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*** 68 神界改革スタート ***

 


 ミランダを中心とする農業恒星系グループも頑張っていた。

 続々と完成する恒星間転移装置を回してもらい、当初は農業生産の多い恒星系を、次いで中堅の恒星系も繋いで多量の農産物を集めている。


 この農業恒星系の中で、タケルは特に或る種の食肉生産を得意とするグループに着目した。

 テイルーという名の犬人族恒星系を中心とするそれらグループでは、卓越した遺伝子改変技術により、トカゲのようにしっぽを切り放せる草食の食肉種を創り出していたのである。

 長年の遺伝子改良により、そのしっぽは大きく太く、しかも美味だった。

 つまり、この家畜からは生命を奪わずとも定期的に食肉を得られるのである。

 いわば再生可能食肉というところか。


 なんともE階梯の高い世界らしい技術だったが、残念ながらこの食肉は通常の高級牛肉や豚肉に比べて3割ほど高価だったために、あまり普及してはいないようだ。

 もっぱら恒星系住民の間で高級食材として利用されており、恒星間輸出もほとんど行われていないとのことだった。



「なあマリアーヌ、この家畜たちってどんな種類がいるんだ」


『主に牛系、豚系、トカゲ系ですね。

 それぞれの種や部位によってもかなり味が違うそうです』


「そいつらの主食ってなんなんだ」


『主に小麦や豆、トウモロコシなどの穀物、草などですね。

 どの種にとっても果物がごちそうになります』


「ふーん、それでしっぽはどうやって取っているんだ?

 無理やり引っ張っているのか?」


『いえ、どの種もしっぽが大きくなり過ぎると自ら地面に叩きつけて落とすそうです。

 もし落とさなければ、安いワインやエールを飲ませると、興奮してしっぽを地面に叩きつけ始めるそうですね』


「はは、酔っぱらって暴れるわけだ」


『そのようです。

 また、稀にですがメスを巡ってオス同士が争うときには、しっぽをぶつけ合って戦うそうなのですが、しっぽが落ちた方が負けになるようですね。

 余談ですが、テイルー恒星系では女性にフラれた男性のことを『しっぽが無い奴』と表現するイディオムがあるそうです』


「そ、そうか……」


(俺がその星に行ったらみんなが俺を憐れんだ目で見るんだろうか……)




 タケルは自らこの食肉を食べ、またドッグフードやキャットフードに加工した物を犬人族や猫人族たちに試食してもらった。

 その結果に大いに満足すると、タケルはこのしっぽ肉を未認定世界の食料支援の主力の一翼にすることを決定したのである。

 ヒト族には穀物の支援で十分だろうが、やはり犬人族や猫人族の子供たちには元々が肉食獣だけあって動物性蛋白質も必要と考えてのことだった。


 そして、タケルはミランダ恒星系を通じ、これらテイルー食肉生産恒星系グループに驚愕の申し入れをしたのである。


 その内容とは、

『恒星間転移装置を優先して配置すること』

『現状の価格の3割増し固定価格で最低でも今後1万年間は無制限にしっぽ肉を買い付けること』

『もしも餌用の農地や食肉種の飼育地が不足しているのであれば、直径1000キロ級の農業惑星を無償貸与すること』

『他の恒星系がこの食肉種の飼育を希望した際には、その技術使用料の半額を神界救済部門が負担すること』

 であった。


 このテイルー食肉生産恒星系グループは仰天した。

 これらの条件は何をどう考えても自恒星系にとって著しく有利ではないか。

 仮に将来他の恒星系に技術移転して生産量が増えたとしても、食肉の価格は全く下がらない上に、技術使用料まで入って来るのだ。

 しかもあのタケルさまからのご提案なのである!



 また、ニャランという名の或る猫人族系恒星系では、直径3000キロもの広大な内海を利用したマグロやカツオ類似種のような大型回遊魚の養殖が盛んであった。

 だがしかし、すべての生命存在惑星には海がある。

 つまり、如何なる恒星系にも自恒星系内消費を賄うに足る水産資源は存在するのであった。

 このために、このニャラン恒星系では豊富な水産資源も自恒星系の内部消費がほとんどで、恒星間輸出量は微々たるものだったのである。

 猫人たちは銀河標準からすればさほどに裕福ではなかったものの、毎日美味しい魚を食べることが出来ていた。


 タケルはこのニャラン恒星系に対しても、ミランダを通じて申し入れを行った。

 すなわち、

『恒星間転移装置を優先して配置すること』

『現状の価格の3割増し固定価格で今後最低でも1万年間は無制限に水産資源を買い付けること』

『他の恒星系が同様な養殖を希望した際には、その技術使用料の半額を神界救済部門が負担すること』

 である。

 驚愕した恒星系政府首脳陣は、1か月ほどしっぽが膨らんだままになっていたそうだ……





 タケルは、ミランダの食品調査機関にこうしたしっぽ肉や水産品をチェックしてもらったが、もちろん猫人族に害になるような成分は全く含まれていなかった。


 そこでエリザベートやジョセフィーヌたちにもしっぽ肉や魚を試食してもらったのである。

(どちらにも、香り付けとして少量のちゅ〇るを添加している)


 キャットフード風のもの以外にも、しっぽの輪切りステーキも供されていた。

 大きなものになると直径が80センチもあるステーキである。


「ほう、これはなかなか……」


「美味しいです♪」




 タケルはこの時の映像を銀河連盟報道部のニュース番組に提供してみたが、これが配信されると、銀河全域にて『あの肉や魚はどこの恒星系で買えるのか!』という問い合わせが殺到した。

 折から普及しつつあった恒星間転移装置を使って、テイルー恒星系グループやニャラン恒星系グループに銀河商人たちや農業恒星系の役人が続々とやってきたのである。


 だが……


「も、申し訳ございません。

 ただいまタケル神さまからのご用命で、未認定世界救済のために大量購入頂いている状況でございまして……

 とてもではないのですが、輸出に回す分は……」


 銀河商人たちも役人たちも諦めなかった。

 聞けばしっぽ食肉種については何十組かの番の購入や技術移転は可能だというではないか。


 こうして、銀河全域数十万の農業系恒星系から番購入と技術提供の申し入れが殺到したのである。

 消費者にとっても、その肉が通常の高級牛肉や豚肉の3割増しの価格だろうと倍だろうとどううでもよかったのだ。

 要はあのタケルさまご一家と同じものを食べてみたいということだけなのである。

 また、ニャラン恒星系に対しては大規模養殖の技術提携申し入れが殺到していた。


 こうして、これらテイルー食肉恒星系グループ、ニャラン水産恒星系グループのGDPは、10年後に倍、100年後には30倍になって行き、銀河有数の富裕恒星系になっていくのである。




 こうした銀河の農水産物は、タケルの神域内に完成した食品加工工場に続々と運び込まれ、パンやパスタ、ラーメンの麺やタレ、ドッグフードやキャットフードなどの加工食品が超大量に作られ始めていた。

 もちろん広大な時間停止倉庫衛星も多数用意されており、完成した加工食品は次々に倉庫に収められている。

 間もなく100億人の1年分の食料が納入されるはずであり、この備蓄は恒星間転移装置の配備が進むにつれさらに加速していく予定であった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 地球では年も明けて新年を迎えた。

 タケルの同級生たちは高校受験を控えて大変だったが、タケルの場合はスイスの全寮制学校に留学するという偽装工作が行われていたために、受験とは無縁だった。

 まあ銀河連盟大学を最優等の成績で卒業したタケルであれば、日本の高校などに行く意味は無いだろう。


 これで無事中学校を卒業して義務教育期間を終えれば、タケルは完全に救済部門の業務に専念出来ることになる。

 同時にまもなく2児の父親にもなる予定であったが……




 このころ、エリザベートを通じて神界最高神政務庁からタケルに2つほど『お伺い』が来た。

 どうやら命令や要請ではなく、本当にお願いに近いものらしい。


 その『お伺い』とは、まず第1にあの神界調査部や監査部の職員を過労死から救ったタケルの神域での短期休暇制度を恒常化してもらえまいかということだった。

 3次元時間で2時間の休息を取り、タケルの神域に移動して現地時間で5日間の休暇を得るというものである。


 タケルは当初、神域内にもうひとつセミ・リゾート惑星を購入してこれを開放しようとも思ったのだが、最高神さまの意向で、やはり神界の神にも銀河人と触れ合う場を持たせてやりたいという。

 それで今のセミ・リゾート惑星で受け入れることになった。

 タケルはこの判断にはどうやら裏の意図もあると気付いたようだ。


 タケルは、あのリゾート惑星は元々100万人収容可能だったものが、現在は救済部門職員とその家族30万人ほどしか住んでいないため、短期滞在者の受け入れも可能だろうと判断したのである。



 また、もうひとつのお伺いとは、神界に新たに幼稚園を作った上で初等教育機関の抜本的改善を行うために、タケルの協力をお願いしたいというものだった。

 具体的には、神界幼稚園や小学校に相当する初等教育機関に於いて保育士や幼稚園教諭、初等学校教諭を育成するための教育実習をお願い出来ないかというものである。


 どうやらエギエル・メリアーヌス最高神閣下は、神界の将来を見据えた改革を本気で考えているらしい。


 もちろんタケルは両方のお伺いと言うか依頼を快諾している。


 また、短期滞在者や教育実習生滞在の費用は最高神政務庁が負担するということだったが、タケルはこれを謝絶した上で、タケルの神界内では独自のルールが存在することを来訪者に徹底して欲しいと返答した。


 その独自ルールとは、まず第1に『神域内でのトーガ着用禁止と神威の翼展開禁止』であった。

 つまり、一見して神であるということがわからないようにするというものである。

 既に来訪の上神石製造に協力してくれている土木部門の人員に関しては、無料で普段着セット10日分を提供するとした。

(タケルの神域内宿泊施設では無料でクリーンの魔道具が使えるために、洗濯物が溜まるなどということはほぼ有り得ない)


 第2のルールは、原則として神域内では自らが神ということを明かすことも、それを理由にして銀河人に命令しようとする行為も厳重に禁止することである。

 違反者は直ちに強制退去を命じられ、強制退去2回で出入り禁止となる。

 これにより、当然のことながら全ての施設は神も天使見習いも一般銀河人も共同利用ということになったのであった。


 第3のルールは、保育士、幼稚園教諭、初等学校教諭志望者に対し、銀河の大学など専門教育機関で学位を取得した者のみを教育実習生として受け入れることであった。

 それに加えて、最低E階梯基準5.0を課したのである。

 幼児たちの将来のE階梯を上げていくための教育機関に於いて、その教諭のE階梯が低いなどということがあってはならないとの判断である。


 最高神閣下はタケルの受諾を大いに喜ばれると同時に、タケルが課したルールを全て承認した。

 特にタケル神域で休暇を希望する者には、最高神政務庁名でそれらルールと罰則規定を通達し、ルール内容を記載した承諾書まで作成してサインさせたのである。

 もし批判や異論があれば直接最高神政務庁に申し出るようにとの文言も記載されていた。


 こうしてタケルの神域内では、常時数万人から多い時では十万を超える神が滞在することになったのである。


 当初は驚異的に似合わない服を着ている神もいたが、まあそのうちファッションセンスも学習していくだろう。

 あの土木部門からの出向者たちは、作業に於いては何故か鳶服に腹巻、地下足袋に黄色いヘルメットを着用していた。

 また、普段着にはほとんどの者が藍染の作務衣を着ている。


 タケルは『誰だそんなもん仕入れてたのは……』とは思っていたが、あまりにも似合っていたために特に文句は言わなかったようだ。




 こうして、タケルの時間加速空間での休暇制度と神界の幼児・初等教育改革がスタートしたのである。

 だがしかし、これがまた新たな騒動を巻き起こしたのだった……





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