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*** 49 元素抽出 ***

 


 神界土木部門が気合を入れてくれたおかげでタケルの神域建設は捗った。

 途中やはり突貫工事で頑張ってくれたムシャラフで宙域時間加速装置が完成したために、3次元時間での工期はさらに短縮され、時間加速鍛錬空間ベースで60日、3次元時間では僅か5日で神域が完成してしまったのである。


 その神域には直径100キロ級から2000キロ級の小惑星が100個も転移されていた。

 どれも過去超新星爆発が頻発した宙域から持って来たために多量の重金属を含んでおり、多くの資源が採掘出来ると期待されている。

 ただし、土木部門のメンバーたちは、タケルがこの小惑星を禁呪を用いてまで粉砕するとは考えおらず、これだけの量の岩塊を砕くには数十万体のドローンをもってしても、膨大な時間がかかるものと考えていたようだ。


 また、神界土木部門は、タケルの神殿と救済部門の司令部を建設する広大な空間まで用意してくれていたのである。


 この60日の間、タケルは転移で頻繁にムシャラフ恒星系とミランダ恒星系を往復して各種資材を運んでいたが、途中ミランダから調理ドローン1個小隊(中級料理ドローン1体と初級調理ドローン50体)を含む厨房設備を運び、土木部の若い衆たちに『武者ラーメン』と『おいなりさん』を提供した。

 これにド嵌りした土木部門員たちは大いに喜んでいる。

 もちろん『ちゅ〇るラーメン』も提供され始めたために、土木部の猫人たちはもちろん、鍛錬サポートの猫娘たちも喜んでいた。


 さらにムシャラフで恒星間転移装置の最初の2セットが完成したために、タケルは自らの『収納』と『恒星間転移』でこれを設置し、取り敢えずムシャラフと自分の神域、ミランダと神域の直通転移網を形成することが出来た。

 このために、急遽今まで溜め込んでいた魔石により4つの15センチ級神石を作ってこの転移装置を稼働している。


 また、ムシャラフからは残る恒星間転移装置3000万組を製造するためにタケルの神域の一部を貸して欲しいとの申し入れもあり、開通したばかりの恒星間転移装置を通って工場建設資材が続々と届き始めたのである。


 加えて魔素収集用のラムスクープ発生装置を搭載した小型宇宙艇も届き始め、マリアーヌがこれをコントロールして周辺宙域の魔素収集も始まっている。

 マリアーヌの能力の高さもあって、この魔素による魔石作成はタケルの手を離れても大いに捗り始めていた。


 ただ、3000万セット6000万基の恒星間転移装置と、これに必要になる6000万個の神石を用意するにはまだまだ時間がかかることだろう。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「さて、神域も出来たし工場建設も始まったからな、俺はそろそろ資源抽出を試してみようか。

 まずは直径100キロ級の小惑星を粉砕するぞ」


 タケルは小惑星を神域の端に移動させ、その周囲に直径1000キロ、クラス50ほどの結界を内向きに展開した。


「こんなもんでいいですかねタケルーさん」


『いいんじゃねぇか?』


「それじゃあ試しにやってみますかぁ、『電磁気力相互作用遮断』!」


 遮蔽フィールドの中にあった直径100キロの小惑星が、一瞬にして爆散した。

 いや実際には爆発ではなく、原子核と電子の電磁気力結合が遮断されたために、すべての分子結合と金属結合が霧消して、遮蔽フィールド内に原子核と遊離電子が広がっただけである。

 もちろんそれぞれは素粒子レベルの極小の大きさだが、それでも数が多いために光子の通過が阻害されて、白いスープのような空間になっていた。


「上手くいったかな」


『はい』


「それじゃあ次は『電磁気力相互作用遮断解除』と同時に鉄原子を抽出してみよう。

 あそうだ、このテの魔法や神法の行使って、対象物に近いほど魔力や神力の消費量が少ないんだよな」


『そうなります』


「それじゃあさ、あの遮蔽フィールドに近い場所に俺の足場って作れるかな。

 もしくは俺が宇宙空間でも活動出来るようにするとか」


『どちらも可能です。

 宇宙空間での活動は、体の周囲を遮蔽フィールドで覆い、同時に重層次元倉庫に蓄えてある空気を持って来て循環させることになります。

『足場』を作られる場合は、このフィールドを大きめにして、足元に岩などを置き人工重力を発生させればよろしいでしょう』


「その足場ってマリアーヌは作れるのか?」


『もちろんです。

 10秒ほどお待ちください。

 …………

 お待たせしました。

 小惑星を閉じ込めた空間から100キロ地点に足場を設置しました。

 念のため遮蔽フィールドはクラス80にしてあります。

 転移マーカーも置きましたので、いつでも転移出来ます』


「最初から足場を作っておけばよかったかな」


『いえ、『電磁気力相互作用遮断』は禁呪に指定されているほどの危険な神法です。

 ですからなるべく遠距離から発動させる必要がありました』


「それもそうか、それじゃあまず足場に移動しよう」



「おー、近くで見てもなんか薄っすらとした白い霧みたいだな。

 この状態で電磁気力相互作用を元に戻して、同時に鉄原子を抽出すればいいのか。

 それじゃあ『電磁気力相互作用遮断解除』『鉄原子抽出』!」


 遮蔽フィールド内に金属のような塊が発生し始めた。

 その金属塊はみるみる大きくなっていったが、やがて成長がかなりゆるやかになっている。


「…………なんかさ、思ってたより鉄の塊が小さいんだけど」


『そうですね、当初の小惑星に含まれていた鉄元素の内、推定で3%ほどしか集まっていないようです』


「なんでだ?」


『おそらくですが、電磁気力相互作用の遮断を解除した瞬間に、あらゆる原子核が電子を取り戻して結合を復活させてしまい、分子や金属の塊になってしまったからでしょう。

 細かい砂から原子を抽出するのに比べて、大きな岩から原子を抽出するのは遥かに大変です。

 強固な原子や分子の結合の中を、特定の原子が移動して抽出されなければなりませんので。

 このまま魔力を注ぎ続ければあの鉄原子の塊はある程度成長して行くでしょうが、それでも膨大な時間がかかってしまうでしょうね』


「それ『電磁気力相互作用遮断解除』の後、瞬時に『鉄原子抽出』をやっても同じかな」


『おそらくほとんど違いは無いでしょう』


「うーん、そんなに時間を掛けたくないよなぁ。

 あ、そうだ!

 『電磁気力相互作用遮断』された空間からさ、まずは遊離電子を『抽出』してみたらどうかな。

 その電子を別の遮蔽フィールド内に転移させて、その後で元の遮蔽フィールド内から『鉄の原子核』を抽出するんだよ。

 その原子核を電子のフィールド内に転移させれば、鉄の原子核が電子を吸いまくって鉄原子の塊になるんじゃないかな。

 どう思う?」


『こ、このような実験は銀河系始まって以来のものですので、何とも言いかねます。

 ですがかなりの確率で成功すると思われますので、実験されてみられたら如何でしょうか』


(このお方さまの発想力って本当に凄いわ……

 わたしですらそんなこと思いつかなかったのに……)



「それじゃあ試してみようかな。

 さっき危険は無かったから、このまま『電磁気力相互作用』を遮断しても大丈夫だろう。

 それじゃあ『電磁気力相互作用遮断』!」


 遮蔽フィールド内の一切がまたあらゆる原子核と電子に分離された。


「次はもう一つ直径100キロほどの遮蔽フィールドを張って、そこに電子だけを転移させてと。

 あー、これけっこうたいへんだな。

 まあとんでもない数の電子があるから仕方ないんだろうけど」


『それでは『ロックオン』の魔法をお使いになられたら如何でしょうか』


「ん? 

 確かそれって、対象物を指定したら自動的にターゲットとして特定される魔法だったっけ」


『はい、対象物の数によっては多くの魔力が必要になりますが、今のタケルさまの魔力でしたら問題ないかと。

 それにロックオンと同時に小フィールドに電子を転移させ、転移終了後にロックオンを解除されるように設定なさればご負担はそれほどでもないかと思われます』


「なるほどな、一気に全ての電子にロックオンするんじゃなくって、順番にロックオンしていくのか。

 それじゃあそういう魔法マクロを組もうか」


『それにこの『ロックオン』は攻撃魔法ではないのでわたくしもお手伝い出来ます。

 ですからロックオンにわたくしの自動補助も付加されたらいかがでしょうか』


「おー、それ便利そうだな。

 それじゃあロックオン魔法の発動は手伝ってくれるか」


『はい』


「それに、これって俺の魔力が足りなくなったら、俺の重層次元倉庫に入れてある魔石の魔力も自動的に使えるんだろ」


『仰る通りです』


「それじゃあ電子だけにロックオンして小フィールドに転移させよう。

 おー、なんか結構な勢いで魔力が減ってるけど、これぐらいならなんとかなりそうだな」


『まもなく電子の転移が終了します』


「なあ、上手くいったかな。

 なにしろ俺には電子なんか見えないし。

 なんか小フィールドが薄っすら白くなってるみたいだけど」


『観測の結果、順調に電子のみ分離出来ています』


「それじゃあ今度は元の遮蔽フィールド内から『鉄の原子核』だけを抽出して、それを電子が充満したフィールドに転移させればいいんだな。

 おお!

 なんかすっげぇ大きな塊がいくつも出来たぞ!

 これ成功かな」


『おめでとうございます、あそこにあるのは見事に鉄原子の塊です。

 もちろん純度は100%ですね』


「ふーん、純粋鉄って銀色なのか……」


『はい、不純物の入っていない純鉄はヒトの目から見て銀色に輝きます。

 それでは『念動』で鉄原子の塊を集めて、『錬成』で一つの塊にされたら如何でしょうか。

 それをインゴットに加工するのは、後でわたくしが出来ますし」


「それじゃあそうしておこうか」


(相変わらずお見事な魔法操作力だわ……)





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