*** 61 神界宙域統轄部門壊滅 ***
ニャサブローの報告書は額に青筋を立てたタケルによってエリザベートに届けられ、同じく青筋を立てたエリザベートによって、最高神政務庁主席補佐官と最高神さまそのひとに直接届けられたのであった……
最高神政務庁に激震が走った。
その激震はすぐに神界監査部門と調査部門に伝播し、可及的速やかに3000万神界認定世界の政府中枢に極秘調査団が派遣されたのである。
(神界に於いては調査部門が警察機能を持っている)
途中あまりの過労に倒れそうになった調査員たちは、3次元時間で2時間の休養が許されてタケルの神域に向かった。
そこで120時間の休暇を取ると、また張り切って銀河宇宙を駆け巡って行ったのである。
それ以降、タケルの神域は『アンチ過労死の神域』もしくは『神を救った神の神域』と呼ばれるようになっている。
また、50時間ほどの休養ですっかり元気になった調査員たちは、タケル神への感謝の意を込めて神石充填所でのボランティアも行った。
これが多くの休養調査員たちの間で不文律となり、神石製造はさらに捗り始めている。
(魔石の魔力を使った神石製造は、本人の魔力や神力を使わずに魔力操作力のみを使用するために比較的疲労度が少ない)
3次元時間で3か月後、綿密な調査を終えた神界監査部門と調査部門の捜査員たちは、9万5000の初級神宙域管理本部、330の中級神管区本部、そして宙域統轄部門本部、部門長やその親族たちの神殿に一斉に家宅捜索に入った。
『無礼者!』と叫ぶセルギアル・ミルゲリア宙域統轄部門長は真っ先に逮捕され、その親族たちも神界裁判所や調査部門の重層次元倉庫に拘留されている。
また、初級神宙域本部、中級神管区本部からは、多くの初級神中級神とその配下の天使たちが連行され、重層次元の拘留施設に放り込まれた。
最高神さまの陣頭指揮により、宙域統轄部門の容疑者たちに対する神界裁判所の審理は異例の早さで進んだ。
尚、収監者たちの罪名は『反逆罪』である。
(神界では喜捨の強要は大変に重い罪に問われるのであった)
主犯のセルギアル・ミルゲリア宙域統轄部門長は、神格剥奪の上終身禁固刑、その親族たちも同じく神格剥奪の上禁固5万年から1万年。
管区本部の中級神は神格剥奪の上禁固2万年から1万年。
宙域本部の初級神も神格剥奪の上禁固1万年から5000年。
それらの配下である天使たちは、天使威剥奪の上禁固300年から100年が言い渡されている。
彼らは神格や天使威を奪われたため、寿命延長の加護も失っており、実質的には終身刑となるだろう。
もちろん各本部や各神の神殿からは、多額の現金が押収されている。
これら処分の内容を聞いたタケルの反応は……
「惜しいなぁ~。
神格をそのままにしておけば、懲役刑で神石への充填をさせられたのにぃ~」であった……
こうして『原理派』の一大拠点であった宙域統轄部門は壊滅的打撃を被ったのである。
宙域統轄部門はほぼ95%の人員、合計800万の神や天使が逮捕投獄されて麻痺状態に陥った。
だがまあ彼らはカネをせびる以外には何もしていなかったので、特に混乱は無いだろう。
すっかり腑抜けたミルゲリア宙域統轄部門長は、公判の際に裁判官から『あなたが原理主義を標榜していたのは、神界の他の神々が銀河世界と接触すると、喜捨の強要が露見すると恐れたからですか』と聞かれた。
その際に『はい……』と答えたために、原理派はさらなる大打撃を被っている。
また、こうした神界を揺るがす大不祥事に際し、最高神閣下は銀河連盟本部に陳謝特使を派遣した。
特使団の団長は最高神政務庁主席補佐官エギエル・メリアーヌス上級神である。
銀河連盟本部では、神界の実質ナンバー2が真摯に頭を下げる様子に大いに驚き、この謝罪を受け入れた。
(これで本当に神界は変わるかもしれないな……)
銀河人たちは皆そう思った。
その後、同じ『原理派』の牙城である神界転移部門では、多くの天使や初級神などが人事部門に駆け込み、転属願いを出していた。
おそらく相当に後ろ暗いことをしていたために、後の大量処分で連座されることを怖れたのだろう。
人事部門は彼らを漏れなく調査部門に送致し、密かに取り調べを続けさせた。
その成果によって、神界最上層部は遠からずもう一つの原理派の牙城である転移部門も壊滅すると見込んでいる。
聞くところによれば、転移部門は多額の報酬と引き換えに銀河宇宙の要人たちに極秘で恒星間転移装置を使用させることまでしていたらしい。
これは銀河の一般ヒューマノイドには神力道具を使わせないという神界慣習法違反であると同時に、『確かお前ら原理派じゃなかったっけ』という驚愕の行為である。
また、タケルが10万人の天使見習い心得を採用して天使見習いに昇格させた上で雇用していたため、銀河世界からは膨大な数の天使見習い心得志望者が応募して来ていた。
彼らの多くは救済部門への配属を希望していたが、空きが出来るまでは待機するよう説得され、人事部門は真面目で能力もE階梯も高い天使見習い心得を大量に採用出来たのである。
宙域統轄部門の悪事を暴いたことに加え、この大量志願者の発生もエリザベートとタケルの手柄となったのであった……
全ての処分が終われば、最高神さまは引責辞任して最高神政務庁顧問に就任する意向を内輪で表明されている。
後任は最高神政務庁主席補佐官エギエル・メリアーヌス上級神になる予定だそうだが、高齢のメリアーヌス上級神に配慮し、救済部門が一定の成果を上げた後にはエリザベート・リリアローラ上級神にその地位を譲ることになっているらしい。
因みに、やはり宙域本部の初級神の一柱であるジョセフィーヌの管轄する100の恒星系には神界認定世界が無く、未認定世界ばかりであったために、こうした不正行為が一切報告されなかった。
要は原理派の一大拠点である宙域統轄本部にて、救済派筆頭エリザベートの娘であるジョセフィーヌはスポイルされていたのだが、却ってこれが幸いしたようだ。
よって彼女はもちろん無罪である。
ジョセフィーヌはいつも通りお付きの者たちに囲まれて、1日4本に制限されている『ちゅ〇る』を大事そうに頂きながらほんわかと過ごしている。
最近では『親子丼』の裏の意味を知って、頬を染めて喜んでいるそうであった。
地球のネットに接続して親子丼の実物を見てからは、
『鶏肉がお母さまで、わたくしが卵なのですね♡
あ、わたくしまだ女として未熟ですから半熟卵になってちょうどいいですわ。
これならタケルさまに美味しく召し上がって頂けそうです♡
それで白いご飯がベッドやシーツだとして、刻みノリや三つ葉はどうしましょうか。
そうだ! 黒や緑色の下着を着ていればいいんだわ♡』と言っているらしい……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
或る日、タケルの神域にエリザベートから連絡が来た。
神界調査部門の調査官が来訪するので対応してやって欲しいとのことである。
その当日、強面の調査官が3人訪れて来た。
「タケル神殿、お忙しい所誠に申し訳ございませんが、いくつか教えて頂きたいことがございまして」
挨拶もそこそこに調査官はそう切り出した。
「どのようなことでしょうか」
「神界救済部門は3メートル級の恒星間転移装置を購入される際に、銀河宇宙にいくらお支払いになっていらっしゃいますでしょうか」
「うーん、うちは3メートル級は買っていませんので……
なあマリアーヌ、3メートル級がいくらなのか知ってるか」
『工業恒星系コンソーシアムから提示されている代金は、原価で500万クレジット(≒5億円)、利益込みで550万クレジットです』
「それって最高利益率だよな」
『はい、タケルさまがお申し入れになった通り最高利益率が適用されています。
最低利益率だと525万クレジットですね』
「だそうですよ」
調査官たちは一層厳しい表情になった。
「あの、誠に恐縮なのですが、その提示代金を記したコンソーシアムからの見積書も頂戴出来ませんでしょうか」
「はい。
マリアーヌ、済まんがすぐに届けてもらうように連絡してくれるか」
『畏まりました』
間もなく正式な見積書が届けられると、調査官たちは深甚なる感謝の言葉を残して帰っていった。




