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*** 58 出向 ***

 


「エリザベート・リリアローラ救済部門長殿、協議に応じて下さったことに深甚なる感謝の意をお伝えする」


「エギエル・メリアーヌス最高神政務庁主席補佐官殿、この協議は神界救済部門のためであり、ひいては銀河系全体のためである。

 そこまで感謝を頂くほどのことではあるまい。

 もしよければもそっとフランクに話し合おうではないか」


「感謝する。

 それで協議開催連絡にもあった通り、この協議の目的は救済部門に於ける神石製造を如何に推進するかということになる」


「そうさのう、万が一にもあのタケルの魔臓が焼き切れてしまったりしたら……

 それはタケルの番相手である妾の悲しみだけでなく、もはや神界や銀河宇宙の損失にもなってしまうだろうからの」


「その通りだ。

 あの転移結界装置の実験成功を御覧になられた最高神さまからは、『あらゆる努力を傾注して、救済部門の、いやあの漢の計画推進を援助せよ』という言葉を頂戴している。

 その援助には『タケル神に万が一のことが無きようにせよ』ということが当然含まれていることだろう」


「それはありがたいことだ。

 確かに現状では、救済部門には妾を除いて神はあ奴しかおらん。

 その配下の天使に至っては僅かに初級天使が3人しかおらんしな。

 まあ、天使見習いは10万人もおるが」


「ということで、タケルを守り、救済計画を守るためには、救済部門に神石を製造出来る者を増やさねばならぬということなのだろう」


「その通りだの。

 少なくともタケルを神石製造のラインから外してやりたいものだ」


「今日はその神員増加について具体的方法について協議させて貰いたいと思う。

 方策はいくつかあるだろう。

 1つめは、『救済部門の天使見習いのうち優秀な者を早急に天使に昇格させ、神法行使をその天使たちにも認める』という方策。

 2つめは、『救済部門に他部門の神を移籍させ、彼らに神石製造を委ねる』という方策。

 3つめは、『他部門の神々の内、志願者を派遣してもらって神石製造を委ねる』という方策だ。

 救済部門としては、このうちどれが望ましいかの」


「そのことについては妾も考えていたのだが……

 やはり1つめの天使見習いを天使に昇格させて神法行使を認めるという方法は、時期尚早だと思われるのだ。

 さすがに彼らにはまだ経験も功績も足りぬからな。

 まあ、今後救済部門が功績を上げればその褒賞として昇格を与えればよかろう。

 今後の方策だの」


「やはりそう思われるか。

 それでは2つめの方策はどうか」


「それがのう、他部門の神を受け入れるというのも気が進まんのだ。

 志願して来るとは言っても、中にはあの転移部門の莫迦御曹司のような輩もおるだろう。

 それにそうした輩の志願を断っても角が立とう。

 中立派の神々ですら反救済派になりかねん」


「そうか……」


「唯一実行の可能性があるのが他部門からの短期派遣だろうの。

 それも土木部門からの派遣に限定したいと思うておるのだ。

 あの部門は部門長以下救済部門に非常に協力的だからの」


「やはりそう思われるか。

 それでは人事部門も交えて土木部門に依頼してみることとしよう。

 最高神さま、それでよろしかったでしょうか」


『もちろんだ。

 エリザベートには申し訳ないが、その協議は最高神政務庁で行うこととしよう。

 わたしも参加する』


「ははっ!」


『その協議には是非タケル神も参加させてくれ』


「畏まりました、最高神さま」




 こうして2日後、最高神政務庁の奥まった会議室にて重鎮たちの協議が行われることとなったのである。


 出席者は、最高神さまを初めとして、最高神政務庁主席補佐官、救済部門長、人事部門長、土木部門長とオブザーバーのタケルである。

 こうした協議の場に最高神が列席するのは異例の事だった。

 そのこと自体、最高神が如何に救済部門に期待しているのか如実に示している。


 この中ではタケルを除いて最も格が低い神は土木部門長だった。

 土木部門長の部門長在任期間は6万年に満たないが、その他の神々は優に数十万年から百万年以上もの間その地位に就いているからである。

 エリザベートの部門長在任期間は短いが、前職は神界上級神会議議長という重職であった。


 尚、エリザベートの顔を見たタケルの脳内では『親子丼』という煩悩文字が飛び交っている……



 まずは首席補佐官からこの協議の趣旨が説明され、続いて最高神さまよりお言葉があった。


「ということで、わしと救済部門からの依頼により、土木部門から救済部門への出向神を願いたいと思うておるのだ。

 土木部門長、どう思うか」


「へ、へい、い、いやはい」


「はは、タオルークや、そう畏まらんでもよろしい。

 いつも通りフランクに話すがよい。

 そなたが部下と共にタケルの神域を設置し、小惑星を集めて来たのはわしも見ていた。

 見事な仕事であったぞ」


「はっ、ありがとうございます!

 土木部門として、救済部門に協力させて頂くのはまったくもって構いませぬ」


「そうかそうか、それはよかった。

 人事部門長アルジュラス・ルーセン、人事制度上なにかこの出向に問題はあるかの」


「特に問題はございませぬ最高神さま。

 出向期間は最長で2年、それ以降は転籍という制度がございますが、それは3次元空間の話です。

 あの勤務地は時間の流れが違いますので、最長で体感時間120年の出向が可能になります」


「はは、そうであったの」


「ただ、念のため出向者の待遇について確認させて頂きたいと思います。

 今タケル神に質問してもよろしいでしょうか」


「もちろん構わんぞ。

 わしも大いに興味のあるところだ」


「それではタケル神、勤務場所はあの神域になるのだろうが、出向者の住居はどうなるのかの」


「救済部門の職員が住むセミ・リゾート惑星のホテルかマンション等をご利用頂きたいと思っています」


「そうか、あそこならば充分であろうな。

 給与はどうする」


「そうですね、成功報酬として15センチ級の神石1つにつき100万クレジット(≒1億円)で如何でしょうか」


「「「 !!! 」」」


「ただ、それではまだ神力が低い方には気の毒ですので、日当5000クレジット(≒50万円)もお支払いさせて頂きたいと思います」


「「「 !!!!! 」」」


「わははは、それではさぞかし出向希望者が殺到するだろうの。

 アルジュラスよ、それで問題はないか?」


「は、些か高額に過ぎるとは思いますが、出向者の給与には下限規定はあっても上限規定はございませぬ。

 よって問題は無いかと」


「そうかそうか。

 タオルークや、その待遇でよいかの」


言葉を返すようで誠に申し訳もございませんが、些か高額に過ぎるかと。

 その10分の1でも結構でございます」


「ははは、待遇引き下げ交渉か。

 それでは両名ともわしが裁定を下してもよいかの」


「はっ」 「はい」


「ならば15センチ級神石の製造報酬は30万クレジット(≒3000万円)、日当は2000クレジット(≒20万円)でどうかの」


「は、はい」 「畏まりました」


「はは、わしも出向してみようかの。

 玄孫や昆孫たちになんぞ買ってやれるかもしらん」


「最高神さま、どうかそれはお控えになってくださいませ。

 そのようなことが神界に漏れたら大騒ぎになってしまいます」


「うーむ、残念じゃ。

 それでは、これからもそなたたちには期待しておるぞ」


「ははっ!」 「はっ!」




 もちろん土木部門内ではこの出向は奪い合いになった。

 報酬が超高額であることに加え、毎日あの『武者ラーメン』や『おいなりさん』が食べ放題になるからである。

 そこで相談の結果、初回出向者は500名、その後現地時間180日(3次元時間3日)での交代制になったのであった。


 出向者たちは急遽拡大された神力充填所に於いて早速魔石から魔力を吸収し、これを神力に変換して神石の充填を始めている。

 各人は魔道具のペンダントをつけて作業を行っているが、この魔道具は神々の魔臓が過熱し始めるとサイレンを鳴らすようになっており、これが鳴ると2日間の強制休養に入ることになる。

 それでも神石充填所では『ぬぅおぉぉぉ―――っ!』とか『ぐぅおぉぉぉ―――っ!』とかの野太い雄叫びが絶えることは無かったのであった。

 なぜか皆上半身裸になっているのは相当にウザかったが。


 こうして神石製造はタケルの手を離れたのである。

 そのうちに神力が爆上がりしつつある出向者たちによって、日々百個から千個近い神石が製造されていくことになるだろう。


 そんな或る日、神石充填所を視察していたタケルは驚いた。

 そこではタオルーク部門長が額に青筋を立て、雄叫びを上げながら神石に神力を充填していたからである。

 きっと部門長の孫や曾孫たちは、たくさんのお菓子やおもちゃを買ってもらえることだろう……





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