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*** 70 銀河連盟訪問団 ***

 


 白色矮星用の大型転移装置1号機が完成した。


 まずは内蔵している恒星間転移装置の作動試験が行われ、次に銀河系内通常空間での加速試験が行われたが、どちらも完全に成功し、最高速度試験では余裕をもって光速の20%もの速度を達成している。


 また、大型の重力コントロール装置や、ダークエネルギー投射装置なども続々と完成し始めていた。

 こうした実証実験では銀河の外縁に浮かぶ直径1000キロ級の小惑星捕獲と転移にも成功している。

 とうとうタケルは土木部門の手を借りずとも、自力で小惑星を集めることが出来るようになったのであった。


 次なる実験は実際に白色矮星を転移させることになるだろう……




 こうした準備の進展を受けて、タケルはエリザベートに依頼し、エギエル・メリアーヌス最高神閣下に銀河連盟と接触して協力関係を得ることの許可を求めた。

 僅か1日後(3次元時間24分後)に返って来た返答は、『許可する。今後も己の信ずるままに行動するがよい』だった。


 どうも最高神は、タケルの神域を視察したときの衝撃があまりに大きかった上に、自らの銀河宇宙に関する知識の足りなさを大いに反省されているらしく、銀河宇宙との折衝などはタケルに丸投げする気らしい。

 まあマリアーヌも日々タケルの活動報告を入れているので、何か文句があれば言って来るだろう。

 タケルは特に気にしないことにした。


(最高神閣下の下には毎日60日分の活動報告が届くので、秘書AIに要約を作らせて目を通しているそうだ)


 尚、最高神政務庁主席補佐官には、人事部門長のアルジュラス・ルーセン上級神が抜擢されたとのことである。

 これがエギエル・メリアーヌス新最高神閣下とタケルの会話によるものなのか否かは不明であった……




「のうアルジュラスよ、ヒト族とは不思議な種族であるの」


「と仰られますと……」


「タケル神域内の通達違反者や犯罪者の大半がヒト族系の神であった。

 子弟の教育に際し、『下賤なる』銀河の一般ヒューマノイドに教育を受けることを嫌悪する傲岸不遜な親たちもだ。

 もはや全体として最悪の種族と言えよう」


「…………」


「だが、ヒト族の中にはそなたのように8.0ものE階梯を持つ者もおる。

 それになんといってもあの麒麟児タケルもヒト族であるしの。

 何故にヒト族とはこうまで極端なのか」


「それは恐らくマウントを取ろうとする対象の違いではないでしょうか」


「どういうことかの」


「権力や地位階級金銭などによって他者を押さえつけてマウントを取り、相対的に自分の地位を上げようとする者は、所詮E階梯は上げられませんしいつかは破綻します。

 あの宙域統轄部門長や転移部門長のように。

 ところが、他人ではなく過去の自分を凌駕しようとする努力や、自然現象の理解、克服などを目指す努力をもって、他人以外へのマウントを取ろうとする者もいます。

 その違いなのではないでしょうか」


「はは、あのタケルは常に過去の自分にマウントを取ろうとし、併せて自然災害にもマウントを取ろうとしておるというのか」


「はい。

 そのどちらかが出来る者はそれなりにいるでしょう。

 ですが両方を為せる者は極めて稀有な存在であると考えます」


「そういう意味で、タケルをすぐさま初級神に任じたエリザべートの功績も大きいの」


「恐るべき慧眼と思っております」


「わたしもだ……」




 因みに……


 かなり後になって『なぜあのようにすぐタケルを初級神に任じたのか』と問われたエリザベートは、『そんなもの、妾が愛する番の相手であるタケルが、神法の行使を望んだからに決まっておろう?』と答えたそうである……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 タケルが銀河連盟に訪問のアポイントを入れたところ、どうやら連盟本部もムシャラフやミランダから状況を聞いていて、タケルに親善訪問団の受け入れを要請しようとしていたらしい。


 おかげですぐに話はまとまり、既に設置されていた恒星間転移装置を通って銀河連盟訪問団がタケルの神域にやって来たのである。

 驚くべきことに、親善訪問団の団長は銀河連盟最高評議会議長その人であった。

 他にも有力恒星系出身の評議員が10名、その他連盟の神界対応部門、恒星間調整部門、連盟銀行監督部門などの部門長が合計20名随行している。



 一行は救済部門総司令部の応接室に落ち着き、各人の紹介が終わると評議会議長が切り出した。


「ご挨拶が遅くなりまして誠に申し訳ございませぬタケル神さま」


「いえいえ、お忙しい中皆さまに来ていただいてこちらこそ恐縮です」


 タケルの穏やかな様子にややほっとした空気が流れている。

 どうやらこの神は尊大で傲慢な神ではないようだ。


「それにしても、先だっては銀河連盟銀行がたいへんなご無理を申し上げまして、これも誠に申し訳ございませんでした」


 先ほど連盟銀行総裁と紹介された男が深く頭を下げている。


「いえ、わたくしもわたくしの中のタケルーさんの魂もまったく気にしておりませんので。

 それどころか預金契約の利息とはいえ大変な金額をご用意いただいていて恐縮です。

 おかげさまで救済部門を立ち上げることが出来ました」


「その立ち上げのご準備に私共は驚いているのですよ。

 まさかあれほどまでの機器と食料を銀河宇宙にご注文頂けるとは。

 おかげさまをもちまして、連盟に加盟する恒星系のGDPが飛躍的に伸びております」


「それに関しまして、実は少々申し訳なくも思っているのですよ。

 まだ十分な数の恒星間転移装置が完成していないせいで、恩恵を得られているのは一部の恒星系に留まっておられるでしょう。

 ですが今後3次元時間で数年もすれば、転移装置が全ての神界認定世界に行き渡ると思います。

 20年足らずでも深重層次元航行恒星船も。


 工業恒星系コンソーシアムとミランダを中心とする農業グループには、なるべく多くの恒星系から物品や農産物を仕入れるようお願いしていますので、そのうち多くの恒星系のGDPが増えるのではとも期待しています」


「あの、その恒星間転移装置と深重層次元航行恒星船も、いずれすべて格安で貸して下さるとのことなのですが……」


「ええ、そのような貸し出しで利益を出す気はありませんので。

 ですから、まず転移装置の使用につきましては、神界に納入する物品でしたらもちろん無料で、それ以外に銀河の恒星系同士で取引される場合には、標準大型コンテナ1つにつき3万クレジットほどの使用料を考えております」


 どよめきが起きた。


「そ、それは何万光年離れていても一律3万クレジットということなのでしょうか……」


「はい。

 それから、深重層次元恒星船のレンタルフィーは年間500万クレジットで如何でしょうか」


「「「 !!! 」」」


「そ、そんなに安くてよろしいのですか?」


「もちろん構いません。

 ところで、銀河宇宙で恒星船を建造されている恒星系は、主に100光年以内の近距離用を作られていらっしゃるのですよね」


「はい」


「それではあまり競合することはないと考えますが、それでも造船業恒星系がお困りでしたら何らかのご配慮をお願い出来ませんでしょうか。

 産業転換資金につきましては、わたくしから100兆クレジットを拠出させて頂きますので、無利子融資の配分先選考などをお願いしたいと思います」


「「「 !!!! 」」」


「それから既にご存じかと思いますが、私共救済部門は独自に資源を調達することに成功致しました。

 もちろん主に救済用の機器を製造するための資源なのですが、余剰分が出た場合、銀河宇宙が望まれれば売却も考えています。

 個別恒星系との取引をするとかなりの混乱が予想されますので、出来れば売却窓口を一本化したいのですが、銀河連盟にお願い出来ませんでしょうか。

 もちろん資源価格の乱高下を抑止するためです」


「畏まりました。

 たぶんですが、連盟の資源委員会に窓口を作らせて頂くと思います」


「ありがとうございます。

 ただ、申し訳ないのですが、私共のご提供出来る資源は元素そのものでして、純度が100%のものばかりなんですよ。

 それでもよろしければご購入いただけませんでしょうか」


「もちろんでございます。

 そうした超高純度資源の使い道も多々ございますので。

 それで、あの……

 如何にしてそのような純粋資源を手に入れられたのか、ご教授頂くことは可能なのでしょうか……」


「それについては申し訳ございません。

 神界より当面の間秘匿事項とするように指示されております。

 ただ、その作業には多大な神力が必要な上に魔法力もレベル600以上が必要になるのですよ」


「ろ、600以上ですか……」


「ですから、仮に資源調達方法が公開されたとしても、銀河宇宙の方々では運用はかなり難しいかとも思われるのです」


「なるほど……」


「ところで神界が独自に資源を調達したというニュースで、銀河宇宙の資源価格が下がり始めたと聞いたのですが……」


「ええ、全般に下落傾向にあります。

 ですが元々高騰しておりましたので、資源開発者や資源投資家などはやや慌てているものの、ユーザーサイドは皆大歓迎しておりますね」


「今製造中の深重層次元恒星船は、先ほども申しました通りまず資材や農産物を集積するために使いますが、製造が進めば銀河宇宙へのレンタルも行います。

 その際には、よろしければ銀河連盟に取りまとめ役になって頂いて、鉱業恒星系に優先的に回してあげて頂けませんでしょうか」


「は、はい……」


「私共のご提供させていただく資源はいずれも純度100%元素なので、これも通常の資源開発とはあまり競合しないと思うのですが、それでも特定の業種にご迷惑をおかけしたくはないのです。

 それに資源開発を得意とされている恒星系が産業転換を希望されれば、そのための無利子融資資金も別途100兆クレジットご提供させてください」


「「「 !!!! 」」」


「あの……

 不躾な質問で恐縮なのですが、なぜそこまでして頂けるのでしょうか……」


「私共救済部門は銀河の自然災害世界や紛争世界を救済するために設立されました。

 誰かを救済しようとして別の誰かを困窮に追い込むわけにはいきませんからね。

 ですから、今後も私共の活動によってご迷惑をかけるような状況が生じた場合は、是非教えてください。

 対策を考えたいと思います。

 要は、我々の目指しているところは、『最大多数の最大幸福』ではなく『全員の最大幸福』なのですよ。

 まあ神界が誰かを不幸にするわけには参りませんからね」


((( ………… )))





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