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*** 52 6800兆クレジットとはいくらだ! ***

 


 タケルは座り込むワイラスを無視して早速説明を始めた。


「皆さまの前方には小惑星が見えることと思います。

 あれは直径1000キロほどの小惑星でして、銀河宇宙に存在する一般的なものですね。

 それではまずあの小惑星を10倍ほどの大きさの遮蔽フィールドで覆いましょう。

 尚、このフィールドは内向きに展開されております」


 その場に直径1万キロもの遮蔽フィールドが展開された。

 本来透明なフィールドも、外部から見ると、3.500次元空間にあるテラフォーミング用の太陽の光を受けてキラキラと輝いている。



「もちろんこの状態でも資源を『抽出』することは可能ですが、強固に結合された各元素の間を抜けて個別元素を抽出するには膨大な神力と時間を必要とします。

 そこでまずこの小惑星を細かく砕いてやらなければなりません。

 そのためにこのフィールド内における『電磁気力相互作用』を遮断します」


 タケルの宣言と同時に、フィールド内に白い霧が広がった。

 その霧は爆発的に拡大してフィールドを満たして行く。

 それはまるで白い霧が高速で襲い掛かって来るように見えた。


「ひいぃぃっ!」


 またワイラス部門長代理が悲鳴を上げた。

 いや、視察中の神々も相当にたじろいでいる。


「このフィールド内では、現在『電磁気力相互作用』が遮断されているために、すべての原子が原子核と電子に分離されています。

 このために原子や分子の結合や金属結合も遮断されて、このような細かい霧状に分解されているように見えるわけですね」


 この圧倒的な光景を前にしても、タケルの淡々とした説明によって神々は落ち着きを取り戻したようだ。



「次はこのフィールドの隣にもうひとつ直径2000キロほどの遮蔽フィールドを張って、その中に元のフィールド内にある自由電子を転移させます」


 元のフィールド内の白い霧がやや薄くなったように見えた。

 同時に新たに張られたフィールド内が、やはり薄く輝く白い霧で満たされている。


「これで大フィールド内には各種元素の原子核、小フィールド内には遊離電子が満たされたことになります。

 それではこの大フィールドの中から鉄原子の原子核だけを『抽出』して小フィールドに『転移』させましょう」


 小フィールド内部中央に銀色に輝く塊がいくつか発生した。


「現在フィールド内の鉄原子核が電子を取り戻して金属結合を復活させているところです。

 空間が広いためにいくつかの塊になってしまっていますので、『念動』と『融合』によってこれを一塊にします」


 中央部に銀色の球体が出現している。


「鉄原子の分離が終わりました。

 あのフィールド中央にあるのは約115兆トンの鉄原子の塊です。

 もちろんその純度は100%ですね。

 それではあれをもう少し近くに持って来ましょう」


 鉄原子塊が神々の立つ足場近くに転移されて来た。

 3000万年近い寿命を持つ神々と雖も、誰も見たことのない圧倒的な光景である。

 その場の神々が言葉も発せずにただ立ち竦んでいた。

 いや、ドヤ顔のエリザベートと空気の読めない阿呆神1名を除いてだが……


「て、鉄などはどうでもいいっ!

 は、早く金を抽出して見せろっ!」


「それでは金も抽出してみましょうか」


 今度小フィールド内に出現した塊は、肉眼では見えないほど小さかった。

 すぐに足場の近傍に転移されたが、それでも見た目は相当に小さい。


「なんだたったこれだけしか無いのか!」


「ええ、通常の地殻中に於ける金原子の存在比は僅か0.003PPMしかありませんので、直径1000キロ程度の小惑星から採掘可能な金資源は、ご覧の通り約680万トンしかありません」


「ふん!

 偉そうに新たな資源開発法を得たと吹聴していたが大したことは無いな!」


 どうやらこの若い神は、先ほど醜態を晒したせいか、ことさらに尊大に振舞ってタケルにマウントを取ろうとしているようである。

 それが却って自分を矮小に見せていることには気づいていないようだ。


「そうですね。

 もしもこの金塊を現在の銀河標準価格で売却出来たとしても、その代金は6800兆クレジットにしかなりませんし」


 やはりエリザベートと1名を除いて神々が硬直した。


「なんだと! 

 6800兆クレジットとはいくらのことだ!」


 なんという阿呆な質問だろうか……

 その場の神々が唖然としている。



 タケルが微笑んだ。


「仰る通り大した金額ではないですよ。

 神界全体の年間予算の僅か6800年分ですから」


「な、ななな、なんだとぉぉぉ―――っ!

 き、キサマ初級神の分際で我がワイラス一族よりも多くの資産を持っているというのかぁっ!」


「それは違いますね。

 この金塊は私の資産ではなく神界救済部門が保有しているものですから」


「お、おなじことだろうっ!」


((( やはりワイラス一族は転移部門の資産を私物化していたのか…… )))


 神々はさらに呆れている。


「いえ、神界の財産とわたしの財産とでは全くの別物ですから」


「な、ならばこの金塊を神界全体に分配せよっ!

 い、いやこの資源抽出とやらの魔法を俺に教えろっ!」


「まず部門の資産をわたくしが勝手に分配することは出来ません。

 それは部門長と神界の各部門を統括する最高神政務庁のご判断です。

 それに、もう『全元素資源抽出』の魔法マクロは完成していて最高神政務庁に提出済みです。

 これを公開するか否かも最高神政務庁のご判断になりますね」


「き、キサマ、上級神たるこの俺の命令が聞けないというのかぁっ!」


「それにもしも公開されたとしても、このマクロを行使されるのは絶対にお止めになられた方がいいですよ」


「な、なんだとぉぉぉ―――っ!」


(この莫迦、怒鳴らずに喋れないのか?)


「もしもこれを行使されたら……

 あなたは即座に魔力も神力も枯渇して大変な激痛を受けます。

 もちろん魔法マクロも稼働せず、抽出は失敗するでしょう」


「お、俺はレベル60もの魔法能力を持っているのだぞっ!」


「この魔法マクロを発動させるには、最低でもレベル600の魔法能力と神法能力が必要になりますので」


「「「 !!!! 」」」


「き、キサマはそれだけの魔法神法能力を持っているとでも言うのかっ!」


「はい」


((( ………… )))


「それにうっかりこの魔法マクロを発動させると、レベル500以下の方ではほぼ瞬時に魔臓が焼き切れるでしょう。

 魔臓を復活させるには長い療養生活が必要になると思われますし、場合によってはそのまま廃神になります」


((( ………………… )))


 神々の眉間に深い皺が寄っている。


「な、ななな、なんだとぉ―――っ!

 そ、そんなものレベル60の部下を10人集めれば簡単だろうに!」


「あの、ご存じだとは思いますが、レベル60の方10人では足りません」


「な、なにっ……」


((( こやつはそんなことも知らないのか…… )))


「レベルが1上がると魔法能力はほぼ倍になります。

 従いまして、レベル600の者が為す作業をレベル60の者を集めて行わせるには、2の540乗、つまり約3.6×10の162乗人が必要になります。

 この数は宇宙全体の原子の数よりも遥かに多くなりますのでまあ不可能ですね。

 仮に銀河宇宙の全ての人員を集めて行使させたとしても、全員の魔臓が焼き切れて死亡すると思います」


「「「 !!!!! 」」」


「な、ならば話は簡単だ!

 貴様は我が栄光あるワイラス一族のためにそのマクロとやらを行使せよっ!

 どうだ! この上なく名誉な仕事であろうっ!」


「お断りします」


「な、なんだと!

 キサマ、上級神たるこの俺の命令が聞けないとでもいうのかっ!」


「はい聞けません」


「こ、この無礼者めがぁぁ―――っ!」



 最高神政務庁主席補佐官エギエル・メリアーヌスがうんざりした顔で発言した。


「ワイラス転移部門長代理、そなたの暴言は聞き飽きた。

 もう神界に帰りたまえ」


「な、なんだと……

 あ、あんたにそんなことを命じる権限は無いだろうっ!」


「いや、最高神政務庁主席補佐官兼この視察団の団長として命じる。

 すぐに帰りたまえ」


「き、拒否する!」


「ならば仕方がない。

 そなたたち、この者を逮捕して神界に連れ戻し、神界裁判所の牢に入れよ。

 罪名は命令不服従だ」


「「 ははっ! 」」


「く、くそーっ!

 ワイラス一族の嫡孫たるこの俺様に逆らったこと、後悔させてやるぅぅぅ―――っ!」


 ワイラス代理が転移して消えた。

 お付きの者たちも慌てて後を追っている。



「これでようやく阿呆もいなくなったか。

 タケル・ムシャラフ初級神よ、見事なデモンストレーションに感謝する。

 以降は救済部門本部に戻っていくつかの質問に答えてもらいたいのだがよろしいかの」


「畏まりました……」





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