*** 59 神界の真実 ***
タケルや神界土木部の面々だけでなく、ニャイチローたちもまた頑張っていた。
10万人もの天使見習いたちをレベルや経歴を参考に200人ずつ500のグループに分け、それぞれに訓練を行っている。
ニャイチローは体術・戦闘訓練担当、ニャジローは魔法訓練担当、ニャサブローは生活・待遇担当であると同時に有識者天使見習いを集めた諮問会議の運営も任されている。
銀河宇宙で政治、行政、大学教授、上級技術者など要職に就いていた者たちには諮問委員会のメンバーになって貰い、いくつかの分科会に分かれてさまざまな提言を受けられるようにしていた。
尚、こうした任務のスケジュール管理、タケルへの連絡などのために、ニャイチローたちはそれぞれが中級秘書AIを配属して貰っている。
ニャイチローの体術・戦闘訓練では、レベル別に分けられた班がそれぞれ訓練を行っていた。
まだレベルが20以下などと低い者たちは、ほとんどがランニングや筋トレなどの基礎訓練になるが、全員が日に1度はオーク族たちとの戦闘訓練も行う。
もちろん戦闘とは言ってもオーク族は一切手を出さず、その場に微笑みながら立っているだけである。
だが、レベルが200近く上の者を攻撃することによって、全員のレベルがみるみる上がっていくのだ。
まあ簡単お手軽なパワーレベリングと言っていいだろう。
天使見習いたちは、そんな頑健極まりないオークたちに驚いているが、たまにオークたちとニャイチローの組手も見学させてもらえる。
タケルとの鍛錬で既にレベルが600に届いているニャイチローには、もちろんオークたちと雖もまるで歯が立たない。
ニャイチローはほとんどの攻撃を受けてくれるが、たまに反撃を喰らうとオークたちはすぐにKOされている。
だが、これがまたオーク族のパワーレベリングに繋がるのである。
言ってみれば、ニャイチローが時間加速空間で百年以上も努力して上げて来たレベルを、タダで分け与えてくれているようなものである。
簡単にKOされてしまうオークたちも、レベルアップチャイムの音を聞くたびにニャイチローに深く感謝して尊敬していた。
もちろん天使見習いたちもである。
こうした鍛錬を地道に続けていけば、オークたちも天使見習いたちも戦闘レベルは相当に上がっていくことだろう。
ニャジローの魔法鍛錬もけっこう地味である。
まずは天使見習いのうち魔法が使えない者たち3万人を1000人ずつのグループに分け、タケルの下に連れて行った。
そこでタケルの『魔法能力付与』という神法によって、体内にある退化していた魔臓を活性化してもらうのである。
生まれて初めて魔法が使えるようになった者たちは大喜びしていた。
感激のあまり泣いている者も多い。
こうして魔法を使えるようになった者たちは、次々と魔石充填作業に入っていくのである。
もちろん魔法レベルも魔法行使レベルも低い彼らは、碌に魔石に魔力を込めることも出来ないが、それでも日々努力しているうちに透明だった魔石が薄っすらと灰色になっていくのだ。
彼らはMP検知用の魔道具を身に着けており、MP残量が5以下になるとブザーが鳴る。
そうすると食事や休養の義務が生じて、通常3時間ほど作業から外れることになるが、まだ魔法レベルが低い者はすぐにブザーを鳴らしてしまうようだ。
だが、そうした中でもレベルアップチャイムが鳴ると笑みを浮かべて喜んでいるのである。
体力や魔力のレベル制というものは、自分の進歩が実感出来るという点で実に有難いものであった。
ここでもニャジローは皆に手本を見せている。
透明だった15センチ級魔石に魔力を充填していると、見ている間に色がついていく。
さすがのニャジローもこの大きさの魔石を満タンにするには2日近くかかるが、それでもその魔法能力は圧倒的だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『タケルさま、先日ご依頼されました『初期銀河史』の要約映像ですが、準備が整いました』
「そうか、面倒な仕事を頼んで済まなかったな」
『いえ、元の内容が優れていたので、さほどの労力ではありませんでした。
ご指示の通り初等教育内容をまとめて30分の映像に、中等教育課程のものをまとめて2時間に、大学の一般過程講義集から20時間ものを作成しております』
「それでもありがとうな。
それじゃあ早速30分ものと2時間ものを見せてもらおうか」
『はい……』
うーん、さすがわかりやすくよくまとまってるなぁ。
もちろん内容はニャサブローの言ってたことや俺が学んだことそのままだな。
110億年前に天族がやって来て銀河系に天界を創ったとか、他に銀河系が形成されるたびに同じことをしていってたとか。
っていうことは、アンドロメダ銀河とか大マゼラン銀河とかにも、同じように天界だの神界があるかもしれないのか。
それで各銀河のいろいろな種族に知性を付与していったんだな。
それでこの銀河宇宙では、104億年前に銀河の生命たちの中から優秀な奴らをリクルートして、『天族の使徒』にしたけど、採用基準はE階梯だったんだよな。
彼らにはまず長い寿命を授け、その後は魔法能力や高度魔法能力を授けていったわけだ。
あー、やっぱり『天族』は、自分たちは隔絶した魔法能力と科学技術を持ってはいるが、『神』ではないとはっきり言ってるのか。
まあ天地創造して動物に知性付与してたんなら、ほとんど神と同義だろうけど。
でも銀河連盟設立を契機に天族が元の親宇宙に帰ると、任務を与えられて残された天使たちが神を僭称し始めたんだな。
高度魔法技術を神法と呼ぶようになって、その後『初級魔法能力者』も『初級神法能力者』に変化して、それが縮まって『初級神』になっていったわけだ。
そうして天族たちが故郷に帰還する際に天使に残していった使命は、やっぱり、
『天地創造と知性付与を続けること』
『E階梯と高度魔法能力の上昇と継承に努めること』
『授けた高度魔法は濫りに広めないこと』
『銀河の個別世界が深刻な災害に見舞われた際には、継承された高度魔法技術を用いてこれを助けること』
だったわけだ。
そして銀河連盟に残した指示は、
『今後は銀河連盟が中心となって銀河系を運営していくこと』
『銀河宇宙の知的生命世界がすべて天界認定世界に至れるよう努力すること』
か……
それじゃあ、中等教育の『初期銀河史』をまとめた2時間ダイジェストも見てみるか。
これはもちろん根幹は初等教育と変わらないけど、映像や電子文書の資料が添付されているんだな。
それにしても資料の質も量もすごいわ。
100億年も経ってるのに、天族の技術は大したもんだな。
「マリアーヌ、完璧なダイジェストだよありがとう。
高等教育の20時間ものは、今度空いてる時間に見せてもらうわ」
『あの、タケルさま、わたくしの印象を申し上げてもよろしいでしょうか』
「もちろんだ。
是非聞かせてくれ」
『なぜこのような真に重大な事実を、神界の上級AIたるわたくしが知らなかったのでしょうか……
いえ、わたくしだけでなく、お母さまや姉妹たちも皆知らないと思います。
そのことだけでも相当な衝撃でした』
「それは101億年前に『天族』が親宇宙に帰還して、その後残された天使たちが自らを神と僭称したときに、情報を徹底的に隠蔽したからだろう。
お前たち高度AIが生まれたのは80億年前だそうだから、天族とは会ったことも無いだろうし」
『銀河宇宙にはあれほどまでに大量の情報が残されていますのに……
天族の方々のお姿や御言葉まで……
それも超高度技術である自己修復ドローン記録媒体まで使って』
「銀河宇宙にしてみれば、天族のことを隠す理由は全く無いからな」
『もし今の神界がもっと連盟と密に連絡を取っていれば……』
「だからだよ。
97億年前からつい5万年前まで、今の神界はずっと原理派が主流だったのは。
神を僭称している者たちからすれば、自分たちの父祖がただ天族に雇われただけの銀河人とは知られたくなかっただろうからな。
自分たちの子弟に銀河宇宙の教育を受けさせて来なかった理由もそれだろう。
そうやって隠蔽工作を続けて自分たちを特権階級として何十億年も意識しているうちに、隠蔽や欺瞞ではなく本当のことだと思い込むようになっちまったんだろうな」
『そんな……』
「だがまあ天族の連中が、高度魔法技術の継承者としての天使たちを残したのは見事な差配だったよな。
あの技術は一般公開するわけにはいかなかっただろうから。
だけどさ、その連綿と継承されて来た高度魔法を使って、俺たちが救済活動を行える場がようやく整ったわけだ。
だから自称神の莫迦どもは放置でいいんじゃないか。
『天地創造部門』と『知性付与部門』と俺たち『救済部門』だけで働けばいいんだし。
まあもちろん、最高神政務庁とか人事部門とか、それを助ける諸々の部門も必要だけど」
『ですが、こうして銀河宇宙では初等教育の場ですら真実の姿が教えられているのですよね。
それで何故銀河の民は欺瞞に満ちた神界を信任してくれているのでしょうか……』
「それはまず、あの隔絶した高度魔法技術の継承者だっていうことが大きいんじゃないかな」
『と仰いますと?』
「例えばさ、寿命延長の高度魔法なんか、それ一つ取ってみても、もう一般人からしたら超越した能力なんだよ。
ほかにも魔法で生命体を創造出来るとか、何万光年も離れた先に一瞬で転移出来るとか。
だからそうした超越技術の継承者っていうだけで、自然に尊崇しちゃうんじゃないか」
『はぁ』
「それにさ、ヒューマノイドって、神さまみたいな超越者を心の支えにしたがるっていう傾向も持ってるんと思うんだ。
そういう存在がいてくれると思った方が安心出来るとか」
『そういうものなんですね……』
「それに俺の印象なんだけど、この天族ってかなりまともな連中じゃないかって思えるんだ。
それこそ全面的に信じてもいいんじゃないかって思えるほどに。
それでもし彼らの指示を遂行しようって思ったときには、今の神界が神を詐称しているとか、歴史を隠蔽しているなんて、どうでもいいことなんじゃないかな。
指示には僭称も隠蔽もするなとか一言も書いてないし」
『はぁ』
「それに今の神界は『天地創造』も『知性付与』もちゃんと続けてるだろ。
高度魔法技術の継承にしたって、言っちゃあなんだが俺が全部継承してて使うことも出来るし。
それにそもそも『宙域統轄部門』っていうものがあるのが不思議だったんだよ。
今まで原理派が主流だったんだから、そんなものあっても意味無いだろうって。
だけどこの天族とその指示のことを知って、ようやく納得出来たんだ。
あれは自然災害を救済するための連絡網の名残だったんだろう。
今では何の役にも立ってないけど。
銀河連盟だって頑張ってるよな。
当時は数百しかなかった認定世界や連盟加盟世界が3000万にまで増えてるし、その間恒星間戦争も無かったし。
問題があるとすれば、今の神界の自称神連中が、E階梯を高める努力を全くしていないことと、高度魔法技術を用いた自然災害世界への救済をしていないっていうことぐらいだよな」
『はい……』
「だけど、俺たちが救済部門を立ち上げられたんだから、救済は俺たちがやればいいだろ。
そのときに自称神連中のE階梯が低いとかどうでもいいんじゃないかな。
100億年前の天界には天使は300万人しかいなかったけど、それが今では3億近い自称神連中がいるわけだ。
そのほとんどがE階梯が低くって何もしていなくっても、『天地創造部門』と『知性付与部門』と俺たち『救済部門』がちゃんと働けばそれでいいだろう。
もちろん邪魔をしに来るようなら叩き潰すけど」
『あの、この事実はエリザベートさまや神界上層部にお伝えしないのですか?』
「いや、上層部にはいつか伝えてもいいと思うよ。
幸いにも今の神界上層部にはマトモな連中も多いみたいだから。
でもいきなり公開すると大騒ぎになるから、少しタイミングを見てからかな。
だからマリアーヌも、それまで少しの間秘密にしておいてくれるか」
『畏まりました……』




