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*** 64 神界改革 ***

 


「ところが有力者の中には、自分の子孫が一般の子と同じ扱いを受けるのが我慢ならず、家庭教師を雇って自分の家の中で教育を施そうという者もいます。

 まあそうやって自分の一族は特別であると示して、他の一族にマウントを取ろうとしているのでしょうが。


 こうした子はかなり大きくなるまで他者を認識出来ず、E階梯を上げていくには困難を伴うのでしょう。

 彼らにとって家庭教師などは使用人や家具と同じ認識だったでしょうから。

 たぶんですが、あの転移部門のガブリエル・ワイラス部門長代理も、そうした家庭教師に学んだ口なのではないでしょうか」


((( ………… )))


「ということは、これからは重職者の任命もE階梯をひとつの基準にした方がいいということなのか……」


(それこそが『天族』が天界に残した使命のうちなんだけどな……)


「その施策を急に始めると反発も大きいでしょうね。

 ですから、当面の間は重職者の任用は最高神さまの任命制にして、その判断基準の中にE階梯も入れられては如何でしょうか」


「なるほど……」


「それよりももっと有効な方法もありますよ」


「是非聞かせてくれ」


「銀河宇宙出身の天使見習い心得たちは、心得に任命された時点で既に神界人事部の厳しいE階梯チェックを受けています。

 おかげで救済部門には素晴らしい人材が集まっているのですよ。

 ですから彼らをどんどん昇格させて銀河世界出身の神をもっと増やされたら如何でしょうか」


「そうか……」


「聞くところによると、現在の神界の神の中に銀河宇宙出身の神は3%しかおらず、それも全員が初級神止まりだそうですね。

 これが300年後に50%になっていて、上級神も出ているようになれば、神界は自動的に綱紀粛正が為されるようになっていると思います」


「…………」


「そのためにはまず大勢の天使見習いを初級天使に昇格させなければなりません。

 ただ、天使見習いの給与は銀河宇宙の負担ですが、初級天使に昇格させれば給与は神界の負担になると聞いています。

 神界人事部門や土木部門は、この給与予算が取れずに天使見習いの昇格が滞っていたそうですね。

 ですから、この昇格用資金として、わたくしが10兆クレジットほど寄付させて頂きますので使ってやって頂けませんでしょうか」


「「 !!! 」」


 前最高神と次期最高神が仰け反っている。

 エリザベートは微笑んでいるのみだった。


「し、神界予算の10年分を寄付すると言うのか……」


「はい。足りなくなればいつでも言ってください。

 何度でも追加させて頂きますので。

 有為な人材を資金不足で昇格させられないなどということは、あってはならないことだと思います」


「そうか……

 そなたには大いに感謝する。

 必ずや有効に使わせてもらうことを約束しよう」


「それからそうした人事政策に関連してもうひとつ。

 今の神界で神の子として生まれた者は、成人と同時に自動的に初級神見習いとなり、その後数千年の実務を経てすぐに初級神に任命されているのですよね。

 この慣習を廃し、神の子も最初は天使見習い心得から始めさせるべきだと思います」


「「「 !!!!! 」」」


「そうすれば無能な者、E階梯の低い者が重職に就くことを防げるでしょう。

 また、地球では『社員や役員の2親等以内の者は社員として雇えない』というルールを持っている企業が多いです。

 このルールを『全ての親族』に拡大してあらゆる部門で採用されたら如何でしょうか」


「「「 !!!!! 」」」


「部門長などの重職者の世襲禁止もですね。

 部門内でも縁故による昇格が横行するのを防げますし」


「そ、それは銀河世界で採用されている施策なのか……」


「まあ個人企業や株式を公開していない企業などでは、まだまだ社長は世襲制になっていますけど。

 でもほとんどの大企業や公益企業では世襲社長はかなり珍しいですよ。

 そうすることで企業は不祥事を防ぎ、併せて効率化を追求しているわけです」


((( ………… )))


「なにせ地球では、王や貴族など統治者の世襲制は諸悪の根源とまで言われていましたから。

 今でも地球では統治者の世襲制が行われている国はあるにはありますが、まともな国はひとつもありません。

 王室は残っていても『君臨すれども統治せず』という国がほとんどですね」


「そうか……」


「その点神界はそのトップである最高神さまが世襲制ではなく、理想的な形であると思っていたのですが。

 でも行政機関のトップは世襲制が多いですよね。

 特にあの宙域統轄部門と転移部門は典型的な世襲制組織でした。

 あれでは組織の自浄作用は働きません。

 これも不祥事の大きな原因だったと思います」


「なるほどな……」


「それから神の子弟たちには、天使見習いに任ずる前に、銀河の大学の学位を一つだけでも取得させるべきでしょう。

 神力の行使のためには物理学の学位などが望ましいですね」


「そ、それは銀河世界に留学するということなのかの……」


「いえいえ、神界にいたままウェブ授業で学ぶことが出来ます。

 テストなどの際に、近くに教師やAIなどを置いて不正行為を働こうとしても、すぐに察知されて退学処分になりますし」


「そ、そうか……」


「そうして昇格には学位などの実力と、とりわけE階梯を重視することにすれば、もうあのような大きな不祥事は発生しなくなると思います」


「だがそれでは昇格が滞って不満に思う者も大勢出て来よう」


「それに有力神の子弟の上司が銀河出身の神になるのにも、抵抗を感じる者が多いと思われるのだが」


「その特権階級意識を払拭してこそ神界改革は進むでしょうね」


「だ、だが、銀河出身の天使が大勢神に至れば神界出身の神のポストが……」


「大丈夫ですよ、そうしたE階梯も能力も努力も足りない方々には、神界が自給するための農業職に就いてもらえばいいんです」


「「「 !!!!! 」」」


「その中で副村長職とか村長職とか、地域統括村長職とか広域統轄村長代表職とか、たくさんの役職を作って就任させてやればそれで満足するでしょう」


「し、しかし神界にはそのような大規模な農業を行う場所が……」


「それではわたしが直径1000キロ級の農業用人工惑星を寄付させて頂きます」


「「「 !!!!! 」」」


「もし一つで足りなくなれば追加でいくらでも寄付します。

 ですから農業用の神域を作っておけば安心ですね」


((( ………… )))



「それからもうひとつ、ご無礼を承知で申し上げたいことがあります」


「……是非聞かせてくれ」


「みなさまはあまりにも銀河宇宙のことを知らなさ過ぎると思います。

 まあこれも原理派が幅を利かせていた弊害なんでしょうけど」


((( ………… )))


「銀河宇宙の神ということは、銀河宇宙が無ければ無用な職業になってしまうのですよ」


((( ……………… )))


「ですから銀河世界をご自分の目でご覧になって、銀河人たちとも触れ合ってください」


「わ、わしらに銀河宇宙を巡って来いと申すのか……」


「いえいえ、幸いにしてこの神域には、わたしと土木部の出向者しか神はいません。

 残りの10万人はすべてつい最近まで銀河世界で暮らしていた銀河人です。

 ですからこの場所を訪れて頂いて歩き回って下さい。

 特にメリアーヌス次期最高神さまは激務でお疲れになられることも多いでしょう。

 その際には3次元世界で2時間ほどの休息を取り、この空間で5日間の休暇とされたら如何でしょうか」


「はは、あの『神を過労死から救った神の神域』か……」


「はい」


「それでは済まぬが利用させてもらおうかの」


「この別荘に面している湖以外にもあと2つほど湖がございます。

 それらの湖畔にお二方の別邸をご用意させていただきますね」


「そ、それはいくらなんでも……」


「いえいえ、前最高神さまには今までのお働きに感謝の意をこめて、また次期最高神さまのお働きには神界の将来が懸かっていますので」


「そうか……

 それではお言葉に甘えるとするかの……」


「それでは早速出かけましょうか」


「どこに行くのだ?」


「もちろん服を買いにです。

 いくらなんでも、その神の衣装のままでこの神域を歩いていては、誰も話しかけて来てくれませんよ」


((( ……… )))



 というわけで一行は地下1階層にあるショッピングモールに向かったのである。


「エリザさま、フロートパレットをご用意しましょうか」


「いや、歩いていこう。

 医官にも軽い運動を勧められておるしの」



 一行がショッピングモールの衣料品ショップに入ると、店長ドローンがすっ飛んで来た。


「こ、これはこれはタケルさま!

 ようこそお越しくださいました!」


「やあ店長、今日はこちらのお三方に普段着を何セットか見繕って差し上げて欲しいんだ。

 よろしくな」


「畏まりましたっ!」


 すぐに9体もの店員ドローンが呼ばれて3人の服選びが始まった。


「の、のうタケル神よ。

 今日は秘書官も連れて来ていないので支払いも出来ないのだ。

 支払いは次に来た時でよいかの」


「いえいえ、わたくしの神域を歩くときのための服ですから、わたくしがご用意させていただきます」


「タケルや!

 そなたが妾に服を買ってくれると言うのかえっ!」


「も、もちろんですよエリザさま」


 エリザベートの機嫌が見る間に良くなった。

 しっぽもぴんと立ち上がってふりふりと揺れており、ドローン店員が持ってくる服を片っ端から体に当てて試している。


 見ていると、店員が持って来たシックなドレスよりも、パステルカラーでフリルやリボンもついた服を選んでいるようだ。

 まあ実年齢よりも見た目がかなり若いので特に問題は無いだろう。

 どうやら今まで真っ白で飾り気のないトーガしか身に着けたことがないために、綺麗な色の服や飾りがついた服が嬉しくてしょうがないらしい。





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