*** 67 転移結界装置完成 ***
3か月に渡る専門家たちの熱烈な議論により、タケルの3つのアイデアは理論的には完全に実現可能という結論が出た。
ただし、円盤型の転移結界装置の構造では強度がやや不足しているのではないかという懸念も提起されている。
なにしろ大質量物体の重力は強大であり、その距離が離れていても物体にはかなりの影響を与えるのである。
銀河中心部にある巨大ブラックホールは、2万6000光年も離れている太陽系が秒速220キロもの速度で動いていても、その太陽系を銀河系に繋ぎとめるほどの重力を及ぼしているのだ。
このために、銀河宇宙の構造力学の元専門家たちにより、球形型の3倍の資源を使って5倍の強度を持つ円盤型転移結界装置が設計されたのである。
尚、強度とコストの観点から、通常のガンマ線用転移結界装置は今まで通りの球形が採用されることになっている。
また、結界装置の専門家たちにより転移結界の展開距離も改善され、今までの倍の距離での展開が可能になった。
つまり展開直径5万キロの転移結界発生装置の直径が、5000キロではなく2500キロで済むようになったのである。
こうした装置の改善はマリアーヌと専門家たちの間で議論され、早速設計が変更されて通常の転移結界装置の製造に生かされている。
5万キロ級と2万キロ級の作動試験が終了した後は、それぞれ20基と50基の通常型転移結界装置が配備される予定になっていた。
(因みに、銀河宇宙の最先端製造ドローンたちは、一度完成した物の複製を作るのは得意である)
この配備を行う一方で、白色矮星転移用の特殊転移結界装置の製造も本格化するだろう。
この装置にはメイン推進用のダークエネルギー駆動推進装置が1基、大規模核融合推進装置が12基、姿勢制御用のスラスターが36基配置されることになっている。
これら強力な推進装置を搭載した装置が、直径5万キロの平面型転移結界を展開して、白色矮星を銀河外縁部に転移させてくれることだろう。
有識者天使見習いたちによる諮問会議は着々とその成果を上げつつあった。
これらの方策によって、タケルは20万年後の地球を救える目途を立てられたのである……
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或る日タケルがエリザベートの別邸に帰宅すると、リビングルームにはキングサイズベッドが置いてあり、その上にはエリザベートとその娘であるジョセフィーヌがいた。
2人ともあのショップで手に入れたセクシーランジェリーしか身に着けておらず、にこにこと微笑んでいたのである。
何故か2人のブラは緑色であり、ビキニショーツは黒だった。
この日、タケルのキンタマのレベルは一気に3も上がったとのことである……
(あ、あのさ、『親子丼』って鶏(親)と玉子(子)をいっぺんに頂いちゃうことだよな。
母親と娘にいっぺんに頂かれちゃったのは、なんて呼ぶんだよぉぅ……)
その夜タケルは、白いご飯の上に乗せられて、雌鶏とヒヨコに喰われてしまう悪夢を見たそうである……
因みに、ジョセフィーヌがタケルの子を生むのは、彼女が銀河の大学の学位を取って一人前の神となってからということになっている。
このため、ジョセフィーヌはその日を楽しみに毎日熱心に勉強しているとのことだった……
その後しばらくして、タケルは地球の両親を神域に招待した。
銀河の一般人を神界に招くのはまだまだハードルが高いが、ここはタケルの神域であるために特に問題は無い。
両親は、当初エリザベートに会うことに緊張していたようだが、すぐにフランクなエリザベートに慣れたようだ。
そして、このセミリゾート天体滞在がすっかり気に入った様子だったため、タケルはエリザベートの別邸の隣にもうひとつ別邸を建ててやった。
彼らは頻繁にここを訪れ、時間60倍の空間でゆっくりと休暇を楽しんでいる。
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直径1000キロと直径2500キロの球状転移結界装置が完成した。
それぞれ2万キロと5万キロの転移結界を展開出来る能力を有している。
その見た目は網目状の構造材で構成された球体であり、各所に無数の姿勢制御用スラスターを生やしているものであった。
もちろん全てのスラスターのコントロールは中央に位置する重層次元通信機を通じて中級AIが行う。
まずはこれら2つの装置の移動実験が行われた。
銀河系内で指定した座標に転移し、そこで若干の姿勢制御と転移結界の展開を行う。
そこで1日ほど留まった後は救済部門本部空間に帰還し、また別の座標に転移して行った。
次は強力なガンマ線照射装置の近傍に転移し、そのガンマ線を有害放射線投棄専用3.6003次元の出口装置に転移させるという実験である。
こちらの実験も成功し、転移結界装置の反対側に置かれた観測ステーションではガンマ線はまったく検知されなかった。
これら実験成功を受けて大型転移結界発生装置の製造が本格化した。
10万体に増員された建設ドローンたちがタケルの神域空間を飛び回り、50基の2万キロ級転移結界発生装置と20基の5万キロ級転移結界装置の建造を行っている。
これら装置がすべて完成するには3年を要することだろう。
(3次元時間では18日)
「なあマリアーヌ、なんか大型転移結界発生装置の製造が予定より進んでいるように見えるんだけど……」
『1体1200万クレジット(≒12億円)の宇宙空間建設用ドローンを追加で9万体も購入したために、工業恒星系コンソーシアムのドローン製造販売部門が大いに喜んでいました。
それで専門のドローンオペレーターを5人派遣してくださったのです。
彼らの実践経験によって培われたオペレートテクニックは素晴らしいものがありまして、わたくしも詳細に観察させて頂くことが出来たものですから、作業効率が格段に上がりました』
「そうか、それならさ、もうガンマ線転移用の結界装置の製造は銀河宇宙に任せてもいいかな。
連中は確立された技術での製品製造は得意だろうから。
それに、人工極超新星爆発後の重金属資源収集には2万キロ級転移結界は1000基ぐらいあってもいいだろうからな」
『はい』
「マリアーヌには引き続き白色矮星転移用の円盤型転移結界装置建造を頼みたいんだが、そのためにも追加で建設ドローンを10万体ほど買おうか。
ガンマ線転移用の結界装置は超新星爆発が起きないと実地テストが出来ないけど、白色矮星転移実験ならすぐ出来るし」
『それでは白色矮星転移用装置の建造も加速させて頂きます』
「それでマリアーヌの負担は大丈夫なのか?」
『お気遣いありがとうございます。
ですが平均CPU使用率はまだ2%以下のオーダーですので問題ございません』
「さすがは最上級AIだな。
だがこれからAIたちの仕事はさらに増えていくことだろう。
その時はマリアーヌの部下になる中級AIを複数雇ってサポートをさせることにしようと思うんだ」
『ご配慮ありがとうございます』
「AIのハードウエアはやっぱり銀河宇宙が作っているのか?」
『はい』
「それじゃあ中級AIのハードウエアを1億体ばかり注文しておいてくれ」
『!!!』
「あ、それで中級AIが増えたら、宇宙空間の魔素収集用宇宙船を増やしても大丈夫かな。
最近土木部門からの出向者たちの神力が上がって来てるんで、このままだと原料の魔石が足りなくなるかもしれないんだよ。
だからコントロールは専任の中級AIに任せて、あと100隻ほどラムスクープ宇宙船を買おうか」
『それではそのように手配させていただきます』
「それじゃあ白色矮星用の装置製造も頼んだぞ」
『畏まりました』
また、タケルの神域内にある銀河工業恒星系コンソーシアムの巨大工場では、タケルから発注されていた恒星・白色矮星観測衛星3000基が全て完成しており、タケルはこれらを監視が必要とされる超新星爆発予想天体の近傍空間に転移させ終わっていた。
次いでタケルが発注していた未認定世界監視用ナノマシンセットも完成し始めた。
惑星内各所に配置される10憶のナノマシンと、近傍重層次元から3次元空間にプローブを出して監視する1億のミリマシンと、これらを統括して情報を集めるミニAIから構成されているセットである。
これらは監視対象世界の文明度に応じて、原始世界用、初期世界用、中度文明世界用に分かれていた。
原始世界用は主に自然災害の監視が行われるために一般気象観測が重視されている。
初期世界用ではこれに紛争監視が加わるために電波情報も重視されていた。
中度文明世界用では世界大戦などの大規模紛争を監視するために、大国の中枢部へのナノマシン浸透も含まれている。
また、こうしたセットの配備優先順位を決定するために、主に近傍重層次元から惑星の状況を簡易観測するための情報収集艦も1000隻ほど用意され、銀河各地の未認定世界を巡って情報収集を始めている。
タケルの神域には、これら情報を整理して監視用セットを派遣する決定を行う司令部も造られ、戦闘を希望しない職員が200人ほど集められて業務を開始した。
一方で、諮問会議の答申に基づき、深刻な紛争世界に秘密裏に浸透するための大規模ナノマシン介入部隊の製造も進んでおり、観測の結果緊急投入が必要と判断されれば直ちに派遣可能な態勢も整い始めている。
銀河工業恒星系コンソーシアムの各種機器製造能力は優秀であった。




