*** 47 ちゅ〇るラーメン ***
タケルは定期報告のためにエリザベートの神殿を訪れていた。
通常タケルが到着した日には報告は行われない。
ずっとエリザベートが絡みついて来ていちゃいちゃしているだけである。
またキンタマのレベルが上がったタケルは、エリザベートに引っ付かれたまま深い眠りに入っていた。
翌朝。
朝食後にタケルは家宰のセバスチアーノに面会を申し入れた。
すぐに来てくれたセバスチアーノの前に、時間停止アイテムボックスからちゅ〇るとラーメン2種類とお稲荷さんを取り出す。
「すいませんセバスチアーノさん、これらは地球の食品なんですが、エリザベートさまや皆さんにも召し上がって頂けないかと思いまして持ってきました。
皆さんの害になるようなものが含まれていないかどうか、『鑑定』して頂けませんでしょうか」
「畏まりましたタケルさま」
「ふむ、それらはどういった食べ物なのだ?」
「これは『ちゅ〇る』と言いまして、わたしの配下のニャイチローたちやジョセさまの神域にいる猫人さんたちに大好評のおやつなんです。
そしてこちらはわたしの大好物である『らあめん』と『おいなりさん』という食べ物ですね。
そしてこれは、『らあめん』に『ちゅ〇る』を加えた『ちゅ〇るラーメン』です」
「そなたの好物か。
それではセバス、昼に食するので昼食の準備は不要だと厨房に伝えてくれ」
「畏まりましたエリザさま」
その後はタケルの業務報告が始まった。
概略はマリアーヌが日々連絡しているため、タケルの報告は主にタケルの印象などに絞って行われている。
「ふむ、おおむね順調なようだの」
「ええ、ムシャラフもミランダも非常に協力的でしたので」
「間もなく、3.5次元空間にて神界土木部がそなたの神域を造り始めることだろう。
それにしても、そなたの神殿は普通の初級神タイプのものでよかったのかえ?
あれはかなり小さいぞ」
「ええ、救済部門の司令部は大きなものを別に造りますので」
「そうか。
それで15センチ級もの魔石を大いに溜め込んだようだが、そなたの苦痛は大丈夫かの」
「魔力枯渇を500回繰り返した辺りから、タケルーさんが教えて下さった通り『苦痛耐性』と『状態異常耐性』のスキルが生えて来ました。
おかげでもう苦痛も吐き気もほとんど無くなりましたし、気絶も10分ほどになっています。
もうそろそろ気絶もしなくなるでしょうね」
「それはなによりだ。
だがあまり無茶はしてくれるなよ」
「はい」
しばらくすると会議室にノックの音がして、許可を得たセバスが入室して来た。
「会議中に失礼いたします。
まもなく昼食のお時間ですが、如何為されますか」
「それでは今回の報告会はここで切り上げるとするか」
「あ、セバスさん、先ほどお渡しした食品の安全確認は如何でしたか」
「全て安全でした。
神界の神々にも銀河のヒューマノイドにも害になるような成分は一切発見されておりません」
「それはよかったです。
それではエリザベートさま、すみませんがご試食願えませんでしょうか」
「エリザだ」
「!」
「そ、それではエリ……ザ……
試しに食べてみてもらえないかな……」
「ふふ、わかった……」
食卓に着くと、タケルはまずちゅ〇るを取り出した。
「これが『ちゅ〇る』です。
ジョセさまの神域にいる猫人さんたちにも、ニャイチローたちにも大人気のおやつですね。
封を切ってそのまま手で押し出して食べてみてください」
ちゅ〇るの封を切ったエリザベートの鼻がひくりと動いた。
ぺろ。
「…………」
ぼわん!
エリザベートのしっぽが垂直になって硬直した。
しっぽの毛も立って、直径が15センチほどにもなっている。
(猫って機嫌のいい時や緊張したり驚いたときにはしっぽを立てるらしいけど……
やっぱりちゅ〇るは美味しかったのかな……)
ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ。
「あっ……
も、もう無くなってしもうた……」
「大丈夫ですよ、300本ほど持って来ていますので」
「タケル、ありがとうな。
それにしても素晴らしい『おやつ』だったの。
また定期的に持って来てはもらえんか」
「はい。
それで今度はこちらの『武者らーめん』を食べてみていただけませんか。
こちらは地球のヒト族に大人気の料理です。
全部食べるとお腹がいっぱいになってしまうでしょうから、半分ほどお試しください。
残りはわたしがいただきます」
「わかった」
エリザベートはまずレンゲでスープを一口飲んだ。
「ふむ」
その後はフォークで麺を掬って食べている。
半分ほど食べた後はフォークを置いた。
「確かにそれなりには旨いと思うがの。
だがやはり先ほどの『ちゅ〇る』の衝撃には及ばんのぅ」
「それでは残りはわたしがいただきます。
次はこの武者ラーメンにちゅ〇るを加えた『ちゅ〇るラーメン』になります」
「なに!
このらあめんにあの『ちゅ〇る』を加えたというのか!」
「はい」
『ちゅ〇るらーめん』のスープを一口飲んだエリザベートはまた硬直した。
今度はしっぽの太さが20センチを超えている。
エリザベートはたまに麺を口にはするが、まだ麺が半分ほども残っているのにスープが無くなってしまったようだ。
「ふう……
すばらしい味であった……
あのちゅ〇るの味わいがさらに深くなっておる。
出来れば毎日でも食したいものだ。
タケルや、もうこの『ちゅ〇るラーメン』は無いのかえ?」
「今日は時間停止アイテムボックスで100食ほどお持ちしています。
今度来るときにまた持って来ましょう」
「ありがとうの。
ところでこの『ちゅ〇るラーメン』は地球ではいくらするのかの」
「そうですね、銀河通貨で7クレジットほどになります」
「そんなに安いのか……
妾ならばその5倍、いや10倍出してでも食したいぞ」
「はは、いくらなんでもそんなにしませんよ。
失礼ながら日本ではラーメンは庶民の食べ物ですからね」
「そうなのか……
日本の食文化も侮れんな」
(さすがはエリザさまだな。
銀河宇宙の金銭感覚まで持っているのか……)
「ところでセバスチアーノさんには、こちらの『おいなりさん』を召し上がってみて頂きたいのですが」
「わたくしもご相伴させていただいてよろしいのでしょうか」
「構わん構わん、ちゅ〇るがこれほど旨かったのだ。
後進文明の料理と侮らずにそなたも食してみよ」
「はい……」
セバスチアーノはおいなりさんを不審げに見つめていた。
確かに一見するとアヤシイ食べ物ではある。
「セバスさん、この外側の茶色い部分は大豆から作られています。
中に入っているものは米と生姜で、あとは砂糖や酢といった調味料ですので」
「それでは失礼して……」
セバスチアーノがおいなりさんを口にして、2口ほど噛んだ。
びーん!
その大きな狐しっぽが盛大に膨らんで立ち上がった。
元々太いしっぽが膨らんだために、それはもはや直径何センチというよりも扇のように広がった物体になっている。
まるで美人な雌をナンパしようとするクジャクの雄のようなしっぽであった……
ぱくぱくもぐもぐごっくん。
ぱくぱくもぐもぐごっくん。
ぱくぱくもぐもぐごっくん。
「ああっ!」
一人前4コ入りのおいなりさんがもう無くなってしまっていた。
セバスは茫然と空になった皿を見ている。
しっぽは前よりも細くなっているように見え、しょんぼりと垂れ下がっていた。
「気に入って頂けたようでなによりです」
「あ、あのあのあの、タケルさま!
こ、この神の美食は地球ではいくらするものなのでしょうかっ!」
「4つ一人前で3クレジットです」
「そ、そんなに安いのですかっ!」
「まあ一つ一つが小さいですからね」
セバスが腰を90度に曲げて頭を下げた。
「ま、誠に申し訳ございませんが……
こちらの『おいなりさん』を100人前ほど買わせて頂けませんでしょうか……
曾孫たちに食べさせてやりたいと……」
「はい承りました。
今度来るときにお持ちさせてください」
「あ、ありがとうございますっ!」




