでしょうか」


「ここには100万基ほどあります。

 それだけあれば、10日間で100憶の住民収容が可能との試算結果も出ていますので」


((( ………… )))


「それではエントランスホールに転移しましょう」





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