*** 72 食料配布の方法 ***
銀河連盟視察団一行はまず資源倉庫の近くに転移した。
その周囲には同じような大きさの倉庫衛星が見渡す限り並んでいる。
「今目の前でご覧いただいているのが資源倉庫で、直径は1000キロほどございます。
こちらの倉庫の内部には主に鉄資源と、それに添加してさまざまな合金を作るための炭素やクロム、モリブデン、ニッケル、タングステンなどの資源が備蓄されています。
もちろんすべて純粋資源ですね。
それでは内部を見てみましょう」
倉庫内部の光景は圧倒的だった。
整然と区画された領域には様々な大きさのインゴットが格納されている。
まるで資源で作られた建造物のようだった。
その間を動き回る資材運搬ドローンは、一行に気がつくと運搬用のアームを振って挨拶してくれている。
「こ、これがすべて純粋鉄資源だというのですか……」
1トン当たり10万クレジット以上もする純粋鉄が銀色に輝きながら積まれていた。
総重量3.0×10の19乗トン(=1兆トンの3000万倍)に達する宝の山である。
「もちろんです。
これだけあればかなりの機材が作れるでしょうね」
「だ、だから直径1000キロ級の避難用人工天体を50基も、そして5万トン級の深重層次元航行恒星船を3000万基も発注なされたのですね……」
「工業恒星系コンソーシアムの方々が、資源の提供があればその価格は3分の1以下になると仰られたものですから。
ですが技術者の方々は、単なる構造材であれば純度99.99%程度のもので十分だと仰るんですよ。
それで当初は銀河宇宙の中で純粋資源を必要とされる方に、これら純粋資源を売ってその代金で高純度資源を買っていたのですけどね。
でもすぐに純粋資源の需要が無くなってしまいましたので、今では純粋資源を使って機材を作成しています。
ただ、どうも技術者の方々はコスト削減を至上命題とされている方が多いようで、よくもったいないと泣かれています」
((( ………… )))
「さて、次は希少金属資源倉庫に行ってみましょうか」
次に一行の前に現れたのは金資源の山だった。
それも純度100%の純粋金である。
銀河連盟ご一行さまは、あまりの光景に呆然としていた。
「ここにあるのはもちろん純粋金で、総重量は1兆8000億トンになります。
もしもこれを今の銀河標準価格で売れたとしたら、その金額は1兆クレジットの18億倍になりますか」
(標準的恒星系政府予算の6億年分か……)
(ということは、銀河の神界認定世界政府総予算の20倍か……)
(この神一柱だけで神界認定世界の全政府を20年動かせるというのか……)
(金資源だけで20年なのだから、これら資源全てなら200年はいけるのか……)
(神界がこれら資源抽出技術を秘匿し、資源販売先を連盟に一本化しようとする理由がようやく納得出来たわい……)
(こんな技術がもし一般化されたら、認定世界の1割が破産するな)
(いやその前に資源価格が大暴落して大恐慌が到来するか……)
「あ、あの、もしよろしければ教えて下さいませ。
タケル神さまは、いったいどのようにしてこのような莫大な資源を産出する鉱石を集められたのでしょうか……」
「いえいえ、これら資源はいわゆる鉱石から集めたのではありません。
すべて銀河宇宙に存在する普通の小惑星から得たものになります。
ありふれた岩石も、すべて145種類しか無い元素で形成されていますからね」
「「「 !!! 」」」
「そ、それらを細かく砕いて精錬されたと仰せですか!」
「ええ、実際には精錬ではなく『抽出』という神法なのですが」
「そ、その小惑星の総質量は如何ほどだったのでしょうか……」
「おおよそ6×10の23乗キログラムほどになります。
ですから銀河の標準的な生命居住惑星の10分の1ほどの質量になりますね」
(註:知的生命体の発生条件を満たす惑星には制約条件が多い。
特にその重力が大きすぎても生命の行動が阻害されるし、小さすぎても大気を繋ぎとめておくことが出来ない。
したがって、ほとんど全てのヒューマノイド型知的生命発生惑星の大きさは、地球質量±10%ほどになっているのである)
銀河連盟視察団の面々は大いに仰け反っていた。
(たったそれだけで銀河の政府総予算200年分か……)
(その『抽出』技術は途轍もない価値になるな……)
「あの、そのような技術は銀河系始まって以来の技術になりましょう。
それをタケル神さまお一人で為されたというのですか……」
「いえいえ、3000個もの小惑星をこの神域に運んでくれたのは神界土木部ですし、『抽出』はわたしの秘書AIにも助けてもらいました」
((( それを『一人で為した』というのだがな…… )))
(この神は、僅か6か月前、暦年齢も生活年齢も15歳の時に、あの銀河の超英雄タケルーさまの生まれ変わりとして覚醒されたそうだ。
それ以降、母惑星での義務教育の傍ら、ここ時間加速空間で鍛錬を続けられて来たそうだが……)
(だからまだ暦年齢は15歳のままで、生活年齢も35歳のはずなのだが……
それでももう銀河連盟大学総合学部を優等の成績でご卒業されているのだよな)
(その上銀河宇宙の歴史を変えかねない資源開発の秘蹟までお創りになられたのか……
それも実質的にお一人で)
(神界原理派神の牙城であった転移部門と宙域統轄部門に壊滅的な打撃を与えて、原理派を実質的に滅ぼしたという実績があるという噂もあったの)
(しかもその活動資金には事実上制限が無いのか……)
(その超越神が、本気になって超新星災害の救済に当たろうというのだな)
((( これは銀河連盟としても、全面的に協力させて頂くしかあるまいの…… )))
「さてみなさん、次は食糧倉庫を見て頂きたいと思います」
その空間にはやはり直径1000キロほどの食糧倉庫衛星が無数に浮かんでいた。
近傍には巨大な半加工食品製造工場も多数存在している。
「こ、これは……
いったいどれほどの食料を備蓄されておられるというのでしょうか……」
「現在はすぐに調理出来る半加工食品を中心に、100億人の1年分ほどですね」
「「「 !! 」」」
「最終目標である100億人の100万年分にはまだまだ遠いです」
((( ………… )))
「ですが現在銀河の農業系恒星系との恒星間転移網が続々と結ばれていますので、3次元時間であと数世紀もあれば目標にかなり近づけると期待しています。
また、目標が達成された後でも、余剰農産物は全て救済部門が買い付けますので過剰生産の懸念は無用です。
まあ資源と農産物を金銭を媒介にして交換するような形になるでしょうが」
「あの、これら膨大な量の食料は銀河の飢饉惑星の救済にお使いになられるのでしょうか……」
「はい、あの倉庫天体は恒星間転移能力を持っていますので、飢饉世界の近傍重層次元に飛び、そこから倉庫内で調理した料理を惑星表面100万か所ほどに転移させる予定です」
「あ、あの、それは神界未認定世界も含めてのことですか?」
「もちろんです」
「あ、あのあの、神界は未認定世界に銀河技術を見せることや、現地住民との接触を禁じられていると聞いているのですが……」
「直接の接触はもちろん致しません。
まずは人口集積地付近中心に100万か所ほど祠を転移させます。
そこで音声と映像情報により『神さまからの贈り物です』『みんな仲良く並んで食べましょう』と周知して料理の配布を始めます。
食料ではなく料理です」
「そ、それでは現地支配層や盗賊などの反社会的勢力が料理を独り占めしようとするのでは……」
「料理配布の前に、支配層たちと祠の周辺のヒューマノイドの脳に行動支配用のナノマシンを送り込み始めます。
それで武力によって祠を独占しようとした支配層や、祠の周囲で武力威嚇によって祠を独占しようとした者は、全員裸にして宙に浮かべ、裸踊りを踊り続けてもらいます」
「「「 !!!!! 」」」
「それに配布するのは麺類などの料理のみなのです。
それでは仮に大勢の人を雇って領主館などに持ち帰ろうとしても、食べられたものではなくなっていますし、第一保存は出来ませんからね。
もしも住民を脅して食事の対価としての金品を要求した貴族などがいれば、見せしめにその場で裸踊り5年から10年の刑に処されるでしょう」
((( ………… )))
「あ、見苦しいので男は下履きのみ、女性は下履きに加えて乳帯もつけてやりましょうか。
冬などには結界を張って凍死しないようにもします。
まあ体を動かし続けているのであまり寒くはならないでしょうけど」
((( …………………… )))
「胃の中に転移で水や最低限の栄養素を送り込むので死にませんから、罪の重さに応じていくらでも踊り続けてもらえますね。
もちろんこうした量刑は、食糧倉庫天体に置く初級AIが判断してナノマシンに指令を出します」
((( ………………………… )))
「あの、子供もおなじメに遭わせるのでしょうか……」
「3歳までの乳幼児の母親が裸踊りの刑に服した場合は、子供だけ輸送天体内に転移させて保育園で育てます。
母親の刑期が終わったら様子を見て返してやります。
4歳から7歳までの子供が他の子供に暴力を匂わす脅迫を行った場合は、1時間から6時間の裸踊りですね。
8歳から14歳までの子は6時間から5日間の裸踊りです」
(な、なんという恐ろしい計画だろう……)
(この神が持っているのは慈愛の心だけでは無かったんだな……)




