*** 51 合同視察団派遣 ***
この資源抽出実験の成功は、マリアーヌを通じてエリザベート上級神にも報告された。
エリザベートは大いに喜んでタケルを称えたものの、神界の神による資源大量確保成功という重大事に鑑み、しばらくの間関係者以外秘匿事項とすることを決めたのである。
「まあ神界内で秘匿するのも短期間で済むだろう。
妾はこれから最高神さまに相談し、なるべく早く銀河宇宙と資源取引が可能になるよう取り計らおう」
「よろしくお願いします」
「その間、そなたには出来れば残りの小惑星からの資源抽出を続けてもらいたい。
その際には、小惑星の大きさによってそなたの負担がどれほど違うのかも報告してくれ」
「はい」
こうした資源抽出は魔法操作力や神法操作力を向上させるため、タケルにとって実利を伴う鍛錬になっている。
また、実験の結果、この資源抽出作業の負担は元の小惑星の大きさにはあまり関係が無いことがわかった。
単により大きな遮蔽フィールドを張るとか『電磁気力相互作用遮断』や『資源抽出』や『転移』の範囲と量が多くなるだけである。
よって、魔力・神力補給用の魔石や神石さえあれば、膨大な神力操作力を持つタケルはいくらでも作業を続けられた。
しかもその資源抽出率は100%であり、鉱石滓もボタ山も発生しないのである。
(ダークマターやダークエネルギーは残るが、遮蔽フィールドを解除すれば宇宙空間に拡散していくために特に問題は無い)
こうして、タケルは1日に2個のペースで小惑星を粉砕して全てを資源として分離貯蔵していき、神域時間でほぼ60日、3次元時間では僅か1日で100個の小惑星を全て個別資源に変えてしまったのであった。
神域完成後にその場に残ってチェックを続けていた神界土木部門のメンバーたちは仰天した。
あれだけあった小惑星が、僅か60日ほどの内にすべて消滅してしまっていたからである。
タケルはエリザベートと協議の上、神界土木部門に対して秘密裏に追加の小惑星転移を依頼した。
直径1000キロほどの小惑星3000個を神域に持って来てもらいたいとの依頼であり、その代償として、土木部門に対し追加で1000億クレジット(≒10兆円)の寄付も提示されている。
これら総重量で地球質量の10分の1に匹敵する小惑星群も、3次元時間50日ほどで全て資源の山に変えられてしまうことだろう……
この驚くべき量の資源は、主なものだけで以下のようになる。
・酸素:2.8×10の20乗トン(=1兆トンの2億8000万倍)
・珪素:1.6×10の20乗トン(=1兆トンの1億6000万倍)
・アルミニウム:4.9×10の19乗トン(=1兆トンの4900万倍)
・鉄 :3.0×10の19乗トン(=1兆トンの3000万倍)
・銅 :3.0×10の16乗トン(=1兆トンの3万倍)
・金 :1.8×10の12乗トン(=1兆8000億トン)
*仮にこれだけの金を銀河標準価格で売れたとしたら、その総額は1.8×10の22乗円になるだろう(≒1兆円の1800億倍)
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タケルの鍛錬は続いていた。
午前中はやはりニャイチローやオーキーとの戦闘訓練だったが、午後の魔法訓練はマリアーヌが作ってくれた15センチ級魔石を使用して、同じく15センチ級の神石を量産している。
また自らの神力を用いて資源抽出も続けていた。
こうした神石作成や資源抽出を通じて、タケルの総合レベルも順調に上がって行き、今やレベル700に迫っている。
ルオルン恒星系からセミ・リゾート衛星が完成したとの連絡が入ったため、タケルは自ら転移してこれを『収納』し、自分の神域に持って来た。
「それじゃあ内部を視察してみようか」
そのセミ・リゾート衛星は、さすが銀河宇宙の製品だけあって見事なものだった。
内部の移動は全て徒歩か短距離転移装置であり、動力車両はAIの操作する緊急車両である無重力ターレットしかない。
表層はいくつかの湖を中心にした森や丘の間にロッジやコテージ、キャンプ場などが点在し、まるでスイスのリゾートを思わせるものになっている。
湖には救助員を兼ねたマーメイド型やイルカ型のドローンが多数いて、皆水面から顔を出してタケルに挨拶していた。
救済部門の職員やその家族たちと楽しく遊んでもくれるだろう。
その湖畔にはタケルのイメージ通りの大きな建物があった。
エリザベートのために用意した別荘であり、見た目は中世ヨーロッパの領主館だが、中身にはもちろん最新の銀河技術が詰まっている。
後に招待したエリザベートはこの別荘を見て大いに喜んだ。
「ありがとうのタケル♡」
「気に入って頂けてよかったです」
「それでの、この別荘にほんの少しだけ改造を加えたいのだがよいかの」
「もちろんですよ。
マリアーヌにご希望をお伝えください」
後日、エリザベートの別荘を訪れたタケルは驚いた。
1階ロビー奥に『ちゅ〇るラーメンと和菓子の店(タケル神域内支店)』が出来ていたからである……
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マリアーヌからエリザベート経由で資源抽出実験成功の報告を聞いた最高神は大いに喜んだ。
なにしろ僅か数時間(3次元時間)で、金を別にしても神界の年間予算数千年分に匹敵する資源が得られるというのである。
最高神は首席補佐官を呼び、エリザベートも交えて本格的な協議に入った。
エリザベートの体調に配慮して協議の合間には多くの休息が取られたが、それでも2日に及ぶ協議の結果、まずは神界から救済部門に合同視察団が派遣されることになったのである。
視察の名目は、最新の救済部門の業績を神界幹部一同に紹介することであった。
視察団のメンバーは、最高神政務庁の首席補佐官を団長とし、案内役のエリザベート・リリアローラ救済部門長に加え、人事部門長、監査部門長、調査部門長、財務部門長、法務部門長、土木部門長、天地創造部門長、知性付与部門長、広報部門長と転移部門の副部門長、宙域統轄部門の副部門長であった。
転移部門と宙域統轄部門からだけは部門長でなく、部門長の親族である副部門長の出席である。
どうやら原理派の重鎮たる部門長閣下方は、本来不要であると主張する救済部門の視察などはさらに不要であると考えたらしい。
だがどうやら噂に上っている資源抽出の秘蹟を得るために、後継者にするつもりの嫡男や嫡孫たちを派遣したようだ。
一行は各自2名の随行員を連れてエリザベートの神殿に集合し、そこからタケルの神域内にある救済部門本部に転移した。
尚、この転移装置もタケルが設置したものである。
救済部門本部は、神殿どころか区役所のような実に質素な造りであり、その本部内会議室に於いて神界救済部門の紹介が始まろうとしていた。
だがそこで視察団のうちの若い神が吼えたのである。
「なんだこのみすぼらしい神殿は!
上級神たる我を出迎えるには不敬であろう!」
視察団団長であり、最高神政務庁主席補佐官であるエギエル・メリアーヌス上級神がうんざりした顔で口を開いた。
「転移部門ガブリエル・ワイラス部門長代理殿、これは救済部門の最新の業績を拝見するための視察である。
そなたを歓迎する場ではない」
「し、しかし閣下!
それにしても最低限の礼儀というものがっ!」
人事部門長のアルジュラス・ルーセン上級神も呆れ果てた表情で発言する。
「最低限の礼儀を心得ていないのはそなたの方ではないかな」
「!!」
監査部門長ローリアス・サイランダーも口を開いた。
「いいかね、この訪問は査察でも監査でも親善でもなく視察である。
つまり我々は救済部門の業績を見せて頂く立場にいるのだよ。
そんなことも弁えられないそなたはしばらく黙っていなさい」
「ぐうぅぅぅ―――っ!」
(はは、早速マウント取ろうとしたボンボンが、お偉いさんたちにやり込められちまってるわー)
エリザベートが口を開いた。
「それでは閣下方、紹介させて頂こう。
そちらに居るのが救済部門実行部隊長のタケル・ムシャラフ初級神だ」
「みなさんようこそ救済部門本部にお越しくださいました。
わたくしが救済部門実行部隊長のタケル・ムシャラフです」
重鎮たちの視線が集中した。
若い、どう見ても若い。
どう観察してもこの男の暦年齢は18歳ほどであろう。
(タケルはその面構えや体格から実際より年上に見られることが多い。
まあ生活年齢はもう30歳近いのだが……)
「それでは早速ではありますが、本日の予定をご説明させて下さい。
我々は先日、銀河宇宙の小惑星から元素を抽出することに成功致しました。
それも原子番号145番までの全ての元素であります。
まあ、100番以降の多くの元素は数秒以内に崩壊してしまうのですが。
本日はこれよりその元素抽出の現場を御覧いただきたいと思っています。
その後は質疑応答の場を設けさせてくださいませ」
一行は早速救済部門本部から神域内の資源抽出基地に転移した。
尚、基地の足場も直径50メートルほどに拡大されている。
「ひぃっ!」
転移部門ワイラス部門長代理が小さく悲鳴を上げた。
宇宙空間に作られた足場の周囲はクラス80の遮蔽フィールドで覆われているが、遮蔽フィールドは本来透明であり、よって足場の上にいると宇宙空間に放り出されたように見えるのである。
(この男は宇宙空間に出たことも無いのか……
それでよく銀河宇宙の神を名乗れるな……)
重鎮たちが呆れた顔で腰を抜かして座り込んでいるワイラスを見ていた。