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*** 50 金も抽出 *** 

 


「そうそう、これ、電子を閉じ込めた空間内にはまだたくさんの電子が残っているはずだよな」


『はい』


「そ、それじゃあ次に金を抽出してみてもいいかな?」


『どうぞ』


「よし! 元の大型フィールド内で、『金の原子核』を抽出!

 それからその金原子核を電子空間に転移!

 おおおおお―――っ!

 な、なんかみるみる金の塊が出来て行ったぞ!

 すげぇすげぇ!」


『本当におめでとうございます』


(とうとう成功されてしまった……

 これで神界の、いえ銀河系全体の歴史が変わるかも……)



「な、なあマリアーヌ、銀河宇宙でも金って価値はあるのか?」


『金は柔らかすぎるために材料資源としての価値はほとんどありません。

 ですが銀河の文明はそのほとんどが初期の段階で金を貨幣として使っていました。

 そのために現在でも一定の人気を保っており、1グラム100クレジットほどで取引されています』


「そうか、それじゃあこの金を今俺がいる足場に持って来て、ちょっと見てみようかな」


『それは絶対にお止めください』


「なんで?」


『あの金塊の温度は元の小惑星と同じ温度、つまり3K(ケルビン)しかありません。

 つまりセルシウス度でマイナス270度にもなっています。

 そのような極低温の物体をこの狭い足場空間に転移させれば、空間内の空気が瞬時に液化してしまい、タケルさまが危険です』


「3ケルビン……

 あ、宇宙背景放射温度か!

 あの小惑星は何億年も宇宙空間にあったから、もう宇宙空間と同じ温度まで冷え切ってるのか!」


『はい』


「そのままじゃあ銀河世界には売れないなぁ。

 どうしたらいい?」


『現在の銀河宇宙では、生態系を持つ天体での資源採掘は母惑星を含む恒星系内のみに限定されています。

 つまり他の恒星系の生物存在天体での資源採掘は出来ず、彼らは小さな惑星や小惑星からの採掘を行っているのです。

 よって3Kなどという極低温下の採掘にも習熟していますので問題ないかと。

 また、採掘した鉱石はその場で熱などにより精錬されますが、放置しておけばすぐに宇宙空間と同じ温度になります。

 彼らがタケルさまから購入した資源を母惑星上などで使用する際には、自分たちで採掘した資源と同様に、彼ら自身がその資源を常温まで暖めて使用することでしょう』


「なるほどな。

 さすがは銀河世界だ」


『わたくしが製作する予定の超大型転移結界装置にしても、生命体は搭乗しませんし運用は宇宙空間で行われますので、極低温でも何の問題もございません』


「そうか」


『ただし、タケルさまには鉄資源とクロムやモリブデンなどを『錬成』神法で融合して合金を作って頂きたいのですが、その際には極低温に充分ご注意くださいませ』


「了解」


『もしタケルさまが金資源などを惑星上で使用される際には、鍛錬空間が巡っている人工太陽の周りに資源備蓄衛星を配置し、その中で太陽光線により室温程度までに戻されたら如何でしょう』


「そうしようか。

 備蓄衛星の手配をお願い出来るか」


『畏まりました』


「それじゃあ作業を続けよう。

 あ、気体元素はどうしようか」


『それも『抽出』されることをお勧めさせて頂きます。

 例えば水素中の重水素は核融合発電の燃料としての用途がありますし、酸素はテラフォーミング等の際に非常に有用です。

 他の気体元素も通常の工業過程では取り出すのにかなりのコストがかかっていますので。

 それにこの温度では、全ての気体元素も固体化しているので保管スペースも取りませんし』


「それじゃあ全ての元素を抽出して保管しておこうか」



 実は地球の地殻中では質量比で最も多い元素って酸素なんだよな。

 それも46%も占めてるんだよ。

 宇宙でも水素とヘリウムに次いで3番目に多い元素だし。

 実際の地殻中にはほとんど酸化物の形で含まれてるんで、純粋酸素なんか僅かしか無いんだけど。

 ついでに酸素って54K以下の極低温だと固体になるんで、保存も簡単なんだよ。


 それに酸素って結構用途が多いらしいんだ。

 まずは長距離航行する宇宙船内でのヒューマノイドの呼吸用だな。

 それ以外にも俺が買った人工天体でも酸素は呼吸用に必要になるし。


 その他に特殊な用途としてテラフォーミングには重要な資源だったんだよ。

 初期の惑星にはほとんど嫌気性の単細胞生物しかいなかったけど、地上に植物が発生して二酸化炭素を取り込んで酸素を発生させると一気に多細胞生物が増えて行ったからな。

 だけど初期の僅かな植物が充分な酸素を供給出来るようになるためには、とんでもなく時間がかかるそうなんだ。

 それこそ数千万年とか数億年とか。


 だから余った酸素資源を神界天地創造部門に寄付したら、すっげぇ喜んでたよ。


 それじゃあ残りの資源の『抽出』も頑張ってみるかね。



 こうしてタケルは、原子番号1番の水素から始まって原子番号145番までの重金属までをも『抽出』していったのである。

 もっとも100番以降の元素のほとんどは数秒以内に崩壊してしまうのであったが。


 尚、ウラニウム、プルトニウムなどのような放射性物質や、カドミウム、水銀などの生物有害物質などは別スペースに厳重に保管してある。

 また、純粋アルミニウムやマグネシウム、カリウムなど空気や水分に触れると危険な物質は、密閉容器の中に入れていた。



「ふー、ようやく100キロ級小惑星から全ての元素抽出が終わったか。

 ん? あれ?

 なんかさ、元の空間にヤタラにたくさんの物質が残ってるようなんだけど……」


『あれらは全てダークマターですね』


「!!!」


『そもそも宇宙を構成する物質の質量の内、ヒューマノイドが利用可能な通常元素は4.9%しかございませんので』


「そ、そうか」


『しかもダークマターの原子結合は通常物質の素粒子から成る原子核と電子という構成とは異なりますので、あの空間にあるのはダークマターとダークエネルギーそのものになります』


「そうか、質量とエネルギーって等価だもんな」


『はい』


「それであの残ったダークマターとダークエネルギーってどうしたらいいかな」


『遮蔽フィールドを解除すればまた宇宙空間に広がって行きますので、それでよろしいのではないでしょうか』


「そうか。

 ところでマリアーヌ、抽出した通常元素資源だけど、全部でいくらぐらいになると思う?」


『そうですね、現在の市場価格ではおおよそ1兆クレジット(≒100兆円)ほどかと』


「ええっ! そ、そんなに!

 そ、それじゃあ直径1000キロの小惑星から資源抽出なんかしたら、1000兆クレジット(≒10京円)になっちゃうだろ!」


『さらに全ての資源が純粋元素の状態ですので、実際にはその10倍以上の価格になってもおかしくありません』


「そんなにか……」


『例えば金は純度99.99%以上のものであれば『フォーナイン』呼ばれて純金とされますが、純度99.999999%(エイトナイン)にするには、元の金価値の数倍のコストがかかると言われておりますので』


「そうなんだ……」


『さらに、現在の地球技術では1キロの金原子を含む金鉱石から採掘出来る金の総量は300グラムほどです。

 それ以上の金を抽出すると、コストが跳ね上がって金そのものの価値より高くなってしまうのですよ。

 銀河技術ならば800グラムは抽出出来ますが、やはりそれ以上の精錬には莫大なコストがかかります。

 これに対してタケルさまの神法は、完全に100%の抽出が可能ですので』


「ということは、俺の資源抽出技術って途轍もないものなのか?」


『仰る通りです。

 銀河140億年の歴史の中で初めて見出された技術ですね』


「こんな簡単なことなんで誰もやってなかったんだ?」


『まず『抽出』の神法が使える神々しかこのようなことは出来ません。

 それも強大な神力操作力が求められます。

 さらに『電磁気力相互作用遮断』の神法を為すには、宇宙に存在する5つの主要な力を理解するのみならず、原子核物理学や素粒子物理学、量子力学の知識までが必要になります。

 そのような学問の素養の有る神々はほとんどいません。

 しかも『電磁気力相互作用遮断』などは禁呪に指定されていますので、普通は如何なる神でも許されませんので』


「ん?

 銀河宇宙出身で、天使見習いから出世して神に至った奴って、全員が銀河連盟大学出身者じゃないのか?

 あの大学出身者ならそうした学問の基礎は知っているはずだろうに」


『そうした一般ヒューマノイド出身の神は神々全体の1%ほどしかいません。

 大半の神は神界で神々同士の間に生まれた子孫ですので』


「神界出身の神って銀河連盟大学には行かないのか?」


『今のところ、神界出身の神で銀河連盟大学を卒業された方はいません。

 全員が神界学校の卒業生ではありますが』


「その神界学校では物理学は教えないのか」


『ほとんど表面的なことしか教えていませんね。

 主なカリキュラムは、読み書き計算と倫理学、神界法、神界慣習法ばかりですので』


「なんだよそれ……

 神の子である阿呆ボンボンは物理学すら碌にわかんねぇのか。

 そんなんでよく『銀河宇宙の神』とか言ってるよな」


『…………』


「この資源抽出法さえあれば神界の財源難なんかあっという間に無くなるのにな」


『救済派の神々ですら災害世界以外への過干渉を嫌います。

 よって銀河宇宙と商取引をするなどということは思いもよらないのでしょう』


「でも俺、余剰資源の売却も認めて貰ってるぞ」


『それは救済部門の設立費用がほとんどタケルさまの個人資産から出ているからでしょう。

 まだかなり先の話にはなりますが、資源売却益が救済部門の総費用を上回りそうになった場合には、再度神界にご相談為される必要があると思われます』


「わかった……

 それじゃあ救済部門に『資源管理部』を作って、在庫管理はそこに任せようか。

 人員は100人もいればいいだろう」


『はい』


「あ、そういえば俺、もうひとつ思いついちゃったんだけどさ。

 この資源抽出って遮蔽フィールド内の物質をすべて個別原子に分別出来ちゃうだろ。

 っていうことは完璧なリサイクルが実現出来るんじゃないか?」


『仰る通りですね』


(相変わらず凄まじい発想力だわ……)


『この空間で同じことを行えば、放射性廃棄物、産業廃棄物、果てはヒューマノイドの排泄物ですら、どのようなものでも元素に分解することが出来るでしょう。

 そのうちのCHON(炭素、水素、酸素、窒素)原子を合成すれば人工食品すら作れますね。

 これも超画期的な技術になるかと思われます』


「その技術…… やっぱり封印しよう」


『なぜですか???』


「俺がそんなもん喰いたくないから……」


『はぁ』




『おいタケルよ、それにしてもお前ぇまたとんでもねぇ儲け話を見つけたもんだなぁ』


「はは、俺だって驚いてますよ」


『これでまた旨ぇもん腹いっぱい喰えるな♪』


「ははは……」




 タケルはやはり自分の知名度と人気を認識していなかった。


 タケルが『抽出』した金は、後に1キロのインゴットになって、タケルの似顔絵とサインが刻印された上で銀河宇宙に売り出された。

 これがその後数百年間入荷待ちになる激烈な人気商品となって、あらゆる資源価格が下がって行く中で、『タケルゴールド』だけは値上がりしていったのである……





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