表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/248

*** 6 ムシャラフ恒星系 ***

 


 それから1時間ほどしてようやく解放されて、親子3人でリビングに引っ込んだんだ。



「それにしてもまさか父さんと母さんが別の星の銀河人だったとは。

 しかも王子さまと王女さまとか……」


「はは、タケルだって両恒星系の王孫だろうに」


「そ、そうか……」


「もちろんどちらの王家ももはや『君臨すれども統治せず』だけどな、お前が望めば次の次の王にもなれるんだぞ」


「げげげげ……」


「それにしても、これでようやく重大なお役目を果たせてほっとしたわ♪」


(なんか、小さいころから不思議に思ってた俺の境遇がすっかり理解出来たな……)



「それでな、我々はもちろんヒト族だが、地球のヒト族とは違って体内に『魔臓』という器官も持っているんだ。

 もっともかなり退化してきていて簡単な魔法しか使えないが。ほら」


 父さんが立てた人差し指の上に3センチほどの炎が灯った。


「もちろんあなたも魔臓は持っているわ。

 私たちの子供だから。

 でもあなたがまだ小さいうちから魔法を使ってしまったりしたら地球では大騒ぎになるでしょ。

 だからニャルーン首席補佐官さまに頼んで魔臓を封印して貰っていたの。

 ついでに健康診断のレントゲン撮影で騒ぎにならないように『隠蔽』の魔法もかけてもらっていたのよ」


「そうだったんだ……」


「でもあなたの魔臓は強すぎて、魔法発動はかろうじて抑えられたものの、どうしても周囲の魔素を集めちゃってたの。

 それで集まり過ぎた魔素が行き場を求めて熱エネルギーに変換されてたみたい。

 だから小さいころからあんなに熱を出してたのね。

 でもニャルーンさまが吸魔の魔道具を下さったので、それをお守りとしてあなたに持たせていたのよ」


「な、なるほど……」


「でももう15歳になって神さまへのお披露目も済ませたから、これからはジョセフィーヌ様の神域で魔法を練習して過剰魔素を消費してね」


「う、うん。

 ところでさ、何故俺の誕生と生育が地球だったのかはわかったけど……

 それでもなんで日本だったんだろうか」


「それは主に治安の問題ね」


「?」


「当時の地球世界って、本当に紛争が多かったのよ。

 それも軍同士がぶつかる軍隊戦でなく、敵を民族ごと消滅させようとする絶滅戦争が」


「うわー」


「私たちの本来の外見からして北欧地域も候補地に上ってたんだけどね、当時の北欧って特に治安が悪かったの。

 バイキングと呼ばれる連中による略奪行為って、相手が軍人か民間人かを問わずにまず皆殺しにしてから略奪するし。

 まあこれはアジアもアフリカも南北アメリカ大陸も同じなんだけど。

 それに後進惑星世界ならどの星に行ってもおなじようなものだったし。


 でも日本って、戦乱は多かったけど、絶滅戦争は行われていなかったのよ。

 純粋に大名や豪族の軍事力同士の戦いで、略奪は行われてたけど非戦闘員の虐殺はほとんど行われていなかったのね。

 調略による寝返りも降伏による臣従も多かったから、実際に戦闘になることも少なかったし。


 しかも既に確立されていた中央政権が、一般人に土地の私有を認めるなんていう制度は当時世界のどこにもなかったもの。

 それも代価を払うんじゃなくって、開墾しただけで所有権を得られるなんて。

 まあ年貢は求められたけどね。


 でも日本以外では、仮に国に代価を払って土地の私有を認められても、その国がすぐ滅ぼされちゃうし。

 仮に自分たちで国を作っても、周囲の国が頻繁に侵略して来るしね。

 それこそ年に何回も。

 脳に注入したナノマシンで国王を発狂したように見せかけても、配下の貴族たちは自分の利益のために侵攻を止めなかったしね。

 わたしたちは銀河人だったから無暗な殺生も出来なかったし」


「そうだったのか……

 世界史の教科書には書いてないことだね……」


「そりゃあ世界中が民族絶滅戦争してたなんて、平和ボケの国の教科書には書かないわよ」


「そ、そうか……」


「それに今の日本は世界有数の人口密度だけど、当時の人口は凄く少なかったの。

 京都や大阪なんかは多かったけど、武蔵野はほとんど無人状態だったわ」


「なるほど」


「もちろん今の武者の地にも危険なことはあったわよ。

 でもその度に銀河連盟防衛軍が侵略軍の指揮官を無力化してくれてたの。

 重層次元に転移させてたとか、小脳をコントロールして三日三晩裸踊りを続けさせるとか」


(裸踊り……)


「最も危険だったのは第2次世界大戦のときのアメリカの爆撃だったけど、もしも武者の地をターゲットにするようだったら、防衛軍が全て排除してくれてたでしょうね、例えば異次元に転移させてたとか。


 ロシアや中国や北朝鮮の核ミサイルは、今でも東京に照準を合わせているものがあるけど、基地にも戦略原潜にも既に銀河技術の極小観測機器がたっぷり配備されているの。

 だからもし攻撃命令が出たら、原潜もミサイル基地もすぐに銀河連盟防衛軍が3.100次元に転移させてしまうわ。

 今の地球の技術力ではこの転移は絶対に防げないでしょうし」


「…………」


「それに他の後進惑星も似たり寄ったりだったの。

 そのなかで当時最もマシだったのが日本の武蔵野だったのね」


「そうだったんだ……」



「それでタケル、まだ前世の記憶も力も取り戻していないのに申し訳ないんだが……

 父さんと母さんの母世界に、それぞれ3日ずつほど一緒に行ってくれないか。

 お前のお祖父さんやお祖母さんや王族たちや星民たちも、ずっと前からお前に会うのを楽しみにしていたんだよ」


「もちろん行くよ。

 なんといっても、会いに行くのは実のおじいちゃんとおばあちゃんと親戚だからね」




 それで翌日、もう一つの転移装置を使って父さんの母惑星に転移したんだよ。


 そしたらさ、王都の入口前広場にとんでもない大きさの観客席があって、そこにびっしりと人が座ってるんだわ。

 こ、これ、100万人はいるんじゃないか……


 その超大観衆が、俺たちが現れた途端に超絶大歓声を上げたんだ。

 もう鼓膜がビリビリ震えるほどの。

 それで緊張しちゃった俺はますます光量を上げて光り輝いちゃったんだよ。


 俺たちが広場を進むと、前方に20名ほどの立派な服を着たひとたちがいた。

 どうやらあれが王族さんたちや惑星大統領や議会の議長さんたちらしい。


 俺たちが近づくと、全員がその場で平伏をした。

 どうやら王様らしきひとは王冠と王勺を地面に置き、その後ろで平伏している。

 仕方ないんで俺もその前に出て平伏したんだ。


 超大観衆が静まり返った。

 それで俺は前に進んで王様の手を取って立ち上がらせたんだよ。


「初めましておじいさま、ロベステールの息子のタケルです。

 そしてどうやら5万年前の使徒タケルーの生まれ変わりのようなんです。

 今後ともよろしくお願い致します」


 どうも俺の声って拡声魔法で全員に届けられてるみたいだな。

 なんかそれでまた大歓声が沸き起こってたよ。

 さっきのが嵐のような大歓声だとすれば、今度のは大洪水のような歓声だったな。


 その後は皇后さまらしき人の手も取って立たせて挨拶したんだ。

 2人とも号泣しながら俺をハグしてくれたよ。


 それからは王族らしき人たちや政治家らしき人たちに、みんな立ってもらって紹介されたんだ。

 その中には俺より5歳ぐらい年上に見える王様の長男の長男、つまり王太孫もいたんだけどな、どうやら最初は「所詮生まれ変わりでタケルー使徒とは別人じゃねぇか」って言ってたらしいんだ。

 でも「なんで光っているのか」って聞かれてエリザベート・リリアローラ上級神さまの魔法の後遺症でって答えたら急に蒼くなってたわ。

 やっぱり上級神さまともなると、一恒星系の王族程度じゃあそう簡単には会えないらしいんだ。

 こ、これは『おっぱいビンタ』のことは言わない方がいいな……



「なぁタケル、こんなに大勢のひとたちが来てくれたんだ。

 出来れば観客席の前を1周まわって挨拶してやってくれないかな」


「了解、父さん」



 それで俺、にこやかに手を振りながら観客席に沿って歩いていったんだ。

 そしたらさー、どうやら前列の方は3歳ぐらいまでの乳幼児を連れた人優先だったんだけどな。

 その親たちが子を俺の方に差し出すように抱えてるんだわ。

 まるで少しでも近くで俺の光に当てようとしてるかのように。

 それも親たちは号泣しながら。

 ついでに子供たちも半数近くはギャン泣きしてたけど。


 そうした泣き声が俺が歩くたびに移動してくんだよ。

 まるで号泣とギャン泣きのウェーブだよな、ははは。


 1時間近くもかけて観客席巡りを終えると、俺たちは儀仗用の円盤に乗って王宮に移動した。

 さすがは銀河の有力恒星系だけあって、すんげえ大都市と宮殿だったよ。

 父さんはこんな星の王子サマだったんだな。



「ねえ父さん、そりゃあ俺は5万年前の前世では英雄だったかもしれないけどさ、それにしてもこの大歓迎はちょっとやり過ぎなんじゃないの。

 本当に神さま扱いされてるみたいだぞ」


 父さんが微笑んだ。


「あのエリザベートさまのお話の中で、惑星全域1900もの大火山噴火で滅びかけてた星の話があったろ」


「うん」


「あれ、この惑星のことだったんだ」


「え……」


「つまり、5万年前の使徒タケルーの命を懸けた大功績が無ければ、そのとき滅んでいた惑星だったんだよ」


「…………」


「だから今日の超大観衆も惑星全域90億の民も、この5万年間にこの惑星で生きて死んでいった全ての人々も、前世のお前がいなかったら存在してなかったはずのひとたちなんだ」


 母さんも微笑んだ。


「それから地軸が傾いて極冠の氷が溶け出し、滅びかけてた星のお話もあったでしょ。

 あれ、母さんの母惑星ミランダのことなの。

 だからこれぐらいの大歓迎は当然のことなんじゃないかしら」


「そうだったんだね……

 俺の前世のタケルーってすごいひとだったんだ」


「それ以外にもタケルーさまのおかげで神界の方針が変わって、飢餓や自然災害から救われた世界も数十万はあるからな。

 そうした恒星系に行っても、あのタケルーさまの生まれ変わりだということで、凄まじい歓迎を受けるだろうね」


「…………」







明日投稿分より毎日1回20:00に投稿させて頂きます……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ