*** 71 驚愕する銀河連盟訪問団 ***
タケルは銀河連盟指導部の面々に向き直った。
「それでですね、その代わりと言ってはなんなんですが、他にもいくつかお願いがございまして」
「ぜひお聞かせくださいませ」
「我々は最近、大型の転移結界発生装置の開発に成功しました」
「やはり噂は本当だったのですね……」
「ええ、その装置は超新星爆発が起きたときに、爆発天体と被害予想惑星の間に転移して、爆発時に放射されるガンマ線を全て重層次元に転移させてしまうものなのです」
((( ………… )))
「それで、神界認定世界だけでなく、生命の発生している世界を全て守ってやりたいと考えているのですよ」
「「「 !!!! 」」」
「す、全ての生命発生世界をですか……」
「はい。
銀河連盟では、今後5万年以内に超新星爆発を起こし、認定世界に被害を齎す可能性の有る天体およそ600に観測機を配備されていると伺いました。
ですが、それだけでは全ての生命発生世界は守れません。
そこで神界救済部門は、近傍に神界認定世界は存在しないものの、今後5万年以内に超新星爆発を起こして生命を脅かす可能性のある天体約1000に観測機を配備して来ました。
それでですね、銀河連盟が既に配備されている観測機の情報を私共にも共有させて頂けませんでしょうか。
もちろん、未認定世界に被害を齎す可能性の有る超新星爆発予想天体の観測データがご入用であれば、提供させて頂きます」
「銀河連盟と神界の共同観測態勢ということなのですね」
「はい」
「それは願っても無いことです。
銀河宇宙の脅威に対して、神界と共同歩調が取れるとは」
(仮にこのご提案を断ったとしても、このお方が残り600の超新星爆発予想天体に観測機を配備するのは造作もないことだろう。
その場合、銀河連盟のメンツは丸潰れだろうからな。
要はこの共同観測提案は連盟に配慮してくれたということなのだろう。
それだけの斟酌が出来る神だということか……)
「ありがとうございます。
それからですね、今後5万年以内に超新星の脅威に晒される恒星系のいくつかは、ガンマ線の被害に備えて他の恒星系に移住を実行中だと聞いたのですが、そのような大事業を為すのは非常に大変でしょう。
また移住可能惑星もかなり減って来ていると聞きましたし。
そこで、そうした恒星系に、私共が開発した大規模転移結界装置によって移住の必要が無くなったことをお伝えしたいのですが、その際に銀河連盟にもご協力いただけませんでしょうか。
もちろん実験は全て上手くいっていますが、実際の超新星爆発の中での実地試験はまだ行われていません。
ですので念のため100億人収容可能な人工惑星を50基ほど建造中で、そのうちの3基は既に完成いたしました。
実際に超新星爆発が起きた際には、この人工惑星を使用して重層次元に避難して頂きたいと思っています。
もし我々の機器が機能せず、ガンマ線が母惑星の生態系を破壊してしまったとしたら、その人工惑星は差し上げますので、母惑星周辺に戻って来てテラフォーミングを行われたら如何でしょうか。
その際の資金資材は我々が負担します」
「そ、その転移結界発生装置や避難用人工天体を拝見させて頂くことは可能でしょうか……」
「もちろんです。
後ほど実験も行いますのでご視察ください」
「ありがとうございます……」
「因みにですね、その装置の設計製造には、つい最近まで天使見習い心得として銀河宇宙で働いていらした方々も大勢参加されていました。
中には銀河連盟大学の物理学教授や恒星系の技術顧問だった方もいらっしゃいます。
もし専門的なご質問があれば、彼らがお答えするでしょう」
「そういえばそうでした。
タケル神さまは凄まじいブレーンを抱えていらっしゃったのですね」
「ええ、いつもたいへんに有益な助言をしてもらっています。
それで彼らの助言もあって今建造中の新しい機器がございましてね。
念のため、その稼働の前に銀河連盟の皆さんにご了承を頂戴出来ないかと考えているのです」
「そ、それはどのような機器なのでしょうか……」
「この宇宙の恒星は、その97%が最終的に白色矮星に至ると聞いています。
白色矮星はそのままでは無害なのでしょうが、恒星と連星系を為している場合や銀河宇宙の中でも星間物質の多い領域に差し掛かると、その大重力によって質量が増大していきますでしょう。
そうしてある限界を超えるとⅠa型超新星爆発を起こすわけですよね。
ですから直径5万キロほどの転移結界を展開した装置を、この危険度の高い白色矮星に向けて飛ばし、白色矮星そのものを銀河系の外に転移させてしまうことを計画しているのです」
「「「 !!!!! 」」」
((( な、なんと…… )))
「もちろん連星系白色矮星の場合は、その白色矮星が存在しなくなれば連星を為す恒星が暴走することでしょう。
ですからかなり精密な軌道計算をもって、この暴走恒星が他の恒星系に被害を及ぼさないようにしなければなりません。
それでもこの暴走進路が予定とは異なり、被害恒星系が出そうになった場合には、暴走恒星近傍に配置した重力発生装置やダークエネルギー投射装置による進路変更も行えますでしょう。
そのための機器も開発製造中です。
まあ、将来に超新星爆発被害を出しそうな白色矮星を、今のうちに排除しておこうという計画なのですよ」
((( ……………… )))
(な、なんてことを考えるんだこの神は……)
(そ、そんなことが出来るとすれば、まさに神の御業だな……)
「そうですね、この排除する白色矮星は、銀河の如何なる生命存在惑星からも5000光年以上離れた場所に転移させましょうか。
そして次の計画なのですが、こうして排除した白色矮星を2つ衝突させて、人為的に極超新星爆発を起こさせようと考えています」
「「「 !!!!!!! 」」」
「その場合には、超強力なガンマ線が放射されるでしょうが、5000光年も進むことによってかなり拡散されて生命には無害になっているでしょう。
そしてガンマ線の後には超新星爆発の中でのr過程で形成された重金属などが飛び散って行くことと思われます。
これら重金属資源のうちの一部は新たな惑星誕生などにも使われることでしょう。
いわば白色矮星に閉じ込められていた素粒子資源のリサイクルですね」
「「「 !!!!!!!! 」」」
(な、なんという発想力だ……)
「それで、こうした計画を銀河連盟評議会で検討の上ご承認願えないかと考えているのです。
お願い出来ませんでしょうか」
「は、はい……」
「それからですね……」
((( ま、まだ計画があるのか…… )))
「今の銀河系の中には多くの星間物質を含む領域があるはずです。
その中でも密度の濃い領域では、星間物質同士が互いに引き合って恒星の誕生に至るのでしょうが、その質量が1.6×10の31乗キログラムを超えた際には将来超新星爆発を起こす可能性の高い大重力恒星になってしまうでしょう。
そこでその星間物質宙域に大規模転移装置を多数送り込み、星間物質を一定量だけ重層次元のある空間内に転移させてしまおうと思っているのです。
すべて転移させてしまうと新しい恒星が作られなくなってしまいますから」
「「「 !!!!!!! 」」」
「もしその星間物質が超新星残骸であれば、多量の重金属が得られますので一石二鳥ですね」
「と、ということは、神界救済部門、いえタケル神さまの目的は、この銀河宇宙から超新星爆発現象を無くしてしまうことであると……」
「はいその通りです。
そうすれば不慮の災害で失われる生命も減っていくでしょうから。
出来れば今から1000年目以降は、銀河系の中での超新星爆発発生数をゼロにすることが目標です」
((( ………………………… )))
(発想力もここまで来るとやはり神の領域だな……)
(しかもこの神は、その発想を実現するための人員も資金も資源すら持っているというのか。
技術力や工業生産力は銀河宇宙の力を借りればいいしの……)
「さて、もしよろしければ、これから我々が製造した、もしくは製造途中の機器の見学など如何でしょうか」
「は、はい……
よろしくお願いいたします」
一行は司令部の裏手にある駐機場に移動した。
そこに置かれた直径15メートルほどの円盤に乗り込んでいく。
今後は見学者が増えると思い、タケルとマリアーヌが開発した、遮蔽フィールド、重力コントロール装置と念動の魔道具、短距離転移装置が搭載されたものである。
周囲の手摺の内側には、けっこう豪華なバケットシートが階段状に配置されていた。
「みなさんお座りいただけましたでしょうか。
この円盤はわたくしの神域内見学用のもので、これから各所に転移してご視察頂きたいと思っています。
尚、この円盤は遮蔽フィールドで覆われます。
宇宙空間に出た際にはまるで宇宙に放り出されたように見えますが、もちろん安全ですのでご安心ください。
それでは出発いたしましょう」
因みにこの観光案内は、重要人物たちの視察の際はタケルが引率するが、通常はマリアーヌ配下の観光案内ドローンがガイドをすることになっている。




