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*** 57 Ⅰa型超新星爆発 ***

 


 現在の銀河宇宙に恒星やその残骸である白色矮星は約8000億個ある。

 これらのうち恒星の寿命はその質量によって決まり、重い星ほど中心部の重力圧が高くなって核融合反応が亢進されるためにその寿命は短くなる。


 例えば太陽の寿命は約100億年だが、他の恒星の寿命はその質量比の3乗に反比例する。

 つまり太陽の倍の質量を持つ恒星の寿命は太陽寿命の8分の1となり、太陽の10倍の質量を持つ恒星の寿命は僅か1000万年になってしまうのである。


 地球を含む太陽系の太陽は、銀河宇宙の中でも平均的な質量を持つ恒星だが、この太陽質量の8倍以上の質量を持つ恒星は、その極めて短い生涯の末に超新星爆発を起こす可能性が高く、この超新星爆発は強力なエネルギーを持つガンマ線を放出するために、半径100光年の範囲にある生命に極めて深刻な影響を与えるだろう。


 だが、幸いにもこのⅡ型と呼ばれる超新星爆発の生命への被害は少ない。

 なぜなら太陽の8倍以上の質量を持つという恒星は必然的にその寿命が短くなり、せいぜい数千万年から数億年の生涯でしかないのだ。

 太陽の寿命がその程度ではその恒星系に生命が発生することは無いからである。


 仮に100光年以内の近隣に太陽質量8倍以上の恒星が発生したとしても、こうした恒星は周囲の宇宙空間の星間物質が重力で集まって形成されるものである。

 つまりその宙域は星の材料である星間物質の集合域であり、やはりこれもまだ生命の発生する環境ではないのである。


 よってこのⅡ型超新星爆発は、発生こそそれなりに多いものの銀河の生命に与える脅威度はかなり低いと言えよう。



 だがⅠa型と呼ばれる白色矮星が爆心となる超新星爆発の場合は深刻である。

 太陽質量0.46倍以下の恒星はその内部の水素を燃やし尽くした後はヘリウム型の白色矮星となり、太陽質量0.46倍から8倍までの恒星は赤色巨星の段階を経て白色矮星になる。

 つまり宇宙の全ての恒星のほとんどが、最終的にこの白色矮星の状態に至るのである。

(太陽質量の0.08倍未満の星は、そもそも恒星には成れない)


 この白色矮星は、地球と同じほどの体積に太陽質量が押し込められているほどに高密度ではあるが、もはや核融合反応を起こしてはおらず、元々保有していた熱量に起因する光しか発していない。

 そのために発見が困難でもある。


 そして、この白色矮星がその大重力によって周囲の物質を吸着してその質量を増大させていき、チャンドラセカール限界と呼ばれる太陽質量の1.44倍に到達すると、突如超新星爆発を起こすのである。


 この白色矮星の質量増大にはさまざまな理由がある。

 銀河円盤の回転によってその白色矮星が星間物質の多い領域に至った場合、連星系を為す恒星から流入する物質による場合、宇宙を放浪する惑星や小惑星と衝突してその質量を増やす場合などである。

 甚だしきは白色矮星同士の衝突であろう。

 これにより一気に大質量星となった場合には、その爆発が単なる超新星爆発スーパーノヴァではなく極超新星爆発ハイパーノヴァとなるケースが多く、その被害は圧倒的に甚大なものになる。


 そのため銀河連盟は、こうした超新星爆発予想天体から150光年以内に神界認定世界がある場合は、すべて太陽・白色矮星観測衛星を配備してその爆発と同時に銀河宇宙に警報を発する体制を取っていた。

 特に白色矮星については、その周囲の宇宙空間も含めて観測対象としている。



 こうしたⅠa型超新星爆発予想天体から僅か50光年以内にある恒星系は、深刻な危機下にある。

 ガンマ線は生命の遺伝子に多大な被害を与えるために、ヒューマノイドを含めた全ての生命が絶滅の危機に晒されることになるのだ。

 このために、遥かな昔から超新星爆発予想天体から50光年以内という近距離にある神界認定世界は対策を取って来ていた。


 最も安全な対策は他の恒星系への移住になる。

 また、全ての住民を収容可能な人工天体を用意し、超新星爆発が起きた際にはその人工天体ごと重層次元に避難するという対策もある。

 そうしてガンマ線の嵐が過ぎ去った後に、その人工天体で暮らしながら母惑星の再テラフォーミングを行うという対策だった。


 つまり、超新星爆発はいずれにせよヒューマノイドに多大な辛苦を強いる銀河最悪の自然災害と言えるのである。



 だが……

 こうした対策の取れる文明世界は、神界認定世界と呼ばれる銀河の先進文明世界のみだった。

 重層次元航行能力はもちろん、恒星間航行能力すら持たない文明世界については、全く対策が取られていないのだ。

 つまり見殺しである。


 まして生命は発生しているものの、知的生命体のいない世界は完全に放置されている。

 単細胞生物世界、多細胞生物世界、ようやく陸上に生命が上陸した世界、原始ヒューマノイドたちが火を使い始めた世界。

 その全てが破滅的な超新星爆発の下に滅んで行くのを、神界も銀河宇宙も放置せざるを得なかったのである。


 これは地球も例外ではない。

 地球から銀河中心方向に約90光年離れた場所には、連星系を為す超新星爆発予想天体が2つもある。

 これらは今後20万年±2万年の時期に、より強力な極超新星爆発ハイパーノヴァを起こすことが確実視されていた。

 この強大な極超新星2重爆発は当然超強力なガンマ線を放射する。

 このため、地球を含む太陽系は生命のいない世界になることが予想されている。

 それどころか、爆発の規模によっては、その超高エネルギーガンマ線のもたらす光崩壊現象によって、ごく軽い元素と中性子に分解されてしまう可能性すら存在していたのであった。



 もはや神に至ったタケルにとって、20万年は寿命の内である。

 つまりタケルは、約20万年後には地球生命の絶滅や地球の消滅すら目にしなければならないのだ。


 この悲劇を避けるためにどうしたらよいのか。

 そのために何を準備して何を努力すればよいのか。


 これこそがタケルの行動の奥底にある原点だった。


 そして、タケルはそれら行動のために最も必要とされる資金を手に入れているのだ。

 機材などを調達するには圧倒的な技術力を持つ銀河宇宙に代価を払って製作してもらえばいい。

 仲間の手がいるならば給与を払って集めればいい。

 あと必要なのは自分の智慧と努力だけではないか。


 また、その準備と努力の結果、仮に地球が助かったとしよう。

 だが、そのとき他の生命世界を見殺しにしていいものなのか。

 否、地球を救うのであれば、全ての生命世界も救わなければならない。

 生命の価値に文明度の高低による違いなど無いのだ。


 そして、超新星爆発という最悪の自然災害から生命を救済するのであれば、他の自然災害からも救済すべきではないのか。

 氷河期、海面上昇、海面下降、旱魃。

 さらには自然災害だけでなく戦争、武装強盗、盗賊、奴隷制、王侯貴族を自称する者たちによる強盗まがいの徴税。

 全ての災害や害悪から銀河の民を救済すべきである。


 こうした考えこそがタケルの行動原理になっていったのであった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 タケルの神域内にある工業恒星系コンソーシアムの工場で、恒星・白色矮星監視衛星が完成し始めた。

『今後5万年以内に銀河の神界認定世界に被害を齎す可能性の有る超新星爆発可能性天体』の数は約600であり、これら全ての天体周辺には既に銀河連盟の観測機が送り込まれている。

 だが、これを『全ての生命に被害を齎す』に拡大すると、その数は1600になり、この差1000を埋めるために発注されていた観測衛星が完成し始めたのである。

 天体1つにつき最低でも3基の衛星による観測が望ましいために、必要観測衛星の数は3000基にのぼる。


 タケルに新たな仕事が加わった。

 それはこれら観測衛星を要監視恒星・白色矮星の近傍に恒星間転移で送り込む作業である。

 近傍空間に転移された衛星に搭載された初級AIは、重層次元通信装置を通じてマリアーヌのコントロール下にあり、内蔵された核融合エンジンを駆動させて観測に最適な場所に移動する。

 そして、超新星爆発の予兆であるニュートリノの急激な増大を検知すると、マリアーヌを通じて救済本部に警報を鳴らすことになっている。


 タケルは日々30基ほどの衛星をマリアーヌが指定する座標に転移させていた。

 全ての転移作業が終了するには100日ほどの時間がかかることだろう。(3次元時間では2日弱)




 また、マリアーヌが1万体の上級作業ドローンを使って製作していた『転移結界装置』の実験機も完成した。

 これはまだ本体の直径10キロ、展開出来る転移結界の直径100キロとかなり小型のものだったが、それでも性能的には目指す最終装置と同じものである。


 早速実験が始まった。


 まずは内蔵した恒星間転移装置による移動実験である。

 これは銀河系内各所の座標に対し、マリアーヌの指示によって転移を繰り返すものだったが、もちろん成功裏に終わっている。

 姿勢制御エンジンによる短距離の移動にも問題は無い。


 次の実験が始まった。

 タケルの神域内で本部から最も離れた場所に2つの足場空間が用意され、その中間に実験機が置かれる。

 一方の足場からは、かなりの強度を持った収束ガンマ線やその他放射線が、もう一方の足場に置かれた観測装置目掛けて発射された。

 そうして、『転移結界装置』はこれら放射線を見事に全て重層次元に転移させてしまったのである。

 神域内の全ての観測装置は何の反応も示していなかったが、3.6003次元に設置された球形の出口装置からは全周方向に向かってガンマ線が転移されて放射されている。



 この実験成功は、本部に詰めていたエリザベートはもちろん、エリザベートから報告が行った最高神さまや最高神政務庁も大いに喜ばせた。


 だが、ことここに至り、タケルの救済計画にとっての大きな障害が明らかになりつつあったのである。


 その障害はタケルが肌で感じ、エリザベートがタケルの様子から推測し、最高神さまを含む最高神政務庁の神々が類推していたことだった。


 すなわち、今の救済部門には、救済機器に必要な神石を製造出来る者がタケルしかいないという事実だったのである。


 万が一にもタケルに無理をさせてその魔臓が焼き切れてしまったら……

 神界は救済事業も資源抽出技術も失ってしまうのである。


 そもそも10万人の職員と銀河の標準的な恒星系予算の1兆年分の1600万倍に及ぶ予算を持つ神界救済部門に、神法を行使出来る神が部門長のエリザベートと実行部隊長のタケルしかいないことが問題だったのだ。

 これに気づいた最高神政務庁は、関係者を集めて協議の場を持ったのである。

 身重のエリザベートに配慮して、協議はまずエリザベートの神殿で行われた。

 むろん最高神さまはその秘書AIを通じてオンラインで参加している。





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